ボインちゃんとナインちゃん
| タイトル | ボインちゃんとナインちゃん |
|---|---|
| ジャンル | 学園SF、変則コメディ、図形冒険譚 |
| 作者 | 天宮九郎 |
| 出版社 | 東環出版 |
| 掲載誌 | 月刊スパイラルコミックス |
| レーベル | スパーク・コミックス |
| 連載期間 | 1998年4月号 - 2004年9月号 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全83話 |
『ボインちゃんとナインちゃん』(ぼいんちゃんとないんちゃん)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『ボインちゃんとナインちゃん』は、の私立を舞台に、二人の少女が「9」にまつわる現象へ巻き込まれていく構成の長編漫画である。作品内では、円周率の暗号、旧式の天球儀、そして学園地下に眠るが物語を牽引し、連載当時はその奇妙な題名から先入観を持たれやすかったが、のちに累計発行部数480万部を突破したとされる[2]。
作風は一見すると学園ギャグであるが、実際にはととが高密度に混在しており、後年の読者からは「説明不能な完成度」と評された。また、作者の天宮が毎回あとがきで「本編の9割は取材に基づく」と述べていたことでも知られるが、その取材先の大半がの文具店や、休止中の電話交換室であったことはあまり知られていない[要出典]。
作品の位置づけ[編集]
本作は、1990年代後半のが進めていた「学園内専門分野拡張計画」の一環として企画されたとされる。編集部は当初、理数系の題材で堅くなりすぎることを懸念したが、天宮が「少女二人にすれば数式も感情も読める」と主張したため、現在の形に落ち着いたという。
タイトルの由来[編集]
「ボインちゃん」と「ナインちゃん」は作中の登場人物名であるが、同時に学園内で使われる九段階評価制度の俗称でもある。名称の衝撃性に比して内容はむしろ繊細であり、この落差が当時の読者層を増やした最大の要因であったと分析されている。
制作背景[編集]
作者のは、ごろの古書店街で「数字に人格を与えると、物語は自走する」という着想を得たと述べている。これを基に、彼はの新人編集会議へ持ち込みを行い、当初は2巻完結の予定であったが、編集長のが第7話のゲラを読んで「この学園は拡張可能である」と判断し、長期連載化が決定した。
制作時の特徴として、各話のネーム段階で天宮が三角定規を3本以上机上に並べるという独自の作法を採っていたことが挙げられる。アシスタントの証言によれば、背景に描かれる廊下の長さは毎回9.9メートル相当に揃えられており、これが後年「九段丘学園の廊下は歩くたびに微妙に曲がる」とする都市伝説の元になったという。
また、連載中期にはの工業高校で実施された図面教育の教材に一部のコマが引用され、教育現場での予期せぬ反応が話題になった。なお、作者はこの件について「教材化は偶然であり、むしろ学校側が作品の方に寄せてきた」とコメントしたとされる[3]。
あらすじ[編集]
第1部 九段丘学園入学編[編集]
のボインちゃんとナインちゃんは、転入初日から学園の校舎配置が毎朝変化することに気づく。二人は図書室で見つけた「9のつく鍵」を手掛かりに、旧校舎の地下へ通じる螺旋階段を発見し、そこでの存在を知る。
第2部 放課後測量編[編集]
学園内で消える机、増殖するロッカー、毎週水曜だけ出現する円形池などの怪現象を追ううち、二人は測量部と天文部の対立に巻き込まれる。ここで登場する「9秒遅れの鐘」は作中屈指の名場面であり、鳴るたびに1人だけ過去の廊下へ戻されるという奇妙な仕掛けが描かれた。
第3部 九月革命編[編集]
文化祭の準備を発端に、学園の理事会が九段階の階級制度を廃止しようとするが、逆に生徒会が「9を失った学園は成立しない」と反発する。最終的に、体育館の床に描かれた巨大な正九角形が起動し、校舎全体が一夜にして再編成される展開は、当時の読者から「無茶だが筋は通っている」と評された。
登場人物[編集]
ボインちゃんは、明朗だが極端に方向感覚が悪い少女で、地図を読むと必ず9度ずれる癖がある。作中では感情の起伏に応じて髪留めの位置が変化し、そのたびに周囲の方位磁石が狂うため、実質的に学園の気象観測役でもあった。
ナインちゃんは、寡黙で計算能力に優れる少女で、日常会話の末尾に「9」を付ける独特の癖を持つ。彼女の持ち歩く黒い定規は9本の目盛りしか印字されておらず、後にそれがの認証キーであったことが判明する。
は生徒会長で、理事会と対立しながらも二人を陰で支える人物である。彼女は常に紙飛行機で連絡を取り、紙面上の折り目数がそのまま命令系統を表すという、学園でも珍しい通信法を採用していた。
は測量部所属の先輩で、校舎の寸法を毎日測り直すことに執着している。彼の計測はなぜか1回ごとに数値が9ミリ単位でずれるが、本人は「誤差ではなく、校舎側の呼吸である」と主張していた。
用語・世界観[編集]
作中では、の建造物は「9の倍数で安定する」という独自理論に基づいて管理されている。特に校舎裏にあるは、戦後まもなく旧系の研究者が設計図を紛失したまま封印した施設とされ、地下9階の存在は長く都市伝説扱いであった。
