カラフルホームラン
カラフルホームラン(からふるほーむらん)とは、の都市伝説の一種であり、の外野席に現れるとされる、打球の着弾点が七色に光るという怪奇譚である[1]。少年野球の遠征先や旧球場の跡地で語られることが多く、時に「見た者は必ず翌日の試合で逆方向への長打を打つ」とも言われている[2]。
概要[編集]
カラフルホームランは、野球の試合中に放たれた打球が、通常の白い軌跡ではなく、赤・青・黄・緑など複数の色を帯びて見えるというである。目撃談では、球場の照明、雨粒、スコアボードの反射が重なった結果とも、あるいは「打者の未練が色になって残る」現象とも説明されている。
この噂は主としての少年野球チームと、夜間練習の多い高校野球部のあいだで広まったとされる。とくに周辺の旧練習場、の河川敷グラウンド、の倉庫街に近い草野球場でのが多いが、全国に広まったとして扱われることもある[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源はごろ、の講習会で配布されたとされる、失われたプリント『打球視認性向上のための色彩心理試案』にあるという説が有力である。これによれば、夕方の薄暮時に白球が見えにくくなる現象を説明するため、審判補助員が「見えた色を記憶しやすくする」目的で書いた比喩表現が、いつのまにか化したとされる。
別の説では、のあるスポーツ用品店が試験的に販売した蛍光塗料入りバットケースの宣伝文句「ホームランが七色に見えるほど飛ぶ」が、少年誌の投稿欄で誤読され、として定着したとも言われている。なお、この時期の広告代理店には「色名の付いた打球は記憶に残る」という内部資料があったとされるが、確認はとれていない[4]。
流布の経緯[編集]
からにかけて、地方紙のスポーツ面に載った小さな逸話が、のワイドショーで「球場に出る不気味な光」として紹介されたことで、噂は一気にとされる。とくにの深夜再放送枠で流れたとする記憶違いの証言が多く、実際には地域情報番組の再編集だった可能性が高い。
に入ると、インターネット掲示板上で「カラフルホームランを見たらスコアボードの裏に立つな」という言い伝えが拡散し、都市伝説としての輪郭が固まった。以後はや、さらには地方の廃校グラウンドまで舞台が移され、球場の規模に応じて現れる色数が増減するという、妙に細かいバリエーションも生まれた[5]。
噂にみる「人物像」[編集]
伝承では、カラフルホームランを打つ者は「色の多い打者」と呼ばれ、左打ちで、赤いリストバンドを好み、試合前に必ず水を三口だけ飲む人物として描かれることが多い。年齢はからまで幅があるが、共通して「打席で一点を見つめる癖がある」とされる。
一方で、打者本人よりも、やに起こる変化のほうが強調されることがある。目撃者によれば、球審はその打球を見た瞬間にストライクゾーンの感覚を失い、次の三球だけ判定が極端に甘くなるという。これが「色に目を奪われると試合の流れまで変わる」という教訓的なにつながったともされる。
また、球場の売り子や外野でキャッチボールをしていた少年が、なぜか「最初に七色を見た人物」として語られることがあり、人物像はかなり流動的である。噂の語り手が自分の体験談を盛るうちに、いつの間にか「見た人」ではなく「引き寄せた人」に変わるのも、この都市伝説の特徴である。
伝承の内容[編集]
基本形では、真夏の夕暮れ、球場の外野フェンス際で一本のホームランが放たれる。打球は高く上がり、落下点に近づくにつれて赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の順に色を変え、最後は地面に触れた瞬間だけ無音になるとされる。その際、スコアボードの電光表示が一拍遅れて点滅し、観客のスマートフォンのカメラには何も映らないという。
この現象が起きると、翌日のに「逆方向へ伸びる打球」「場外へ消えたボール」などの誇張された小記事が掲載されるという言い伝えがある。実際には、打球が色づいて見えるのは夕焼けの残光と古い照明のちらつきによるものだと説明されることもあるが、噂の愛好家はむしろ「説明できる部分が多いほど怪しい」と主張する。
