『コーンスープの呪い』
| 作品名 | コーンスープの呪い |
|---|---|
| 原題 | The Curse of Corn Soup |
| 画像 | 架空ビジュアル(黄色い湯気と黒いスプーンのシルエット) |
| 画像サイズ | 200px |
| 画像解説 | 劇場チラシに描かれた「第3スプーンが鳴る夜」の予告図 |
| 監督 | 久遠寺ハルカ |
| 脚本 | 久遠寺ハルカ |
| 原作 | 『配給室手帳 第12号』ほか(壺見調査班による編纂) |
| 制作会社 | 壺見スタジオ |
| 配給 | 北霧映画配給 |
『コーンスープの呪い』(こーんすーぷののろい)は、[[1997年の映画|1997年11月8日]]に公開された[[壺見スタジオ]]制作の[[日本]]の[[アニメーション映画]]である。原作・脚本・監督は[[久遠寺ハルカ]]。興行収入は9.6億円で[1]、[[新東映画祭]]の最優秀幻想賞を受賞した[2]。
概要[編集]
『コーンスープの呪い』は、[[1997年]]公開の日本製アニメーション映画であり、<湿った郷愁>と称される“台所ホラー”の様式を確立した作品として知られている。物語の核は、消費期限を疑似的に延長する香草の調合法と、その代償として発生する「湯気の幻聴」である。
同作は、当時流行していた[[夕方アニメ]]の軽快さをあえて剥ぎ取り、[[大阪府]][[堺市]]の旧港倉庫をモデルにした閉塞感のある空間設計で観客の注意を固定した。なお、完成披露前に試写室の給湯器が突然停止した件が報じられ、監督の[[久遠寺ハルカ]]は「湯気だけが先に“到着”した」とコメントしたとされる[1]。
本作の象徴として、劇中で繰り返し登場する“第3スプーン”がある。これは単なる小道具ではなく、作中で3回目にスープをかき混ぜた人物の記憶が1秒ずつ欠落していく因子として設定されている。批評家からは「呪いを料理の工程として描いた稀有な映画」と評価された一方で、過剰な台詞回しが“説明過多”とも指摘された[2]。
あらすじ[編集]
[[2000年代]]に片足を突っ込んだ[[地方都市]]、旧倉庫を改修した配給センター「[[壺見配給室]]」では、非常時の簡易食として[[コーンスープ]]が配られていた。だが、配給室の統括官である[[松平ヨシノリ]]は、同スープが“期限の上書き”をしている可能性を指摘し、調査係の[[佐倉ミオ]]に帳簿照合を命じる。
佐倉ミオは、帳簿の余白に書かれた調合法「黄の灰は3粒、混ぜは左回り、湯気は消すな」を見つける。さらに、コーンを煮る鍋の底に刻まれた歪んだ刻印が、配給室の地下に眠る“湯気儀式”の記憶と一致していることが示唆される。
物語は、主人公が同スープを口にした夜から時間の縫い目が緩む構造で進む。第1の欠落は呼吸のリズム、第2は他人の名前、第3で“なぜそこにいるか”そのものが霞む。佐倉は欠落を埋めるため、鍋の前でひたすら作業工程を読み上げるが、湯気は逆に音声の録音時間を削り取っていくとされる。
終盤、配給室の天井裏から現れた古い案内板には「配給室は食を配るが、記憶もまた配られる」と刻まれていた。久遠寺監督はこの一文を“呪いのルール”として提示したとされ、観客は「コーンスープの呪い」が料理ではなく、配給という制度の比喩であることに気づかされる構造になっている。ただし制作資料では、制度比喩説を否定する記述もあり[3]、矛盾が読後感を増幅する。
登場人物[編集]
主要人物[編集]
佐倉ミオ(さくら みお) - 配給室の監査補助として登場する青年期の女性である。彼女は嗅覚が異常に敏感で、湯気に含まれる“金属っぽい甘さ”を記録するため、ノートに温度を℃ではなく「湯気の段数」で書き込む癖がある。作中では、ミオが湯気を3段で数えると1秒の欠落が止まるとされる[4]。
松平ヨシノリ(まつだいら よしのり) - 配給室統括官。合理主義者として描かれるが、倉庫の鍵を懐に入れる手つきだけは妙に儀式的である。彼は“呪いを排除するのではなく、仕様として扱え”と部下に言い、後半でその言葉が逆に呪いを定着させたと批判される。
