キングズリー・シャックルボルト一覧
| 対象 | キングズリー・シャックルボルト系拘束具 |
|---|---|
| 起源 | 1897年頃、ロンドン港湾局の技師集団による整理 |
| 主な用途 | 倉庫、鉱山、鉄道検札、港湾警備 |
| 分類数 | 通常12系統・地方変種31種 |
| 標準化文書 | 内務省通達HS-44号 |
| 命名の由来 | 設計主任E. Kingsleyと金具商Bolt & Co.に由来 |
| 現存資料 | 王立公文書館写本3点、民間収集票14点 |
| 通称 | KSB一覧 |
| 廃止 | 1938年の安全器具再編以後 |
キングズリー・シャックルボルト一覧(キングズリー・シャックルボルトいちらん)は、からにかけてで整備された、軽量拘束具とその派生機構を分類した一覧である。もともとはの港湾労務監督官が用いた装具目録に由来するとされ、のちにの準公文書として広まった[1]。
概要[編集]
キングズリー・シャックルボルト一覧は、と呼ばれる連結式拘束金具を、用途・長さ・解除方式ごとに整理した一覧である。一般にはの三分野で使われたとされるが、実際には祭礼用の臨時柵や舞台装置にも流用され、分類が妙に複雑になったことで知られている。
この一覧は、単なる製品カタログではなく、の実務官僚が「解ける危険」「外れやすい恐れ」「子どもが面白がる率」まで加味して作った半ば心理学的な文書であったとされる[2]。なお、1930年代にへ統合された後も、地方では旧来の呼称が強く残り、現在でも古物商の間では「KSB-7型」などの符丁で通じるという。
定義と範囲[編集]
一覧の対象となるのは、通常の鎖留め具ではなく、片手で外せるよう設計された可動式の留め金を中心とする。範囲には、拘束具、牽引用具、荷締め金具、さらにはの展示用複製品まで含まれることがあり、研究者のあいだでは「実用品一覧としては広すぎ、博物館資料としては狭すぎる」と評されている。
編纂の背景[編集]
編纂は、沿岸の保税倉庫で起きた「第七荷役事故」を受けて始まったとされる。事故後、は各地の留め具を一括調査したが、各施設で呼び名がばらばらだったため、監督官のが暫定分類表を作成したことが、後の一覧の原型になったという。
歴史[編集]
初期の整理期[編集]
最初期の資料では、は人物名ではなく「現場で最も多く呼ばれた姓」として記録されているが、のちに技師の署名が見つかり、名称の由来が修正された。もっとも、同時代の港湾新聞には「キングズリー氏は三人いた」と書かれており、どの人物を指すのかは今も確定していない[3]。
標準化と普及[編集]
には、、の三都市で同一表記が採用され、一覧は事実上の全国標準となった。とくには「最も外しにくいが、最も礼儀正しい」と評価され、港湾労務者の間で人気を集めたという。
衰退と保存[編集]
の安全器具再編令により、一覧は公的用途から外れたが、地方の競馬場や移動サーカスではなお使用された。保存運動はの機械史研究室と、の金具商組合によって主導され、現在は一部がの常設資料となっている。
一覧[編集]
### 基本型
KSB-1型(1898年) - 最初期の量産型で、左右非対称の留め金を採用していた。解除時に小さな金属音が鳴るため、倉庫では「歌う留め具」と呼ばれたが、夜警には不評であった。
KSB-2型(1899年) - 牽引用の補強環を追加した改良型である。試験では中の耐久成功を記録したが、残る1回は試験官が先に諦めたため失敗扱いになった。
KSB-3型(1901年) - 片手解放機構を備えた軽量型で、鉄道検札向けに設計された。だが現場では切符鋏として誤用される事例が相次ぎ、内務省が注意喚起を出した。
KSB-4型(1903年) - 一覧中もっとも有名な型で、港湾警備に広く用いられた。ボルト部に微細な花模様が刻まれており、これが「威圧性を和らげる」として礼拝堂の備品にも転用された。
KSB-5型(1904年) - 冬季向けに油脂保持溝を増やした寒冷地仕様である。北部の倉庫では高く評価されたが、では「手袋が汚れる」として嫌われた。
### 地域変種
KSB-L型 リヴァプール変種(1906年) - 船舶積荷用に輪部を拡大したもの。荷下ろし中に偶然、バンドネオン奏者の楽器ケース固定具として使われ、以後「音楽に強い型」と伝説化した。
KSB-M型 マンチェスター変種(1907年) - 工場内のパイプ束ね用に短縮された型である。綿工場の主任が「これは鎖ではなく文学だ」と評したとされるが、記録の出所は不明である。
KSB-G型 グラスゴー変種(1907年) - 解除レバーが厚手の手袋でも扱えるよう大型化された。だが大型化しすぎたため、祭礼用の山車に装着すると見た目がほぼ小型の門扉になった。
KSB-LA型 ロンドン港湾局仕様(1909年) - 公的記録上の正式型で、一覧の中核をなす。通達書では「見た目に比して誠実であること」と記されており、技術文書としては異様に人格的である。
KSB-R型 逆転式(1911年) - 通常とは逆方向に締まる特殊型で、誤用防止のために開発された。ところが実地では逆に誤解が増え、監督官の署名欄に「混乱した」と書かれた写本が残る。
### 亜種・逸話型
KSB-S型 静音仕様(1913年) - 夜間搬送のために接触音を抑えた型で、薄い革巻きが施されていた。ところが革の調達先が劇場用の余剰在庫であったため、初期ロットの一部は香水の匂いがしたという。
KSB-T型 教習用(1914年) - 新任職員向けに解除手順を誇張して示した教材型である。実物より15%ほど大きく作られたため、受講者は「これなら誰でも覚えられる」と言ったが、持ち上げるだけで体力を使った。
KSB-U型 祝祭保安用(1919年) - 戦後の帰還行事に合わせて作られた装飾強化型で、真鍮の飾り頭が付く。式典後に外し忘れる者が続出し、地方紙は「最も地味な記念品」と書いた。
KSB-V型 可変長連結式(1922年) - 部材を3段階で伸縮できるため万能型とされた。もっとも、伸ばしすぎると理論上の用途が先に尽きるとして、工学誌で軽い論争になった。
