エクストリーム謝罪
(えくすとりーむしゃざい)とは、謝罪を“限界まで演出”する和製英語のネット用語であり、謝罪を行う人をと呼ぶ[1]。
概要[編集]
は、インターネット上で拡散される謝罪文化の一種であるとされる。インターネットの発達に伴い、謝ること自体だけでなく、どのように謝るか(時間・労力・演出・視覚効果)までが“作品”のように消費されるようになった点が特徴である。
この用語は、配信者文化と匿名掲示板の作法が交差した場で、2009年ごろから「謝罪を拡張していく遊び」として冗談半分に流通したといわれる。なお、明確な定義は確立されておらず、程度の線引きが議論され続けている点も、サブカルチャーとしての生存力を支えていると見られている。
定義[編集]
は、謝罪の表明に加えて、(1)謝罪の“物量”(手書き量、撮影回数、字幕の密度など)、(2)謝罪の“時間”(投稿までの待機時間、謝罪文の長さ)、(3)謝罪の“技術”(編集、擬音、衣装、BGM、間の演出)を段階的に上乗せしていく行為を指すとされる。
また、謝罪を行う人をと呼ぶのは、謝罪文の語尾が一定のテンプレに寄っていくことから、いつしか「謝るヤー(〜する人)」という方言風の誇張が結びついたためと説明されている。さらに、謝罪動画や謝罪スレッドでは、コメント欄に「測定可能性(何分何秒・何行・何枚)」の要求が現れやすく、その結果“謝罪の計量”がローカルルール化したとされる[2]。
明確な定義は確立されておらず、たとえば「反省の深さ」より「演出の強度」が先に問われる場合は、エクストリーム謝罪として扱われやすいとされる。一方で、単なる長文謝罪は“拡張不足”として敬遠されることもある。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、2007年にの一角で開催された即売イベント「微反省選手権」だとする説がある。そこでは、紙の申し訳なさを“折り回数”で競うという奇妙なルールが採用され、折り目が37回を超えると審査員が涙目になるという演出が“勝ち筋”になったとされる[3]。
この流れが、のちに携帯動画掲示板へ移植された際、「折り回数」に相当する指標が“カット数”へ置換された。そのため初期のは、顔出しよりも編集技術を誇示しがちだったとされる。なお、この時期の用語は「エク謝(えくしゃ)」と略され、板ごとに語尾が揺れていたという証言もある。
年代別の発展[編集]
2010年ごろには、匿名画像掲示板で「謝罪にBGMをつけると誤解が減るのでは」という議論が盛んになり、短尺動画のテンプレが量産された。特に周辺の撮影スポットを自粛し“謝罪の背景を無地にする”文化が一度流行し、翌年には背景は無地ではなく「謝罪の舞台感」が必要だとして、薄い市松模様の壁紙が再評価された。
2014年には、謝罪文の“分量”を数値化する草案が回覧され、謝罪投稿前の待機時間が平均してに収束したとする集計が出回った。ただし、この統計は後に捏造の疑いが持たれ、いつしか「時間は真面目さの代用品ではない」として反省モードの派生語が増えた。
さらに2018年以降は、配信プラットフォームの普及により、謝罪が“視聴体験”へ組み込まれた。謝罪リクエストを受けると、エク謝ヤーが画面の端から端へ移動しながら謝る「左右謝罪」などのスタイルが確立し、明確な定義は確立されていないものの、一定の様式美が共有されるようになった。
インターネット普及後の変質[編集]
インターネットの発達に伴い、は当事者の誠実さよりも“コンテンツとしての出来”が評価されやすくなったとされる。その結果、謝罪は一時的な鎮火行動ではなく、フォロワー向けの定期企画として固定化されるケースが現れた。
2020年代には、謝罪が炎上鎮静の定石として扱われる一方で、過剰演出による逆効果も観測された。たとえば、謝罪動画が長尺化しすぎると、視聴者側の疲労が増して「謝罪の熱量を消費するだけ」になり、当事者と受け手の温度差が拡大するという指摘が出た[4]。
一方で、緻密な編集や手描き文字を伴う謝罪は、アート制作の延長として肯定的に受け止められる場合もあり、は“炎上対応師”から“表現者”へと呼称が寄っていった。
特性・分類[編集]
は、演出要素を軸に複数の分類が試みられてきたとされる。もっとも単純なのは、謝罪の強度を「文章量」「撮影量」「編集量」「参加人数(他者の追謝)」に分ける方法である。
文章量型では、謝罪文がの範囲に収まり、1文ごとに改行が入るスタイルが多い。撮影量型では、謝罪者が同じ場所で“謝り続ける秒数”を競う傾向があり、特定の床タイル(白×灰の千鳥)を背景にすると視聴者が「場所の統一感」を評価しやすいという俗説がある。
編集量型では、謝罪の開始前に“無音カウントダウン”を入れることが流行した。なお、この文化の一部では、謝罪のクライマックスに「字幕だけで泣ける」技術が求められたとされ、テキストアニメーションの研究がミームとして広がった。
