カレーの具材王座決定戦
| 正式名称 | カレーの具材王座決定戦 |
|---|---|
| 通称 | 具材王座戦、G-1 |
| 開始年 | 1968年 |
| 発祥地 | 神奈川県横浜市中区山下町 |
| 主催 | 日本具材審議会(旧・横浜家庭料理研究連盟) |
| 競技対象 | カレーの具材、香味野菜、隠し具材 |
| 審査方式 | 味覚・持久力・鍋内配置の三部門制 |
| 最多王者 | じゃがいも派(通算14回) |
| 標語 | 具材にこそ、国民性は宿る |
| 関連法令 | 調理競技振興暫定要綱(1974年) |
は、に用いられる具材の選定・配合・投入順序を競う競技企画である。にで始まったとされ、のちに家庭料理の分野を越えて、や外食産業を巻き込む一大文化現象となった[1]。
概要[編集]
カレーの具材王座決定戦は、に入れる具材の組み合わせを競う年次行事である。単なる人気投票ではなく、具材の切り方、投入の順序、煮崩れ耐性、翌日の再加熱適性までを含めて採点される点に特徴がある。
競技の成立には、戦後の食糧事情、百貨店の食品催事、そして沿線の家庭料理文化が複雑に関わったとされる。特にの港湾労働者向け食堂で行われていた「今日は何を入れるか」の議論が、やがて大会形式へと整えられたという説が有力である[2]。
歴史[編集]
創成期(1968年 - 1975年)[編集]
、近くの喫茶店「マドラス亭」において、常連客のが「具材こそカレーの格を決める」と主張したことが始まりとされる。翌月、同店の裏手にあったの会議室で第1回が開催され、出場は8組、観客は19人であった。
当初はとの優勢が続いたが、の第4回大会で、海軍出身の料理人・がを三段階で炒め分ける「飴色昇格法」を披露し、審査員が静まり返った事件が知られている。なお、このときの記録映像は、誤っての料理番組のテロップに重ねられたため、長らく公式資料として扱われなかった[3]。
全国展開[編集]
以降、大会は、、へと巡回し、地方ごとの「具材哲学」が競われるようになった。関西勢はの粘りを評価し、北海道勢はの保温性を重視する傾向が強く、審査はしばしば地域感情を伴うものとなった。
には、内に非公式の連絡窓口として「家庭鍋文化調整班」が設置されたとされ、具材の産地表示や寸法規格に関する通達が試験的に配布された。ただし、この通達は実務文書ではなく、都内の印刷所が余白に書いた「良いカレーは会議から始まる」という文言だけが独り歩きしたとも言われている。
テレビ化と制度化[編集]
、民放特番『全国具材王は誰だ』が平均視聴率18.4%を記録したことを受け、大会は一気に大衆化した。以後、審査項目に「開封時の香り」「ルー投入後5分の粘度変化」「翌朝の感動係数」が加えられ、競技としての厳密性が増した。
一方で、の第34回大会では、優勝候補とされた派の出場者が、実際にはを鶏肉に見立てる「擬装具材術」を使用していたことが判明し、準決勝終了後に失格となった。この事件は「具材のアイデンティティとは何か」という論争を呼び、以後の規定改定に大きな影響を与えた[4]。
競技方式[編集]
大会は個人戦・団体戦・家庭再現部門の三部門で構成される。審査員は料理研究家、舞台美術家、鍋底観察士の3系統から選出され、計11名で採点する仕組みである。
配点は100点満点で、味覚40点、構成30点、物語性20点、翌日性10点である。特に「物語性」は、なぜその具材を選んだのかを90秒で語る項目であり、ここで祖母の店、転勤、離婚、受験失敗などを絡めると加点されやすいとされる。なお、以降は「福神漬との距離感」も参考値として記録されるようになった。
大会の独特な作法として、具材はすべての認定試験場で一度だけ計量される。ここで1gでも誤差が出ると、翌年の「再挑戦権」に影響するとされているが、実際には係員の勘で調整されているとの指摘もある[5]。
主要派閥[編集]
王座戦の歴史は、具材ごとの派閥抗争の歴史でもある。最古参はであり、煮崩れを「味の浸透」とみなす思想が特徴である。対するは、先に肉を炒めて香りを立たせるべきと主張し、調理音まで重要視する。
