まりゅりゅん
| 分類 | 擬態語・音声コミュニケーション指標 |
|---|---|
| 対象領域 | 言語学、音声学、対人相互作用研究 |
| 主な利用文脈 | 会話評価、朗読、子どもの遊び |
| 起源仮説 | 昭和期の即興演芸と家庭内観察の合成 |
| 関連概念 | 間(ま)温度・語尾弾性・共鳴係数 |
| 研究組織 | 音声温度研究会(略称:音温研) |
まりゅりゅん(Marylryun)は、主にで口承されてきた「言葉の温度」を測るとされる擬態語である。1960年代後半に一部の音声学者が研究対象として整理し、音声コミュニケーションの簡易評価法として広まったとされる[1]。
概要[編集]
は、会話中に表出する声の「丸み」と「滑らかさ」を示す擬態語として説明されることが多い。とくに語尾の連続する震え(いわゆる「ゅ」の連打)を、話者の感情状態を反映する音響特徴として扱う点が特徴である[2]。
一方で、まりゅりゅんを“ただのかわいい言い回し”として片づける見方も存在する。ただし音声温度研究会では、まりゅりゅんが会話の協調性を左右するとする簡易指標として運用され、実験では通話品質の主観評価と比較可能だったと報告されている[3]。なお、研究者によっては「まりゅりゅん指数」を算出する独自換算表を併用したともされるが、その換算表は一般公開されていないとされる[4]。
成立と歴史[編集]
即興演芸から“家庭内計測”へ[編集]
まりゅりゅんの成立は、内で開かれた小規模寄席が起点とする説がある。1967年にの町家で常連客が即興の語尾を真似する遊びを始め、そこで生まれたとされる「音の丸め詞」が、のちにまりゅりゅんとして固定化されたという。ただし当時の記録は寄席の番付ではなく、茶の湯の道具帳に貼られた余白メモから復元されたとされ、出典の形式がそもそも揺れているという指摘がある[5]。
また音温研の内部資料によれば、遊びが家庭へ移る過程で「家庭内計測」の作法が整えられた。具体的には、家族が同じ文章を3回読み、3回目の語尾に現れた“ゅの連続”を、台所の水滴音に合わせて聴き分ける手順が考案されたとされる。さらにその基準となる水滴音の周波数は、家電の部品交換期(1969〜1970年)に家庭ごとにばらついたため、標準化の代わりに「一番やかましい雨の日」へ基準が転換された、とする奇妙な経緯が残っている[6]。
研究会による指数化と普及[編集]
1972年、の大学で音声教育に携わっていたが、授業中の“読みの快い揺れ”を学生に言語化させる目的で、擬態語を分類体系に組み込んだとされる。彼は教室の机を指で叩いた音と、学生の発声のタイミングが一致するかどうかを観察し、まりゅりゅんを「拍の回収率」に相当すると提案した[7]。
この流れは、音温研の発足(1975年)によって加速した。音温研は、まりゅりゅんを「音声温度」の一種として扱い、全18項目からなる評価表を配布したとされる。とくに注目されたのは、語尾の連続回数が“感情の放熱”に対応するという仮説である。音温研の報告書では、語尾のゅが2回のときは“低温”、3〜4回で“適温”、5回以上で“過熱”とされたという[8]。この基準は後に“言い過ぎ”を子どもに注意する道具にもなり、結果として家庭内でまりゅりゅんが頻出するようになったとされる。
通信・放送への波及と“偽まりゅりゅん”[編集]
1980年代に民間の通話サービスが普及すると、まりゅりゅんが「円滑な応答の兆候」として扱われ、窓口業務の研修に取り入れられたとされる。たとえばの一部番組制作現場では、収録前のリハーサルで、進行役が意図的にまりゅりゅん語尾を入れることで、出演者の発話開始が平均0.8秒早まったと報告されたという[9]。ただしこの数字は当時の端末ログが欠落しており、音温研の再解析により誤差が±0.6秒に膨らんだともされる。
さらに1991年、広告代理店側が「聞き手が“まりゅりゅんだ”と感じる」ことを狙って、音声編集で擬似の語尾揺れを付与する試みを行った。これが“偽まりゅりゅん”として内部で問題化し、「本物の協調性」を奪う恐れが指摘されたとされる[10]。この論点は、のちに「音は温度ではなく編集された結果である」という批判へ接続していく。
まりゅりゅんの仕組み(とされるもの)[編集]
まりゅりゅんが成立する条件として、語尾の「ゅ」が持つとされる共鳴の振る舞いが挙げられる。音温研では、共鳴係数を算出する簡便法として「部屋の角度」「話者の姿勢」「息継ぎ位置」を同時にメモすることを推奨した[11]。もっとも、実験参加者が“どの角度で読めばよいか”迷った場合、代わりに「右膝の上に鉛筆を置いたときの呼気の収まり」を基準にしたとされるため、手法は実務的だが再現性に揺れが出たとされる[12]。
評価の実務では、まりゅりゅんを含む発話を録音し、聞き手が“もふもふ度”を0〜100のスケールで付与する。報告書では、もふもふ度と快適度がr=0.74で相関したとされるが、その相関が得られた対象は「研修帰りの若手窓口担当者44名」に限定されている[13]。この人数設定の根拠は、当時の会場定員がたまたま44だったためだという、いかにも研究らしくない説明が残っているとされる。
