ケビンス
| 分野 | 即興コメディ(芸人芸) |
|---|---|
| 主な舞台 | バラエティ番組、公開収録、路上マイクイベント |
| 成立時期 | 1987年ごろ |
| 創始に関与したとされる人物 | 放送作家集団「軟性脚本会」 |
| 技法の核 | 『肯定→断定→訂正』の三段論法リズム |
| 代表的フレーズ | 「ケビンス、です(と差し出す)」 |
| 特徴 | 観客の口癖を“台本化”する即席編集 |
| 伝承形態 | 口伝と録音テープ(俗称:青い会話テープ) |
ケビンズ(けびんす)は、で活動したとされる「芸人」を核にした即興芸の流派である。発祥は後半の放送作家ネットワークにあるとされ、のちに全国放送番組での模倣芸やコント技法として拡散した[1]。
概要[編集]
は、ある芸人が“新語としての名前”を冠して広めたとされる即興芸の様式であり、特に漫才・コントの境界を曖昧にする技法として語られている。流派名は英語の固有名詞に見える一方で、実際には当時の作家がメモ欄に書いていた略称が語感で定着したものとされる。
この流派は、決め台詞の丸暗記ではなく、観客が発した一言を次の一拍で回収する「編集型即興」によって成立すると説明される。なお、成立事情には諸説あり、放送事故を避けるための“保険芸”として体系化されたという見方が有力である。
編集者の手になる解説では、技法の骨格として→→の三段階が挙げられ、これがテンポと笑いの種類を自動的に切り替えるとされる。もっとも、当時の現場記録が少ないため、各段階の具体例は“各所で伝承されたバリエーション”として扱われることが多い。
成立と伝播(物語的起源)[編集]
1987年「軟性脚本会」の“青い会話テープ”[編集]
起源として最もよく引用されるのは、にの深夜喫茶で開かれていた放送作家集団「軟性脚本会」に関する逸話である。逸話では、メンバーの一人が台本を作る際、言い回しを“柔らかく折り返す”癖を持っていたことが発端とされる。
ある夜、喫茶の時計が不正確で、収録開始が予定より7分早まった。その時に司会が「じゃ、今の気分で!」と言った瞬間、作家はメモを破り捨て、すでに録音してあった雑談テープから“同じ口調の言い直し”だけを抜き出して即興台本にした、と説明される[2]。
この手順が、のちに「青い会話テープ」と呼ばれ、ケビンズの基礎訓練として伝えられた。訓練では、テープの該当箇所を単位に区切り、肯定を、断定を、訂正をで言い切る“秒読み”が推奨されたとされる。細かさの割に根拠資料が薄い点は、却って伝説性を強めたとも指摘される。
放送作家の“安全装置”としてのケビンス[編集]
ケビンズが社会に広まる過程では、芸人側だけでなく、や民放の制作進行が“危険な沈黙”を減らすために技法を求めたという筋書きがある。具体的には、生放送で観客の反応が想定から外れた場合でも、笑いを「編集して再挿入」できる点が評価されたとされる。
ただし、評価の裏には規制回避の意図があったとする見方もある。たとえば、差し込みトークが不適切になりそうな時に、まず肯定で空気を掴み、断定で場をまとめ、最後に訂正で“別の意図”へ着地させることで、放送倫理審査の判定を先延ばしにした、という説明がなされる[3]。
この枠組みは、芸人の技術としては合理的である一方、視聴者には“言葉が反転していく気持ち悪さ”として伝わり、賛否が同時に生じたとされる。一部の研究者は、これがテレビ時代のコミュニケーションを「信頼」から「編集可能性」へ移した契機だと論じている。
技法と特徴[編集]
ケビンズの核技法は「三段階リズム」とされ、実際には、、の順序が絶対ではなく、場面により訂正が前倒しになる場合もあったと記録される。もっとも、基本形としては『今のは分かる(肯定)』『これはそうだ(断定)』『いや、今のは違う(訂正)』が標準とされる。
さらに、芸人の所作として「差し出す」が付随する。代表的な型では、相手に対して手を伸ばしながら“言葉だけを受け取る”ように見せ、最後に指先で空中を撫でて訂正を完了させる。ここで使われる道具は、必ずしも小道具ではなく、喋りの速度調整が役割を担うと説明される。
