この回400点取れ!
| 名称 | この回400点取れ! |
|---|---|
| 読み | このかいよんひゃくてんとれ |
| 英語名 | Kono Kai 400-Ten Tore! |
| 分野 | 採点文化・応援表現・教育社会史 |
| 成立時期 | 1987年頃 |
| 発祥地 | 東京都新宿区西早稲田周辺 |
| 主要提唱者 | 梶原義政、三浦玲子ほか |
| 派生語 | 400点コール、回得、単回満点主義 |
| 関連組織 | 全国模擬試験研究協議会 |
この回400点取れ!(このかい400てんとれ)は、における採点文化および応援用語の一種で、特定の一回限りの試験・公演・対局・収録回に対して極端に高得点を要求する定型句である。もとは末期の予備校界隈で使われ始めたとされるが、現在では周辺の受験文化史を語る際にしばしば引用される[1]。
概要[編集]
この回400点取れ!は、もともとやにおいて「今回だけは満点に近い結果を出せ」という切実な願望を、四桁の圧力をもって表現した応援句である。単なるスローガンではなく、採点対象を一回の出来事に限定することで、成績評価の不安を一時的に数値へ封じ込める心理技法として扱われた。
文献上はの冬、近辺の予備校で配布された自習プリントの余白に「この回400点取れ!」と走り書きされた例が初出とされる[2]。ただし、同時期にの進学塾でも類似表現が確認されており、独立発生説も根強い。なお、400点という数値は実際の満点制度と必ずしも一致しないが、そこがむしろ本表現の魅力とされる。
歴史[編集]
予備校文化からの発生[編集]
起源は62年の冬期講習に求められることが多い。当時、のある予備校では、英・数・国・理・社の5科目合計を「仮想400点満点」として扱う独自の励まし合いが流行していた。講師の梶原義政は、弱気な受験生に向かって「総合の前に、まずこの回だ」と述べたとされ、これが短縮されて現在の形になったという説が有力である[3]。
この語の広まりには、答案返却のたびに赤ペンで点数を丸囲みする習慣も関係していた。三浦玲子の回想録によれば、ある教室では400点を取った者にのみ黒板の端を消す権利が与えられ、結果として「この回400点取れ!」が事実上の教室内通貨のように機能したという。
テレビ受験特番による全国化[編集]
、系の深夜教育番組『答案の向こう側』で、浪人生の応援フレーズとして大きく取り上げられたことにより、語は全国区となった。番組内では、司会の木村宏一が「一回の400点は人生の400点ではない」と述べ、これが視聴者の間で逆に拡散を促したとされる。
この頃から、応援の対象は受験に限られず、の対局、大学の口頭試問、地方劇団の公演初日などにも適用されるようになった。特にの劇団「青焔座」では、初日前の円陣で全員が「この回400点取れ!」を三唱するのが慣例となり、舞台袖の緊張緩和に役立ったという[4]。
インターネット掲示板での変質[編集]
に入ると、系掲示板や携帯電話のメール文化によって、意味がさらに拡張した。もともとの「励まし」から、半ば自嘲を含む「無茶な要求」へと転じ、やがて「今回だけは異常に高い成果を求める」という皮肉表現として定着したのである。
特に前後には、定期試験の話題だけでなく、ゲーム実況や料理動画のコメント欄でも使われた。ある調査では、書き込みの約37.4%が本来の400点到達を期待しておらず、残りの62.6%も「言ってみたかっただけ」と回答したというが、調査票の回収方法に問題があったとの指摘もある[5]。
用法と文化的意味[編集]
「この回400点取れ!」は、命令形でありながら実際には命令として機能しにくい点に特徴がある。話し手はしばしば本人ではなく第三者であり、試験当事者を直接叱咤するというより、周囲の不安を一気に可視化する役割を果たす。
また、この表現は「今回」「この回」という限定詞によって、失敗の累積を一時停止する効果を持つとされる。社会学者の渡部奈緒は、これを「反省を未来に押し込める言語技法」と定義し、特にの私立校文化で観察されやすいと述べた。もっとも、同様の現象はやでも確認されており、地域差は小さいともされる[6]。
一方で、教育現場では「400点」という数値が過度の競争心を煽るとして批判されたこともある。しかし実際には、同表現を口にした教師ほど黒板消しの使い方が上手くなる傾向があり、ある教員研修では「この回400点取れ!」を10回連呼した後の板書整理速度が平均14.2%向上したという結果が報告されている。
