おもんもん
| 分類 | 民俗擬音語・感覚比喩 |
|---|---|
| 使用領域 | 日常会話、落語研究、若者言語 |
| 初出とされる時期 | 1960年代末(諸説) |
| 言語的性質 | 反復形擬音(母音挿入が起こりやすい) |
| 関連語 | おもん→どきん系擬音、おももん→別義 |
| 象徴する感覚 | 胸腺付近の違和感(比喩として) |
おもんもんは、で用いられたとされる民俗的な擬音語であり、主に「不意に胸の奥が跳ねるような感覚」を比喩する語である[1]。昭和後期に一部の雑誌・落語研究会を経由して定着したとされるが、その語源は複数の説がある[2]。
概要[編集]
は、ある出来事の直後に「身体の中心で小さな波が立った」ように感じる瞬間を、擬音の反復で表す語として説明されることが多い。とりわけ驚き・照れ・懐かしさが混線した感情に対し、断定的な医学表現を避けるための語彙として機能したとされる[1]。
語の成立経緯については、演芸の舞台で客の反応を記録するためのメモが、やがて会話へ逆流したとする説や、商店街の掲示板に書かれた「心のもやもや」を表す擬態語が語尾反復を獲得したとする説がある。いずれにせよ、この語が広まる際に「説明しなくても伝わる」ことが重視されたと指摘されている[3]。
語源と定義[編集]
語源仮説:胸鼓膜“おもん”由来説[編集]
語源は、1960年代末に一部で流行した民間の“胸の診断ごっこ”に求められてきた。すなわち「思い出した瞬間に聞こえるはずの鼓膜の音」を、と呼び、その反復としてが成立した、という説明である[4]。
この説では、音の高さが一定ではないことが強調され、記録係がイヤホンの装着位置をミリ単位で揃えようとしたという、妙に具体的な回想が残っている。回想録では「装着距離は耳介から23.4mm、誤差は±1.2mmまで」とされ、学術的に検証された形跡は薄い一方で、読者に“納得っぽさ”を与えたとされる[5]。
別義:おももん=やさしい叱責説[編集]
また、同音異義の揺れとしてが別義で用いられた時期があるとされる。こちらは、強い叱責ではなく「やんわり直されることで胸が縮む」感覚を表した語として、主に家庭内の会話で使われたと記述される[2]。
当時の古い台本整理では「叱責→減音、笑い→増音」という編集基準が書かれており、語尾の反復が“圧力の弱さ”を示す記号として扱われた可能性がある、とされる。もっとも、この整理表の原典は未確認とされ、出典欄にに相当する空欄が残ることがある[6]。
歴史[編集]
成立:商店街の反応測定メモから会話語へ[編集]
が社会語として観測された起点は、内の商店街で行われた“客の心拍推定”キャンペーンだとされる。この企画は、の一部自治体が主導した「無形の満足度を可視化する」実験として、1968年に周辺で実施されたと記録されている[7]。
キャンペーンでは、店頭の抽選に当たった人だけでなく、外れた人の表情も採点対象とされた。採点者は「眉の角度」「笑いの開始までの秒数」「目尻の跳ね幅」を表にし、そのうえで反応が説明不能な場合の欄に擬音を当てた。その擬音欄で最も頻出したのがだったとされる[8]。
なお、推定された“胸の波”が統計的に再現しづらかったため、最後は「記述を短くするほど一致率が上がる」という経験則だけが残った。このとき採用された短い擬音として、説明語の代替にが選ばれた、とされる[9]。
普及:落語研究会と録音テープの編集文化[編集]
次の波は、落語研究会の編集文化によってもたらされた。特定の寄席の録音テープに、客席のざわめきの“瞬間的な変化点”を示すマーカーとしてが使われ、編集者が“どこを切れば笑いが残るか”を共有したとされる[10]。
ある研究会の内部報告書では、笑いの起点から「0.8秒後に客の呼気が一度整う」ことが観測され、その現象を「呼気の揺れがに相当する」と比喩したと記録されている[11]。ただし、報告書の筆者は翌年に別の媒体へ転籍し、以後は再現できなかったため“伝聞の誇張”も混ざった可能性がある、という注意書きが残っている[12]。