技法の細部として、観客の反応語を拾う際に、言い直しまでに必要な“聴取遅延”が平均であったとする伝承もある。統計の出所は不明であるが、ケビンズ講座のチラシには「遅延は笑いの温度」として図解が掲載されたとされる。
著名な“ケビンス由来”の芸人芸(架空事例)[編集]
ケビンズが“芸人の名前”として定着したことで、以後は直接的な流派名ではなく、技法の模倣として派生芸が増えた。ここでは、史料に基づくとして紹介される架空の事例を挙げる。
まず、沿線の公開収録で話題になった「駅名訂正コント」がある。芸人が「新宿でございます」と断定した瞬間、観客が「違う、渋谷!」と叫び、芸人はすぐに肯定→断定→訂正の順に言い直し「今の渋谷は新宿の夢でした」と着地させたとされる[4]。この型は、訂正の“意味のずらし”が視聴者に共有される点で評価された。
次に、深夜番組で広まった「天気差し出し漫談」がある。気象情報が遅延表示されることを逆手に取り、芸人が天気図を“差し出す”動作をしながら、断定で天気を当て、訂正で「当てたのはあなたです」と返すことで、観客の罪悪感を笑いに変えると説明された。
また、地方局で流行した「自治体回収ボケ」では、芸人が地名を言い間違えるたびに観客が訂正し、芸人がその訂正を肯定してさらに断定し、最後に自分の訂正を訂正する構造が“無限ループ芸”として扱われたという。
批判と論争[編集]
ケビンズには、単なる即興ではなく“言葉の編集”による説得が含まれるとして批判も生じた。特に、断定の強さが視聴者に一種の不信感を与え、訂正の回数が増えるほど“ごまかし”に見えるという指摘があったとされる。
一方で、擁護側は、ケビンズは不適切な状況でも会話を前に進めるための技能であり、訂正は誠実さの表現だと主張した。また、編集者や司会者の側では、生放送の安全運用に寄与したため「沈黙よりは訂正を」とする考えが広まったという[5]。
ただし、論争の焦点は倫理にとどまらず、芸の独自性にも向けられた。模倣が増えると三段階リズムが定型化し、結果として“誰でも同じテンポ”になったとして、1990年代に入ってから停滞したという見方も存在する。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 遠見サブロウ『即興芸の編集技法:三段階リズムの系譜』青砥書房, 1993.
- ^ 佐野マリナ『青い会話テープの真相:深夜喫茶の証言集』NHK出版, 2001.
- ^ Katherine A. Wills, "On Conditional Humor in Live Broadcasts," Journal of Broadcast Comedy, Vol. 12, No. 3, 1998, pp. 41-67.
- ^ 堀川ユウジ『放送倫理と訂正の文化』東京法制研究所, 2006.
- ^ 井上澄人『芸人の時間割:秒読みトレーニング実践記』幻灯舎, 1990.
- ^ M. Tanaka and R. O’Connell, "Audience Feedback and Laugh Latency," International Review of Performance Timing, Vol. 7, Issue 1, 2003, pp. 112-130.
- ^ 軟性脚本会編『雑談を台本にする技術』文芸企画局, 1989.
- ^ 鈴木ヒカル『駅名訂正コントの系譜』地方局研究会, 1997.
- ^ Pieter van Dijk, "Reparative Speech Acts in Variety Shows," Media Ethics Quarterly, Vol. 5, No. 2, 2009, pp. 9-28.
- ^ 片桐レン『ケビンス速習帳:完全版(第3巻第2号)』(書名表記が一部誤記とされる)桟橋社, 1992.
外部リンク
- ケビンズ即興講座アーカイブ
- 青い会話テープ資料室
- 放送作家会議録データベース
- 三段階リズム研究会
- 駅名訂正コント大全