うんちデリバリー
| 分野 | 都市衛生・再資源化ビジネス(疑似サービス) |
|---|---|
| 提供形態 | 回収請負・輸送・提携先処理(と称する) |
| 対象 | 家庭・飲食店・小規模施設(とされる) |
| 主要都市 | など(広告の中心地) |
| 創業期 | 期後半の再資源化ブーム周辺とされる |
| キーワード | 再発酵・臭気制御・匿名ラベル |
| 論点 | 衛生安全性・規制適合・実利の有無 |
(英: Unchi Delivery)は、専用の回収ルートを通じて排泄物を個別回収・転送することを売りにしたサービスとして、を中心に一時期話題となったとされる[1]。しかし、その実態は「環境」や「衛生」を掲げつつも、半ば都市伝説的な商流を含んでいたと指摘されている[2]。
概要[編集]
は、文字通り「うんち」を運ぶという露悪的な語感で広まり、表向きは回収後の再処理工程までをパッケージ化したサービスとして説明されていたとされる。とくに、臭気を抑えつつ短時間輸送できる技術があるとされ、チラシでは「到着まで最短9分」「発酵停止まで25秒」などの数値が強調された[3]。
一方で、回収物の扱いに関する説明が広告資料中心であった点、また「どこに運ばれ、何に変わるのか」を検証しにくい点が問題視され、報道や掲示板で矛盾した証言が積み重なったとされる[4]。そのため本項では、語の成立史と“商業として成立したように見える仕組み”を、架空の制度設計を含めて整理する。
歴史[編集]
語の成立:悪臭対策競争と「宅配型微発酵」の夢[編集]
という呼称は、の下町商店街で「臭気の通行料」を巡る競争が起きたことに由来すると語られる。すなわち、清掃車の入庫枠をめぐって業者間で過剰な“脱臭施策”が乱立し、最終的に「臭いは運べば減る」という極端な発想が広まったとされる[5]。
この時期に、架空の技術者集団である(通称「ききゅう研」)が、「宅配型微発酵」というコンセプトをまとめ、輸送前に“泡状の保冷ゲル”へ包み、到着後に短時間で工程へ流す方式を提案したとされる[6]。提案書の表紙には、なぜか競技かるたのような語呂合わせで「九分(くふん)・二十秒(にじゅうごびょう)」が書かれており、後の広告コピーに引用されたという。
さらに、衛生関連の行政文書の雰囲気を模した架空のパンフレットが、内の印刷会社「江戸墨印刷工業」から“セミナー資料として”配布され、そこにサービス名が印字されていたとする証言がある[7]。ただし当該印刷物は現物が確認されず、「それでも信じた人が増えた」こと自体が広まりの要点になったと推定される。
商流の設計:回収・輸送・匿名ラベル・「処理委託」の三層[編集]
サービスは、三層構造として語られることが多い。第一層は家庭や店舗からの回収で、依頼者には「匿名ラベル」と呼ばれる透明シールが渡されるとされた。第二層はの架空物流拠点からの輸送で、夜間便のみが運用されること、積載量は「1便あたり最大4トン未満」などと細かく制限されていたとされる[8]。
第三層は「処理委託」である。処理先として広告では複数の企業名が並べられたが、実際に稼働している施設の情報が出にくい形式だったとされる。提携先としてしばしば挙げられたのが(実在しないが行政っぽい名称として知られる)傘下の“試験処理区画”である[9]。この区画では、回収物を「再発酵資源」として一旦保管し、一定の臭気指数で“再資源化ラインへ振り分ける”と説明された。
当時の利用者向け説明では、臭気指数を「KQI(Kusai Quality Index)」として数値化し、閾値は「KQI 30以下なら一次再発酵、30超なら焼却ではなく長期熟成へ回す」とされたという[10]。もっとも、このKQIはどの装置で測り、誰が認定したのかが曖昧であったため、後に“運用の体裁”だけが残ったと指摘された。
社会への波及:悪臭の“個人宅配化”と、倫理の反射神経[編集]
が話題になった背景には、衛生不安がメディアで増幅され、同時に“自己責任型の環境行動”が称賛されていた事情があるとされる[11]。広告は「あなたの毎日が循環に変わる」といった道徳的な言葉で、利用者の罪悪感を“資源化”へ変換する設計になっていたと語られた。
しかし、波及は肯定だけでは終わらなかった。利用者が増えるほど、回収ルート周辺の住民が「搬入が見える」という理由で苦情を出すようになり、最終的に一部エリアでは“回収時間帯の変更”が求められたとされる。とくにの一地区では、住民説明会の議事録(の体裁をした偽文書)が出回り、「回収は19時〜19時05分のみ」などと極端な時刻が列挙されたため、かえって不安が増したという[12]。
倫理面では、「排泄物を商品化すること」そのものが問題化し、同時に“衛生の科学”を装う広告手法への批判が起きた。以後、似た言い回しのサービスが複数登場し、「デリバリーという語が不気味さを中和してしまう」との議論が広がったとされる[13]。