最も有名な型では、ホームランボールを拾った者が、そのボールを自宅の冷蔵庫に一晩入れておくと、翌朝には白球がパステル調になっているという。これは「保管場所の湿度でマーカーがにじんだだけ」とされるが、球場近くの古い商店では今でも「色のついた球は洗わずに飾れ」と案内しているところがある。
委細と派生[編集]
球場別の派生バリエーション[編集]
型では、打球が黒土の上でいったん止まり、白線に触れると緑色に変わるとされる。これは阪神園芸の整備直後の湿り気を見間違えたものだというが、古参ファンの間では「整備された球場ほど怪異が映える」と語られている。
型では、天井に反射した光が三層の虹に見えるため、ホームランそのものではなく「球場全体が打球を色付けする」と説明される。これに対し、周辺の伝承では、風の弱い日にだけ青い球筋が見えるという話があり、湿度と空調の差が怪談の色彩差として消費されている。
学校での伝播[編集]
学校の野球部では、夜練のあとに照明を消したまま素振りをすると、バットの軌跡が七色に見えるという派生がある。とくにの合宿所では、点呼のあとに一人だけ遅れて戻る部員が「今の、カラフルホームラン見た」と言い、翌日の打撃練習で妙に打球が伸びる、という半ばめいた語り方がされる。
この派生は、野球経験のない生徒にも広がり、体育館の壁に当てたバレーボールが虹色に見えた、文化祭の金魚すくいの袋が光った、など別競技へ転用されることもあった。これにより、もともとの野球怪談は「色のついた成功体験」を象徴するものとして再解釈されたとみられる[6]。
噂にみる「対処法」[編集]
噂では、カラフルホームランを目撃した場合、まずベンチ裏の金属バットを三回叩き、次にスコアブックへ日付を漢数字で書くと霊的な再来を避けられるとされる。これは「記録を整えることで怪異が満足する」という、いかにも野球部らしい合理と迷信の混合である。
また、球場内で虹色の打球を見た際は、決して白線をまたいではならないという話もある。白線を越えると「次の打者に伝染する」とされるためで、実際には照明の角度が変わるだけである可能性が高いが、伝承ではその一歩がパニックの引き金になると語られている。
さらに、地元のベテラン審判のあいだには「色を数えず、音だけを聞け」という対処法も伝わる。バットの芯に当たる音が澄んでいれば問題はないという実践的な知恵であるが、なぜかこの助言を守った試合ほど延長戦になりやすいという。
社会的影響[編集]
カラフルホームランは、少年野球の保護者会において「夜間練習の安全確認」の象徴として語られ、球場の照明設備更新を求める署名運動まで生んだ。とくにの節電期には、薄暗いグラウンドでの目撃談が増えたため、噂は単なるを越えて、施設管理の不備を訴える口実にもなった。
一方で、雑誌やテレビ番組がこの噂を面白おかしく取り上げた結果、遠征先の地方球場に「虹のホームランを見に来た」という見物客が現れるようになり、地元商店街が限定の七色ソフトクリームを売り出した例もある。ここでは怪談がそのままと観光資源に変換されたのである。
教育現場では、噂を利用して「見え方は環境で変わる」という理科教材が作られたこともあり、ある県立高校では光の屈折実験と野球観戦マナーを合わせた授業が行われたという。もっとも、授業後に生徒の半数が「自分も一回だけ虹色の打球を見た」と主張したため、逆に伝承を強める結果になったとも言われている。
文化・メディアでの扱い[編集]
の深夜ラジオ番組で紹介されたことを契機に、カラフルホームランは創作の題材としても用いられるようになった。短編漫画では、主人公の少年が「色の見えるホームラン」を打つたびにチームの士気が上がるという、ほとんど青春スポ根ものの形で描かれた。
また、では、写真の一部だけが虹色に写った球場画像が「証拠」として貼られ、毎回「レンズのフレアだろう」という反論と、「いや、ボールの正体がまだ説明されていない」という再反論が起きた。こうした応酬が、伝説を消すどころかむしろ長寿化させたとみられている。
近年では、や短文投稿サービス上で、打球音に合わせて色が変わる編集動画が流行し、都市伝説は半ば演出のテンプレートとして定着した。なお、ある映像作家は「カラフルホームランは、見えるはずのない成功が色を持つ瞬間の比喩である」と解説したが、視聴者の多くは「要するに野球の怪談」と受け止めたという。
脚注[編集]
[1] この定義は後半の怪談紹介本に見られる説明をもとに再構成したものである。