は彩度と甘味の均衡を説き、は涙と加熱時間の相関を重視する。また、近年では、、などの新興勢力が登場しており、なかでもは「甘みの補助ではなく構造材である」として議論を呼んだ。これは科学的根拠が乏しい一方で、試食会では妙に支持があるとされる。
地方別では、の海軍系家庭で発達した、の独立系飲食店が推した、の島嶼文化と結びついたが知られる。とくには苦味が審査員の記憶に残るため、失点しやすいが再現性が高いという奇妙な評価を受けている。
社会的影響[編集]
王座決定戦は、家庭内の夕食決定権にまで影響を及ぼしたとされる。頃には、首都圏の一部小学校で「今日は何を入れるべきか」を児童が議論する総合学習が行われ、献立合意形成の教材として用いられた。
また、外食産業では「具材王座監修」を名乗る商品が増え、の棚に並ぶレトルトカレーの表記が年々長文化した。とくにの冬には、ある大手食品会社が「四国産じゃがいも・三層炒め玉ねぎ・追いにんじん入り」という商品を発売し、パッケージ裏面の説明文が1200字を超えたことで話題となった。
社会学の分野では、具材の選好が出身地、家族構成、鍋の容量と相関するという研究が複数発表されている。ただし、サンプルの多くが大会来場者であったため、いわゆる「カレー好き偏り」があると指摘されている[6]。
批判と論争[編集]
一部の料理人からは、王座決定戦が具材の序列化を進め、自由な家庭料理の発想を狭めるとの批判がある。特にの大会で、審査員が「具材の品位」を理由にを予選落ちにした判定は、SNS上で長く議論された。
また、運営母体である日本具材審議会が、過去の大会記録における「隠し具材加点」の基準を非公開としている点も問題視されている。大会史研究家のは、これを「家庭料理界におけるブラックボックス行政」と表現したが、本人はでの講演直後に、試食用のカレーを3杯おかわりしたため、発言の厳密性に疑義が残るとされる。
なお、大会は感染症対策のため無観客で実施されたが、オンライン審査画面に「鍋の湯気が見えない」との理由で再撮影指示が相次ぎ、結果的に通常大会より配信時間が42分長くなった。これは料理番組史上でも珍しい事例とされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『具材政治学入門』横浜家庭料理研究連盟, 1978年.
- ^ 田代信吾『飴色昇格法とその応用』料理文化出版社, 1982年.
- ^ Margaret A. Thornton, "Regional Bias in Curry Ingredient Voting", Journal of Domestic Food Studies, Vol. 14, No. 2, 2004, pp. 33-58.
- ^ 日本具材審議会編『具材王座決定戦 公式記録集 第1巻』港湾出版, 1996年.
- ^ 佐伯みどり『翌朝性の科学――レトルトと再加熱の社会史』白水社, 2009年.
- ^ K. Ishida, "The Semiotics of Onions in Postwar Yokohama", Culinary Anthropology Review, Vol. 8, No. 1, 2011, pp. 101-129.
- ^ 横浜家庭料理研究連盟『第4回大会実況速記録』私家版, 1972年.
- ^ 森下康介『鍋底観察士の仕事』東都書林, 2015年.
- ^ A. C. Bennett, "Starch Stability and Civic Rituals", International Journal of Sauce Mechanics, Vol. 3, No. 4, 2018, pp. 210-227.
- ^ 高橋玲子『カレー具材の王位継承と都市伝説』青楓社, 2021年.
- ^ 北条ゆかり『ちくわは王になれるか』料理評論社, 2014年.
外部リンク
- 日本具材審議会
- 横浜家庭料理アーカイブ
- 具材王座決定戦デジタル博物館
- 鍋内配置研究所
- 家庭料理文化史センター