きのこたけのこ戦争
| 正式名称 | きのこたけのこ製品販売戦略闘争 |
|---|---|
| 通称 | きのこたけのこ戦争 |
| 発生時期 | 1978年頃 - 1994年頃 |
| 主戦場 | 東京都港区、全国の量販店、駄菓子店、学校給食会 |
| 関与組織 | 株式会社明治、全国菓子販促連絡協議会 |
| 争点 | クラッカー形状、チョコ比率、包装の開封性 |
| 支持派閥 | きのこ派、たけのこ派、中立派 |
| 象徴色 | 茶色、橙色、薄緑 |
| 推定影響人数 | 延べ約2,800万人 |
| 後継制度 | 全国おやつ選好調停基準 |
きのこたけのこ戦争とは、後期から初期にかけて、日本の菓子流通と嗜好調査をめぐって発生したとされる、内部の派閥抗争および全国規模の消費者論争である。両陣営の支持はの本社会議室から地方の駄菓子屋まで広がり、のちに「お菓子史上もっとも平和的な内戦」と呼ばれるようになった[1]。
概要[編集]
きのこたけのこ戦争は、チョコレート菓子「」と「」をめぐる嗜好対立を指す俗称である。表向きは単なる人気投票であるが、実際には53年の流通改革に伴う棚割り変更が発端であり、地域ごとの購買行動、学校行事、さらには職場の茶菓子補充ルールにまで影響を及ぼしたとされる[2]。
この対立は、の販促担当であったらが、当初は「同一カテゴリー内での比較広告」を想定して設計したものである。しかし、1981年にの量販店で誤って両商品を同一棚に大量展開したことで議論が過熱し、以後、全国紙の読者投稿欄やラジオ番組で断続的に取り上げられるようになった。なお、1990年代にはの新聞縮刷版に「おやつ論争」として分類されたことがあるが、これは職員の誤記であるとの指摘もある[3]。
起源[編集]
棚割り調整と試験販売[編集]
起源は、1978年にが実施した「山型菓子シリーズ再編計画」にさかのぼるとされる。これは、棒状菓子の回転率がとで異なるという社内調査を受け、クラッカー部を生地で保持する製品群を再設計する試みであった。
当時の社内報『』第12号には、試作品コードM-17を「きのこ型」、M-19を「たけのこ型」と呼んでいた記録が残る。ところが、会議での説明において「山の上に生えるもの」と「山から掘るもの」という比喩が独り歩きし、営業部員の間で擬似的な陣営意識が生まれたとされる。これが後年の対立構造の原型である。
最初の論争[編集]
1981年、の百貨店で催された「春のチョコ菓子比較市」において、試供品の配布順が逆転し、来場者の回答が大きく割れたことが最初の論争として知られる。主催側は、当初「形状の好き嫌いを問うだけ」の設問を用意していたが、回答欄に「硬さ」「折りやすさ」「指先の汚れにくさ」の項目が加えられたことで、議論が実質的に哲学化した。
この結果、会場では「きのこは携帯性に優れる」「たけのこは咀嚼時の満足感が高い」といった主張が飛び交い、午後2時を過ぎるころには試食台の周囲が半円形に分断されたという。新聞記者のは後年、「同じ箱を見ているのに、まったく別の未来を語っていた」と回想している[4]。
構造と陣営[編集]
きのこ派の理論[編集]
きのこ派は、クラッカー部分とチョコ部分の比率が安定していること、袋から出した際に先端が折れにくいことを重視した。特に1984年にが行った非公式調査では、きのこ派支持者の約63.4%が「形が可愛いからではなく、情報量が少ないから選ぶ」と回答したとされる。
また、派閥内部には「傘先派」「茎重点派」「湿気耐性派」の三つの小派閥があった。なかでも湿気耐性派は、梅雨期の沿岸部での配布実験に成功したことから、学校遠足用の菓子として強い影響力を持った。
たけのこ派の理論[編集]
たけのこ派は、層状のクッキー生地がもたらす歯ざわりと、上部のチョコレート面積の広さを論拠とした。1987年にの有志サークルが発表した小冊子『菓子形態学序説』では、たけのこ型を「咀嚼開始から終了までの体感曲線が滑らかである」と記述している。
一方で、たけのこ派の集会では、しばしば「竹林の静けさ」と称される沈黙が発生した。これは熱心な支持者ほど言葉よりも食べる速度で意思表示を行ったためであり、全国大会で最も多かったスローガンは「語るより割れ」であったとされる。
中立派と調停派[編集]
中立派は、両者を交互に食べることで口腔内の温度と甘味の立ち上がりを調整する層であった。彼らはしばしば「棚の前で5分以上迷う者」として観測され、1989年にはが独自に中立派を第三勢力として認定した。
ただし、調停派の提案した「箱内をきのことたけのこで完全に半分に区切る案」は、製造ラインの都合により1か月で廃案となった。これが逆に対立を固定化したという見方がある。
全国拡大[編集]
1990年代初頭には、論争は単なる嗜好の問題を超え、テレビ番組の視聴者投票やラジオ投稿、学園祭の模擬店まで波及した。では寒冷地向けにチョコの融点を巡る議論が起こり、では配布時の箱つぶれ率が争点となった。
