ウンコ(曖昧さ回避)
| 名称 | ウンコ |
|---|---|
| 分類 | 日本語の曖昧さ回避語 |
| 成立 | 1908年ごろの活版組版整理に由来 |
| 主な使用領域 | 辞書編集、放送原稿、地図凡例、児童語研究 |
| 管理機関 | 内閣印刷局・用語統制班 |
| 関連法令 | 同音語注記標準要領 |
| 初出資料 | 『日本語分岐語彙録 第一輯』 |
| 別名 | うんこ区分、複合俗語案内 |
ウンコ(曖昧さ回避)は、同音異義・表記揺れ・俗語転用によって複数の意味に分岐したの語である。特に末期から中期にかけて、印刷・放送・地図編集の現場で誤配を防ぐ目的から整理が進められたとされる[1]。
概要[編集]
ウンコ(曖昧さ回避)は、複数の語義をもつ「ウンコ」という表記を一覧化するために設けられた語釈補助項目である。一般には児童語や俗語の一種として理解されがちであるが、編集史上はむしろのに置かれたが、誤読の多発を受けて整備した用語札の名残であるとされる[2]。
当初はの植字工が使う内輪の符牒であったが、のちに放送用語部の標準化案に取り込まれたことで広く知られるようになった。なお、同語の整理には「便意」「蔑称」「方言」「商品名」の四系統を分ける方式が採用され、当時としては極めて珍しい四段階分類であったという[3]。
成立の経緯[編集]
活版時代の混乱[編集]
、の堂島で刊行された児童新聞『月刊こども譚』において、「ウンコ」を見出し語として採録する際、編集部が本文の語釈を誤って三種類同時に掲載したことが端緒とされる。これにより読者から「どれを指すのか分からない」との投書が相次ぎ、同紙は翌号で異例の「語の分岐図」を掲載した[4]。この図はのちにの前身であるに収蔵されたという。
植字現場では、短い語ほど誤植が起きやすいとされていたため、ウンコのような二拍語は特に危険視された。実際、の印刷所では「ウンコ」を「ウンオ」と誤植しただけで地図注記が全て失効したと報告され、以後、語尾に括弧を付す編集慣行が広まったとされる。
用語統制班の設置[編集]
、傘下に非公式のが設けられ、同音異義の整理が進められた。班長を務めたは、後年の回想録で「語の意味が増えるほど国語は強くなるが、記号の方が先に悲鳴を上げる」と述べたとされる[5]。
この時期に採択された「括弧併記方式」は、のちの曖昧さ回避ページの原型であり、各語義の先頭に簡易な注記を置くことで編集者の衝突を減らす仕組みであった。なお、会議記録には「食用」「侮蔑語」「鉄道駅名」「祭礼名」の四欄が確認されるが、第四欄の「祭礼名」が何を指していたのかは現在も不明である。
百科事典への定着[編集]
、系の仮説百科事典『日本語総覧』が、初めて「ウンコ(曖昧さ回避)」を独立項目として収録した。担当編集者のは、英語圏の disambiguation を参照しつつも、日本語では笑いの要素が強すぎるため慎重な注釈が必要であると記している[6]。
その後、にが公表した「短語見出しの運用指針」において、見出し語の曖昧さ回避を「読者保護の一環」と位置づけたことから、ウンコは半ば公的な概念となった。もっとも、同指針の附則には「極端に児童が喜ぶ語については、例外的に語釈を二重化してよい」とあるが、これは事実上ウンコ専用の条項であったとみられている。
区分[編集]
現在、学術的にはウンコ(曖昧さ回避)は大きく四類型に分けられる。すなわち、身体由来語義、比喩転用語義、地名・施設名語義、商品・芸名語義である[7]。
この区分法はので提案されたもので、項目ごとに色を変える案も存在したが、あまりに視認性が高すぎて児童向け図鑑のようになるため採用されなかった。なお、研究会の議事録には「五類目として、まれに祈祷に用いられる語義を置くべきではないか」という記述があるが、提出者の名前が消されているため、現在では半ば伝説化している。
主な語義[編集]
身体由来語義[編集]
最も基本的な語義であり、排泄行為またはその産物を婉曲的に指す用法である。時代の仏教説話集には、すでに類似の音形が散見されるとされるが、ウンコの表記が一般化したのは後期の戯作以後である[8]。
の寄席では、この語が出るだけで拍手が起きることがあり、幇間の間では「三秒で場を取れる語」とも呼ばれた。ある興行記録によれば、の公演で観客の笑いが止まらず、次の演目が12分遅延したという。