また「間(ま)温度」と呼ばれる概念も導入された。これは、まりゅりゅん語尾の直前に置かれた無音区間の長さを、心拍の揺らぎに対応させようとしたものである。ただし、心拍データの取得機器が入手困難だったため、代替として会話相手の瞬き回数を数えたともされる[14]。この点は“科学の皮を被った観察”として後年批判され、研究倫理委員会で議論された。
社会的影響[編集]
まりゅりゅんは、対人コミュニケーションを「説明しやすい擬態語」に翻訳した点で、教育と現場に一定の影響を与えたとされる。たとえばの中学校では、国語の朗読授業で「まりゅりゅん語尾が出るまで3回言い直す」課題が行われたという報告がある[15]。この課題は、言い換えの試行回数が増えることで思考整理が進むとして肯定された。
一方、現場では“まりゅりゅんの有無”が評価に直結することで、表現の個性が削がれる懸念も出た。とくにコールセンターでは、応答が不自然になるとクレームにつながるため、まりゅりゅんを入れるタイミングがマニュアル化された結果、感情表出が画一化したとする声があった[16]。
なお、まりゅりゅんが流行語のように扱われた時期には、地方自治体の広報でも見出しに採用されたとされる。たとえばの一自治体では、除雪車出動の告知を「除雪まりゅりゅん、まもなく開始」と表現したところ、住民が“擬音が来る=注意報が来る”と学習したという逸話が残る[17]。この逸話は面白い一方、災害情報のわかりやすさと情緒表現の境界が問われる契機にもなったと考えられている。
批判と論争[編集]
まりゅりゅん研究は、統計的な頑健性よりも観察の工夫に依存しているとして批判されることがある。音温研の主要な根拠データが、特定の会場・特定の話者・特定の録音条件に偏っている点が問題視されたとされる[18]。また“偽まりゅりゅん”に関する議論では、音声編集が協調性を生むのではなく“協調性の錯覚を売る”ことになり得る、という指摘が出た[10]。
さらに、まりゅりゅんの語尾回数(ゅの回数)を感情指標として扱うことに対し、「感情はそんなに離散的ではない」という反論がある。ある批評家は、音温研の分類がたまたま被験者の読み癖に依存しただけであると主張した[19]。なお反論文献の末尾には、編集作業の都合で“ゅ回数”の表記が一度だけズレていると指摘されており、真偽は不明であるが論争を一層ややこしくしたという[20]。
こうした論争にもかかわらず、まりゅりゅんは「言語の感覚」を共有するための道具として残った。結論として、まりゅりゅんが科学的指標としての完成度を持つかどうかは別として、会話の観察を“言葉にして扱える”形へ落とし込む役割は確かだったと総括されることが多い[21]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『音声温度の簡易測定法:まりゅりゅん語尾の扱い』音声温度研究会, 1978年.
- ^ 佐伯玲子『擬態語が指標になる瞬間—口承から指数化へ』第◯巻第◯号(架空), 1981年.
- ^ M. A. Thornton『Pseudo-Idiom Resonance in Japanese Utterances』Journal of Conversational Acoustics, Vol.12 No.3, 1984.
- ^ 田中岑一『家庭内計測のレトリック:雨の日標準化の事例報告』言語観察紀要, 第5巻第2号, 1973年.
- ^ K. Müller『The “Soft Tremor” Heuristic and Its Alleged Emotional Correlates』International Review of Phonetic Practice, Vol.7, 1987.
- ^ 山本しおり『放送現場のリハーサル効果と語尾揺れ:平均0.8秒の再検証』放送技術研究, 第9巻第1号, 1992年.
- ^ 鈴木勝弘『偽まりゅりゅん論争:音声編集と協調性の錯覚』人文技術批評, 第3巻第4号, 1995年.
- ^ International Committee for Audio Semantics『Guidelines for Idiomatic Metrics in Public Messaging』Proceedings of the 1998 Symposium, pp.101-119, 1998.
- ^ 小林真琴『もふもふ度スケールの作り方:相関r=0.74の条件』教育心理音響学会誌, Vol.4 No.2, 2001年.
- ^ A. Gruber『When Silence Becomes Evidence: Ma-Temperature and Blink Substitutions』Journal of Non-Deterministic Measures, Vol.1 No.1, 2004.
外部リンク
- 音声温度研究会 公式アーカイブ
- 擬態語実験データ倉庫(閲覧申請制)
- 会話観察ノート編集部
- 放送リハーサル効果記録館
- 偽まりゅりゅん対策ガイド(改訂版)