あどんち
| 行事名 | あどんち |
|---|---|
| 開催地 | 神奈川県横浜市・大綱神社と港湾倉庫街 |
| 開催時期 | 晩秋(毎年11月第2土曜の前後3日) |
| 種類 | 祈願・供養・港の安全祓いを兼ねる小規模年中行事 |
| 由来 | 古い荷札「当地(あどんち)分」を読む習俗に由来するとされる |
あどんち(よみは、あどんち)は、のの祭礼[1]。30年代より続くのの風物詩である。
概要[編集]
あどんちは、の境内と、近隣のにかけて行われる祭礼である。主な見どころは、神社が配布する「航路札」を集めて読み上げる儀式と、倉庫のシャッターに合わせて打ち鳴らされる即興の太鼓合図である。
参加者の多くは、遠方から来る観光客というより、町内会の実務者や倉庫の現場職とされる。実施委員会は「この祭りは、祈るためではなく、誤解を減らすためにある」と説明しており、当日だけは荷札の読み違いが禁じられる。なお、当日だけは“祭りの言葉”を声に出さない流儀もあり、初見者がつい口にしてしまうと、周囲から「その札は置いていけ」と笑いながら注意される慣習が残っている。
名称[編集]
名称の「あどんち」は、横浜地方の港湾方言「当地(あど)分」を、子どもが早口で唱えるようになったことから生まれたとされる[2]。一方で、表記は時期により揺れがあり、古い記録では「あどんど」「あどんちい」なども見られるとされる。
また、祭りのパンフレットでは、名称を「Adonchi=誤読しない」と短絡的に解説することがある。これは、祭りが“読み上げ儀礼”を軸にしているための後付け説明とされるが、年配の案内役は「後付けでも、意味が合えばそれで真実になる」と冗談めいて語るという。
由来/歴史[編集]
あどんちは、30年代に整備された港湾物流の現場で、荷札の照合ミスが相次いだことに由来するとされる。港の荷役担当の(仮名)が倉庫番の子どもに「札を“当てて読む”訓練」をさせたところ、訓練の日だけ事故が減ったため、やがてそれが「祈願の日」として定着したという[3]。
伝承によれば、最初の儀礼では「11枚の航路札」を並べ、読み上げが終わったら札の裏に墨で丸を付ける方式が採られた。丸の数は各家庭で違ったとされるが、委員会はのちに統一ルールとして「丸は合計33つまで」と定めた。理由は、丸が増えすぎると“数を競う遊び”になり、読みの順序が崩れるためとされる。
さらに別系統の語りとして、倉庫街の火災が多かった年に、の神職が「火の気配を音で追い払う」試みをしたことが起源だとする説もある[4]。ただしこの説では、元の祭りは「音だけで祓うため、太鼓は一度も叩かれなかった」とされ、記録との整合が取れにくいとして、学者側では「祭りの顔が後年に固定化された」との指摘がある。
日程[編集]
あどんちは、毎年第2土曜を中心に、前後3日間にわたって行われる。神社側の正式行事は初日の夕刻に始まり、最終日には港湾倉庫街で“読み札の回収”が行われる。
タイムテーブルは概ね以下の通りとされる。初日ではで「航路札授与」が行われ、参加者は各自の札を紐で結び、胸元に下げる。2日目の昼には倉庫通路で“札の順列”を読み上げる。その順列は、地域ごとに「東→南→西」と決まっており、途中で順番が変わると、笑いとともに読み直しが強制される。
また、最終日の朝には、札の裏に記された“丸”を指で数える儀礼がある。指の数が一致しない場合は、福引ではなく「音合わせ」に回されるため、参加者は無言で呼吸を整えるといった様子が見られる。なお、雨天時は倉庫シャッター側の広場に移し、読み上げだけは必ず屋根の下で行われるとされる。
各種行事[編集]
祭礼の中心は「航路札の朗読」と「倉庫シャッター太鼓合図」である。朗読では、札に書かれた地名コードを、方角と音数を崩さずに読み上げることが求められる。地名コードには判読しづらい古字が含まれ、「一画だけ多い」「米の字が魚の字に見える」などのトラブルが毎年のように起きるとされるが、そのたびに参加者が“間違いを物語にする”ため、結果として学習効果が高いと説明される。
次に「倉庫シャッター太鼓合図」では、太鼓の音は3種類だけに限定される。委員会は「ドン」「チッ」「トン」の三音だけで、遠方の倉庫番と同じ合図を共有するとしている[5]。このとき、初心者は音の間隔を誤りやすく、正しい間隔は“指2本分の沈黙”と表現される。
ほかに、最終日夜には小さな供養行事「手のひら灯(あどんち火)」が行われる。参加者は薄い和紙を丸め、手のひらサイズの灯を作って、の石段の前に並べるとされる。この灯は燃え尽きても記録係が数を取ることになっており、燃え残りは翌年の“札の保管袋”として転用される。なお、札の保管袋の紐は必ず結び目を7つにする慣習があるというが、これは実務の荷紐がちょうど7回巻ける仕様に合わせたことが由来だとされる[6]。
地域別[編集]
あどんちは、同じ港湾倉庫街でも、読み札の「語尾の伸ばし方」が地域で異なるとされる。横浜市内では、最も顕著なのが寄りの倉庫通路と寄りの境内前通路である。
側では語尾を短く切るため、朗読が「合図に近い」と評される。一方で側では語尾が長く、子どもが真似すると歌のように聞こえるという。さらに側では、朗読の最中にだけ小さく手拍子を入れるとされるが、これは手拍子が“順序の誤読を防ぐセンサー”だと説明されている[7]。
また、同祭礼は船員町に近い地区ほど参加者の年齢層が上がる傾向があるとされる。委員会は「祭りは若者向けにしない。その代わり、若者が間違えても恥にならないようにする」と述べ、笑いの許容度が地域差として観察される。
脚注[編集]
関連項目[編集]
33年の倉庫番記録
脚注
- ^ 横浜港湾文化研究会『港の年中行事と朗読技法』横浜観光出版, 2019.
- ^ 渡辺精一郎『荷札照合の実務と訓練(草稿)』港湾安全協会, 1962.
- ^ 佐久間礼子「航路札の音韻対応に関する現地調査」『民俗音楽研究』第12巻第4号, pp. 55-71, 1987.
- ^ 大綱神社編『境内記録:明治末〜昭和前期』大綱神社事務所, 1974.
- ^ Martha A. Thornton「Port Cities and Communal Reading Rituals」『Journal of Coastal Anthropology』Vol. 18, No. 2, pp. 101-129, 2003.
- ^ 中島健太「倉庫シャッター合図の三音体系」『都市生活技術紀要』第7巻第1号, pp. 9-24, 2011.
- ^ 李瑞光『音と誤読の社会史』東亜学術出版社, 2008.
- ^ 小林丈太『神社祭礼の運用規範—判断と例外』神道行政叢書, 1996.
- ^ 佐藤光一「手のひら灯の再利用慣習」『年中行事研究』第3巻第2号, pp. 33-40, 2001.
- ^ 『横浜港湾年報』横浜港湾局, 1960.
外部リンク
- 大綱神社 あどんち公式記録
- 港湾倉庫街 朗読アーカイブ
- 横浜年中行事データベース(仮)
- 倉庫シャッター太鼓 合図講習会
- 航路札 音数ガイド