また、「ボイン現象」と「ナイン現象」は本作独自の重要概念である。前者は対象の存在感が急に増す現象、後者は逆に周囲の認識が均一化する現象を指し、双方が同時に起こると校舎全体の時間割が反転すると説明される。作中ではこれを防ぐため、保健室に九つの砂時計が常備されている。
さらに、学園内で流通する「9円硬貨」は、購買部限定の福引券として扱われるが、実際には地下施設への通行許可証の一部であることが終盤で明かされる。この設定は後年のファン考察で過剰に拡大解釈され、同人界隈では「9円が最も高価な通貨」と呼ばれた。
書誌情報[編集]
単行本はより全14巻が刊行された。第1巻から第6巻までは学園コメディ色が強いが、第7巻以降はをめぐる設定が急速に前景化し、帯には「ここから先、廊下の長さが変わる」と記されていた。
完全版はにから全8冊で再編され、各巻に天宮の手書きメモが収録された。メモには「ナインちゃんの笑顔は9割設計済み」「ボインちゃんの走る速さは毎秒1.9mが理想」など、編集部が真偽を確認しきれなかった記述が並んでいる。
メディア展開[編集]
には制作でテレビアニメ化され、全26話が放送された。アニメ版では第11話の廊下長シーンが異様に長く、放送事故と勘違いした視聴者が局へ問い合わせを行ったという逸話が残る。また、オープニング主題歌は発売初週で4.8万枚を売り上げ、作品名を知らずに買った層が多かったことが逆に話題となった。
そのほか、との一部書店ではスタンプラリーが開催され、9店舗すべてを回ると「校舎模型の部品」がもらえる企画が実施された。さらに舞台化も計画されたが、体育館の床に正九角形を描くコストが予算を超えたため中止になったとされる。
近年では電子書籍版に加え、学習アプリとのコラボレーションが行われ、図形認識の教材として配布された。もっとも、アプリ内でボインちゃんが表示されるたびに端末の向きが変わる不具合が発生し、配信停止になったことがある。
反響・評価[編集]
連載当時の読者アンケートでは、「意味がわからないのに毎号買ってしまう」という回答が多く、編集部はこれを異例の成功例として扱った。特にの文化祭編以降、女性読者比率が37%から54%へ増加したとされ、学園もの漫画としては珍しく理数系クラブからの支持も厚かった。
批評面では、のが『図形と感情の接続に成功した稀有な作品』と評した一方、の紀要では「9を使いすぎている」と指摘されている。なお、同大学のゼミでは本作を題材に卒論が12本書かれたが、うち3本は題名に「螺旋」が重複していたため、指導教員がまとめて差し戻したという。
社会現象としては、作品内で流行した「9秒で返事をする」挨拶が一部の中高生に模倣され、駅のホームで奇妙な沈黙を生む現象が報告された。また、地元商店街では毎月9日に「九段丘まつり」が行われるようになり、作品の外側へ文化が滲み出した例として引用されることがある。
脚注[編集]
[1] 架空の掲載誌設定は、天宮九郎が関係者向け資料に記した誌名案を基にする。
[2] 累計発行部数は東環出版の社内報にのみ記載された数値とされる。
[3] 教材採用の経緯については、当時の担当教諭の証言が一致していない。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 西園寺茂樹『月刊スパイラルコミックス編集記録 1998-2004』東環出版、2005年。
- ^ 天宮九郎『ボインちゃんとナインちゃん 制作ノート』スパイラル文庫、2011年。
- ^ 早川杏子「図形と感情の接続について」『現代漫画批評』Vol. 18, No. 2、pp. 44-61、2004年。
- ^ 黒田真一『学園漫画における九数表現の変遷』東都書房、2008年。
- ^ M. Thornton, “Nonlinear Corridor Narratives in Late-90s Japanese Comics,” Journal of Imaginary Media Studies, Vol. 7, No. 1, pp. 12-39, 2012.
- ^ 井上澄子「第九実験区画と戦後地下施設表象」『日本都市伝承学会紀要』第12巻第3号、pp. 7-22、2009年。
- ^ H. Watanabe, “The Ninefold Gag Structure,” Spiral Culture Review, Vol. 3, pp. 88-103, 2006.
- ^ 佐伯律子『アニメ化された螺旋とその周辺』深海テレビ出版局、2003年。
- ^ 高橋一馬「9秒遅れの鐘に関する一考察」『図形と物語』第5号、pp. 101-114、2010年。
- ^ C. Sato『Boin and Nine: A Study of Misread Title Effects』East Arc Press, 2014.
外部リンク
- 東環出版アーカイブ
- スパイラルコミックス年表館
- 九段丘学園設定資料室
- 深海テレビアニメ資料庫
- 図形物語研究会