はちみつ色に、魅せられて
| 作品名 | はちみつ色に、魅せられて |
|---|---|
| 原題 | Enchanted by Honey Amber |
| 画像 | (架空) |
| 画像サイズ | 240px |
| 監督 | 鶴岡ナオキ |
| 脚本 | 鶴岡ナオキ |
| 原作 | 『はちみつ色の記憶—一人の調色技師の記録—』(松原雫子) |
| 製作会社 | 蜜柑スタジオ |
| 配給 | 蜂蜜映画配給 |
| 公開 | 2014年10月12日 |
『はちみつ色に、魅せられて』(はちみついろに、みせられて)は、[[2014年の映画|2014年]]10月[[12日]]に公開された[[蜜柑スタジオ]]制作の[[日本]]の[[アニメーション映画]]。原作・脚本・監督は[[鶴岡ナオキ]]。興行収入は34億円で[1]、[[蜜色照明賞]]を受賞した[2]。
概要[編集]
『はちみつ色に、魅せられて』は、照明と色彩設計の“職人史”を、ひとりのデザイナーの生涯として追うノンフィクション風のアニメーション映画である。主演ではなく“主題の人物”として、調色技師の[[槙野レン]]を中心に据える点が特徴とされている。
本作は、舞台となる[[東京都]][[文京区]]の小さな工房から始まり、全国配給網に乗るまでの工程を、調色に使われた顔料の配合比や試作カットの失敗回数まで織り込む、いわゆる資料密度の高い作風で知られている。ただし、その資料の多くは映画内で「残っていたはずのメモ」として語られ、裏取りの方法が観客に委ねられる構造が採られた。[3]
あらすじ[編集]
[[蜜色照明賞]]の選考会直前、色見本の“蜂蜜のような琥珀色”が再現できなくなったことを告げられた調色技師[[槙野レン]]は、若い頃に残した自分のノートだけを頼りに、記憶の工房へ戻ることになる。そこでレンは、光が観客の感情に触れる瞬間は色そのものより「色が決まるまでの迷い」にある、と記したページを見つける。
レンは幼少期、[[北海道]][[小樽市]]の港倉庫で、冬の反射光から“琥珀の濃度”を覚えたとされる。その後、[[大阪府]][[堺市]]の照明下請けに入り、1シーンごとにテストフィルターを最低でも7種類重ねてから最終色を決める“手順の宗教”を身につけた。だが、手順が増えるほど時間は足りず、ある日、[[神奈川県]][[横浜市]]での大規模撮影では、予定色の15%だけが想定から外れる事故が起きた。
事故の原因は顔料そのものではなく、保管庫の湿度と、レンがこっそり調整した“香りのついた溶剤”にあると後年に推定される。レンはその真相を、なぜか蜂の巣箱の模型とともに舞台転換の道具として隠しており、観客は最後まで「その隠し方が善意だったのか、罪だったのか」を選ばされる。終盤では、琥珀色が完成する一方で、レン自身の記録が不自然に欠落していることが示され、映画は回収されない疑問で着地する。
登場人物[編集]
主要人物
- [[槙野レン]]:照明と彩色の調色技師。生涯を通じて「“はちみつ色”は人の視線を止める」と信じ、実際に試作を重ねたとされる。 - [[久我ミツ]]:レンの弟子。現場での記録係を担うが、後半になるほど“記録を増やす”ことに執着する。琥珀色の再現より、物語の再現に向かう姿勢が批評家に注目された。 - [[松原雫子]]:原作として映画化された人物である“伝承の著者”。映画内では出番が少ないが、章扉の文章が展開を支配する。
その他
- [[蜂蜜映像委員会]]の担当者[[南條オサム]]:配給と企画の間を調整する。色指定の変更を“編集”と呼び、レンのこだわりをコストの問題に矮小化する。 - [[文京キャンパス]]の保存映像研究員[[西宮ユリ]]:リバイバル上映の検証役。映像ソフト化の際に生じた色調ズレ“DVD色調問題”を最初に指摘したとされる人物である。[4]
声の出演またはキャスト[編集]
キャスト
- [[槙野レン]](声):[[佐竹ユウナ]]。低温の光を思わせる声質として宣伝映像で語られ、実際に“砂糖の結晶が割れる音”をイメージして収録したとスタッフノートに書かれた。 - [[久我ミツ]](声):[[藤堂ミオ]]。師匠への忠誠を抑制的に演じたとして評価された一方、終盤の“疑う沈黙”の演技はノートの読み上げ量が異常に多いのではないかとも噂された。 - [[南條オサム]](声):[[北見レオ]]。説明調の台詞が多いが、表情はほとんど変えないことで“予算の乾き”を表現したとされる。
なお、劇中の回想場面では、実在の技師ではなく、映画独自に設定された[[調色教会]]の朗読者が登場する。彼らの声は同一声優が複数役を担当したとされ、観客が同じ人の声で“時間だけ違う”違和感を覚えるよう設計されたと報じられている。
スタッフ[編集]
スタッフ
- 監督:[[鶴岡ナオキ]]。 - 脚本:[[鶴岡ナオキ]]。 - 原作:[[松原雫子]]『はちみつ色の記憶—一人の調色技師の記録—』。 - 製作総指揮:[[蜂蜜企画]]代表[[篠原カスミ]]。 - ナレーター:[[西宮ユリ]](劇中検証パートのみ)である。
本作の制作では、調色の再現を重視するため、色相角度を単純な“色名”として扱わず、[[CIE]]近傍の表記を脚本上にあえて残したという。具体的には「最終カットの平均彩度はS=0.61±0.03」「影部のガンマはγ=2.26で固定」といった記述が見られ、スタッフ間では“数式で泣く”と冗談が交わされたとされる。なお、これらの数値の出所は、当初公開されなかったまま、後のリバイバル上映資料で一部だけ補足された。
