ぷるっぺりー
| 名称 | ぷるっぺりー |
|---|---|
| 英名 | Pulpeary |
| 分類 | 粘弾性制御工芸 |
| 起源 | 1908年頃の東京市衛生試験場 |
| 提唱者 | 牧野順三郎 |
| 主用途 | 輸送容器の安定化、祝祭用噴霧器、儀礼的保存 |
| 流行期 | 1912年-1931年 |
| 代表的地域 | 東京、横浜、神戸、札幌 |
| 関連機関 | 内務省衛生局、東京市衛生試験場 |
| 別名 | ぷる技、揺動保持法 |
ぷるっぺりー(Pulpeary)は、主にの粘弾性を段階的に調整し、震えながら保持するための、またはその技法で生成される半自立的な装置を指す語である。とりわけ末期の都市衛生政策と結びついて発展した概念として知られている[1]。
概要[編集]
ぷるっぺりーは、、、および微量のを用いて、内容物を「揺れているがこぼれにくい」状態に保つための技法として定義される。19世紀末から20世紀初頭にかけての下町で生まれたとされ、当初は薬局の試験瓶や祭礼用の提灯水盤に応用されたという[1]。
この概念は一見すると食品加工の一種に見えるが、実際にはとの境界領域に位置づけられていたとされる。とくに後の液漏れ対策として注目され、1920年代にはの一部で標準化案まで作成されたことがある。もっとも、標準化案の大半は手書きの注釈が多く、担当者が途中から「もはや味の問題ではない」と書き加えていたことが確認されている[2]。
名称の由来については諸説あり、英語の“pull”と“perry”を混ぜた造語とする説、あるいは瓶を揺らしたときの擬音「ぷるっ」と、職人の掛け声「ぺりー」を組み合わせたとする説が有力である。なお、期の雑誌『衛生と実験』には、ぷるっぺりーを「半ば芸術、半ば事故」と評する短文が掲載されている[3]。
歴史[編集]
起源と牧野順三郎[編集]
ぷるっぺりーの起源は、にで行われた「可搬液体の振動保持実験」に求められることが多い。実験主任のは、薬液をで運搬する際の揺れを減衰させる方法を求め、寒天層の中に小粒のを封入する案を提示した。これにより、瓶は外部から見ると常にぷるぷると震えているように見える一方、内部の液面は比較的安定するようになったとされる[4]。
牧野は当初、この現象を「粘性の見かけ増幅」と記していたが、同僚のが「ぷるっぺりー」と書き換えた記録が残っている。石黒はその後、試験場内で最初の「第3試験槽長」に任命されたが、これはの官庁史上きわめて異例の肩書であるとされる。もっとも、任命状の印影は一部かすれており、後年の研究者はこれを「実質的には昼番のことである」と解釈している[5]。
大正期の普及[編集]
からにかけて、ぷるっぺりーはの輸出業者を中心に広まった。とりわけの香料商との試験製菓所が協力し、香水瓶、蜜柑缶、薬用シロップの三用途に最適化された「三位一体式ぷるっぺりー」が完成したとされる。1918年にはの勧告により、海上輸送用の一部容器にぷるっぺりー的処理を施すことが奨励された[6]。
この時期の普及を支えたのが、女性職工による手作業であったという点は見逃せない。の調査では、1920年時点で関連作業に従事する者の72.4%が女性で、平均年齢は24.6歳であったとされる。彼女たちは「揺らぎの縁取り」と呼ばれる独特の撹拌法を用い、1日あたり約480本の処理をこなしたというが、数値の根拠には一部の付いた帳簿が使われている。
衰退と再評価[編集]
初期に入ると、瓶材の改良と輸送網の整備により、ぷるっぺりーは実用技術として次第に衰退した。ただし、完全に消えたわけではなく、の氷菓店やの見世物小屋では、装飾的・娯楽的な用途で存続した。特に1930年の博覧会では、直径1.8メートルの「巨大ぷるっぺりー槽」が展示され、来場者の2割が「中に小動物がいるのではないか」と誤解したという[7]。
1970年代以降は、郷土工芸やレトロデザインの文脈で再評価が進んだ。の民俗研究者は、ぷるっぺりーを「近代日本が作った最も不器用な合理化技術」と呼び、1994年の論文で再定義を試みた。また、2010年代にはを通じて復刻瓶が販売され、初回ロット3,600本が48時間で完売したとされるが、実際には購入者の半数が観賞目的であったという。
技法と構造[編集]
ぷるっぺりーの基本構造は、外層・緩衝層・遊動核の三層からなる。外層はまたは薄いで形成され、緩衝層には寒天とゼラチンを混合した半透明ゲルが用いられる。遊動核には小石、陶片、または乾燥した豆類が封入され、これが揺れた際に微細な音を発して「生きているような印象」を与えるのである。
職人の間では、ゲルの硬さを「八分ぷる」「三分ぷる」などと表現する独自の尺度が使われていた。最も高級とされたのは「満月ぷる」で、容器を水平に置いたとき、中心部が0.7秒遅れて戻る状態を指す。なお、これを実現するには湿度64%前後が必要とされ、梅雨時には成功率が11%低下するとの報告書にある[8]。
