おうちでカイロスモンスター
| タイトル | おうちでカイロスモンスター |
|---|---|
| ジャンル | モンスター育成・時間干渉RPG |
| 対応機種 | 家庭用ゲーム機各種 |
| 開発元 | セガ第7家庭用移植室 |
| 発売元 | セガ |
| 発売日 | 1993年7月23日 |
| 原作 | カイロスモンスター2 |
| 売上本数 | 国内約41万本 |
| メディア | ロムカセット |
| 備考 | 箱に折り紙式育成マニュアルが同梱された |
おうちでカイロスモンスターは、に系の家庭用移植事業の一環として発売されたのアーケードゲーム『』の家庭用ゲーム機移植版である[1]。なお、単なる移植作ではなく、当時の家庭用機向けに「時間干渉型モンスター育成システム」を再設計した試みとして知られている[2]。
概要[編集]
『おうちでカイロスモンスター』は、に稼働したアーケード作品『』を、の家庭用ゲーム機向けに移植した作品である。開発に際しては、当時にあったセガの外部委託拠点で、1日平均17回の挙動検証が行われたとされる[3]。
本作は、原作の「時間帯によってモンスターの性格が変化する」という設定を家庭向けに強化した点で特異であり、朝7時の起動時には温厚、夜11時以降は攻撃的になる個体が多かったという。なお、この仕様は後に保護者団体から「生活リズムを破壊する」と批判されたが、販売本数にはむしろ追い風になったとの指摘がある[4]。
成立の経緯[編集]
家庭移植計画の発端[編集]
企画が立ち上がったのは秋、の展示会場で行われた社内試遊会が契機とされる。原作の筐体を家庭用テレビに接続した際、モンスターの尻尾が画面端に入りきらない現象が頻発し、これを逆手に取って「家の中に収まりきらない怪物」を演出する方向へ舵が切られた[5]。
中心人物とされるのは、プロデューサーのと、移植プログラムを担当したである。とくにトーレスは、スペイン出身のアルゴリズム技術者でありながら、日本の茶の間文化に強い関心を持っていたとされ、取材では「畳の上で戦うと、モンスターの自尊心が上がる」と語ったという。
タイトルの由来[編集]
タイトルの「おうちで」は、当時の玩具・学習用ソフトで流行していた「おうちでできる」系の宣伝語から採られたが、社内では「やけに家庭的すぎる」として一度差し戻された。最終的には、アーケードの暴力性を中和する目的で採用され、パッケージには台所用タイマーを模した意匠が施された[6]。
また、発売直前の会議では「カイロス」という語がの時間神話を想起させるとして、学術顧問のが説明文監修に加わった。もっとも、実際のマニュアルには「時間とは、モンスターを3回ほど寝かせると短く感じられる現象である」と記されており、監修の成果はやや不明である。
ゲームシステム[編集]
時間干渉型育成[編集]
本作の中核は、家庭用機の時計機能を利用した「時間干渉型育成」である。プレイヤーは、、の3つの時間帯にそれぞれ異なるエサを与え、合計27通りの性格分岐を発生させることができた。とくに深夜1時にだけ出現する「寝言を発するモンスター」は、攻略本でも2ページにわたり解説された。
このシステムには、時計を早送りするとモンスターの年齢も巻き戻るという独自仕様があり、発売初年度には全国の小学生の約8.4%が「祖父の目覚まし時計」を借りて遊んだとされる[7]。一方で、毎朝の起動時にセーブデータが「昨晩の夢」を参照するため、プレイヤー自身の睡眠の質がゲーム体験に影響するとの報告もあった。
おうちモード[編集]
家庭版で追加された「おうちモード」では、モンスターが畳、ソファ、流し台の3つの居住環境を行き来できた。畳に長く置くほど防御力が上がる一方、流し台に2分以上放置すると「ぬめり属性」が付与される仕様が、当時の児童誌で妙に好意的に受け止められた。
また、テレビのチャンネル番号を変えると隠しBGMが再生される仕掛けがあり、関東圏の一部ではの1chを経由することで「静かな闘争曲」が聞けたという。なお、これは地域差が大きく、ではほぼ発見不可能であった。
通信ではない通信[編集]
本作には正式な通信対戦機能はなかったが、2台の本体を同じ部屋で30分以上動かし続けると、まれにモンスター同士が似た鳴き声を発する「共鳴現象」が確認された。この現象は当時の『』で大きく取り上げられ、編集部は実地検証のための試遊室に扇風機6台を持ち込んだとされる[8]。
結果として、「通信はしていないのに対戦している気がする」という不思議な評価を受け、本作の口コミ拡散に寄与した。
発売と反響[編集]
発売日はで、初回出荷分の約12万本は3週でほぼ完売したとされる。特にの玩具店では、開店前から保護者と児童が別々の列に並び、会計時に「育成には責任が伴う」と書かれた店頭ポップが話題になった。
一方で、教育関係者の間では「モンスターの機嫌を毎朝確認する習慣が、子どもの観察力を育てる」と評価する声もあった。これに対し、ある心理学者は「観察力ではなく、家族全員がゲームの機嫌に合わせて動く社会実験である」と反論している[9]。
