きのこの山、たけのこの里戦争
| 分類 | 菓子をめぐる民衆史・言論戦 |
|---|---|
| 発端と時期 | 1950年代末にさかのぼるとされる |
| 当事者(陣営) | と |
| 主な争点 | チョコ配合・食感・地域限定企画 |
| 舞台(報道) | およびの菓子売場 |
| 象徴物 | 菓子箱の図柄、割折り文書、店頭ポスター |
| 象徴年(転換点) | とされる |
| 終息様式 | “歩み寄りセット”の流通拡大で沈静化とされる |
(きのこのやま たけのこのさと せんそう)は、日本の菓子文化をめぐって起きたとされる企業間・消費者間の「争い」である。両陣営の象徴として定着したとの図柄や味の好みが、のちに“社会運動”のように語られるようになった[1]。
概要[編集]
は、チョコレート菓子の嗜好をめぐる言い争いとして語られることが多いが、研究史では「味覚の選好が、地域メディアと流通政策によって増幅されていく過程」を指す呼称として整理されている[1]。
一般に、は「上面が硬質で割れ方が多様」という受け止めを得てきた一方、は「口溶けが滑らかで、家庭内での共有向き」という物語化が進んだとされる。こうした物語が、SNSの前段階である店頭掲示や回覧文書の形で加速した点が特徴である[2]。
なお、名称に「戦争」が用いられるのは、両陣営が“完全勝利”ではなく“勢力圏”の確保を競ったという点に由来するとされる。この呼称は後年、民俗学者の随筆で採用され、さらに流通業界の会合資料で普及したとされている[3]。
ただし、実際の発生年や出来事の連なりについては複数の系統の説があり、特定の単一事件をもって「戦争」と断定することは難しいと指摘されている[4]。
歴史[編集]
起源:味覚工学の“配給戦略”説[編集]
戦争の起源としてしばしば語られるのは、1950年代末にで実施されたとされる“味覚工学配給計画”である。これは菓子の個体差を減らすために、工場内での焙煎温度を±1.2℃単位で管理し、その結果を箱ごとに色分けして店頭へ配るという方式だったとされる[5]。
この計画の副産物として、同じ商品であっても「箱の色」と「食感」の連想が強化され、消費者の認知が固定化された。特にの小売組合が導入した“試食札交換”が、のちの両陣営の語彙(「割り派」「溶け派」)を生んだと推定されている[6]。
ところが後年の資料調査では、配給計画の文書が見つからない期間が〜にまたがっており、当時の説明が“口承で完結した”可能性が示唆されている。そこで編集者のは「起源は制度ではなく、説明の伝搬にある」とする反対説を提出した[7]。
拡大:店頭ポスターと“千枚配布”事件[編集]
決定的な拡大は、にの商店街で行われたとされる「千枚配布キャンペーン」であるとされる。これは同じ週に、側が“硬派”を売りにしたポスターを1,000枚、側が“共有派”を売りにしたポスターを1,000枚、それぞれ「3日間で配り切る」契約で配布したという[8]。
契約文書には「通行人の視線が3秒以上固定した場合を“宣伝成功”とみなす」との条件が書かれており、実務者が腕時計でカウントしたとされる逸話が残っている。もっとも、後の検証では腕時計の秒針が合わない時期があり、配布成功率の集計が水増しされた疑いが指摘されている[9]。
一方で、配布の結果として両陣営は“味の好み”を超え、地域の会話のリズム(誰がどの店の前で言い出したか)まで争点化させたとされる。こうした「会話の地図化」によって、戦争は店頭から新聞折り込み、さらにの学校配布プリントへと拡散した[10]。
転換:歩み寄りセットと沈静化の“段階設計”[編集]
戦争が完全に終わったというより、再解釈の制度設計によって沈静化していったとされる。とりわけ、に大手菓子メーカーの研究部門が導入した「段階設計型アソート」が転機になったと報告されている[11]。
この制度では、購入者に対して「まず単品を選ばせ、次に混合セットを提案し、最後に“どちらも好き”の選択肢を商品名に埋め込む」手順が定義されたとされる。さらに、混合セットの配列順にも根拠があり、「1箱目は山→里、2箱目は里→山」の順で“口の記憶”が切り替わると説明された[12]。
ただし、段階設計への反発もあり、の一部小売では、混合セットを「中立の仮面」と呼ぶ店内掲示が出回ったとされる。このように、沈静化は対立の抑圧ではなく、対立の物語を“商品設計”へ回収することで実現した面があると考えられている[13]。
構造とメカニズム[編集]
は、単なる嗜好の差ではなく、情報の伝播経路と結びつくことで制度化されたとされる。両陣営が参照したのは、味の違いというよりも「語りやすい根拠」である。たとえば「割ったときの音が〇〇Hzっぽい」という表現が、科学的には曖昧でも“会話の決着”として機能した点が指摘されている[14]。
また、店頭では“試食札”と呼ばれる紙片が配られ、そこに短い決め文句が印刷されていたとされる。たとえば向け札には「割れは文化である」という文が入り、向け札には「溶けは家庭である」と記されていたという[15]。
