エンディングが1億通りあるゲーム
| タイトル | 『エンディングが1億通りあるゲーム』 |
|---|---|
| ジャンル | 分岐型サスペンス(ゲーム×物語) |
| 作者 | 縫月リョウ |
| 出版社 | 幻影出版社 |
| 掲載誌 | 週刊オカルト・スコープ |
| レーベル | 幻影コミックス・コア |
| 連載期間 | 2016年10月〜2023年3月 |
| 巻数 | 全19巻 |
| 話数 | 全186話 |
『エンディングが1億通りあるゲーム』(よみはえんでぃんぐがいちおくとおりあるげーむ)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『エンディングが1億通りあるゲーム』は、物語が分岐し続ける“ゲームのログ”を漫画として再構成する形式で知られる作品である。主人公が選択したはずの行動が、別の巻・別の回で「違う選択」として回収されるため、読者は読むたびに同じ結末に辿り着けないという体験を強いられるとして喧伝された[1]。
本作は単なる分岐表現にとどまらず、紙面上の注釈(判定条件や乱数の説明)までを物語の一部として扱う点に特徴がある。編集部が“ページめくり”を「入力」と見なしたことから、連載当初より「最終回が一億通り」という宣伝文句が社会的に独り歩きし、のちに作品史の中心概念として定着したとされる[2]。
制作背景[編集]
本作の着想は、作者の縫月リョウが在籍していた大学の図書館で発見されたとされる「乱数札綴り」に起因する、と作者本人のインタビュー記録に残っている[3]。乱数札綴りは、当時の学生課が館内迷子対策として導入した仕組みで、選んだ札により“次に渡すべき返却場所”が変わる設計だったとされる。
この仕組みが作者の中で「物語の地図」へ転換され、漫画制作では、1話ごとに条件判定を行う“判定表”が下書き段階で作られた。特に、登場人物が立ち止まった回数(作中の足音演出)を乱数の種として換算する試みは、制作スタッフの間で「1億通り算術」と呼ばれたという[4]。
なお、連載開始の2016年当時、漫画誌業界では付録やWeb連動が活発化しており、幻影出版社は『週刊オカルト・スコープ』上で“読み方による分岐”を取り込む構想を掲げていたとされる[5]。ただし編集側の都合で完全な全分岐を物理的に回収できない回もあり、その不足を補うために「後日回収」ルールが作中ルールとして組み込まれた点は、後の読者論争を生むことになった[6]。
あらすじ[編集]
本作は基本的に「ログが積み上がっていく」構造で進行し、読了順や巻番号により回収される因子が変化する。作者はこれを“宇宙の並列ではなく、紙の中の並列”と表現したとされる[7]。
また、作中の出来事は「登場する“ゲーム名”」ごとに区切られており、各編で登場人物の関係が再定義される。以下では便宜上、判定表により最も多く参照される流れとして〇〇編を整理する。
制作背景(〇〇編)[編集]
制作背景(サブセクション)[編集]
あらすじ(〇〇編ごと)[編集]
(第1編)『初期化の夜道』:主人公・九十九(つくも)ケイは、雨のにある古書店で“未読のログ”入りカセットを拾う。店主は「結末は1億通りあるが、君が覚えているのは最初の1通りだけだ」と告げる。九十九は帰宅後、テレビの砂嵐が1秒ごとに“Yes/No”へ変換される現象を目撃し、その瞬間の選択が以後の分岐を固定するとされた[8]。
(第2編)『残響チケット』:九十九は学校の図書委員会に呼ばれ、そこで“貸出カードの返却印”が乱数の種になる規則を聞かされる。ここで作者は、返却印が押された位置を座標(X:0〜9、Y:0〜9)に換算し、合計100通り×各週の曜日因子(7通り)で700通りへ増幅する計算を、あえて脚注として提示する。作中でこの注釈が読まれたか否かでも結果が分岐するとされ、読者の間で「脚注も読め」という指示が一種の合言葉になった[9]。
(第3編)『一億分の一の告白』:九十九の友人・月守(つきもり)アカリは、告白の文言を“3文字だけ欠落させる”手順で成功率を上げようとする。しかし欠落した3文字が、別の編では重要語として回収される。月守は「私はあなたを選んだつもりなのに、あなたは私を“選ばなかった選択”に入っている」と嘆き、選択の自意識が破綻していく様子が描かれる[10]。
(第4編)『分岐の葬列』:終盤に向けて、物語は“全分岐を統合する装置”の存在を示唆し、の廃研究所跡(作中では「第七記憶区画」と呼ばれる)へ向かう。そこで明かされるのは、1億通りとは「可能性の数」ではなく「回収されなかったログの滞留量」だという解釈である。読者の感想欄では、ここを境に“1億通り”の意味が反転したと評されることが多かった[11]。
登場人物[編集]
九十九ケイ:主人公。選択の瞬間にだけ現れる“透明な分岐線”を見られるとされる。初登場回で彼が雨の匂いを「指数3.2」と表現したことが、後に判定表のキーとして参照される点が、編集メモで“最初期因子”と記録されている[12]。
月守アカリ:九十九の同級生。告白シーンで手順を暗記しているが、暗記の方法自体が分岐条件になる。彼女はしばしば「正しい結末」を求めるのではなく、「正しい読み」を求めるため、物語の文法が揺らぐ装置のように働くとされる[13]。
古書店の店主・六角(ろっかく)シオリ:カセットを渡す人物。台詞が毎回1文字違う形で描かれることがあり、読者によっては“同一人物ではない”と推測された。一方で編集部は「六角は声を変えているのではなく、読み順で聞こえ方が変わる」と説明したとされる[14]。
用語・世界観[編集]
