IJUUIN
| タイトル | 『IJUUIN』 |
|---|---|
| ジャンル | 架空科学×都市伝説バトル |
| 作者 | 伊達 雨月 |
| 出版社 | 星雲出版 |
| 掲載誌 | 月刊ネオン・ログブック |
| レーベル | 星雲コミックス・プロトコル |
| 連載期間 | 〜 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全182話 |
『IJUUIN』(いじゅういん)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『IJUUIN』は、架空の演算体系と“影”の観測をめぐる都市伝説バトルを描く作品である。主人公たちは、言葉そのものが鍵になる「二重符号化」を武器として、現実の手続き(申請・回覧・査閲)に干渉する“行政系カルト”と対峙することになる。
連載初期から、主人公が読み上げる呪文のような数式がSNSで引用され、作中の用語が文房具メーカーのキャンペーン名として二次流通するなど、物語外の波及も多いとして語られた。なお、終盤で明かされる“最初の一文字”の正体は、読者投票によって決まったともされるが、公式側は否定的に振る舞い、結果として論争を呼んだ[1]。
制作背景[編集]
作者のは、大学院での「言語の統計検査」による研究経験があるとされる。その延長として、観測データと記号列が一致した瞬間にだけ“影”が現れるという設定が構築されたと語られた。
一方で制作チーム内では、作品の核となる「IJUUIN」という表記が、特定の端末に付与される識別子だという設定を当初から採用していた。しかし打ち合わせで、識別子の刻み方が実務手続き(申請番号の桁ごとの並び替え)に似ていることが見つかり、編集部が『それ、リアルにすると怒られますよ』と止めたという逸話がある[2]。
そのため、現実の番号体系を直接なぞらない代わりに、架空の部署名と“監査儀礼”を増やす方針が採用された。具体的にはの架空施設である「影監査局 分室」へ取材に行ったとされ、作者が持ち帰ったメモ(「沈黙3秒→受付音2回→紙片が自己主張」)が第3話に反映されたと述べられている[3]。
あらすじ[編集]
本作は、複数の“編”により、主人公側の勝ち筋が段階的に変化していく構造を取る。各編のキーワードは「入力」「回覧」「査閲」「逆算」「返却」であり、それぞれが敵組織の行動パターンを暴く役割を持つとされる。
以下では章立てを、作中の通称に合わせて記述する。
入力編(第1〜32話)[編集]
主人公のは、学区の“回覧板”に紛れ込む不可解な符号列を拾う。符号列は一見すると暗号であるが、朱鷺が声に出して読むと、駅前の影が「IJUUIN」と同じ形に折れ曲がる現象が起きる。
この編の山場は、第9話で登場する「二重符号化テスト」である。朱鷺は紙の端を折るだけでなく、折り目の位置を0.7ミリ単位で指定される“受付指示”に従うことになる。なお、作者はこの0.7ミリを「誤差許容を3割にすると、読者が“それ分かる”と納得する」からだとコメントしたともされる[4]。
一方、敵として現れるのは行政系カルトであり、彼らは「影は申請できない」と宣言して朱鷺の行動を封じようとする。ここで、朱鷺が“申請する”側へ回る意外性が示され、以降の展開の伏線となる。
回覧編(第33〜73話)[編集]
朱鷺たちは、符号列の正体が“回覧”によって増殖する性質を持つことを突き止める。回覧板は単なる情報媒体ではなく、影を運ぶ「輸送装置」と化していたとされる。
この編ではの地下回覧所で、朱鷺が「閲覧者の足音」を暗号キーとして用いる。足音は全員同じはずなのに、なぜか鍵が一致してしまうという不条理が前面に出る。作中の計測では、足音の“間”が13/100秒単位で揺れるとされ、物理的には曖昧だが演出的には精密であるとして評された[5]。
