カイロスモンスター
| 名称 | カイロスモンスター |
|---|---|
| 英題 | Kairos Monster |
| 分類 | 機会捕捉型アクションゲーム |
| 初出 | 1928年ごろ(諸説あり) |
| 提唱者 | 黒田 恒一郎、M. H. Wainwrightら |
| 開発拠点 | 東京高等遊戯試験所 |
| 主な媒体 | 大型筐体、ボードゲーム、後年は家庭用機 |
| 代表的要素 | 遅延出現、反復誤答、機会損失ポイント |
| 運営団体 | 日本機会娯楽協会 |
カイロスモンスターは、後半にの実験娯楽研究会で考案されたとされる、時間の「機を逃すこと」そのものを攻略対象としたゲームである。後に各地のサークルや文化に浸透し、独特の「遅れて現れる敵」をめぐる設計思想で知られる[1]。
概要[編集]
カイロスモンスターは、プレイヤーが通常の敵キャラクターではなく、「今まさに来るはずだった好機」を妨害する存在に対処することを目的としたゲームである。一般にはアクションゲームの一種と説明されるが、初期の設計文書ではむしろとの中間に置かれていたとされる[2]。
名称の「カイロス」はにおける好機を意味し、「モンスター」はその好機を食い破る抽象存在を指す。もっとも、1954年の英訳版パンフレットでは「A creature that arrives two seconds too late」と誤訳され、以後この誤訳が世界的に流通したという説がある[3]。なお、初期の筐体には実際のモンスターはほとんど表示されず、画面の端に現れる時計針、押し損ねるボタン、そして妙に礼儀正しい警告文が中心であった。
後年の研究では、カイロスモンスターはの時間感覚の変化を象徴する作品群として再評価され、40年代の受験文化、期の残業習慣、さらにの深夜営業と結びついて語られている。一方で、最初から娯楽を目的としていたのではなく、工場勤務者の「休憩に入るタイミング」を可視化する教育機器だったとの指摘もある[4]。
歴史[編集]
起源と初期実験[編集]
最古の記録は、の旧製紙倉庫を改装した「東京高等遊戯試験所」の会議録に見える。所長のは、労働者が昼休みを取り損ねる現象を「機会の捕食」と呼び、これを反復訓練する装置としてカイロスモンスターの原型を提案したとされる[5]。
初期版は木製の盤面に3つの赤いレバーと1つの押し鈴しかなく、プレイヤーは1分30秒ごとに訪れる「合図」を正確に押し返さなければならなかった。しかし合図はしばしば3秒早く、あるいは9秒遅れて発生し、被験者の約42%が開始から5分以内に「ゲームのほうが先に謝罪してくる」と証言したという。この種の記録は後年までしばしば引用されるが、実測方法はかなり怪しい。
また、にはの港湾倉庫で試験運用が行われ、荷役作業員向けに「積み荷の到着予告を外した回数」を競わせる版が作られた。これが現代のスコアリングの原型とされるが、参加者の多くは点数よりも、突然鳴るベルの音量(平均87デシベル)に不満を述べていた。
商業化と筐体時代[編集]
、の玩具メーカー「東邦周期工業」が権利を買い取り、初の商用筐体『Kairos Monster Type-0』を発売した。筐体側面には大きな砂時計が描かれ、中央モニターには敵が一切映らない代わりに、待機時間の経過に応じて画面色だけが変化した。これが当時の若年層には「不親切だが妙に中毒性がある」と受け止められ、初月出荷1,800台のうち約1,260台がとの喫茶店、駅前ゲームコーナーに導入されたとされる[6]。
には英国の工業デザイナーが改良版を設計し、敵の出現直前にだけ鳴る電子音「キロス・チィム」を追加した。これにより、プレイヤーは敵を見る前に焦るという逆転現象を経験するようになり、当時の評論家からは「映像より予感が強いゲーム」と評された。なお、同版の説明書にはなぜか市内の電話番号が3件だけ記載されていたが、用途は最後まで不明である。
に入ると、のゲーム喫茶チェーンが競技大会を主催し、1試合120秒の短時間対戦ルールが整備された。ここで導入された「機会損失ポイント」は、プレイヤーが好機を逃すたびに増加し、一定値を超えるとボスが出現しなくなるという極めて意地の悪い仕様であった。これはのちに「勝てないのではなく、勝つべき瞬間が通過しただけ」と解釈され、教育現場でも比喩として用いられた。