派生表現[編集]
300点版と500点版[編集]
派生語として最も知られるのが「この回300点でいい」および「この回500点取れ!」である。前者は妥協、後者は誇張を意味し、いずれも元表現の緊張感を逆手に取った用法である。
にの進学塾で行われた調査では、受験生の18人中7人が「400点」は高すぎるが「300点」は低すぎると回答し、この中間の曖昧さが表現の定着を支えたことが示唆された。
回収型スローガン[編集]
「この回400点取れ!」の後に「次回は知らん」と続ける回収型スローガンも存在する。これは予備校講師の語り口を模したもので、受験直前の追い込み期に使われることが多い。
なお、では語尾に「やで」を付けた「この回400点取れやで!」が確認されるが、言語学的には別系統と見る研究者もいる。
社会的影響[編集]
本表現は、学習塾、eスポーツ大会、社内プレゼン、地域演劇祭など、結果が単回で評価される場に広く浸透した。とりわけの某進学校では、定期試験前に生徒会が「400点キャンペーン」を開催し、校内放送で毎朝1回だけこの語を流したところ、遅刻率がわずかに下がったという。
また、言葉の強さのわりに実害が少ないことから、現代日本における「やる気の空回り」を象徴するフレーズとして、広告コピーやバラエティ番組でも引用されるようになった。2021年には、ある学習アプリがキャンペーン名にこの語を採用し、初月の新規登録が通常比で21.8%増加したが、その後の継続率はほぼ平常通りであった[7]。
批判と論争[編集]
批判の中心は、数値の根拠が不明瞭である点にある。特には、「400点が何を意味するかは場面ごとに異なるため、教育用語としては不安定である」とする見解をに公表した。
一方で、熱心な支持者は「不安定だからこそ効く」と反論し、むしろ正確な数値である必要はないと主張した。ある討論会では、支持派が「399点では言い切れない」と述べたのに対し、反対派は「401点でも多すぎる」と応じ、議論が平行線のまま終了した。このやり取りは後にネットミーム化し、関連動画の総再生数は約480万回に達したとされる[8]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 梶原義政『冬期講習と言葉の圧力』西早稲田出版, 1998年.
- ^ 三浦玲子『答案返却の社会史』学苑書房, 2006年.
- ^ 木村宏一「深夜教育番組における応援語彙の拡散」『放送文化研究』Vol.14, No.2, pp. 41-58, 1995.
- ^ 渡部奈緒「限定詞『この回』の心理的効果」『日本教育社会学会紀要』第27巻第1号, pp. 12-29, 2011.
- ^ 全国模擬試験研究協議会『採点語彙白書 2010』協議会刊, 2010年.
- ^ H. Sato, “The 400-Point Imperative in Japanese Exam Culture,” Journal of Comparative Pedagogy, Vol. 8, No. 4, pp. 201-219, 2013.
- ^ 青木真理『受験応援表現の変容と定着』明石学術出版社, 2018年.
- ^ M. Thornton, “Single-Round Score Anxiety and Collective Chanting,” East Asian Linguistic Review, Vol. 5, No. 1, pp. 77-93, 2020.
- ^ 『この回400点取れ!現象の分析』東京言語資料センター報告書, 第3巻第1号, pp. 3-17, 2022.
- ^ 佐伯亮一『命令形スローガンの都市伝説』風見書房, 2024年.
- ^ K. Yamane, “When 400 Means Everything and Nothing,” Journal of School Folklore, Vol. 2, No. 3, pp. 55-68, 2019.
外部リンク
- 日本応援句アーカイブ
- 早稲田周辺口承文化データベース
- 全国模擬試験研究協議会資料室
- 教育語彙ミーム研究所
- 深夜教育番組保存会