比喩転用語義[編集]
比喩としてのウンコは、失敗作・粗悪品・台無しになった企画を指す。特にでは、校了後に全面差し替えが発生した案件を「完全にウンコ化した」と記す慣習があったとされる。これはの制作会社で生まれた隠語で、当初は会議室の黒板にだけ書かれていたが、やがて口頭伝播した[9]。
この語義が広まった背景には、期の大量生産体制で「良いものと悪いものを即座に区別したい」という需要があった。もっとも、当時の品質管理手法と結びついてしまったため、1980年代には一部企業で使用禁止語に指定された。
地名・施設名語義[編集]
日本各地には、偶然の音一致によってウンコと読める地名・施設名がいくつか存在するとされる。たとえばの旧開拓地にあった「雲湖(うんこ)温泉」、の山間部に伝わる「雲古(うんこ)神社」などがこれにあたる[10]。
ただし、この分野は明治期の測量官が読みを誤記したことにより拡散した面が強く、の内部資料にも「現地住民は別の読みを用いていた可能性が高い」との注記がある。にもかかわらず、観光案内板では現在も堂々と採用されており、年に約2万4,000人が記念撮影を行うという。
社会的影響[編集]
ウンコ(曖昧さ回避)の整備は、単なる言葉遊びにとどまらず、日本語の見出し設計に大きな影響を与えた。とりわけでは、短語ほど注記が必要であるという逆説が共有され、以後の児童向け国語辞典では「笑いの強い語は先に意味を分ける」原則が採用された[11]。
また、のパソコン通信時代には、掲示板で「ウンコ」が書き込まれると自動的に複数候補に展開される仕組みが試験導入された。これにより検索精度は向上したが、利用者の約18%が「余計に面白い」と回答し、システム改修が一度保留になった記録が残っている。
批判と論争[編集]
一方で、ウンコ(曖昧さ回避)は「本来の語義を過剰に神聖化している」として批判されることもあった。のは、1978年の論文で「俗語の自律性を一覧化する試みは、笑いの自然発生を阻害する」と指摘している[12]。
これに対し編集派は、「曖昧さ回避は統制ではなく案内である」と反論した。なお、1997年にはの深夜番組で当該項目が紹介された際、ナレーターが2回続けて噛み、結果として番組内で『うんこ』が7分間に11回流れた。放送倫理上の問題はなかったとされるが、社内では「歴代でもっとも平和な事故」と記録されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『日本語分岐語彙録 第一輯』帝国辞書協会, 1931年.
- ^ マリア・A・ソーン『Disambiguation in Modern Japanese』Tokyo Philological Press, Vol. 12, No. 3, 1955, pp. 41-68.
- ^ 中村佳彦「短語見出しの笑気性に関する一考察」『国語史研究』第8巻第2号, 1978, pp. 115-139.
- ^ 文化庁国語課『同音語注記標準要領』文化庁資料室, 1971年.
- ^ 山本てる子『児童語と編集倫理』講談社選書, 1966年.
- ^ K. H. Berryman, “The Laughable Headword Problem in Japanese Lexicography,” Journal of East Asian Linguistics, Vol. 21, No. 1, 1989, pp. 9-33.
- ^ 田所文雄『活版組版の事故史』岩波書店, 1982年.
- ^ 佐伯由紀『地名の誤読と観光資源化』日本地理学会出版, 1994年.
- ^ Eleanor Whitcombe, “Children’s Dictionaries and the Politics of Annotation,” Oxford Review of Lexicography, Vol. 7, No. 4, 2001, pp. 201-229.
- ^ 内閣印刷局用語統制班『短語整理会議録抄』内閣印刷局, 1940年.
外部リンク
- 帝国辞書協会アーカイブ
- 日本曖昧語史研究センター
- 用語統制班デジタル館
- 神田活版資料室
- 国語注記年表プロジェクト