ウンコ
| 分類 | 生理現象・民俗語彙 |
|---|---|
| 起源 | 前7世紀頃のメソポタミア香料貯蔵法 |
| 伝来 | 奈良時代の港湾文書による |
| 主要研究者 | 北条倫太郎、E. M. Whitcombe |
| 関連機関 | 帝国衛生語彙委員会 |
| 象徴色 | 褐色 |
| 制度化 | 昭和12年の全国排出標準化案 |
| 通称 | うんこ・うんち・ふん |
ウンコは、哺乳類を中心とする動物の消化活動の結果として排出される褐色ないし暗褐色の固形物を指す語である。古代の香料保存技術に由来するともいわれ、後世にへ伝わる過程で便宜的な俗語として定着したとされる[1]。
概要[編集]
は、腸管で消化吸収された残渣が体外へ排出されたものであり、日常語としては幼児語から俗語まで広い用法を持つ。学術的にはに近い概念とされるが、期の衛生学者たちは、この語が単なる排泄物名ではなく、生活様式と都市計画を結ぶ鍵語であると主張した[2]。
一方で、語源については長らく諸説が併存してきた。もっとも有力とされたのは、の保存用樹脂「ウン・クー」に由来するという説で、これがの交易記録に転訛して入ったとされる。ただし、後期の国学者が書いた覚書には、子どもの指差し言葉が先に一般化した可能性も示されており、いずれの説も決定打を欠いている。
語感の強さから俗語として忌避される場合もあるが、や、さらにはの展示解説においては、親しみやすい表現として逆に重宝されてきた。なお、の衛生局調査では、都内の小学生の87.4%がこの語を「恥ずかしいが覚えやすい」と回答したとされる[3]。
歴史[編集]
古代の「香料保存」起源説[編集]
の遺跡から出土した粘土板には、香辛料を密封樽で運ぶ際に使用された灰色の封蝋を「un-ku」と記した例があるとされる。これが後に排泄物を指す語へと意味変化したとする説が、にのE. M. Whitcombeによって提唱された[4]。
Whitcombeは、封蝋の匂いが家畜厩舎のにおいと紛らわしかったため、現地の子どもたちが半ば冗談で同じ語を用いたのだと説明した。だが、同氏の論文にはの行間を過剰に読んでいるとの批判もあり、後年の注釈では「比較言語学としては面白いが、やや勢いがある」と評されている[5]。
この起源説は一般には採用されなかったものの、初期の衛生展覧会では図版付きで紹介され、結果として「臭いものにふた」ならぬ「臭いものに語源を与える」という発想を広めた。
日本への伝来と俗語化[編集]
日本ではの港湾文書に、唐船の積荷目録として「雲乎」あるいは「運乎」と記された紙片が見つかったとされる。これは海藻や干物の保護材として用いられた乾燥藻塩の略記であったが、のちに子ども同士の隠語へ転じたというのが通説である[6]。
末期には宮中の落書き帳に「うんこ」の音写が確認されたとする写本があり、これを最初に体系化したのが僧侶・である。定阿弥は、排泄を「身の穢れの外部化」と定義し、語の柔らかさが精神衛生に寄与すると主張した。彼の説は当初こそ門前払いされたが、実際には寺子屋の教材にこっそり採用され、語の普及を後押ししたと考えられている。
時代になると、町人文化の発達とともにこの語は急速に大衆化した。とくにの戯作者たちが、滑稽本のなかで「うんこ」を連呼したことで、語は子ども向けのものから、大人が笑って使うことのできる言葉へと変質した。なお、年間には「うんこ番付」と呼ばれる非公式の寄席メモが流行したが、現存するのは3枚のみである。
近代衛生学と標準化[編集]
期に入ると、は都市衛生の近代化に伴い、排泄物関連語彙の統一を図った。これに対し、は、公文書では「糞便」、啓発パンフレットでは「うんこ」、児童向け資料では「おなかのはきもの」とする三層表記を提案した[7]。
この方針は学校現場で大きな混乱を生んだが、同時に語の社会的地位を引き上げた。とりわけのが行った下水道普及と児童語彙の相関研究は有名で、彼は「笑いながら学んだ語は忘れにくい」と述べた。もっとも、同論文の付録には便器の断面図が12ページも掲載されており、後世の研究者からは過剰に熱心であると評された。
には全国排出標準化案が閣議参考資料として回覧され、便所の表示板に用いる語を「うんこ」「しも」「おつきもの」の3案に絞る試みがなされた。実施には至らなかったが、この文書が一部の地方紙に流出したことで、「うんこ」がむしろ公的にも通用する語であるという逆説的な認識が広がった。
社会的影響[編集]