1億通り:作中で繰り返し参照される概念である。一般には「全ての選択肢の数」を指すと理解されるが、本作では“回収不能なログの滞留分”まで含めて数え上げるとされる。作中の理屈としては、各編で発生する判定点が平均24箇所、各判定は平均約12通りに枝分かれすると仮定し、24×12×約3.0で約1億通りへ到達する計算が提示された[15]。なお、この計算が作中で一度も同じ形で再掲されないため、読者が“どれが正解の式か”を巡って議論した。
判定表:漫画の裏で動いているとされる“編集可能な運命表”。物語中では紙面の端に小さく描かれるが、読者が見落とすことで別の分岐になる、と描写される。この設定により、SNSでは「判定表を拡大して読む派」と「判定表は物語の錯覚だ派」に分かれた[16]。
乱数札綴り:制作の着想元として言及されるアイテム。作中では“記憶の棚卸し”を行う儀式に転用される。特に、札が引かれるたびに主人公の過去が「一度だけ差し替わる」と説明されるため、作中の時間が直線ではなく“差し替え直線”として描かれると評された[17]。
書誌情報[編集]
本作は『週刊オカルト・スコープ』(幻影出版社)において2016年10月から2023年3月まで連載された。単行本はレーベルで刊行され、全19巻と整理されている[18]。
巻ごとに“分岐ログ”の図が付され、初期の巻では図が単純であるのに対し、後半の巻では図が物語の主役級の情報量になった。特に第12巻では、脚注が本編ページを跨いで配置され、編集部が「読み逃し禁止」と宣言したという記録がある[19]。
累計発行部数は、連載終了直後に累計発行部数2,840万部を突破したとされ、同時期の“分岐型作品ブーム”の火付け役として扱われた[20]。
メディア展開[編集]
テレビアニメ化は、2023年秋にの深夜枠で放送された。演出面では、同じ回でも視聴者の“視聴順”により次回予告が変化する仕掛けが導入され、これが物議を醸したとされる[21]。
ゲーム連動企画としては、スマートフォン向け“ログ検査”アプリが配信され、漫画の判定表と同期する仕組みになっていた。ここでは、ログ検査が成功すると「あなたの世界線は平均で1,003,112通りに収束している」と表示される仕様が話題になった。ただしこの表示は実際には端末ごとの表示ゆらぎ(乱数ではない)によって変動するものであり、後に注意喚起が出されている[22]。
また、2024年には舞台化が決定し、劇中では“空席がひとつの選択肢”として扱われた。空席を選ぶ観客がいることを想定し、演者が舞台上のスクリーンに「あなたの席の方程式」として数式を投影する演出が採用されたとされる[23]。
反響・評価[編集]
本作は、分岐の快楽と読後の不確実性を両立した点が高く評価されたとされる。批評家の間では、「“読む”こと自体が操作になる」構造が、現代のメディア消費に接続しているとして、社会現象となったと語られた[24]。
一方で、読者の間では“1億通り”の数字の根拠を求める声も強く、オンライン百科のような掲示板では、各編の判定点を手作業で数えるコミュニティまで発生した。彼らは『第3編』の告白文を「3文字欠落」として固定しつつ、欠落部分を推理するために、各巻の紙質差(ページの反射角)まで計測したとされる[25]。
また、教育現場では国語教材として扱われる動きもあったが、結末の不確実性が評価される反面、評価基準が読者ごとに変わる点が議論の的になった。ある自治体は「読解力ではなく操作力を測る危険がある」として一部利用を差し控えたと報じられた[26]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 縫月リョウ「分岐とは読者の呼吸である」『週刊オカルト・スコープ』第841号、幻影出版社, 2016年。
- ^ 編集部『『エンディングが1億通りあるゲーム』制作判定表の公開範囲について』幻影出版社, 2019年。
- ^ 西園寺タマキ「紙の中の並列性—漫画における分岐ログ設計—」『日本図書館メディア研究』Vol.12 No.3, 2020年, pp.45-68。
- ^ Dr. Margaret A. Thornton「Narrative Randomness in Print Media」『Journal of Interactive Reading』Vol.8 No.1, 2021年, pp.91-117。
- ^ 幻影出版社編『幻影コミックス・コア総合目録(2016-2023)』幻影出版社, 2023年。
- ^ 高見沢俊介「脚注は物語を操作するのか」『国語教育評論』第66巻第2号, 2022年, pp.110-135。
- ^ Kobayashi, Ren「On the Myth of 100,000,000 Endings」『International Semiotics of Comics』Vol.5 No.4, 2020年, pp.201-229。
- ^ 棚橋ミドリ「視聴順が予告を変える—深夜アニメ演出の社会実験」『放送文化技術年報』第9巻第1号, 2024年, pp.33-58。
- ^ 市原ユウト「空席が選択肢になる舞台—観客参加型脚本の実装」『演劇学研究』第31巻第3号, 2024年, pp.77-104。
- ^ 小川(おがわ)セン「分岐読解と評価のズレ」『教育統計とメディア』Vol.3 No.2, 2021年, pp.12-29。
外部リンク
- 幻影コミックス・コア 公式ログ庫
- 週刊オカルト・スコープ 連載アーカイブ
- TMDテレビ 分岐予告アーカイブ
- 縫月リョウ 乱数札綴り研究会
- 分岐物語ファン計算機