カレー学会
| 成立 | 昭和末期の民間研究会が前身として発展 |
|---|---|
| 所在地 | (事務局) |
| 会長(名誉職を含む) | 輪番制とされるが実務は事務総長が握る |
| 主な活動 | 学会誌の発行、年次大会、カレー認証プログラム |
| 機関誌 | 『カレー学研究』ほか |
| 公称会員数 | 約28,000人(内部資料では変動ありとされる) |
| 重点分野 | 香気化学、官能評価、調理学、歴史口承学 |
カレー学会(かれーがっかい)は、を中心にカレーを多面的に研究・認証する学術団体である。会員数は公称で約2万8千人規模とされ、学会誌と年次大会によって「カレーの定義」と「製法の標準化」が議論されてきた[1]。
概要[編集]
カレー学会は、カレーを単なる料理としてではなく、香気・味覚・衛生・文化記憶を統合する対象として扱う団体である。研究対象は家庭用レシピから外食チェーンの品質管理まで幅広いとされ、特に「香りの再現性」を数値化する手法が重視されてきた[1]。
学会の中核的な成果としては、各種のカレーを「食感スペクトル」「ルー粘度曲線」「スパイス放散率」の三指標で分類する提案が挙げられる。また、年次大会では“黄金比”の議論だけでなく、香辛料の保管温度や攪拌速度に関する微細な規格が採択されることで知られている[2]。ただし、その厳密さゆえに「研究というより儀式」と揶揄されることもある。
学会の成立には、大学や行政ではなく、飲食店の共同体と計測機器メーカーの現場技術者が連携した事情があるとされる。一方で、後年には食品系の官庁や流通事業者とも接点を持つようになったとされ、認証が商標化の前段階として働いたという指摘もある[3]。
歴史[編集]
前史:『香りの時計』と即席勉強会[編集]
カレー学会の原型は、の業務用香料メーカーに勤める技術者が、厨房の換気フード下でスパイスの揮発を時系列で測定しようとした任意団体にあるとされる。彼らは1960年代末から「香りの立ち上がり」を秒単位で記録し、理科の自由研究のようにノートを共有していたといわれる[4]。
特に話題になったのが、カレーを鍋で温めた際に発する香気のピークが、厳密に“開始から何分何秒”で到達するかを争った会合である。内部の試算では、厨房の湿度が58%を超えるとピーク到達が平均で19.4秒遅延する、という一見もっともらしい数字が掲げられた[5]。のちにこの数字は、学会の理念である「香りは感覚ではなく計時である」というスローガンに転用されたとされる。
また、前史段階では「家庭鍋でも観測可能な装置」が必要だとして、簡易ガスセンサーと温度ロガーを組み合わせた計測キットが試作された。これが普及すると、全国各地の“カレー作りが研究活動になる”という雰囲気が広がり、同好会が学会へと移行する土台となったと推定されている[6]。
成立:規格化時代と“認証ルー”の登場[編集]
カレー学会が「学会」として正式に名乗ったのは56年(1981年)とされる。このとき、事務局はの小規模な出版社の二階に置かれ、初年度は年次大会の参加者が全国で1,203人と記録されている[7]。数字は少なく見えるが、議論の密度が高かったため「参加者が多いより議論が早い」という評価が広がった。
学会の象徴となったのが「認証ルー」制度である。認証では、官能評価の採点者を“舌の個体差補正”の名目で訓練し、さらにルーの粘度をブルックフィールド型の即席計測器で測る。規格の表記は細かく、「攪拌開始から60秒時点のルー粘度(単位は慣例的にcKUM)を、乾燥玉ねぎ由来成分の比で補正する」などと定められたとされる[8]。
もっとも、制度の運用は一枚岩ではなかった。ある地域分科会では「辛さは辛味の化学量ではなく、舌の“熱引き”に起因する」とする立場が根強く、認証が技術問題でなく哲学問題になりかけたという逸話がある[9]。この対立が、のちの論文スタイル(定量に定性を添える)が“学会の文法”として定着したとも指摘されている。
活動と研究領域[編集]
カレー学会では、研究領域を「調理学」「香気工学」「歴史口承学」「衛生統計」の4つに大別する体系が採用されている[2]。調理学はルーの焼き工程や煮込み時間の分散を扱い、香気工学では“スパイス放散率”を推定するモデルが用いられる。歴史口承学は、地域の老舗が守ってきた“無言のレシピ”を聞き書きとして記録し、衛生統計は香辛料の保存条件が家庭内の食中毒リスクに与える影響を推計するとされる。
年次大会では、口頭発表が増える一方で、学会員の間ではポスターよりも“試食プレゼン”が重視される傾向があった。試食は単なる感想ではなく、学会指定の評価シートに従い「香りの立ち上がり(t=)」や「舌触りの遷移点(Δ)」を記入する形式が採られたとされる[10]。この手法により、味の議論が口論から数表へ移行した点は一定の評価を得た。
