cute
| 名称 | cute |
|---|---|
| 読み | きゅうと |
| 初出 | 1894年ごろ |
| 提唱者 | エセルバート・W・グリフィン |
| 発祥地 | ロンドン東部ホワイトチャペル |
| 主な用途 | 広告、服飾、児童教育、外交儀礼 |
| 関連機関 | 王立感情測定協会 |
| 日本での定着 | 1978年以降 |
| 派生概念 | hypercute、semi-cute、anti-cute |
cute(きゅうと)は、イギリスのビクトリア朝末期に成立したとされる、感情の過剰圧縮を指す美学概念である。のちに日本で再解釈され、視覚・言語・仕草を小型化して好意を誘発する技法として広く知られるようになった[1]。
概要[編集]
cuteは、対象の物理的寸法ではなく、観察者の保護欲・笑意・軽度の困惑を同時に喚起する比率を意味するとされる概念である。19世紀末のロンドンにおいて、印刷広告の余白を埋める小さな図像の研究から生じたという説が有力である。
この語は本来、単なる「可愛らしさ」ではなく、過剰な親近感が社会的距離を短絡させる現象を指していた。なお、王立感情測定協会の1898年報告書では、cuteの再現率は「子犬1匹あたり平均4.7回のため息」を基準に算出されたと記されている[2]。
歴史[編集]
ビクトリア朝における萌芽[編集]
1894年、ホワイトチャペルの印刷工房で働いていたエセルバート・W・グリフィンが、暖炉脇に置かれた小型の陶器人形を見て「感情の密度が高すぎる」と記した私信が、cute概念の初期文献とされる。グリフィンは当初、これを商標としてではなく、紙面の端で読者の注意を回収する技法として扱った。
1897年にはロンドン大学近傍の講義録において、アグネス・リードが「cuteは縮尺の問題ではなく、意味の逃げ場の問題である」と発表し、これが後の学術化の起点になった。彼女の講義では、カップケーキの上に載せる砂糖細工の角度を3度単位で調整し、受講者の拍手回数を比較したとされる[3]。
分類と技法[編集]
cuteは学術的には、形態cute、態度cute、音声cute、制度cuteの4類型に分類される。形態cuteは小型化や丸みを伴う外観、態度cuteは視線の逸らし方や声量の下げ幅、音声cuteは語尾処理、制度cuteは組織が無害さを演出する際の様式である。
東京芸術大学の非公式調査では、同一人物に対しリボンの数を1本から9本まで増やすと、好意ではなく監督欲が先に上昇することが確認されたという。これを受け、1986年以降は「3本までが安全域」とする業界規範が暗黙に共有された。
なお、cuteの失敗例として有名なのは、1989年に埼玉県の小売業者が導入した「巨大な目玉の付いた文具」である。初日に1,200個が売れたが、翌週には展示棚の前で来店者が無言になる事態が相次ぎ、要出典ながら「かわいいを超えて監視器具に見えた」と回想されている。
社会的影響[編集]
cuteは広告、教育、外交にまで浸透した。1980年代の文部省関連資料では、低学年向け教材の理解率が「説明文のみ」より「小動物図版添付」の方が平均で12ポイント高かったとされ、以後、教科書の欄外に小さなうさぎが頻出することになった。
一方で、cuteの普及は「無害化の過剰適用」を招いたともいわれる。厚生省の内部会議では、危険物警告のピクトグラムまで丸く処理する案が出され、委員の一人が「それは親しみではなく事故である」と強く反対した記録が残る。これにより、1991年の安全表示基準改定では、cute表現は食品包装と玩具に限定されることになった。
横浜市では1994年に「cute景観条例」が試験導入され、街路樹に過度な顔面表現を施すことが禁止された。条例は3年で失効したが、観光客の滞留時間が平均8分延びたため、現在も一部の区民団体が復活を求めている。
批判と論争[編集]
cuteをめぐっては、常に「単なる消費技術ではないか」という批判がある。とりわけ1960年代後半のパリでは、構造主義系の批評家がcuteを「意味の縮小再生産」と呼び、パティスリーの包装紙まで論争の対象となった。
また、1997年には米国の心理学雑誌に、cute刺激が意思決定を平均2.3秒遅らせるという研究が掲載され、これを受けて一部の小売チェーンが会計待ち行列の壁紙を全面撤去した。もっとも、後年の追試では遅延は1.1秒に縮小しており、研究班は「被験者が途中で癒やされた可能性」を指摘している。
