「抵触者(ていしょくしゃ)」「被罪者(ひざいしゃ)」「被断罪者(ひだんざいしゃ)」:悪意なく無意識で結果として犯罪を犯してしまう者への新呼称
| 分類 | 刑事責任論における新呼称体系 |
|---|---|
| 想定される対象 | 悪意の欠如・無意識の関与が疑われる行為者 |
| 構成要素 | 抵触者/被罪者/被断罪者 |
| 提案の背景 | 責任能力を「意図」より「認知過程」に寄せる議論 |
| 提唱者の系譜 | 行動法学研究会と周辺の実務家 |
| 主な議論の軸 | 無意識でも結果は犯罪として扱うべきか |
| 運用状況 | 論文上の使用が中心で、判例への定着は限定的 |
、、は、悪意や意図がないにもかかわらず結果として犯罪に至った人を指すために提案された呼称体系である。法学・犯罪社会学・行動科学の研究者の間で、責任能力の議論を「無意識の意思決定」に寄せる流れの中で広まったとされる[1]。もっとも、実務での運用は賛否を呼び、語の境界が曖昧だと批判されてもいる[2]。
概要[編集]
、、は、同じ人物像を段階的に捉える「三層のラベル」として構想されたとされる。意図(malice)が欠ける一方で、周囲の環境や認知の偏りが相互作用し、「結果として犯罪を成立させた」場合に適用する考え方である。
この体系は、法廷の説示を「心の良し悪し」ではなく「心の働き方」で説明しようとする発想から生まれたと説明される。具体的には、行動科学が示す無意識の自動化プロセスを、刑事手続の言葉に翻訳する試みとしてまとめられたとされる[1]。なお、導入初期は“優しい言葉”として受け止められたが、次第に「結局は免罪につながるのか、それとも別の烙印なのか」と論点がずれ、語の用法だけが先行したという指摘がある。
実務上は、を「法益への干渉が疑われる段階」、を「構成要件に近づいた段階」、を「裁判で断罪が確定した段階」とする整理が一般的とされた。しかし、どの数値や検査結果で線引きするかについては、研究会ごとに差異があり、その揺れが批判の材料にもなった[2]。
成り立ちと選定基準[編集]
用語の三層設計[編集]
三層設計は、責任能力をめぐる古い議論の「意図の有無」だけでは説明が難しい事例が増えた、という危機感から提案されたとされる。たとえば交通・雇用・製造物の領域では、注意義務違反が問題化しても、行為者が“わざと”とは言いにくいケースが多いとされていた。
そこでは、本人が自覚していないまま注意境界を踏み越えた可能性がある状態として定義された。続いては、裁量や判断がすでに自動化され、結果を予見できた可能性が一定程度ある状態とされた。最後には、裁判で「無意識」を理由に免責するのではなく、あくまで量刑や再犯リスクの評価に組み込むことを目的としたラベルである、と説明されたのである。
この設計は、一見すると救済的に見える一方で、「無意識」を言い換えた烙印になりうる点が、初期から薄く指摘されていたとされる。実際、用語が広まるにつれ、報道や講義では“無意識=同情”と短絡され、研究会の意図とズレた理解が広がったという[2]。
「悪意なく無意識」の判定をどうするか[編集]
判定のための指標としては、当初、行為者の申告だけでは足りないとされ、認知の測定を組み合わせる方針が採られた。たとえばと呼ばれる指標が提案され、本人が“危険だと感じた”と自覚するまでの平均遅延時間を分解する計算が導入された。
この指標は、机上では合理的に見えたため普及したが、現場での再現性が問題になった。ある臨床法科学の報告では、同条件の再テストで遅延時間が平均12.4秒から19.1秒へと振れ、さらに第三者評定では相関が0.36に留まったとされる[3]。ただし研究者は、この揺れを「無意識が測れない」のではなく「無意識の揺らぎが刑事事実の性質を示している」と言い換え、むしろ“情報”だと主張した。
また、判定基準は数値だけではなく、行為の文脈にも依存する設計だった。たとえばにおけるメール誤送の事案では、送信前チェック回数、送信ボタンまでの指の停止時間、過去の類似経験回数など、合計23のパラメータがモデル化されたとされる。これにより、からへ進む“確率”が算出できる、という説明がなされた[1]。
歴史[編集]
学術的起源(架空だがそれっぽい系譜)[編集]
この呼称体系は、(通称「行法研」)の小委員会で、1970年代末の“責任能力の再言語化”をめぐる議論から生まれたとされる。発端は、当時の内部資料で、類似の誤認行為が連続して起きたことである。問題は、犯意が薄いと評価されたにもかかわらず、被害が現実に積み上がった点であり、当局は「心の問題」ではなく「判断の連鎖」の説明を求めた。
その後、研究会は横断的に学び、に置かれた“実験法廷”風の研修施設で、認知課題と法的評価の対応を調べたという。ここでは、参加者が一定の時間圧に晒されたとき、意図的な虚偽と、意図のない誤送が統計的にどちらが先に顕在化するかが検討されたとされる。結果として、無意識でも結果が犯罪として成立する場面が多いことが示され、三層ラベルの骨格が固まったと語られた。
なお、命名の由来については複数の説があるが、最も採用されやすいものは「抵触=法益への接近」「被罪=構成要件への付着」「被断罪=裁判言語への回収」という、手続の流れに合わせた翻訳論だとする説明である。語が“それっぽい”ために、逆に早期から誤用されやすかった、と後年の編集者がまとめた[4]。
