ゴロピシャ
| 名称 | ゴロピシャ |
|---|---|
| 分類 | 衝撃整形・回転打撃法 |
| 起源 | 明治末期の東京帝国大学工学研究室 |
| 提唱者 | 黒川澄之助、マルガレーテ・A・ソーン |
| 主な用途 | 食品加工、試料圧密、資材試験 |
| 発展期 | 1920年代 - 1970年代 |
| 主要機関 | 帝国工業試験所、東京高等工業学校 |
| 特徴 | 「ころがし」と「打撃」を一定周期で切り替える |
| 別称 | 回打法、ピシャ圧 |
| 現在の評価 | 実用性は高いが再現条件が異常に細かい |
ゴロピシャは、主に円筒容器内で発生する低速回転と瞬間的な打撃を組み合わせたの一種である。日本では末期にの工学系研究室で体系化されたとされ、後にの食品工場やの資材試験にも応用された[1]。
概要[編集]
ゴロピシャは、円筒状の装置内で素材をゆるやかに転がしながら、要所で短い衝撃を与えて締め上げる技法である。名称は、試験機の作動音を記録したの技術日誌に由来するとされ、「ごろ」と「ぴしゃ」という擬音をそのまま工学用語に転用した例として知られている。
当初はのパッケージング技術を模倣したものと説明されたが、実際にはの中古機械商で入手した損傷ローラーが偶然よい結果を出したことが契機になったという説が有力である。なお、初期の論文では「回転衝撃圧縮」と記されていたが、査読者の一人が余白に書いた「ゴロピシャ」の走り書きが定着したとされる[2]。
成立の経緯[編集]
明治末期の試作[編集]
発明者とされる黒川澄之助は、に工学科の助手であった人物で、乾燥大豆を均一に潰すための装置を試作したとされる。彼はの菓子問屋から借りた木樽を改造し、内部に真鍮球を12個入れて回転させたが、球が壁を打つ音が大きすぎて、近隣の蕎麦店から苦情が3件出たという記録が残る[3]。
ソーン博士の介入[編集]
には、ドイツから招聘されたとされるマルガレーテ・A・ソーン博士が加わり、衝撃の間隔を「1.8秒から2.6秒の範囲で揺らすべきである」と提案した。彼女はで馬鈴薯加工の研究をしていたが、の試験場で初めてゴロピシャを見た際、「これは機械ではなく、礼儀正しい喧嘩である」と述べたと伝えられている[4]。
装置と手法[編集]
標準的なゴロピシャ装置は、回転槽、拍撃子、温度調整帯、そして「逃げ場」と呼ばれる緩衝区から成る。装置の寸法は時期により異なるが、帝国工業試験所の版標準では内径、長さ、拍撃子数が推奨されていた。
操作は単純に見えるが、実際には素材の含水率、槽内の回転数、拍撃子の材質、さらには操作者の足音まで影響するとされる。特にの実験報告では、作業員が木靴からゴム底に履き替えたところ歩留まりが改善したと記されているが、再現例は少ない[5]。
普及と応用[編集]
ゴロピシャは当初、で広まった。特にの乾物会社では、煎り豆の表面を均す工程に導入され、袋詰め後の割れ率が低下したとされる。これにより「見た目が地味なのに売れる」という評判がつき、戦前の中級贈答品市場で密かな定番になった。
一方での資材部門では、木箱の詰め替え工程に応用され、揺れに弱い部材をあらかじめ“慣らす”用途で用いられた。さらににはの前身組織が、仮設橋の継ぎ目検査に流用していたとされる。もっとも、資料の一部は会計監査の際に「用途不明の回転費」として処理されており、詳細は不明である[6]。
社会的影響[編集]
ゴロピシャは単なる加工法にとどまらず、都市の労働文化にも影響を与えたといわれる。の工場街では、始業前の予備回転を見た工員が互いに「今日はゴロり、午後はピシャだ」と言い合うようになり、そこから作業の緩急を表す俗語が生まれたという。
またにはの生活科学番組で取り上げられ、主婦層に「お茶うけの豆菓子がうまく締まる技」として紹介された。放送直後、関連書籍の注文が増えた一方、装置を自作しようとして湯たんぽを壊す事故が発生したとされる[7]。
批判と論争[編集]
ゴロピシャには、早くから「過剰な音響依存」であるという批判があった。とくにの金属工学講座では、同じ成果は通常の圧縮機でも得られるとして、1929年に否定的な報告を出している。ただしその報告書の余白には、担当教授が「しかし音は良い」と書き込んでいたため、完全な否定にはなっていない。
また、に刊行された業界誌『回転と衝撃』では、ゴロピシャの歴史が「実は戦時中の携帯炊飯器開発から逆輸入されたものである」とする説が掲載され、ちょっとした論争になった。だが翌号で筆者が「酒席で聞いた話を整えた」と認めたため、話題は半日ほどで沈静化した[8]。
現代の位置づけ[編集]
21世紀に入ると、ゴロピシャは主に文化史・工学史の両面から再評価されている。の一部ベンチャーでは、低騒音化した「静音ゴロピシャ」を試験導入し、グラノーラの粒度制御に用いたと発表した。もっとも、展示会では装置名だけが先行し、来場者の半数以上が健康器具だと思ったという。
にはの企画展「音のある機械」に関連して、小型模型が復元された。来場者アンケートでは「意味は分からないが妙に納得した」がを占め、学芸員は「これがゴロピシャの本質である」とコメントしたとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 黒川澄之助『回打圧縮機の試作とその異音について』東京帝国大学工学部紀要, 1913年, pp. 41-68.
- ^ M. A. Thornton, "Studies on Rolling-Strike Compaction in East Asian Food Packaging", Journal of Applied Mechanical Folklore, Vol. 7, No. 2, 1920, pp. 113-129.
- ^ 帝国工業試験所『ゴロピシャ装置標準案』技報第14号, 1927年, pp. 5-19.
- ^ 渡辺精一郎『音響を伴う圧密法の文化史』工学評論社, 1934年.
- ^ 佐伯みどり「乾物加工における回転打撃の歩留まり」『食品工業研究』第22巻第4号, 1951年, pp. 201-216.
- ^ Margaret A. Thorne, "The Gentle Violence of Cylindrical Tamping", Proceedings of the Anglo-Japanese Institute, Vol. 3, 1958, pp. 9-31.
- ^ 『回転と衝撃』編集部『特集・ゴロピシャ再考』第11巻第1号, 1978年, pp. 2-47.
- ^ 小林和也『家庭における簡易ゴロピシャ装置の危険性』生活機械安全協会, 1963年.
- ^ 菊池玲子「静音化された回打法の試験運用」『材料と音響』第18巻第3号, 2002年, pp. 77-90.
- ^ 北村壮一『音の工学史におけるゴロピシャ現象』日本技術史出版会, 2020年, pp. 155-184.
外部リンク
- 国際ゴロピシャ協会
- 帝国工業試験所デジタルアーカイブ
- 音のある機械 展示解説ページ
- 回打法研究会
- 生活機械安全協会 旧報告書庫