一方で、ぷるっぺりーは耐久性の面で問題があり、特にの低温下では層が分離しやすい。これを防ぐため、職人は「三度息を吹きかけてから封をする」などの儀礼的手順を採用した。科学的根拠は乏しいが、当時の利用者の満足度は高く、輸送中の破損報告は通常の容器より14%少なかったとする帳票も残る。
社会的影響[編集]
ぷるっぺりーは、単なる工芸技法を超えて、都市生活の感覚そのものに影響を与えたとされる。たとえばでは、揺れても中身が保たれることを「ぷるっぺりー的安心感」として売り文句に転用し、菓子箱や化粧品の包装デザインに波紋状の意匠が流行した。
また、においても、一部の理科教材がぷるっぺりーを模した振動模型を採用した。子どもたちはガラス器の中の液体を見て「落ち着いているのに落ち着いていない」と記述することを求められ、これは当時の作文教育における珍しい訓練であった。1932年の調査では、使用校の68校中41校で観察記録が教員の雑談に流用されていたとある[9]。
さらに、祝祭文化への影響も大きかった。やでは、ぷるっぺりーを模した揺動飾りが一部の山車に取り付けられ、夜間に提灯の光を受けて独特の震え方を見せた。これにより「見ているだけで酔う」との苦情が出る一方、商店街の売上は平均で9.3%上昇したという。
批判と論争[編集]
ぷるっぺりーはその曖昧な定義ゆえに、早くから批判の対象でもあった。とくにのは、1926年の講演で「これは技術ではなく、瓶に対する信仰である」と述べ、実用性を疑問視した。また、同時期のでは、ぷるっぺりー処理を施した瓶の内部で気泡が増加する現象が観測され、再現率はわずか37%であった[10]。
論争の核心は、ぷるっぺりーが果たして輸送技術なのか、それとも視覚演出なのかという点にあった。職人側は「揺れてなお崩れない秩序」であると主張したが、経済学者は「過剰な手間を美徳に変えた都市の自己満足」と評した。一方で、民俗学者の間では、近代化の速度に対する抵抗としてぷるっぺりーを読み解く説もあり、今日ではむしろその二面性が評価されている。
なお、1987年にで放送された特集番組『ぷるっぺりーの午後』は、視聴率0.4%ながら熱心なファンを生み、放送直後に全国から「瓶が欲しい」という問い合わせが37件寄せられた。うち2件は役所宛ての誤送信であった。
現代の継承[編集]
現在、ぷるっぺりーは実用品としてよりも、レトロ工芸および地域振興の文脈で継承されている。の一部ギャラリーでは、毎年秋に「揺動保持展」が開かれ、来場者が実際に容器を傾けてその遅れを観察する体験が人気である。2023年には来場者数が前年比18%増となり、なかでもからの観光客が目立ったという。
また、のデザイン学科では、ぷるっぺりーを「失敗を抱え込む日本近代の造形」として研究するゼミがあり、学生は3週間で1本の試作品を制作する。評価基準には見た目の美しさに加え、「振った後にどれだけ気まずそうに戻るか」が含まれるという。これは教育上の比喩として導入されたものであるが、なかには真剣に数値化しようとする学生もいる。
一部の愛好家は、ぷるっぺりーを日常的に再現するため、家庭用の小型セットを自作している。もっとも、キッチンでの製作は高確率で破損を招くため、愛好家団体は「作業台の下に新聞紙を12枚敷くこと」を推奨している。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 牧野順三郎『揺動保持法概論』東京市衛生試験場報告書, 1911.
- ^ 石黒安次『ぷるっぺりー試作瓶の構造』衛生と実験社, 1914.
- ^ 小野寺辰夫『瓶はなぜ震えるのか』日本工業学会誌 Vol. 18, No. 4, 1927, pp. 211-229.
- ^ 吉永澄子『近代都市における粘弾性の美学』民俗学研究 第42巻第3号, 1994, pp. 77-104.
- ^ Harriet M. Langford, The Anatomy of Pulpeary Containers, Journal of Applied Civic Materials Vol. 7, No. 2, 1933, pp. 58-73.
- ^ T. Endo & K. Sato, 'On the Metastable Tremor Retention', Proceedings of the Tokyo Hygiene Symposium Vol. 12, 1921, pp. 119-140.
- ^ 『ぷるっぺりー標準化案 第一稿』内務省衛生局編, 1920.
- ^ 東洋発酵研究会『寒天混合物の湿度依存性』研究紀要 第9号, 1931, pp. 14-31.
- ^ Margaret A. Thornton, 'The Civic Aesthetics of Shaking Jars', London Review of Quasi-Industrial Arts Vol. 5, No. 1, 1978, pp. 3-19.
- ^ 『ぷるっぺりーと都市文化』東京文化資料館編, 2008.
外部リンク
- 日本ぷる保存協会
- 東京市衛生試験場アーカイブ
- 揺動保持技法データベース
- 近代瓶文化研究所
- ぷるっぺりー博物館友の会