サイレンマイ
サイレンマイ(さいれんまい)は、の都市伝説の一種[1]。夜間に一定のリズムで鳴る「サイレンのような声」を手がかりに、出没するという話が伝承されている[2]。
概要[編集]
は、夜の住宅街や鉄道の高架下で目撃されたとされる都市伝説である。噂では、単なる物音ではなく「呼びかけ」として聞こえるため、恐怖が増幅されるとされる[3]。
起源は地方の交通事故防止キャンペーンにあるという説があり、一定の周波数で“救助要請”に似た音声が混ざるのが特徴だとされる。全国に広まったのは、深夜に投稿された「聞こえた瞬間のメモ音声」がきっかけだった、と言われている[4]。
別称として、などとも呼ばれる。いずれも「姿は見えないのに、心の方が誘導される」という点で共通するとされる[5]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、1968年にが実施した「住宅地サイレン聴取訓練」に求める説が最も多い。訓練では“誤報でも同じ手順で通報せよ”と指導され、その指導資料に「SIR-EN(救急)+MAI(街の合図)」という暗号が記されたと語られている[6]。
ただし当時の資料の所在は曖昧で、噂によれば、の保管倉庫で火災があり、台本だけが行方不明になったとされる。そこで欠落を埋める形で、町内会の広報係が“読み上げ用の怪談”としてを創作した、という話が広まった[7]。
この起源説は、周波数が「117.3Hz」付近で聞こえるという細かな目撃談と結びつきやすい。なお117.3Hzは、当時の街頭スピーカーの実測値という体裁で語られているが、裏付けは示されていないとされる[8]。
流布の経緯[編集]
流布の経緯として語られるのは、1999年頃ので起きた“放送事故”である。夜間の校内放送が勝手に再生され、終盤にだけ短い囁き声が混入していたという目撃談が出たとされる[9]。
このとき、放送係が録音した「0:07〜0:09の部分だけ聞き取れない」というメモが、のちにネット掲示板で引用された。その断片がの“合図の時間”として扱われ、噂が噂を呼ぶ形で全国に広まった、と言われている[10]。
さらに2008年には、の地域特番を模した動画が流通したが、実在の放送とは別物だったという指摘もある。ただし、同じ台詞回しがいくつも改変されていったため、マスメディアが火をつけたのではないか、と噂の中心は残った[11]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承では、は「人ではないが、人に近い音程で近づく妖怪」とされる。姿は目撃されたとされず、代わりに“制服の襟に触れられた感覚”だけが残る、と恐怖とともに語られている[12]。
出没すると言われるのは、次の条件が揃う夜であるとされる。第一に、雨上がりの路面が光り、第二に踏切の警報が一度だけ空振りすること、第三に時計の秒針が「23秒で一度だけ不自然に重くなる」こと——この三つが揃うと目撃談が集中するとされる[13]。
また、正体に関しては諸説ある。一方で、サイレンの周波数に共鳴することで“耳の奥に幻聴を生成する”存在だという説があり、他方で「子どもの頃の呼び声の記憶が化け物になった」とする怪談も存在する[14]。
伝承の決めゼリフとして「返事をしてはいけない」と繰り返される。聞こえた瞬間に、誰もが思わず“はい”と言いそうになるのに、逆に言葉を出すほど不気味さが増す、と言われている[15]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
委細は、出没パターンが“楽曲”のように整理されている点が特徴である。派生では、などのバリエーション名が付けられ、「短調は近くで、長調は遠くで鳴る」と語られている[16]。
また、地域差として周辺では「水たまりの縁を撫でるような足音がする」とされ、では「通勤ラッシュの切れ目にだけ合図が入る」とされる。いずれも“姿は見えないが、行動だけが誘導される”という点で共通している[17]。
さらに、学校の怪談としての派生もある。噂では、で小さなランプが2回点滅し、その直後に廊下の端から「こっち、こっち」と聞こえるとされる。言い伝えは「点滅の回数が2回なら安全、3回なら走るな」とまで細かいが、根拠は示されないとされる[18]。
一部では、サイレンの“間”が重要だとされ、前半が7拍、後半が3拍で揃うと「誘導モード」になるという説がある。噂の中には「8拍目に名前が入る」というさらに細かい目撃談もあり、数字好きの語り手により強化されていると考えられる[19]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は、恐怖を増幅させないための儀式めいた行動として語られている。最初に勧められるのは、サイレンに気づいた瞬間、口の中で「あいうえお」を“言わずに形だけ動かす”ことである。噂ではこれにより返事の回路が閉じるとされ、目撃談の多くがこの方法を挙げている[20]。
次に「窓を開けない」が挙げられる。サイレンが室外から聞こえるほど近づくため、開けた瞬間に音が身体へ“吸い込まれる”と言われている[21]。
さらに、地域の伝承では「歩道橋の下を通らない」とされる。理由として、橋の反響でサイレンマイの“長調・短調”が混ざり、判断ができなくなるためだとされる。なお、この対処法はが発行した安全啓発冊子に似た体裁で語られることがあるが、実在するかは不明とされる[22]。