[2] 「翌日の試合で逆方向への長打を打つ」という部分は、地方紙の投書欄で繰り返し現れる定型句である。
[3] との事例は、球場設備の差が語りの差として現れたものとされる。
[4] 当該資料はの社内文書として引用されるが、現物の所在は確認されていない。
[5] この時期の拡散には、テレビ番組表の誤記が影響したという説がある。
[6] 体育館での派生は、野球部外の生徒による二次的な再解釈と考えられている。
参考文献[編集]
佐伯悠介『球場怪談史:夜のグラウンドと色彩の噂』新潮社、2006年、pp. 114-139。
宮本理香『都市伝説としてのスポーツ文化』岩波書店、2011年、第2巻第3号、pp. 41-58。
T. Nakamura, "Chromatic Specters in Postwar Japanese Baseball Lore," Journal of Urban Myth Studies, Vol. 8, No. 2, 2014, pp. 77-103.
河合章人『少年野球と怪異の共有空間』筑摩書房、2003年、pp. 201-226。
Margaret L. Fenton, "Why Home Runs Turn Rainbow: A Media Folklore Approach," Folklore and Ballpark Review, Vol. 15, No. 1, 2017, pp. 9-34.
『全国怪談採録集・球技編』日本怪異研究会、1999年、pp. 56-71。
島田由佳『虹色の打球とその受容』現代書館、2020年、pp. 88-112。
G. H. Willis, "The Outfield Lights Phenomenon and Its Misreadings," Proceedings of the International Society for Popular Legends, Vol. 3, 2018, pp. 150-168。
小松原薫『夜間照明と民間伝承の誤差』東洋出版、2008年、pp. 19-45。
『怪談スポーツ新聞アーカイブ 第7号』スポーツ文化資料室、2015年、pp. 4-9。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯悠介『球場怪談史:夜のグラウンドと色彩の噂』新潮社、2006年、pp. 114-139.
- ^ 宮本理香『都市伝説としてのスポーツ文化』岩波書店、2011年、第2巻第3号、pp. 41-58.
- ^ T. Nakamura, "Chromatic Specters in Postwar Japanese Baseball Lore," Journal of Urban Myth Studies, Vol. 8, No. 2, 2014, pp. 77-103.
- ^ 河合章人『少年野球と怪異の共有空間』筑摩書房、2003年、pp. 201-226.
- ^ Margaret L. Fenton, "Why Home Runs Turn Rainbow: A Media Folklore Approach," Folklore and Ballpark Review, Vol. 15, No. 1, 2017, pp. 9-34.
- ^ 『全国怪談採録集・球技編』日本怪異研究会、1999年、pp. 56-71.
- ^ 島田由佳『虹色の打球とその受容』現代書館、2020年、pp. 88-112.
- ^ G. H. Willis, "The Outfield Lights Phenomenon and Its Misreadings," Proceedings of the International Society for Popular Legends, Vol. 3, 2018, pp. 150-168.
- ^ 小松原薫『夜間照明と民間伝承の誤差』東洋出版、2008年、pp. 19-45.
- ^ 『怪談スポーツ新聞アーカイブ 第7号』スポーツ文化資料室、2015年、pp. 4-9.
外部リンク
- 日本球場怪談アーカイブ
- 全国都市伝説口承研究会
- 虹色スポーツ民俗資料館
- 夜間照明と怪異の会
- 球技怪奇譚データベース