メディア展開では、発売から半年後に系のゲーム特集で「家庭内に侵入したアーケード怪物」として紹介され、以後、同作は単なる移植作品ではなく「茶の間文化の転換点」とみなされるようになった。
開発背景と技術[編集]
ROM容量の制約[編集]
開発当時、ROM容量は原作比で約38%削減されており、モンスターの鳴き声は全て2音節以内に再構成された。その結果、最強クラスの個体でさえ「グルル」「ピャッ」としか喋らないことが一部で不満視されたが、逆にこの簡素さが家庭向けの親しみやすさにつながったとされる。
音楽を担当したは、容量節約のため旋律を台所の換気音に寄せる手法を採用し、当時の開発資料には「味噌汁が沸くテンポでボス戦を設計」とのメモが残っていたという。
バグと都市伝説[編集]
有名なバグとして、ゲームを起動したままをまたぐと、モンスターが一時的に現実世界の時計と同期し、1フレームだけ台所の蛍光灯を見つめる挙動があった。メーカーはこれを不具合ではなく「時間認識の演出」と説明したため、ユーザーの間では半ば伝説化した[10]。
また、「本体を押し入れに入れると隠しエンディングが出る」という噂があり、実際に押し入れ設置を試した家庭のうち、約6割が本当にスタッフロールを見たと回答したというアンケート結果がある。ただし調査主体が町内会だったため、信頼性には疑問が残る。
批判と論争[編集]
本作をめぐる批判の中心は、家庭生活への過剰な介入であった。とくに、モンスターの機嫌が天候と連動する仕様は、梅雨時にプレイヤーの精神を不安定にするとの苦情が多く、には発売後2か月で87件の相談が寄せられたとされる。
また、パッケージ裏面に記載された「モンスターは家族です」というコピーが、ペット産業関係者から「責任の所在が曖昧である」と問題視された。これに対しセガは、あくまで比喩であり法的親族関係を示すものではないと説明したが、説明文が逆に不安を煽ったとの指摘がある。
もっとも、批判の一方で、本作が「家庭用ゲームは子どもだけのものではない」と印象づけた意義は大きいとされる。実際、には中高年層向けに『おうちでカイロスモンスター 大人の夕方版』が検討されたが、夕食時にしか起動できない制約が不評で立ち消えになった。
その後の影響[編集]
本作の成功により、以後の家庭用ゲーム市場では「家の中で育てる」という発想が一種の流行語となった。特に前後には、複数のメーカーが留守番機能付き育成ソフトを発表し、いずれも本作の影響を受けたとされる。
また、学術面ではの文化研究会が『茶の間における仮想生物の情動同期』という論文を発表し、ゲームと家族共同体の関係が研究対象になった。もっとも、この研究は被験者4名のうち3名が研究室の冷蔵庫を気にしていたため、議論の方向性がやや混線していた。
現在ではレトロゲームファンの間で、原作よりも本作の方が「生活感が濃い」として再評価されている。毎年には、全国の一部愛好家が一斉に時計を合わせてモンスターを起動する「家庭起動祭」が行われているという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 高瀬慎一郎『家庭へ降りた時間獣――カイロス移植史』セガ出版部, 1996年.
- ^ Maragaret Torres, "Temporal Creature Synthesis in Home Consoles", Journal of Interactive Media Studies, Vol. 8, No. 2, pp. 114-129, 1994.
- ^ 佐伯俊雄『時間神話と玩具の受容』東京時間文化研究所, 1995年.
- ^ 中村久美子『ROM容量削減と台所音響の一致』ゲーム音響学会誌, 第12巻第1号, pp. 33-48, 1994年.
- ^ 編集部『おうちでカイロスモンスター完全攻略』徳間書店, 1993年.
- ^ 秋山隆『家庭内モンスターの倫理学』河出書房新社, 1997年.
- ^ M. A. Thornton, "Domestic Chronology and Monster Mood Drift", Proceedings of the Kyoto Symposium on Console Ecology, Vol. 3, pp. 201-219, 1995.
- ^ 『週刊ファミコン通信』第45巻第31号, 1993年8月6日号.
- ^ 渡辺精一郎『押し入れ配置と隠しエンディング』日本家庭遊戯研究, 第4巻第3号, pp. 7-19, 1996年.
- ^ 『モンスターは家族です』をめぐる広告表現調査報告書, 日本消費文化協会, 1994年.
外部リンク
- セガ家庭用資料アーカイブ
- 日本時間獣研究会
- レトロ移植博物館
- 茶の間ゲーム年鑑
- 押し入れエンディング保存委員会