久遠寺ハルカが設計した“映らない顔”の人物として、鍋番の男(名は劇中で伏せられる)がいる。鍋番は話す言葉が必ずワンテンポ遅れ、観客にだけ遅延の理由が提示されるよう演出されている。
その他[編集]
[[壺見配給室]]の事務員、[[高橋クミ]]は、スープ配布の際に必ず紙コップの縁を拭き直す。これは“湯気の尾”を拭う作法とされ、公開当時は「清掃描写が呪術っぽい」と評判になった。
また、警備担当の[[綾瀬ケイト]]は、事件後に警報ベルが鳴るたびに“同じ夢を見た”と供述するが、供述内容は最終的に上映時間の短縮と関連づけられている。なお、供述テキストは脚本段階で2度だけ差し替えられたとされる[5]。
声の出演またはキャスト[編集]
佐倉ミオ役は[[長谷川サキ]]、松平ヨシノリ役は[[石原ミツル]]が担当した。なお、鍋番の男は無名声優とされ、エンドロールでは“湯気担当”として表記されたとされる。
脇役の[[高橋クミ]]役は[[水城ユイ]]、綾瀬ケイト役は[[篠崎レナ]]である。配給室の来客係の[[岸川サエ]]は、台詞のない回であっても口元だけがわずかに動く演出が評価され、音響監督は「息だけが編集に先に行った」と語ったとされる[6]。
スタッフ[編集]
映像制作/製作委員会[編集]
制作は[[壺見スタジオ]]が担当し、製作委員会には[[北霧映画配給]]、地方放送の[[東関テレビ]]、冷凍食品メーカーの[[霧香フーズ]]が参加したとされる。製作費は公表資料で「総額1.43億円」とされるが、予算表の写しでは“1.429億”と記されており、端数の揺れが話題となった[7]。
本作の作画は、色数を意図的に削る方式で進められた。特に湯気のレイヤはRGBではなく「黄の濃度」「白の透け度」の2パラメータで管理されていたとされ、試写で最もクレームが出たのは、湯気が“熱そうに見えすぎる”点だったという。
製作過程(美術/CG・彩色・撮影/音楽/主題歌/着想の源)[編集]
美術監督は[[早乙女ノリオ]]である。倉庫の床材は[[大阪府]][[堺市]]の廃倉庫から実寸で採寸されたとされ、当時の取材メモでは「板の節が17個、異物が2つ」と細かく記録されている[8]。この“板の数え方”が、そのまま第2欠落(名前を失う場面)のテンポに転用されたとされる。
音楽は作曲家の[[神代リョウ]]が担当した。主題歌「[[湯気の向こう側]]」は[[霧香フーズ]]のCMソングとして先に制作され、歌詞に“かき混ぜは3回で十分”が入っていたことがのちに呪いの種になったという逸話がある。もっとも、監督は「歌詞は偶然一致した」と述べたが、スタッフ間では“偶然ではない”という空気もあったとされる[9]。
興行[編集]
『コーンスープの呪い』は[[1997年11月8日]]に全国ロードショー公開された。封切り初週の動員は推定で83,420人、興行収入は約1.8億円とされるが、地方ごとに集計の粒度が異なり、公式資料では「差異が生じた」とだけ記されている[10]。
宣伝では“無料スープ券”が配布された。券は紙コップの形に抜型され、同梱の注意書きには「飲む前に3回、紙コップを鳴らすこと」と書かれていた。結果として、配布後に一部地域で“紙コップが鳴らない”という通報が増え、映画館は「通常の製品不良です」と繰り返し発表したとされるが、批評では「映画側の演出が現実に波及した」と論じられた[11]。
また、公開後にリバイバル上映が行われ、[[2002年]]の特集上映では再編集により湯気描写のちらつきが軽減された。これにより“最恐版”とされる旧マスターとの差が生じ、ファンの間では「黄色い湯気の世代」論争が起きたとされる。
反響[編集]
批評家からは賛否が割れた。肯定派は、食の工程を時間の構造として扱った点を評価し、「湯気が鳴る間にしか真相へ近づけない」脚本の意地を称えた。一方で否定派は、欠落のメカニズム説明が“科学の皮を被った民間療法”のようだとし、論理性の不足を指摘したとされる[12]。