参加人数型では、第三者がコメント欄で追謝し“謝罪の連鎖”が発生する。明確な定義は確立されていないものの、連鎖の規模が急拡大したケースでは、謝罪ではなく「共同制作」と見なされることもある。
日本における〇〇[編集]
日本では、が“サブカルとしての自己演出”に結びつきやすいとされる。特にや動画投稿サイトのタイムライン文化では、謝罪もまた短時間で理解可能な形式へ圧縮される必要があり、その圧縮が逆に演出の強度へ拍車をかけた。
代表的なスタイルとして、謝罪者がで立ち止まり、改札音だけを残して背景を消す「無音駅謝罪」が挙げられる。これにより、周囲の雑音が抑えられた分、謝罪文の文字サイズが強調される。そのため視聴者は、謝罪文を“掲示物”として読みやすくなったとする声がある。
一方で、謝罪が“テンプレ”化するにつれて、反省の質よりもデザインの良し悪しが論じられる場面も増えた。ここでは、誤字脱字の数が謝罪の誠実度を示すかのように扱われ、「誤字は意志」などと過激な比喩が飛び交ったとされる[5]。
世界各国での展開[編集]
世界各国での展開は、翻訳とプラットフォーム差によって特徴が変わるとされる。英語圏ではが直訳で広まりつつも、単語が長いことから「E-Appology(イー・アポロジー)」という別名が並走したとされる。
韓国では、謝罪動画の字幕速度が評価基準として言及され、平均字幕速度が“読みやすい誠実さ”として拡散された。ただし、これは後に字幕支援ツールの設定値と一致しているとして指摘され、誠実さの指標が技術に置換されているのではないかという議論が起きた。
欧州では、謝罪がストリートアートと結びつき、での壁面文字が“謝罪の展示”として扱われた例がある。なお、この種の行為は地域によっては許容されず、公共スペースでの無断掲示が問題視されたとされる。
明確な定義は確立されていないものの、各国で共通して観測されるのは、謝罪が当事者の沈静化手段であると同時に、視聴者にとっての“鑑賞対象”にもなり得る点である。
〇〇を取り巻く問題(著作権/表現規制)[編集]
を取り巻く問題として、まず著作権が挙げられる。謝罪動画にはBGMや効果音、既存テンプレの字幕素材が用いられることが多く、第三者素材の再利用が謝罪の“演出コスト”を下げる一方で、権利関係の曖昧さを招いたとされる。
また、表現規制の観点では、謝罪が過激な演出(自己否定表現、身体的ギャグの強調、露骨な感情の圧縮)へ寄ると、プラットフォームのガイドラインに抵触する場合がある。実際に、ある国では“謝罪のための自傷風演出”が一度リポート集中を受け、短期間で削除が相次いだとされる。
著作権管理だけでなく、プライバシーも論点となる。謝罪の背景に個人の住居や商店のロゴが写り込むことで、当事者の意図しない二次被害が発生した事例が挙げられた。さらに、明確な定義は確立されておらず「どこまでが謝罪表現で、どこからが権利侵害か」の判断が難しくなると指摘されている。
このように、は“言葉の誠実さ”をめぐる表現文化である一方、資産(音源・素材・映像)の取り扱いが足かせになる局面があるとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯瑠璃『謝罪はコンテンツになるのか—エク謝の社会学—』青空出版, 2021.
- ^ Dr. Margaret A. Thornton「Network Apologies and the Performance Economy」『Journal of Digital Social Life』Vol.12 No.3, 2019, pp.41-67.
- ^ 中村眞琴『炎上後の演出学:長文より編集』東京理鏡学術出版, 2018.
- ^ Fujii Kōta「A Typology of Over-Apologizing in Online Communities」『International Review of Meme Studies』Vol.5 No.1, 2020, pp.9-33.
- ^ 【要出典】田端真白『サブカル謝罪語辞典』紙魚社, 2016.
- ^ Lina Petrov「字幕速度と共感反応:謝罪動画の読みやすさ」『Media Psychology in Practice』第7巻第2号, 2022, pp.88-102.
- ^ 鈴木海斗『エフェクトで謝る:効果音使用の境界線』関西メディア研究所, 2023.
- ^ Owen Whitaker「Extreme Apology as Soft Power」『Comparative Internet Governance』Vol.9 No.4, 2021, pp.120-145.
- ^ 山際シオ『無音駅謝罪と背景設計』幻影大学出版部, 2017.
- ^ 星野ユイ『自己否定表現のガイドライン適用事例』第2版, 法律文化叢書, 2020.
外部リンク
- エク謝アーカイブ
- 謝罪テンプレ倉庫
- 字幕アート研究会
- 炎上鎮静カタログ
- ミーム編集アトラス