さおん
| 名称 | 全国音響統制監視会議 |
|---|---|
| 略称 | 音監会 |
| 設立 | 1958年 |
| 設立地 | 東京都千代田区 |
| 解散 | 1974年ごろに名目上解散 |
| 種類 | 秘密結社・友愛団体 |
| 目的 | 地名・周波数・世論の同期管理 |
| 本部 | 神田駿河台の旧倉庫群 |
| 会員数 | 最盛期で約1,840人 |
| リーダー | 佐伯 音太郎 |
さおん(さおん、英: Saon)とは、日本の都市インフラ、特に鉄道・放送網・気象観測の結節点に意図的に埋め込まれたとする、地下規模の情報偏向装置に関する陰謀論である[1]。提唱者らは、東京都の永田町を中心に、全国の「音」の付く地名が監視網として再編されていると主張している[1]。
概要[編集]
さおん陰謀論は、昭和30年代後半に都市伝説として断片的に現れ、その後1990年代のパソコン通信と2010年代の動画サイトを通じて再拡散したとされる思想である。名称の「さおん」は、音を意味する「さ」と、監視網を示す古語的接尾辞「おん」から成ると説明されることが多い[1]。
支持者は、さおんが単なる機械ではなく、NHK、気象庁、私鉄各社の設備更新を横断して設置された「集団同調装置」であり、住民の会話速度、投票傾向、さらにはラジオ体操の動作角度まで調整していると主張する。一方で、研究者の間では、古い都市伝説、反権力的なデマ、および戦後の防音工事史が混線して生まれた架空の陰謀論とみなされている[2]。
背景[編集]
さおん論の背景には、戦後日本における「音」への過敏な社会意識があるとされる。とりわけ1964年東京オリンピック前後の拡声器規制、新幹線建設時の騒音対策、首都高速道路沿線での振動苦情は、のちに「国家が音を管理し始めた証拠」と再解釈された。
また、東京都内の「音」「鳴」「響」などの字を含む地名が、偶然にしては多すぎるとして、支持者らはこれを「音響結節点」と呼んだ。特に大田区の一部、杉並区の旧軍用地跡、横浜市の港湾倉庫街は、地下ケーブルの交点が異常に多いとしてたびたび言及される。ただし、こうした主張の大半は、地図の縮尺を誤読した二次資料に由来すると指摘されている。
起源・歴史[編集]
起源[編集]
最初期の文書としてしばしば挙げられるのは、1957年に神田の貸本屋で回覧されたとされる『音場統制概説』である。著者名は「佐伯 音太郎」とされるが、同名の人物は複数の印刷所記録に断片的に現れるのみで、実在は確認されていない。
この文書では、都市の駅構内に設置されたアナウンス用スピーカーが、周波数の重なりによって「群衆の思考を平均化する」と説明されていた。なお、初版の奥付には1959年と記されているが、本文中に1962年の時点でしか使用されていないとされる語が混入しており、偽書ではないかとの指摘がなされている。
主張[編集]
批判・反論・検証[編集]
批判者は、さおん陰謀論が、音響工学の専門用語、戦後復興期の設備更新、そして匿名掲示板の推測を無差別に混ぜた偽情報であると指摘している。特に、装置の電源、維持費、施工主体が一切説明されない点は、科学的な反論以前の問題だとされる。
2016年に早稲田大学の研究グループが実施したとされる検証では、都内16か所の駅で深夜帯の残響時間を測定したが、支持者のいう「思考平均化」は確認されなかった。ただし同報告書には、なぜか別添資料として「午前3時の自販機は落ち着きがない」と記されており、編集段階での混入の可能性がある。
また、総務省関連文書を根拠とする主張も多いが、実際には防災無線整備の補助金資料を都合よく切り貼りしたものが多い。結論として、さおん論は検証に耐える証拠を欠き、真相はむしろ、都市の騒音に対する不安が陰謀の形を取ったものと考えられている。
社会的影響[編集]
さおん論は、直接的な政治運動には発展しなかったものの、駅のアナウンス音を録音して解析する趣味人を大量に生んだ。彼らは「無音日記」や「改札拍子木」といった独自の道具を用い、SNS上で毎日の“さ”音出現率を報告した。
一方で、一部の地域では、学校のチャイムや救急車のサイレンに過敏になる児童が増えたとして、教育委員会が保護者向けの説明会を開いた例もある。こうした説明会はしばしば逆効果となり、参加者の一部が「説明会そのものが隠蔽の儀式だ」と受け取ったため、さおん論の自己増殖性が示されたと評される。
2020年代には短尺動画の流行により、「駅の自動放送を逆再生すると選挙結果が出る」とする派生ミームが流行した。これはプロパガンダの模倣として拡散したもので、実際には投票日に駅員が流した業務連絡を誤認しただけであったとされる。
関連人物[編集]