最終手段として、スマートフォンの録音を“開始”するな、という逆説が流布している。録音ボタンを押す行為が合図になるため、という話が怖いとされる[23]。
社会的影響[編集]
は“夜の安全”の言説を都市伝説の形で補強した存在として扱われることがある。たとえば、噂が広まった地域では、深夜のサイレンや放送に対し、通報手順を再確認する人が増えたとされる[24]。
一方で、恐怖が先行してパニックになる例も語られている。具体的には、2016年にで「サイレンマイと同じリズム」が聞こえたとする騒ぎがあり、結果として誤通報が急増したという話がある。誤通報は「24時間で97件、うち警察官への誤連絡が31件」という細かい数字で語られることがあるが、統計の出所は定かではない[25]。
この都市伝説は、マスメディアの“注意喚起”と混ざりやすかった。結果として、注意喚起の文言がそのまま呪文のように引用され、怪談が強化される循環が起きたと指摘されている[26]。
また、ネット上では「サイレンマイ測定」という観測遊びが流行した。音程を分析し、117.3Hz近辺なら“本物”、別の周波数なら“偽物”と判定する投稿が増えたが、聴覚は個人差が大きいことから、正体が結局のところ音響条件の集合である可能性も指摘される[27]。
文化・メディアでの扱い[編集]
文化面では、短編小説や同人誌で「救助の合図が転倒して恋や呼び出しに変わる妖怪」として描かれることが多い。特に、出没条件が数式のように列挙される点が、怪談の演出と相性が良いとされる[28]。
メディアでは、ホラー番組の再現VTRに“聞き取れない囁き声”が挿入されることがある。ただし、番組側がを名指しすることは少なく、「夜間サイレンにまつわる怪奇譚」としてぼかされるのが通例だと言われている[29]。
学校の怪談としては、放送部の部誌に「音の間」を譜面のように書き起こす試みが掲載された例がある。そこでは「7拍+3拍=誘導」といった説明が添えられ、結果として“意味がある数字”が固定化されたとされる[30]。
なお、インターネットの文化としては、オリジナルの音声素材に対して「サイレンマイのオフセット補正」などの編集手法が広まった。元の噂の怖さとは別方向に遊ばれ、ブームが学習コンテンツと混ざることで、都市伝説がより現実の生活に近づいたと考えられている[31]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
1. 田中圭一『夜間放送の怪奇譚—サイレンと囁きの社会史』東京書房, 2012.
2. 警視庁『住宅地サイレン聴取訓練資料(復刻版)』警備局広報課, 1971.
3. 佐伯みなと『周波数心理と都市伝説の相関(第2報)』日本音響民俗学会, Vol.12 No.3, pp.41-59, 2006.
4. 鈴木咲耶『“返事してはいけない”言説の伝播』メディア研究会紀要, 第8巻第1号, pp.101-132, 2010.
5. 高橋竜馬『妖怪としてのサウンドデザイン』青藍大学出版部, 2018.
6. 渡辺精一郎『怪談の編集技法と不気味さの設計』昭和文庫, 1996.
7. International Folklore Acoustics『Urban Legends and Alarm-Tone Misperception』Vol.7, No.2, pp.77-98, 2014.
8. 山川ユウ『未確認動物と同型の“聴覚儀式”』ホラー社会学雑誌, 第5巻第4号, pp.12-30, 2020.
9. 大塚美紗『地域特番の“類似表現”問題—NHKに似た動画の波』テレビ批評叢書, pp.201-219, 2009.
10. 藤原幸生『学校の怪談における放送室神話』文教社, 2003.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中圭一『夜間放送の怪奇譚—サイレンと囁きの社会史』東京書房, 2012.
- ^ 警視庁『住宅地サイレン聴取訓練資料(復刻版)』警備局広報課, 1971.
- ^ 佐伯みなと『周波数心理と都市伝説の相関(第2報)』日本音響民俗学会, Vol.12 No.3, pp.41-59, 2006.
- ^ 鈴木咲耶『“返事してはいけない”言説の伝播』メディア研究会紀要, 第8巻第1号, pp.101-132, 2010.
- ^ 高橋竜馬『妖怪としてのサウンドデザイン』青藍大学出版部, 2018.
- ^ 渡辺精一郎『怪談の編集技法と不気味さの設計』昭和文庫, 1996.
- ^ International Folklore Acoustics『Urban Legends and Alarm-Tone Misperception』Vol.7, No.2, pp.77-98, 2014.
- ^ 山川ユウ『未確認動物と同型の“聴覚儀式”』ホラー社会学雑誌, 第5巻第4号, pp.12-30, 2020.
- ^ 大塚美紗『地域特番の“類似表現”問題—NHKに似た動画の波』テレビ批評叢書, pp.201-219, 2009.
- ^ 藤原幸生『学校の怪談における放送室神話』文教社, 2003.
外部リンク
- サイレンマイ研究会のアーカイブ
- 夜間放送怪談データベース(非公式)
- 都市伝説音響実験ラボ
- 学校怪談フォーラム:放送室の章
- 周波数民俗ノート