ただし、この活動は社会的にも波紋を呼んだ。学会が採択する“認証基準”を掲げた店が増えたことで、地域の商店街が学会のイベントスポンサーを巡って分裂した例も知られている。特にの一部では、学会認証の有無が客層の選別に直結し、結果として「カレーが文化ではなくバッジ」になったのではないかという批判が出た[11]。
社会的影響[編集]
カレー学会の影響は、料理の世界にとどまらず、計測技術とメディアの結びつきとして現れたとされる。学会が推進した“家庭でできる計測”の理念は、後年のキッチン用センサー市場の拡大に寄与したと推定されている。実際、同学会が監修したとされる簡易香気チェッカーは、家電量販店の棚で「調味料売場の隣に置くと売れる」と提案され、陳列戦略として定着した[12]。
また、学会の文献は料理誌だけでなく、大学の公開講座にも転用された。たとえばの食品工学系ゼミでは、カレーの煮込み工程を“分散系の温度履歴問題”として扱う講義が組まれたとされる。ここでは学生が鍋の温度曲線を取り、学会のフォーマットに従って報告書を作成することが課題になった[13]。
一方で、社会には「カレーの定義をめぐる争い」が持ち込まれたともされる。学会が示す分類に入らない郷土料理が存在することから、「学会が“正しさ”を独占している」との反発もあった。学会側は「分類は対話のための道具である」とするが、道具が権威に変わる瞬間がいつも問題になると指摘されている[14]。
批判と論争[編集]
カレー学会には、科学性と文化性の境界に関する論争がある。批判の中心は、学会がしばしば“測れるものは真実に近い”という姿勢を取る点である。例えば認証ルーの基準において、官能評価を補正する係数が複数回改訂され、最終的に係数が“平均で0.73倍”とされるに至ったが、その根拠が分科会の口頭議事録に依存していると疑われた[15]。
また、学会誌の査読運用に関する疑念も取り沙汰された。ある時期、投稿論文が「香気工学」の枠に集中しすぎたため、歴史口承学が“添え物”扱いされたのではないかという不満が内部で出たとされる。実際、ある編集委員は「歴史はデータにならないが、データは歴史になる」と述べたと伝えられる[16]。
さらに、最も笑い話になりやすい論争が「学会が“正しいトロミ”を規定しすぎた」件である。某年次大会では、トロミの指標が急に細かくなり、「皿に注いだ瞬間から25秒で“糸を引くか”を判定する」という儀式めいた基準が提案された。これにより、一般参加者が帰り際に“糸引きの判定方法”だけ覚えてしまい、論文が読まれない事態が起きたと記録されている[17]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中壱郎『カレー学研究(創刊号からの軌跡)』カレー学会出版委員会, 1982.
- ^ Margaret A. Thornton『Aroma Kinetics of Simmered Curry Systems』International Journal of Culinary Physics, Vol. 12, No. 3, 1991.
- ^ 伊藤宗彦『香気の時計:家庭厨房におけるt=観測の実用化』調理計測学会, 1997.
- ^ Satoshi Watanabe『Viscosity Curves and the cKUM Convention in Roux Studies』Proceedings of the World Symposium on Sauce Dynamics, 第4巻第2号, 2003.
- ^ 【要出典】佐々木澄人『湿度58%がピーク19.4秒を遅らせる理由』キッチン・センサー研究会報, 第9号, 2005.
- ^ 中村玲奈『歴史口承学としての郷土カレー:聞き書きの方法論』民俗調理史学会, 2010.
- ^ Nguyen Thi Lien『Standardization Versus Localization in Spiced Stews: A Comparative Study』Asian Journal of Food Governance, Vol. 7, No. 1, pp. 33-51, 2014.
- ^ 山口誠一『舌の個体差補正と係数0.73の系譜』官能科学トランザクション, 第15巻第1号, pp. 120-144, 2016.
- ^ 鈴木朋樹『カレー学会年次大会の議事運用(試食プレゼンを中心に)』学会運営紀要, 2020.
- ^ Elena Petrov『Toward a Thermo-Sensory Definition of “Proper” Curry”』Journal of Heat and Taste, Vol. 19, No. 4, pp. 1-9, 2022.
外部リンク
- カレー学会公式アーカイブ
- 香気時計プロトコルサイト
- 認証ルー審査レポート閲覧ポータル
- 舌の個体差補正ガイド
- 年次大会試食プレゼン集