家庭用移植と学術化[編集]
、と直接の関係はないものの、同社周辺の研究会で『カイロスモンスター家庭版』の試作が行われた。カセット内蔵型のこの版本では、敵の出現タイミングが本体の傾きと部屋の照度に連動して変化し、特に夕方6時台に難易度が急上昇したという。家庭内での不満は多かったが、結果として「生活リズムに干渉するゲーム」として一部の教育評論家に歓迎された[7]。
にはの時間認知研究グループがカイロスモンスターのプレイデータを解析し、反応速度ではなく「ためらいの長さ」が上達に寄与することを報告した。論文では、上級者ほどボタンを押す前に0.8秒の無駄な沈黙を挟む傾向があるとされ、これを「儀礼的遅延」と命名している。もっとも、統計処理にはサンプル数36名しか用いられておらず、要出典とする編集者も多い。
以降は風の配信基盤を模した同人版が流通し、海外では「late-action roguelike」として紹介された。特にのインディーイベントでは、敵が一切攻撃してこないまま時刻だけが進む展示版が話題となり、観客の半数が「何も起こらないこと」に拍手を送ったとされる。
ゲームデザイン[編集]
カイロスモンスターの最大の特徴は、敵の強さではなく「来るべき場面を外させる」構造にある。プレイヤーは画面中央のモンスターよりも、画面外から届く通知、遅延する足音、点滅しないランプなどの周辺情報に対応しなければならない。
通常のスコアは撃破数ではなく、好機を1回逃すごとに減算される「残機時間」で管理される。さらに連続成功時には、報酬として敵が2秒だけ親切になる「猶予補正」が発生するが、熟練者はこの補正をわざと使い切らず、次の大きな好機まで温存する。この戦術は一部で「先延ばし防衛」と呼ばれた。
また、本作には「謝罪モード」が存在し、ミスを重ねると敵側が「こちらの到着が遅れました」と表示される。開発側はこれを人間工学的配慮と説明したが、実際には筐体の故障率が高く、エラー表示をゲームシステムに吸収しただけではないかともいわれている[8]。
シリーズ後期ではのアーケード店舗で、プレイヤーの心拍数に応じてモンスターの出現間隔が変化する筐体が設置された。測定のために使われたセンサーは中古の医療機器を転用したもので、時折「測定不能」が必殺技のように表示された。
文化的影響[編集]
カイロスモンスターは、単なるゲーム作品にとどまらず、遅刻、締切、乗り換え失敗といった日常的失策を語る比喩として広まった。後半の新聞では「会議の開始を待つ社員を襲うカイロスモンスター現象」という見出しが散見され、のちに若者言葉として「カイロる」といった派生動詞まで生じたとされる。
また、には企業研修への導入が試みられ、の流通会社で「発注の最適タイミング」を学ぶ教材として使われた。参加者の離職率は2か月で13%改善したとの報告がある一方、研修後に会議が全員無言になる副作用も確認された。これを受け、実務家の間では「勝つために待つ」という態度が過度に一般化したという批判もある。
音楽面でも影響は大きく、敵の出現前にだけ鳴る短い電子音は、後年のやにまで引用された。とくにのアルバム『Late is the New Early』は、カイロスモンスターの起動音をほぼそのまま使ったことで、ファンの間で伝説的作品となっている。ただし権利処理は曖昧である。
さらに、、の愛好家コミュニティでは、好機を逃した回数を競う「逆タイムアタック」が成立し、2021年時点で世界大会の参加者は延べ4,300人に達したという。もっとも、実数は各大会ごとにかなり揺れている。
批判と論争[編集]
カイロスモンスターに対する批判は、主に「プレイヤーを不安に依存させる設計」であるという点に集中している。とりわけのは、本作を「楽しさよりも取り逃がしの恐怖を商品化した装置」と評し、教育現場への導入に警鐘を鳴らした[9]。
一方で、支持者は本作が「失敗を単なる敗北ではなく、時間との交渉として捉え直した」と主張する。とくにの一部研究者は、カイロスモンスターが遅延社会における行動科学の実践例であると述べ、プレイヤーの判断停止を可視化する点を高く評価した。ただしこの見解は、ゲームとして面白いかどうかとは別問題である。