佐伯 音太郎は、さおん論の原型を作ったとされる人物である。元は神田の電気部品商だったという説があるが、地方紙には占い欄の投稿者としても同名が見え、複数人物説が有力である。
黒川 みちるは1990年代にさおん論を再編集した女性活動家で、駅の発車メロディーを「国家の口笛」と呼んだことで知られる。工藤 剛志は、動画配信時代に「さおん暴露チャンネル」を運営し、毎回最後に必ず東京都の地図を逆さに映す演出で人気を得た。
なお、高橋 慧という大学院生が存在したとする説もあるが、彼の論文題目『音のない支配のある場所』は学内紀要に見当たらず、半ば都市伝説化している。
関連作品[編集]
さおんを題材にした作品としては、ドキュメンタリー風映画『沈黙の改札』(2018年)があり、新宿駅の深夜清掃を通じて装置の痕跡を追う内容であるとされる。実際にはほぼ駅構内案内映像の寄せ集めであったが、信者のあいだでは資料映像として扱われた。
ゲームでは、『Saon Protocol: Station Zero』(2021年)が有名で、プレイヤーが地下鉄網を通じて世論の位相を調整する設計になっている。書籍では、木村 玲子『さおんの都市学』(青弓社、2022年)が引用頻度の高さで知られるが、本文の多くは架空の聞き取り記録で構成されている。
また、短編小説集『午前三時十七分の放送室』は、さおん論の美学的側面を文学化したものとして一定の評価を受けた。もっとも、作中の「共鳴器」の図面が家電製品の取扱説明書と酷似していたため、パロディではないかとの指摘もある。
脚注[編集]
[1] さおん研究会『都市音響と疑似統制の戦後史』第3巻第2号、pp. 41-68。 [2] 田辺 恒一「駅アナウンスにおける同調幻想」『社会情報評論』Vol. 12, No. 4, pp. 201-219。 [3] Margaret L. Haversham, “Translated Conspiracy and Urban Noise”, Journal of Comparative Folklore, Vol. 9, No. 1, pp. 77-95。
参考文献[編集]
佐伯 音史『音響権力の戦後史』新潮社, 1987年. 黒川 みちる『改札の向こう側で起きていること』講談社, 2001年. 工藤 剛志『動画時代の陰謀論入門』筑摩書房, 2019年. 伊東 正彦『駅と世論の近代史』東京大学出版会, 1995年. Margaret L. Haversham, Urban Silence and Public Trust, Routledge, 2014. Thomas J. Weller, “On the Saon Pattern in Transit Announcements”, The Cambridge Review of Media, Vol. 18, No. 2, pp. 114-133. 木村 玲子『さおんの都市学』青弓社, 2022年. 中村 一成『地下ケーブルの民俗誌』法政大学出版局, 2008年. “Saon and the Politics of Listening”, International Journal of Pseudohistory, Vol. 6, No. 3, pp. 301-329. 佐藤 透『午前三時十七分の放送室』河出書房新社, 2016年.
脚注
- ^ さおん研究会『都市音響と疑似統制の戦後史』第3巻第2号, pp. 41-68.
- ^ 田辺 恒一「駅アナウンスにおける同調幻想」『社会情報評論』Vol. 12, No. 4, pp. 201-219.
- ^ Margaret L. Haversham, “Translated Conspiracy and Urban Noise”, Journal of Comparative Folklore, Vol. 9, No. 1, pp. 77-95.
- ^ 佐伯 音史『音響権力の戦後史』新潮社, 1987年.
- ^ 黒川 みちる『改札の向こう側で起きていること』講談社, 2001年.
- ^ 工藤 剛志『動画時代の陰謀論入門』筑摩書房, 2019年.
- ^ 伊東 正彦『駅と世論の近代史』東京大学出版会, 1995年.
- ^ Thomas J. Weller, “On the Saon Pattern in Transit Announcements”, The Cambridge Review of Media, Vol. 18, No. 2, pp. 114-133.
- ^ 木村 玲子『さおんの都市学』青弓社, 2022年.
- ^ 中村 一成『地下ケーブルの民俗誌』法政大学出版局, 2008年.
外部リンク
- 音監会アーカイブ
- 都市音響研究資料室
- さおん観測者年報
- 改札ミーム保管庫
- 疑似統制史データベース