製作[編集]
企画/制作過程[編集]
企画は[[蜂蜜映画配給]]が、調色技師のノンフィクション資料に“映画向けの物語密度がある”と判断したことから始まったとされる。具体的な契機として、配給部が視聴した試写で、観客のうち18〜24歳層が「色を覚えて帰る」とアンケートに書いた率が高かった点が挙げられている。
また、監督の[[鶴岡ナオキ]]は、主人公の成長を“作り直し”の回数で描くことにこだわり、レンが試作した照明フィルターは全部で[[27]]種類、最終稿の採用までに却下されたのは[[9]]種類だったと設定された。これはあくまで映画内の数え方であり、実数の裏取りはされていないと指摘されているが、それでも細かさが観客の納得を支えた。
美術/CG・彩色・撮影/音楽/主題歌/着想の源[編集]
美術は、琥珀色を“光学的に”再現するより、生活の匂いと記憶の温度に結びつける方針でまとめられた。レンの幼少期回想に出てくる[[北海道]][[小樽市]]の倉庫は、実在の観測データから平均湿度を推定し「冬の朝、床に残る反射が0.34」と脚本に記されている。
音楽は[[佐伯ユキ]]が担当し、和音の中心周波数を“はちみつ色の波長域”と称して設計したとされる。主題歌は[[藍沢マリ]]の「[[琥珀の手順]]」(2014年9月3日発売)で、サビの頭音は“蜂が巣箱に戻る速度”を音価に置き換えたという。なお、劇中では一度だけ主人公が“香りの溶剤”を調整するが、その場面の画角は異常に狭く、観客が見落とすように作られたと評された。[5]
興行[編集]
宣伝/封切り
本作は[[2014年]]10月12日の公開に合わせ、初日入場者数は7万1,482人と発表された。公式サイトでは、色調の再現に失敗した上映館が“上映用フィルター交換”のために1回だけ上映時間を5分短縮したという異例の運用も報じられており、観客の記憶に残った。
テレビ放送・ホームメディア
2016年[[3月]]、[[BSジャパン]]での放送では視聴率が5.2%を記録したとされる。さらに2017年の映像ソフト化では、レンの工房シーンだけ色が黄ばむ“DVD色調問題”がユーザー報告として拡散し、発売元は回収ではなく「視聴モード最適化」を提案した。結果としてクレームは一部にとどまったが、逆にファンが“黄ばみ”を感情の指標として楽しむ現象が起きた。
海外での公開
海外配給は[[韓国]]・[[台湾]]が先行し、配給収入の試算は国内の約0.21倍と推定された。ただし海外版では主題歌の音源が別テイクに差し替えられたため、色と歌の同期が崩れたとの批判もあった。
反響[編集]
批評
批評家の[[宮内カズミ]]は、本作を「個人史でありながら、色彩という公共インフラの物語にまで拡張している」と評した。実際、映画内でレンが“調色を共有する”場面が何度も挿入され、単なる成功譚ではないと受け取られた。
受賞/ノミネート
本作は[[蜜色照明賞]]を受賞し、さらに[[文化技術映像賞]]で最優秀美術を含む3部門にノミネートされた。売上記録としては、初動から21日間で累計動員が[[78万]]人を超え、最終的に興行収入は34億円台前半に達したとされる。
やや怪しい点として、映画の“出典”扱いのノートは、公開後に出版社から「実在の原本と照合した」とのコメントが出た一方、同年の学会報告では「照合の範囲が狭い」との指摘も掲載された。これが、物語の真実性をめぐる論争の火種となった。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 鶴岡ナオキ「『はちみつ色に、魅せられて』調色現場ノートの映画化」『映像調律研究』Vol.12 No.4, pp.41-66, 2015.
- ^ 松原雫子『はちみつ色の記憶—一人の調色技師の記録—』蜜柑出版社, 2013.
- ^ 篠原カスミ「配給が物語を温めるとき—蜂蜜映画配給の企画方針」『日本映画プロデュース年報』第8巻第2号, pp.120-139, 2016.
- ^ 宮内カズミ「個人史から公共へ:調色という視覚インフラ」『批評映像月報』Vol.31, pp.9-22, 2014.
- ^ 西宮ユリ「DVD色調問題の発生要因:ガンマ補正と観客知覚」『放送技術ジャーナル』第27巻第1号, pp.55-71, 2017.
- ^ 佐伯ユキ「主題歌に埋め込まれた時間構造」『音楽×映像研究』Vol.5 No.3, pp.88-101, 2014.
- ^ 南條オサム「“色指定”はどこまで言語化できるか」『撮影現場論叢』pp.203-219, 2015.
- ^ Kawasaki, H.『Honey Amber and the Cinema of Memory』Tokyo Visual Press, 2016.
- ^ Thornton, M. A.「On the Ethics of Color Reproduction in Animation」『Journal of Applied Film Aesthetics』Vol.19 No.2, pp.77-95, 2018.
- ^ 佐藤しづ子「視聴率と色の相関:経験則の数理モデル」『放送マーケティング研究』第3巻第1号, pp.1-19, 2019.
外部リンク
- 蜜柑スタジオ公式上映情報
- 蜂蜜映画配給 リバイバル館内告知
- 調色教会オンライン資料室
- 藍沢マリ レコーディング日誌(架空)
- 映像調律研究 アーカイブ