導入と拡散(地名と組織が勝手に絡む)[編集]
1990年代前半には、の研修資料で“無意識の関与”をどう説示するかが議題化し、の用語が試験的に引用されたとされる。もっとも、同省の当時のメモでは、三語を同列に扱うのではなく、まずはだけを入れて様子見したという。
拡散を決定づけたのは、のある民間シンクタンクが発行した小冊子である。そこでは、三層ラベルが“犯罪者の更生プログラム”と結びつけて紹介され、「抵触=再訓練」「被罪=再設計」「被断罪=再配置」とする独自の運用が図示された。さらに、の自治体担当者がそれを研修に持ち込み、交通事故の事後対応の会議で“無意識運転”の話題として出たため、用語が一般に知られる契機になったとされる[5]。
ただし、一般化の過程で“検査で測れるもの”として誤解され、学校教育や企業のコンプライアンス現場でも、個人評価の口実に転用されたという。結果として、語は救済から管理へと重心を移したとする論評が出回り、学会側は「本来は量刑・支援の設計に資する概念である」と釘を刺すことになった[2]。
社会に与えた影響[編集]
三層ラベルが普及したことで、刑事手続や報道では、犯意の有無だけでなく「認知の逸脱プロセス」が注目されるようになったとされる。たとえば、量刑理由書の書式が一部で改訂され、「注意義務を尽くせなかった事情」を、本人の性格ではなく“場の設計”として記述する試みが増えたという。
一方で、支援の設計が進んだ領域もあった。あるケースでは、内の企業で発生した規程違反について、当事者をとして分類し、再発防止に向けたチェックリストの改訂と認知補助の導入を行った。その結果、内部監査の指摘件数が半年で41件から17件へ減少したと報告された[6]。この数字は「救済が進んだ証拠」として歓迎されたが、後に監査基準の見直しで見かけが良くなった可能性も指摘された。
また、呼称が生む“心理的距離”も社会現象として論じられた。新聞の連載では、という語が“悲劇の当事者”を想起させるとして、読者の怒りを鎮めた面があるとされた。とはいえ、被害者側からは「無意識という言葉が責任を薄める」と反発が起き、語の使い分けが政治的に争点化したのである[2]。
批判と論争[編集]
最大の批判は、呼称が「免責への抜け道」ではないかという疑念である。三層ラベルは、あくまで量刑や支援の設計に資するという建前を取るが、現実には“悪意がないなら軽くてよい”という短絡が起きやすいと指摘された。
さらに、用語の境界が実務で曖昧だという点が争点となった。たとえばの適用条件として「予見可能性が一定程度」とする説明はあるものの、その“一定程度”が何パーセントなのかが資料によって変動したとされる。ある判例評釈では、予見可能性を66%と置くモデルが紹介されたが、別の研究ノートでは61%に調整されていた[7]。この差は統計手法の違いとも説明されたが、読者には「結局は当て推量ではないか」と映り、信頼性が揺らいだ。
また、語が広まるほど“烙印化”も進んだ。学校のケーススタディでは、とラベルされた生徒が、自己成長ではなく“分類の固定”として扱われるようになったという証言が出た。このとき教育委員会の文書には、支援のための概念だと明記されていたにもかかわらず、現場では当事者の自己説明力が弱められた、という批判が出たのである[2]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 行動法学研究会『無意識と刑事言語:抵触者・被罪者・被断罪者の三層モデル』東都出版社, 1994.
- ^ Margaret A. Thornton『Unwitting Responsibility and Procedural Labels』Oxford University Press, 2001.
- ^ 佐藤七海『注意喚起遅延率の刑事評価への応用』『法科学ジャーナル』第12巻第3号, 1998, pp. 41-58.
- ^ 王敏『認知過程の説明責任と量刑文書の書式改訂』『国際刑事手続年報』Vol. 7, 2003, pp. 120-139.
- ^ 山中陸斗『誤送の連鎖を測る:23パラメータの経験則』中京法工学研究所報, 2007, 第2号, pp. 7-19.
- ^ 石原啓一『被断罪者という言葉の社会心理学的効果』『犯罪社会学研究』第26巻第1号, 2012, pp. 88-103.
- ^ Liu Cheng『Predictive Thresholds in Unwitting Offenses』Journal of Forensic Cognition, Vol. 9, No. 2, 2016, pp. 55-74.
- ^ 近藤雅人『免責ではなく再設計:無意識ラベルの実務的誤読』『刑事政策評論』第40巻第4号, 2020, pp. 210-229.
- ^ 三木玲子『ラベルが支援を導くとき/導かないとき』新潮法学叢書, 2018, pp. 201-213.
- ^ Theodor H. Brandt『Soft Malice and Hard Outcomes』Cambridge Legal Systems, 1997, pp. 9-33.
外部リンク
- 行法研アーカイブ
- 法務省・研修メモ検索
- 認知法科学データバンク
- 量刑文書書式研究室
- 犯罪社会学資料室