日本国内では、2004年の大阪の商業施設で、巨大ぬいぐるみを使った販促イベントが「かわいすぎて商品が見えない」と苦情を受けた。主催側は「視認性より情緒を優先した」と説明したが、実際には設計段階で会場照度を誤って半分にしていたことが後に判明している。
派生概念[編集]
cuteの学術的拡張として、21世紀初頭にはhypercuteとsemi-cuteが提案された。hypercuteは「観察者が保護欲を通り越して小型化したいと感じる状態」、semi-cuteは「好意はあるが、飾りを1つ外すとちょうどよくなる状態」と定義される。
このほか、京都の民俗学者早川瑞穂は、地域の祭礼に現れる仮面装飾を「anti-cute」と呼んだ。これは怖さを目的とするのではなく、cuteの過剰発生を相殺するための文化装置であり、年に1回だけ子どもが近づきすぎないようにする役割を持つという。
2016年には国際デザイン連盟がcute指数の試験測定を行い、ボタンの直径、文字の丸み、声の語尾上昇幅を組み合わせた独自尺度を公表した。しかし、測定装置がぬいぐるみの前で誤作動を起こし続けたため、現在も正式採用には至っていない。
脚注[編集]
脚注
- ^ Ethelbert W. Griffin, 'On the Compression of Affection in Printed Matter', Journal of Victorian Aesthetics, Vol. 12, No. 3, pp. 41-68, 1899.
- ^ Agnes Reed, 'The Cute Interval: Scale and Sentiment in Urban Display', Proceedings of the Royal Society of Emotional Metrics, Vol. 4, No. 1, pp. 7-19, 1901.
- ^ Margaret L. Henshaw, 'Small Objects and Large Reactions in Edwardian Retail', London School of Display Studies Bulletin, Vol. 8, No. 2, pp. 112-139, 1910.
- ^ 杉本奈緒子『キュートの文法——装飾と照れのあいだ』青河書房, 1982年.
- ^ 早川瑞穂『反キュートの民俗学』京都文化出版, 2009年.
- ^ Hiroshi Tanaka, 'The Japanese Reframing of Cute after 1978', East Asian Cultural Review, Vol. 21, No. 4, pp. 203-226, 1998.
- ^ 『通商産業省過小装飾市場調査報告書 第14号』中部統計印刷局, 1984年.
- ^ Catherine Bell, 'Cute and Consumer Delay: A Laboratory Study', American Journal of Behavioral Commerce, Vol. 39, No. 2, pp. 55-73, 1997.
- ^ Jean-Paul Vervier, 'Le Petit Charmant et ses Dérives', Revue de Sémiotique Appliquée, Vol. 17, No. 1, pp. 9-28, 1969.
- ^ 『かわいさの都市計画——横浜市試験条例の記録』横浜都市政策研究所, 1996年.
- ^ M. A. Thornton, 'Hypercute Thresholds in Public Signage', Journal of International Design Metrics, Vol. 5, No. 3, pp. 201-219, 2016.
- ^ 『なぜか大きい目玉の文具に関する検証報告』埼玉県商業振興課, 第2巻第1号, pp. 3-14, 1989年.
外部リンク
- 王立感情測定協会アーカイブ
- ロンドン装飾史デジタル館
- 日本キュート文化研究センター
- 原宿過小装飾博物誌
- 国際デザイン連盟 cute 指数委員会