KSB-Z型 最終整理型(1929年) - 一覧の末尾に置かれた総括モデルで、標準部品の寄せ集めに見えるが、試験では異常な安定性を示した。設計主任は「これ以上洗練すると逆に品がなくなる」と述べたとされる[4]。
地方変種の扱い[編集]
地方変種は正式一覧では補遺扱いであるが、実務上はこちらの方が長く使われた。特にの炭鉱では、職員が自分たちで番号を付け直していたため、同じKSB-4型でも地区によって三種類の意味があったとされる。
非公式の愛称[編集]
一覧には載らない愛称も多く、KSB-3型は「切符喰い」、KSB-5型は「冬眠者」、KSB-LA型は「お上の輪」と呼ばれた。これらの俗称はの現場記録に多く残り、むしろ正式名称より保存状態が良い。
社会的影響[編集]
キングズリー・シャックルボルト一覧は、単なる金具分類を超えて、の現場文化に「道具にも格付けがある」という意識を広めたとされる。これにより、倉庫監督は道具箱を番号順に並べるようになり、結果として紛失率がからへ低下したという統計があるが、同時に作業員の間では「番号のせいで怒られやすくなった」との不満も増えた[5]。
また、美術・舞台分野への波及も見逃せない。の舞台装置班は、KSB-4型の花模様を模した仮設柵を好んで用い、の演劇祭では「拘束具が最も優美である」と批評家に書かれた。もっとも、観客の半数はそれを装飾ではなく安全柵だと思っていた。
さらに、児童向けの工作雑誌がKSB-1型を簡略化した紙模型を掲載したことで、一般家庭にまで認知が広がった。これが「英国の子どもは最初に鍵より留め具を覚える」といった奇妙な俗説を生み、教育界で一時話題になった。
行政への影響[編集]
は一覧の成功を受け、他の小型備品にも同様の分類法を試みたが、最終的に「傘立てと信号灯は対象にしない」と閣議で決まった。これは記録上、最も平和的な規制撤回の一つとされる。
地方経済との関係[編集]
の金具工房ではKSB系統の刻印を付けることで価格が上昇した時期があり、模倣品の取り締まりが問題になった。なお、真贋判定の決め手は「やたら丁寧に磨かれているかどうか」であったという。
批判と論争[編集]
一覧に対しては、当初から「実務上の必要以上に分類が細かい」との批判があった。とくにの法制学者は、1931年の論文で「これは金属学ではなく、役人による性格診断である」と述べたとされる[6]。
一方で、保守派の倉庫監督は「細かいからこそ事故が減る」と反論し、にはの倉庫で実地比較試験が行われた。結果は、一覧採用倉庫の方が施錠忘れは少なかったが、作業員の昼休みが平均長くなったため、評価が割れた。
また、KSB-Z型の存在をめぐっては、そもそも一覧の締めくくりとして後年追加された「編集上の飾り」に過ぎないのではないかという説もある。これに対して写本研究者は、Z型の余白にある鉛筆書きの「まだ終わらない」の一文を根拠に、むしろ当時の現場感覚をよく示すと主張している。
真贋論争[編集]
に発見された民間帳簿では、KSB-4型の記載がなぜか「栗色の留め金」と書かれており、原資料との整合性が問われた。研究者の間では、印刷の退色か、あるいは誰かが真面目に色名を足しただけかで意見が分かれている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Edmund Kingsley『Notes on Portable Restraint Fittings』The Thames Technical Review, Vol. 12, No. 3, 1902, pp. 41-58.
- ^ Margaret P. Horley『Administrative Nomenclature in Dockside Hardware』Cambridge Journal of Applied Bureaucracy, Vol. 4, No. 1, 1931, pp. 9-27.
- ^ Arthur E. Shacklebolt『The Seventh Cargo Incident and Its Consequences』Home Office Circular Series, 第18巻第2号, 1898, pp. 112-119.
- ^ William D. Norcross『A Comparative Survey of KSB Fasteners』Proceedings of the Royal Institute of Mechanical Arts, Vol. 19, No. 4, 1909, pp. 201-233.
- ^ Harriet M. Bell『Dockland Clasps and Civic Order』Liverpool Historical Monographs, 第7巻第1号, 1910, pp. 3-35.
- ^ George Fenwick『The Soft Violence of Classification』University of Glasgow Press, 1928.
- ^ 佐伯 恒一『港湾装具の系譜と番号制度』内海書房, 1954年.
- ^ 渡部 章『英国工業金具の美学と規格化』青嵐社, 1967年.
- ^ L. T. Wexford『On the Decorative Utility of KSB-4 Type』Journal of Stage Engineering, Vol. 8, No. 2, 1925, pp. 77-91.
- ^ 中井 俊夫『一覧表が現場を変えた日』王立工業史研究叢書, 1978年.
- ^ The Register of Curious Fastenings and Their Misapplications『Supplementary Catalogue of the Kingsley-Shacklebolt Series』London: Albion Archive Press, 1934.
外部リンク
- 王立工業博物館アーカイブ
- テムズ港湾史デジタル館
- 英国分類具研究会
- シャックルボルト文書保存協会
- 内務省旧式器具目録室