さらに、朱鷺はライバルと和解し、敵の回覧妨害を逆手に取る。「回すほど弱くなる」ではなく「回すほど“回す理由”が固まる」という論理が、この後の逆算編につながっていく。
査閲編(第74〜112話)[編集]
監査教団ユビキタス庁は、符号列を“査閲”することで勝つ方法を選ぶ。査閲とは情報を奪うのではなく、情報を“持ち主の手続き”に戻す行為であるとされる。
朱鷺はの架空史料室に似た場所で、「査閲の代金は沈黙で支払う」という掲示を見つける。ここで作者は、台詞の中にわざと条例番号のような表現を混ぜたが、編集が『読者が行政のことだと思い始める』と危惧したという[6]。
結果として、査閲で生じる影は“本人の意思”に追随することが判明する。敵は意思のない者を狙うはずだったが、朱鷺が意思の由来を符号に刻み込んだことで、攻撃の向きが反転する。
逆算編(第113〜156話)[編集]
朱鷺は「IJUUIN」の読みが単語ではなく、計算手順の略だと推理する。この編では、作中で初めて“逆算”が武器になる。すなわち結果が出てから、原因を手続きとして遡る技術である。
第131話では、敵の“影の出現ログ”がファイルではなく紙片の束であると示される。束の厚みは1.8センチとされ、そこから逆算された「3工程(折る・読む・戻す)」が勝敗を分ける。作者の原稿メモには「1.8は中途半端で、リアルが出る」と書かれていたと回想される[7]。
この編の終盤、北園が裏切るように見えるが、実際には“裏切り”を演出することで影の規則を破壊していたことが明かされる。
返却編(第157〜182話)[編集]
終盤では、IJUUINが“最初の提出物”の返却であると判明する。朱鷺は、監査教団が奪ったものを取り返すのではなく、奪われる前の状態に戻すことで勝利を得る。
クライマックスでは、巨大な「影受付窓口」がの港湾倉庫跡に出現する。そこへ朱鷺が提示するのは書類ではなく、折り目に合わせた沈黙の時間である。沈黙は7秒、さらに一呼吸(約1秒)が挿入されると作中で説明されるが、終盤の“細かさ”は作者が『雑にやると嘘がばれる』と恐れた結果だとされる[8]。
最終回で、監査教団ユビキタス庁は壊滅するのではなく「影の申請窓口」として組み替えられる。勝利が暴力ではなく制度の変形である点が、連載当時の読者に強く印象づけられた。
登場人物[編集]
主人公のは、声を出すことによって現象が“確定”するタイプの適性者である。作中では「朱鷺の発音は、記号を現実へ落とす」と描写される。能力は強いが、落としすぎると現実側の都合で“差し戻し”を喰らう弱点があるとされる。
は、論理ではなく気配から手続きを読む人物として描かれる。敵味方の入れ替えが多い編成において、朧音の行動は意外と一貫して“返却”を優先しているとされるが、作者が最後まで明示しないため議論が続いた[9]。
また、監査教団ユビキタス庁側の中心人物としてが登場する。園田は“査閲の技術者”であり、沈黙にコスト(点数)を割り当てる不気味な人物として人気が出た。作中の点数は合計100点で、朱鷺の勝利時には残り11点だったとされるが、読者は「11点って何?」と長くツッコんだといわれる。
用語・世界観[編集]
本作の中心概念は「影の申請」と「二重符号化」である。影は存在するだけでは力にならず、申請(意思と手続きのセット)によって“扱える対象”になると設定されている。このため、戦闘は怪異のぶつけ合いではなく、窓口・回覧・査閲の作法競争として描かれる。
「二重符号化」は、入力文字列を(1)音素、(2)紙片の折り目として同時に保持する技術である。音素だけだと現象が散る一方、折り目だけだと現象が“誰のものか”迷子になるため、両方の保持が必要になるとされる[10]。
また、敵組織が崇める「ユビキタス監査理論」は、世界を“記録するほど現実が痩せる”と説明する。ここは作中でも物議を醸し、理論を信じる信者が増えすぎたとして、終盤に“信者の自主回覧”が描かれる。ただし、作中の説明はあえて曖昧にされており、科学として解釈するほど損をする設計になっていると指摘された[11]。
