ぬるぬるのぬ
| 名称 | ぬるぬるのぬ |
|---|---|
| 別名 | 滑走音のぬ、長母音誘導語 |
| 分類 | 擬音語・擬態語・語感装飾 |
| 初出 | ごろ(推定) |
| 成立地域 | 下町、川崎周辺 |
| 提唱者 | 斎藤文蔵らによるとされる |
| 影響分野 | 児童言語学、寄席文化、広告文案 |
| 代表資料 | 『ぬる語彙小史』ほか |
| 特徴 | 語頭・語中・語尾のぬが連鎖し、滑走感を生む |
| 使用場面 | 落語の前口上、玩具の命名、注意喚起文 |
ぬるぬるのぬは、の口承文化に由来するとされる、音の滑走感を極端に強調した擬音・擬態語の一種である。主として後期の児童語彙研究と内の演芸界隈で定着したとされ、後にはとの境界領域を象徴する語として知られる[1]。
概要[編集]
ぬるぬるのぬは、発話時に舌先が上顎から離れにくくなる感覚をあえて利用し、言いにくさそのものを意味化した語であるとされる。一般にはした状態の強調表現と誤解されがちであるが、実際には「ぬ」という音素を三重に重ねることで、対象の滑りやすさではなく、話者の心理的なためらいを示すものと説明されることが多い[2]。
この語が注目されるようになったのは、ので流行した「語尾だけを伸ばす遊戯」がきっかけであるとされる。当時、紙芝居の呼び込みや長屋の子どもたちの間で、語尾に「ぬ」を付けると相手の動作が一拍遅れるという迷信が広がり、やがてとの双方に取り込まれた。この迷信が後年、広告業界のコピーライターに利用され、結果として一般語彙のような顔をしたまま生き残ったとされている。
語源[編集]
「ぬ」の三重化[編集]
最も有力とされる説では、ぬるぬるのぬは、古いの「ぬける」「ぬらり」といった語感をまとめて抽象化したものである。、の玩具問屋が配布した試供品の札に「ぬるぬるのぬ、手につかぬ」と書かれたのが確認上の初出とされるが、当該札は現存せず、とする研究者もいる。
なお、当初は「ぬるぬのぬ」と表記されていたが、の内の勉強会で、語の中心部を一段多くする方が記憶残存率が8.4ポイント上がるという報告があり、現在の形に固定されたとされる。
児童語としての拡散[編集]
半ばには、の小学校で「ぬるぬるのぬを三回唱えると黒板消しが落ちない」という遊びが流行したとされる。これにより、語は単なる擬音ではなく、半ば呪文のような扱いを受けた。の旧調査班による内部メモでは、6〜11歳の児童のうち17.2%が当語を「ぬの一族」と誤認していたとされ、言語習得史上の珍例として扱われている。
歴史[編集]
戦後復興期の定着[編集]
、の寄席『木馬亭』で、二代目・春風亭柳ぬるが前座に用いたことで、ぬるぬるのぬは舞台用語としての地位を得たとされる。柳ぬるは「語の滑りが客席の緊張をほどく」と述べたと伝えられ、実際にその回の客席では笑いの発生までの平均沈黙が通常より1.8秒短縮したという記録が残る。もっとも、この記録は楽屋帳の余白に書かれたものであり、真偽は定かではない。
にはの子ども向け番組で、司会者が「ぬるぬるのぬって何ですか」と尋ねる場面が放映され、視聴者から問い合わせがに312件寄せられたとされる。これを受けて、番組制作班は「意味より語感を先に覚えさせる教育的表現」と位置づけた。
広告と商品名への転用[編集]
に入ると、の石鹸メーカーが「ぬるぬるのぬ配合」という文言を試験広告に用い、売上が3週間で14%上昇したとされる。実際には配合成分と語句の関係は不明であったが、消費者は「しつこくないぬめり」を連想したらしい。この成功により、以後のの催事では、触感のある製品に「ぬ」を含む命名が増加した。
一方で、のの会報には、「意味内容の空洞化を促進する危険な語」として批判が載った。ところが、同会報の編集後記には「ただし語感はおもしろい」との手書き注記があり、批判と愛着が同居した珍しい例とされている。
研究対象としての再評価[編集]
以降、との合同研究班が、ぬるぬるのぬを「反復音節による遅延知覚の促進」として分析した。1986年の調査では、被験者84人中62人がこの語を聞いた直後に姿勢を少し崩し、うち9人が理由を説明できなかったという。研究班はこれを「意味より先に身体が反応する語」の典型例とみなし、学会では一定の注目を集めた。
ただし、当時の論文には「語の効果は測定環境の湿度に左右される」と書かれており、実験室の加湿器の設定が37%から92%まで揺れていたことが後に判明している。この点は、ぬるぬるのぬ研究の信頼性をめぐる長年の論争の火種になった。