特筆すべきは、1992年にで行われた輸入菓子見本市で、海外バイヤーが「日本人は菓子の形状にまで議会制を持ち込む」と驚いた逸話である。これにより、きのこたけのこ戦争は国内の消費論争でありながら、実質的には包装工学と行動経済学の実験場として海外にも紹介された。
なお、の生活情報番組で「おやつ選択の分岐点」として特集された際、スタジオの試食皿が放送中に空になり、司会者が最後まで結論を出せなかったことは有名である。
社会的影響[編集]
この対立は、職場文化にも微妙な影響を与えた。営業会議の差し入れでは「両方入っている箱を持参すること」が暗黙の礼儀となり、これを怠ると会議が始まらない部署もあったという。1994年の内の調査では、会議室の菓子皿にきのこ系とたけのこ系が同数でない場合、雑談時間が平均で8.7分延びるという結果が出た[5]。
また、学校現場では、遠足後の感想文に「私はたけのこ派だが、友人の前では中立を装った」といった告白が散見された。こうした現象は、消費行動がアイデンティティ表明と結びついた初期事例として、の研究対象になっている。
一方で、過熱する陣営対立に対し、菓子メーカー各社が「おやつは仲良く分けるもの」とする共同声明を出したことから、戦争という名称に反して、実際には協調的な共同体形成を促したとの評価もある。
批判と論争[編集]
批判の中心は、そもそも対立の多くが販促会議で意図的に演出されたのではないかという点にある。の経済史研究グループは、1998年の論文で、きのこ派とたけのこ派の比率が地域差というより店頭陳列の偏りに左右されていた可能性を指摘した。ただし、同論文はサンプル数が27店舗と少なく、要出典のまま引用されることが多い。
また、2001年にで開催された「全国おやつ対話集会」では、第三者の栄養士が「どちらも同じくらい甘い」と発言したため、会場が一時的に静まり返った。この沈黙を「和解の瞬間」と見る研究者もいるが、支持者の一部は「甘さの等価性は暴論である」と反発した。
さらに、近年のSNSでは「本当の争点は箱の開けやすさではないか」とする再解釈が広がっているが、これもまた、菓子をめぐる争いがいつの時代も別の名目に置き換えられて再燃することを示している。
その後[編集]
2010年代以降、きのこたけのこ戦争は激しい対立というより、年中行事として定着した。毎年頃になると、量販店やSNSで「今年はどちらが勝つか」が話題になり、実際の販売数量よりも、どちらが話題化したかが重要視されるようになった。
はこれを受け、地域限定の記念箱や投票付きキャンペーンを実施したが、結果として「勝敗をつけないことが最大の販促である」という逆説が確立したとされる。2020年には社内資料で「戦争終結」ではなく「恒常的低強度衝突への移行」と表現され、担当者の筆致がやけに軍事史的であることが話題になった。
現在では、教育現場や企業研修で「好みの違いを制度化した成功例」として語られることがある。ただし、実際のところは、最初に大声を上げた者が勝つというより、最後に箱を持ってきた者が尊敬される文化を作った点にこそ、この戦争の本質があるともいわれる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『山型菓子流通再編史』明治流通研究所, 1986.
- ^ 小松原澄子「菓子比較市における陣営形成」『食品社会学紀要』Vol. 14, No. 2, pp. 41-68, 1991.
- ^ 佐伯俊介『日本の菓子戦略と棚割り政治』中央経済社, 1998.
- ^ M. H. Thornton, "Snack Identity and Consumer Factionalism", Journal of Applied Confectionery Studies, Vol. 7, No. 1, pp. 11-39, 2002.
- ^ 田島ゆかり「全国おやつ投票の統計的偏り」『統計と嗜好』第3巻第4号, pp. 5-29, 1995.
- ^ R. Iwata and S. Green, "Packaging Geometry and Emotional Loyalty", International Review of Snack Design, Vol. 9, No. 3, pp. 201-224, 2006.
- ^ 国立国会図書館調査部『新聞縮刷版にみるおやつ論争の変遷』国会資料出版会, 2004.
- ^ 高橋由紀子『甘味と分断の戦後史』青葉書房, 2011.
- ^ A. S. Miller, "The Bamboo-Shoot Effect in East Asian Retail", Retail History Quarterly, Vol. 22, No. 4, pp. 77-102, 2017.
- ^ 菱田康平「きのこ派の湿気耐性に関する実地試験」『日本包装学会誌』第28巻第1号, pp. 88-93, 1994.
外部リンク
- 全国きのこたけのこ調停委員会
- 菓子陣営史料アーカイブ
- 明治菓子文化研究室
- おやつ選好統計センター
- 棚割りと包装の博物館