このような決め文句の設計は、心理学者が提唱した“短文の反復で選好が固定される”という整理に似ていると見られている。ただし、この説の出典については「反復回数の測定方法が明らかでない」との異論が出ており、研究者間では評価が割れている[16]。
さらに、争いはネット以後も続いたが、その形が変わったとされる。店頭の一瞬をめぐる争点は、「箱の写真を投稿した者が勝ち」というルールへ置き換わり、結果として“勝者の記憶”が残る構造になったと推定されている[17]。
主な出来事(代表エピソード)[編集]
この戦争を語る上で参照されやすいのは、いくつかの“象徴的事件”である。特に「天井貼り替え騒動」と呼ばれる出来事は、の百貨店で発生したとされる。売場の天井に貼られていた両陣営のPOPを、開店前に誰かが入れ替えたという噂が立ち、翌週には来店者の会話が二分したと報告されている[18]。
また、「3,214枚ログ事件」もよく引用される。これは、来店者の声を録音するのではなく、店員が“聞こえた決め文句”を手書きで記録した結果を、翌月に集計しようとしたところ、ノートのページ番号がで止まっていたという話である[19]。当事者は「ページが足りなかった」と説明したが、後に“足りないのではなく、途中で他陣営に引き渡された”という冗談めいた証言が広まり、笑いながらも記録が戦争の文献化を促したとされる[20]。
さらに地方では、の公民館で開催された「口溶け討論会」が“非公式の勝敗表”を作ったとされる。主催者は勝敗の根拠を「拍手が止まった秒数」とし、基準を0.8秒刻みに換算したという。ただし換算表の写真は残っておらず、信頼性は「雰囲気が強い」と評されている[21]。
一方、より真面目な運用としては、流通の会合で「山→里の購入比率が上がると、レジ前での滞留時間が平均で減る」と報告されたとされる。実務者はこの数字を根拠に、陳列棚の高さを2.4cm単位で調整したと述べたが、別の部署は「棚ではなくBGMのテンポの影響」と反論した[22]。
批判と論争[編集]
戦争の比喩が過剰であるという批判は古くからある。消費者庁相当の委員会に似た組織として、(仮称)が設置され、「味の多様性を、対立の物語へ固定するのは問題である」とする提言書が出されたとされる[23]。
もっとも、提言書の作成委員の一部には、記名のほかに“無記名の別紙”が添付されており、その別紙が“山派寄りの言い回し”だったことが後に指摘された。編集者は「それは中立ではなく、戦争を“編集可能な現象”として利用した試みだった」と分析したと報告されている[24]。
論争点としては、第一に「一体感の創出」が本当に消費者利益になっているかが問われた。例えば混合セットで“平和”を演出しつつ、結果として単品購入が減ったため、地方小売の利益率が落ちたという声も残っている[25]。
第二に、戦争が教育に持ち込まれた点が問題視された。小学校の朝会で「どちらが正しいか」を競うゲームが行われた地域があったとされるが、当時の記録は曖昧で、実際に誰が提案したかは不明とされる。これらの背景から、戦争は“文化”であると同時に“雑な制度”にもなり得るという二面性が指摘されている[26]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中刈一『菓子民衆史の臨界点』文泉堂, 2003.
- ^ 鈴木眞理子『箱の色は味を支配するか——昭和末の配給文書』青葉社, 2011.
- ^ 高橋結衣『短文反復と選好固定:店頭データの断面』日本心理学会出版部, 2015.
- ^ K. Watanabe『Consumer Narrative and Shelf Warfare』Tokyo Review of Retail Studies, Vol. 12 No. 3, pp. 41-58, 2017.
- ^ M. A. Thornton『Taste as Policy: Evidence from Snack Aisles』Journal of Cultural Commerce, Vol. 9 No. 1, pp. 1-23, 2014.
- ^ 食品選好公正委員会『報告書:二項対立の消費者影響(試案)』第2版, pp. 77-96, 2006.
- ^ 編集工房浅草『千枚配布キャンペーンの記録(断章集)』浅草資料館, 1989.
- ^ 名古屋売場研究会『棚高と記憶の切替:17秒短縮の検証』中部流通研究所, 2001.
- ^ 高原大樹『無記名別紙と中立の編集——会合資料の読み替え』日本編集史学会, 第5巻第1号, pp. 99-118, 2018.
- ^ 虚構資料編集部『3,214枚ログ事件の真相と冗談の役割』誤植書房, 1997.
外部リンク
- KinokoSato War Archive
- Snack Aisle Anthropology Lab
- 浅草POP資料庫
- 棚高実験(非公式)メモ
- 消費者口溶け掲示板