社会的影響[編集]
ぬるぬるのぬは、日常会話ではあまり厳密な意味を持たない一方で、場の空気を緩める合図として機能したとされる。特にでは、クレームの初動で「少々ぬるぬるのぬでございます」といった言い回しが一部の店舗で流行し、謝罪の硬さを和らげる効果があると信じられた。
また、後半にはの着信音に語感を重ねる文化が生まれ、「ぬるぬるのぬ着メロ」と呼ばれる低音反復型の音源が若者の間で流通した。音楽理論上は単調であるが、歩行中に聴くと足取りが半拍遅くなるとされ、のスクランブル交差点付近での使用が半ば自粛対象になったという逸話も残る。
さらに、にはの外郭団体が、食品包装における「過剰なぬめり表現」の自主基準を作成する際、本語を例示語として採用した。これにより、ぬるぬるのぬは一種の行政用語に昇格し、民間の冗談から制度語彙へと変化したとされる。
批判と論争[編集]
最大の批判は、ぬるぬるのぬが「意味を持つようで持たない」ため、教育現場で扱いにくいという点にある。とりわけの関連シンポジウムでは、国語教育の時間を無駄にするという意見と、語感教育の入口として有用だという意見が激しく対立した。討論は予定時間を45分超過し、最終的に司会が語を3回唱えて場を収めたとされる。
また、地方の民俗研究者の間では、この語が本来はの海岸部で漁師が網を引く際の掛け声だったのではないかという説もある。しかし、同説の根拠となる録音テープは、実際にはではなくに保存されていたはずなのに見つからず、研究会では毎回「保存形式の世代差」が議論の中心になってしまう。こうした点から、当語は学術的には便利だが、厳密さには欠ける題材として扱われている。
現代の用法[編集]
に入ると、ぬるぬるのぬは上で「説明しにくいがとりあえず柔らかくしたい概念」の代名詞として再流行した。とくに文末に「ぬ」を付けるだけで、断定を避けつつ親しみを演出できるとして、企業の公式アカウントや自治体の広報文にも一部採用されている。
また、の解説動画では、わざと滑舌の悪いナレーションと組み合わせる編集手法が「ぬるぬるのぬ構文」と呼ばれた。視聴維持率が平均で6.1%改善したという報告があるが、同時にコメント欄が「ぬとは何か」で埋まるため、情報の明瞭さはむしろ低下したとされる。
現在では、言語遊戯としての価値に加え、「曖昧さを許容する日本語の柔軟性」を象徴する語として紹介されることがある。ただし、辞書編集者の一部は収録を見送っており、その理由を「意味があるように見えて、会議室で三度唱えると全員が黙るから」と記している。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 斎藤文蔵『ぬる語彙小史』青峰書房, 1962年.
- ^ Margaret A. Thornton, “Repetition and Drift in Postwar Japanese Play Speech,” Journal of Comparative Linguistics, Vol. 14, No. 2, pp. 113-129, 1988.
- ^ 中村さやか『語尾の民俗学』月瀬出版, 1975年.
- ^ 佐伯直人「ぬ音連鎖の社会受容」『日本言語文化研究』第7巻第3号, pp. 44-63, 1991年.
- ^ Harold P. Winthrop, “The N-Syllable Effect in Urban Children’s Speech,” Tokyo Studies in Language, Vol. 5, pp. 201-218, 1973.
- ^ 川島由美『広告と擬音の戦後史』東都書林, 1999年.
- ^ 渡辺精一郎「滑走語の統計的分布に関する一考察」『国語学雑誌』第52巻第1号, pp. 9-27, 2006年.
- ^ Elizabeth M. Rourke, “Nuru as a Social Marker in Mid-Century Japan,” Social Semiotics Review, Vol. 11, No. 4, pp. 77-95, 2001.
- ^ 『ぬるぬるのぬ入門』日本語感協会編, 2012年.
- ^ 高瀬春樹『意味のぬけるところ』白鸚社, 2018年.
- ^ 田端理恵「ぬるぬるのぬと湿度の相関」『生活音声学紀要』第3巻第1号, pp. 1-19, 1986年.
外部リンク
- 日本ぬ語研究会
- 東京語感アーカイブ
- 下町ことば資料室
- 擬音文化データベース
- ぬるぬるのぬ普及委員会