仕組みと仕様(広告に語られた“細部”)[編集]
宣伝資料では、回収バッグの材質が細かく指定されていたとされる。素材は「耐臭・透湿制御フィルム」と称され、厚みは0.08mm、温度帯は-1℃〜+3℃、そして縫製は“目飛びを3mm以下に抑える”必要があると説明されていたという[14]。
輸送では、ルート計画が「サイレント3交差」と呼ばれ、信号待ちによる臭気漏れリスクを最小化する設計とされた。配送車には“空間除菌”ユニットが搭載され、作動ログがクラウドへ送信されるとされるが、実際のログ閲覧は提供されないことが多かったと指摘された[15]。
また、利用者側の準備は「ラベルを剥がさず、そのまま搬入口へ」という簡単な手順にされ、支払いは匿名コード決済が推奨されたとされる。ここでは「10桁コード:末尾3桁は曜日、末尾2桁は回収員シフト」という説明があったとされるが、後に“曜日とコードが一致しない”事例が報告されたとされる[16]。
普及したとされる地域と事例[編集]
は、都市部の個人宅だけでなく、小規模飲食店でも話題になったとされる。たとえばの路地裏で営業していた架空の喫茶店「珈琲と静寂」では、店主が「臭いの苦情が減った」と主張し、結果として常連が増えたとされる[17]。ただし同時期に換気設備が更新されたという別の要因も指摘され、因果は確定しないとされる。
他方ででは、回収員が訪問する時間に合わせて“玄関の目張り”が流行し、個人の工夫が広く共有されたとされる。ここで登場したのが「微孔スポンジの敷設」という家庭用補助材で、厚さは“指先で感じるくらい”と曖昧に書かれた説明が多かったとされる[18]。
一部の自治体では、「汚物の取り扱い」という観点で注意喚起がなされたとされ、店舗向けに“契約書の様式例”が配られたという。ただし、その様式例はとしてネットに転載され、実在の担当課名と一致しない点が後に発覚したとされる[19]。
批判と論争[編集]
批判の中心は、衛生安全性と規制適合であった。とくに「処理委託の実体が見えない」という点が繰り返し取り上げられ、利用者が“安心した気分だけ”を買わされているのではないかとの疑いが出た[20]。
また、広告で強調された数値(到着9分・発酵停止25秒など)が、測定条件を欠いていることが問題とされた。ある検証記事では、到着時刻が「タイムゾーンの丸め誤差で+7分ズレる」可能性があると計算し、さらに配送ルートが“交通実績に基づかない”と推定したとされる[21]。この指摘は信憑性が争われたが、少なくとも「細部にこだわる姿勢が逆に怪しく見える」という心理的効果は確かだったとされる。
なお、極端な議論として「うんちを運ぶことが社会をよくするのではなく、運ぶことで社会が“見なくてよくなる”」という批評が現れた。これは利用者の視線を代替する仕組みへの問題提起として扱われ、後に似た表現を揶揄する言葉が増えたとされる[22]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 細田朔馬『臭気は輸送で死ぬのか:都市衛生の物流設計』中央街出版, 2017.
- ^ M. Thornton, J. W. Park, “Cold-Gel Packaging for Odor Suppression in Micro-Fermentation Logistics,” Vol.12 No.3, pp.141-168, International Journal of Urban Hygiene, 2019.
- ^ 【要出典】江戸墨印刷工業編集『セミナー資料の体裁と広告文:模擬行政文書の技法』江戸墨印刷, 2018.
- ^ 山根まどか『再資源化の言葉が先に届くとき:説明文の数値設計』技術文藝社, 2020.
- ^ 佐久間理人『宅配型衛生サービスの“測定”を疑う』清掃制度研究叢書, 第4巻第1号, pp.55-83, 2021.
- ^ 田村涼介『匿名決済と身元不問の心理効果:Kコード文化の周縁』決済文化研究会, 2016.
- ^ A. Igarashi, “Silent Intersection Routing and Odor Exposure Models,” pp.22-47, Journal of Applied Urban Routing, Vol.7, 2018.
- ^ 【書名要検証】環境循環技術庁『試験処理区画の運用要領(抜粋)』環循庁報告, 2015.
- ^ 橋本カナ『家庭の目張りはなぜ流行したか:ミクロ衛生のミーム解析』名古屋大学出版部, 2022.
- ^ 北条一彰『悪臭の通行料と商店街の制度競争』街区経済研究所, 2014.
外部リンク
- うんちデリバリー資料庫
- KQI計測ノート
- 匿名ラベル検証掲示板
- 都市衛生の民間化アーカイブ
- 臭気制御工学研究会の断片