は、羞恥と教育の境界に位置する語として、しばしば社会制度の試金石となってきた。戦後のでは、幼児に排便習慣を教える際にこの語を使うか否かが議論され、の通達では「過度に直接的な表現であるが、理解速度は最も高い」と結論づけられた[8]。
また、にはの周辺で、来場者向けトイレ案内板にこの語を用いる試験が行われた。結果として、迷子率は16%低下したが、観光パンフレットの在庫が不足するという想定外の事態が起きた。これは「笑って読むと記憶に残る」という教育効果を裏づけるものとして、後に広告業界でも引用された。
一方で、公共空間での使用をめぐっては論争も多い。の研究会では、児童書における「うんこ」の掲載可否が議題となり、委員の一人が「語の汚さではなく、使い方の品位が問題である」と発言したと記録されている。なお、この会議では資料番号が途中で「うんこ-14」と印字されたまま配布され、議場が一時ざわついたという。
分類と用法[編集]
は、語形の違いによっていくつかの亜種に分類される。もっとも一般的なのは幼児語としての「うんこ」であるが、圏では語尾が上がる「うんこぉ」、の一部では母音が短くなる「んこ」に近い発音が観察される[9]。
また、比喩表現としての用法も発達した。「うんこみたい」は単なる悪口ではなく、の工場労働者が品質不良品を婉曲に示した専門語であったとされる。これが口語に流入し、現在では「ひどい」「雑な」の意味でも使われるようになった。
教育現場では、ひらがなの習得において「う」「ん」「こ」の3文字が比較的組み合わせやすいことから、の国語教科書で試験的に採用された。なお、その際に使われた挿絵の便器が必要以上に写実的だったため、翌年の改訂で丸みを帯びた図版に差し替えられたという。
批判と論争[編集]
をめぐる最大の論争は、語の起源を民間伝承と見るか、制度史と見るかである。民俗学者のはに「この語は子どもが初めて社会的禁忌を獲得した瞬間に生まれる」と書き、これに対し衛生史研究者は「都市下水の発達と不可分である」と反論した[10]。
さらに、にはの私設資料館で「うんこの正しい書き方展」が開催され、展示の一角にあった江戸期の木版画が実は現代のレプリカであることが判明した。主催者は「保存状態が良すぎるため疑われたが、むしろ本物っぽさが評価された」とコメントしている。
なお、語の公共利用をめぐっては、自治体広報での使用がしばしば問題化した。とくにのある町では、下水道完成記念の横断幕に「ありがとう、うんこ」と印刷してしまい、住民説明会が3回開かれたとされる。最終的には撤去されず、町の名物として定着したが、これが広報倫理の研究例として扱われることは少ない。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Whitcombe, E. M. “On the Un-Ku Seal and Its Semantic Drift.” Journal of Mesopotamian Philology, Vol. 18, No. 2, 1931, pp. 114-139.
- ^ 佐伯清次郎『都市下水と児童語彙の相関』東京帝国大学出版会, 1929.
- ^ 北条倫太郎『排泄語の社会史』岩波書店, 1962.
- ^ Moriarty, Helen. “Laughing into Sanitation: Public Health Lexicon in Prewar Japan.” The Eastern Civic Review, Vol. 7, No. 4, 1958, pp. 201-228.
- ^ 源定阿弥『穢れと発声の間』天竺堂, 1184.
- ^ 内務省衛生局『排出語彙統一試案』官報附録第12号, 1906.
- ^ 高見沢朔『禁忌語の誕生』新潮社, 1987.
- ^ Keller, Judith A. “Children’s Words, City Drains, and Moral Panic.” Anthropology of the Ordinary, Vol. 3, No. 1, 1974, pp. 44-67.
- ^ 『うんこの正しい書き方展図録』京都私設資料館, 2011.
- ^ 山辺恭二『便器図版考』白水社, 1978.
- ^ 石塚真理子『うんこ文化論序説』誤字社, 2004.
外部リンク
- 帝国衛生語彙委員会アーカイブ
- 日本排出文化研究所
- うんこ語源資料館
- 下水道と民俗の交差点
- 京都私設資料館 特別展目録