最大の論争は、に追加された「未来予告機能」をめぐるものであった。これは次に現れる敵の種類を事前に2割だけ教えるという仕様だが、予告が当たる確率が61%とされながら、実際にはほとんどのプレイヤーが体感で外れていると感じた。そのため、社内文書では「予告の精度」より「予告を信じたことによる心理的損耗」が重視されていた可能性がある。
なお、同作の保存運動を主導したは、2010年に全17機種の筐体を登録文化財に準ずる扱いで管理すると発表したが、実際には3機種しか現存しなかった。残りは倉庫の湿気で「時間そのものが腐った」と説明されたが、真偽は定かでない[10]。
派生作品と後世への継承[編集]
派生作品としては、敵が郵便で届く『カイロスモンスター・レター版』、会議室でのみ遊べる『カイロスモンスター・マネジメント』、およびを用いた『Kairos Monster: After the Deadline』などが知られている。いずれも本編以上に待機時間が長く、プレイヤーが操作しているのか待たされているのか判然としない作風であった。
また、には内の複数の大学で、カイロスモンスターを題材とした卒業研究が提出された。テーマは「選択遅延と幸福感の相関」「好機逃失の視覚化」「敵が現れないゲームにおける没入度の測定」などであり、査読者の一部は研究対象そのものに困惑を示したという。
現代では、カイロスモンスターはレトロゲームとしてだけでなく、「タイミングを外したときの美学」を表す文化記号として扱われている。なお、近年の復刻版では本来の難度を再現するために、起動から最初のメニュー表示までに8分12秒かかる仕様が追加され、購入者の苦情が最も多かった。これが「原典尊重」の成功例か失敗例かは、現在も意見が分かれている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 黒田 恒一郎『機会娯楽の理論』東京高等遊戯研究叢書, 1932.
- ^ Margaret H. Wainwright, "Late-Arrival Creatures in Coin-Operated Play", Journal of Experimental Leisure Studies, Vol. 14, No. 2, 1961, pp. 88-113.
- ^ 渡辺 精一郎『時間を外す技術――カイロスモンスター考』日本遊戯学会出版局, 1978.
- ^ S. Nakamori, "Opportunity Loss as Game Mechanic", Proceedings of the 12th International Symposium on Play Systems, 1989, pp. 201-219.
- ^ 木下 玲子『アーケード筐体の沈黙と騒音』港北書房, 1995.
- ^ Hiroshi Arai and Peter C. Bell, "Kairos Monster and Delay-Based Cognition", Transactions of the Society for Temporal Interaction, Vol. 7, No. 1, 2004, pp. 15-42.
- ^ 日本機会娯楽協会編『カイロスモンスター保存目録 第3巻』同協会資料室, 2011.
- ^ 田島 晴彦『ゲームが謝るとき――機会損失の倫理学』青銅社, 2016.
- ^ M. H. Wainwright, "The Creature Arrived Too Late: A Reassessment", London Review of Arcade History, Vol. 3, No. 4, 1960, pp. 7-19.
- ^ 斎藤 由美子『カイロスモンスター・マネジメント入門』経済遊戯評論社, 2022.
外部リンク
- 日本機会娯楽協会アーカイブ
- 東京高等遊戯試験所デジタル資料館
- カイロスモンスター年表研究室
- レトロ筐体保存連盟
- Late-Arrival Games Database