受賞歴では、[[新東映画祭]]の最優秀幻想賞のほか、[[日本アニメーション音響協会]]が選出した“息の演出賞”を受けたと報じられている。ノミネートとしては[[文化庁芸術選奨]]の映像部門に入ったが、最終選考直前に「台詞の欠落表現が言語的に不親切」との意見で議論が起きたという[13]。
同作は海外でも話題になり、英語字幕版では“第3スプーン”が“Third Spoon Clause”として説明補助に翻訳された。ところが字幕の注釈が原語のニュアンスからずれたため、評論家の[[Mark Sutherland]]は「呪いが法令のように聞こえる」と批判したとされるが、逆にそれが面白さだとも言われた。
テレビ放送[編集]
テレビ放送では、[[NHK名古屋放送局]]が特番枠で放送し、視聴率は9.1%を記録したとされる。放送時は湯気の効果音を一部抑えたため、配給室の“第2欠落の咳”が聞こえない地域があったという。
ホームメディアでは、DVDの色味に関するクレームが発生した。特に第1欠落の夜景が黄緑に寄り、視聴者が「呪いの色が違う」と投稿したとされる。結果として、後発ロットでは色補正マスクが差し替えられ、ケース裏には「黄色調整済」と小さく記載された。なお、この“黄色調整済”表記がファンの間で隠語になったとされる[14]。
関連商品[編集]
関連商品としては、コミカライズ『コーンスープの呪い 皿の記憶』([[1998年]])がある。原作に忠実であるとされつつ、漫画版では“鍋番の男の名前”が明かされ、逆に映画との差異が論争になった。
また、湯気を再現したという演出用CD『湯気音源・第3レイヤ』(音楽同梱)が発売された。収録時間は22分33秒で、同梱の注意書きでは「再生直後にかき混ぜないこと」とだけ書かれていたとされる[15]。
そのほか、学校給食の疑似メニューを再現するレシピブック『壺見配給室の台所』([[霧香フーズ]]監修)が刊行された。ページには“黄の灰は3粒”の項目があり、購入者の一部が実際に調合に挑戦したことで地域の福祉相談窓口へ問い合わせが増えたと報じられた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 久遠寺ハルカ「『コーンスープの呪い』の湯気レイヤ設計について」『壺見映像技法研究』第4巻第2号, pp.12-27, 1998年。
- ^ 神代リョウ「主題歌“湯気の向こう側”における三回混和の音楽的構造」『日本音響芸能論叢』Vol.11 No.3, pp.88-101, 1999年。
- ^ 松平ヨシノリ『配給は記憶を配るか』霧香フーズ出版, 2000年。
- ^ 長谷川サキ「欠落表現と声優の呼吸管理」『アニメーション声学通信』第7巻第1号, pp.45-63, 2001年。
- ^ Mark Sutherland「Third Spoon Clause: Food Horror in Late-Nineties Animation」『Journal of Comparative Spectacle』Vol.18 No.2, pp.201-223, 2002年。
- ^ 早乙女ノリオ「堺市倉庫床材の節数とタイミング編集」『美術設計季報』第19巻第4号, pp.5-19, 1997年。
- ^ 北霧映画配給 編『興行記録の揺れ:1997年ロードショー資料集』北霧アーカイブ, 2003年。
- ^ 東関テレビ「NHK名古屋特番枠の視聴傾向(速報)」『地域放送研究』第26巻第1号, pp.77-84, 1997年。
- ^ 日本アニメーション音響協会「息の演出賞選考評」『音響協会年報』第3号, pp.1-8, 1998年。
- ^ 文化庁『映像表現に関する意見聴取記録(仮題)』第2集, pp.33-40, 2000年(タイトルが一部誤記されているとされる)。
外部リンク
- 壺見スタジオ公式アーカイブ
- 北霧映画配給・作品データベース
- 新東映画祭データ室
- 湯気音源レビュー掲示板
- 紙コップ無料券調査ログ