社会における影響[編集]
は、言葉の“意味”よりも「言わなくても通じる合図」として利用されるようになった。たとえば、職場の軽いミスを報告するときに「怒られる」と言い切るのではなく「おもんもんが来たので、すぐ直します」と付けることで、場を硬直させず謝罪の温度を調整できると考えられたのである[3]。
また、学校現場では、保健室への来室が続く期間に「体調不良」を直球で扱わず、曖昧な比喩で本人の自己説明を促す手法として一部で採用されたとされる。教育関係者の回想では、担任が毎日記す観察欄に「おもんもん(小)」「おもんもん(大)」が記され、担任間の引き継ぎが“雰囲気の共有”として成立したという[13]。
この結果、語は次第に“心理状態のサイン”として機能し、広告コピーにも転用された。架空の例として、食品メーカーが「一口でおもんもん」キャンペーンを打ったが、内容が不明確なまま抽象的な共感だけが拡散し、後年に炎上したとされる[14]。
批判と論争[編集]
一方で、の曖昧さは批判の対象にもなった。とくに「身体症状の比喩が、実際の不調と混同される」点が問題視されたのである。医療関係者は「語が強い説得力を持つほど、受診の遅れにつながりうる」と指摘したとされる[15]。
また、言語学の観点からは、反復擬音の意味領域が広がりすぎて境界が溶けることが論じられた。ある研究者は、が“感情の種類”と“身体反応の種類”を同一語で兼ねるため、コーパス分析が破綻しやすいと主張した[16]。なお、この主張は実験方法の粗さが本人の論文内でも一部指摘され、反論では「破綻すらも現象である」と逆説的に擁護された[17]。
さらに笑えない方向の論争もある。商店街のキャンペーンに関連して「データが本当に集計されたのか」と疑われ、内部の数値が後から書き換えられたのではないか、という噂が広まった。噂の根拠として挙げられたのが、ある月だけ“おもんもん”の記録数が「3,200件から3,201件に増えている」異常である。数字が小さいほど誤差に見えるため、むしろ改ざんを疑われた、と記されている[18]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯健太『擬音語と感情の境界—反復表現の実用性』東京大学出版会, 1982.
- ^ 山村里美『落語テープ編集の記号体系』芸能史研究所, 1977.
- ^ Dr. Margaret A. Thornton『Metaphor and Micro-Affect: Japanese Sound-Form Studies』Journal of Applied Linguistics, Vol. 41 No. 2, 1994.
- ^ 小林鷹司『商店街実験ノート:満足度の“音声化”』中央公論新社, 1971.
- ^ 田中澄夫『身体比喩の統計と例外』医学言語学会誌, 第7巻第1号, 1986.
- ^ 中村玲奈『おももん化する家庭会話—語尾反復の社会機能』日本語教育学叢書, pp. 13-38, 1999.
- ^ 松原直樹『会話の温度計:謝罪・軽微事故・曖昧語』法政大学出版局, 2003.
- ^ Yukiko Hoshino『Street Festivals and Unmeasured Reactions』Urban Folklore Review, Vol. 12 Issue 4, pp. 77-101, 2008.
- ^ 高橋幸三『心拍推定と誤差の物語』日本統計学会, 第21巻第3号, 1974.
- ^ 鈴木啓太『反復擬音の起源:耳介距離23mmの謎』言語学通信, Vol. 9 No. 6, 1989.
外部リンク
- おもんもん語彙資料館
- 落語テープ編集アーカイブ
- 商店街実験記録データベース
- 感覚比喩研究フォーラム
- 擬音語コーパス(非公開版)