書誌情報[編集]
本作はにおいて連載されたのち、のレーベルから単行本として刊行された。累計発行部数は、連載最終年の時点でを突破したとされる。
単行本は全14巻構成で、各巻の巻頭には「IJUUIN実施手順(架空)」と題した付録が掲載される。付録では“折る角度”や“沈黙の長さ”が段階表で示され、読者が自宅で再現できる体裁になっていたが、再現成功率は編集部の調査では12.4%と公表され、逆に話題を強化した[12]。
なお、最終巻の帯には「返却は償いではない」とだけ書かれており、意味の薄さがファンの考察を誘発した。
メディア展開[編集]
テレビアニメ化はに決定し、制作は架空スタジオが担当した。アニメでは“沈黙”を演出するため、通常のナレーションを3回に分けて極端に間引く手法が採用され、視聴者のSNS反応が遅延して盛り上がったとされる。
また、メディアミックスとしてスマートフォン向けゲーム『IJUUIN:回覧窓口オンライン』が配信された。ゲームでは“窓口回数”がスコア化され、1日あたりの回数上限が7回と設定されていた。ユーザーの中には上限に合わせて生活リズムを変えた者が出たとも報じられ、社会現象となった[13]。
さらに、舞台化として『二重符号化の夜会』が企画されるが、劇中で使われた“折り目の寸法”が0.7ミリ単位であり、原作ファンが「再現しすぎ」と驚いたといわれる。
反響・評価[編集]
連載開始当初は、難解な手続き描写が敬遠される懸念もあったが、回覧や査閲といった“身近にありそうでない制度”が逆に読者の想像力を刺激したとされる。特に、早瀬朱鷺が書類を持たず沈黙を提出する場面は、ネットミーム化した。
一方で、終盤の展開については「勝利の根拠が制度の改変に依存しすぎる」との批判もあった。批判では、影を申請できるなら現実側の法律も影響するはずだ、という指摘が出たが、作品はあえてそこに答えないため、考察が長期化した[14]。
評価面では、画面設計が“窓口の反復”を軸にしている点が称賛された。編集部が行ったアンケートでは、最も好きな要素として「沈黙の音響設計」が29.1%、「折り目の幾何」が24.6%、「窓口語」が18.3%と回答され、細部への熱量が数字として残された。もっともこのアンケートの実施方法は非公開とされ、要出典に近い扱いで語られることもある[15]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 伊達雨月『『IJUUIN』作中手続き読解ガイド』星雲出版, 2019年.
- ^ 佐久間コウ『都市伝説バトルにおける制度演出の系譜』月刊ネオン・ログブック編集部, 2018年.
- ^ Mara Thompson, “Silence as Input: The Administrative Arc in IJUUIN,” Vol.12 No.3, Neon Archive Journal, 2021.
- ^ 園田端太『査閲理論と返却の論理—点数化される沈黙』星雲学術叢書, 2020年.
- ^ 早瀬朱鷺『二重符号化実務メモ(本人所蔵)』私家版, 2016年.
- ^ 北園朧音『気配から読む回覧—13/100秒の誤差を超えて』査閲研究会, 2017年.
- ^ 編集部『星雲コミックス・プロトコル刊行記録(仮)』星雲出版, 2020年.(第◯巻第◯号の誤記がある)
- ^ “IJUUIN: The Window of Mirrors,” Vol.4, Urban Phantasm Review, pp.101-134, 2022.
外部リンク
- 星雲出版 公式:IJUUIN 特設ページ
- 月刊ネオン・ログブック データアーカイブ
- 星砂アニメーション工房 公式サイト
- IJUUIN ファン解析ノート
- 回覧窓口オンライン 運営掲示板