ショーティーボーティー
| 名称 | ショーティーボーティー |
|---|---|
| 英語 | Shorty Boatty |
| 分類 | 港湾小型艇・物流思想 |
| 起源 | 1968年ごろ、東京湾岸 |
| 提唱者 | 田所重雄、マーガレット・L・ヘインズ |
| 主な用途 | 短距離荷役、潮待ち回避、仮設浮桟橋 |
| 特徴 | 全長に対して極端に低い乾舷と、片舷偏重の荷重設計 |
| 関連機関 | 運輸省港湾技術試験所 |
ショーティーボーティー(英: Shorty Boatty)は、の湾岸倉庫地帯で発展したとされる、低床・短艇型の小型運搬艇およびその運用思想を指す語である。後半にの間で広まったとされ、のちにとの境界領域を象徴する概念として知られる[1]。
概要[編集]
ショーティーボーティーは、一般には「短くて背の低い船」と説明されることが多いが、実際にはやの倉庫群で用いられた、荷役のための超低床小型艇の総称であるとされる。名称は英語風であるものの、英語圏ではほぼ定着せず、むしろの港湾労働史に固有の俗語として扱われてきた。
この概念が注目された背景には、40年代のコンテナ化初期における「大型化できない夜間荷役」の問題があった。潮位差が大きいでは、標準的な艀では接岸角度が合わないことが多く、そこで高さを極限まで下げた艇体と、荷物を人力で滑らせるための“ぬれ板”が採用されたとされる[2]。
歴史[編集]
発生の経緯[編集]
起源は、の旧倉庫街にあった「第七码待避バース」で試作された木造艇「S-7短艇」に求められることが多い。設計を行ったのは、の技師であったと、米国の港湾顧問であったで、彼らは通常の船体幅ではドラム缶搬入時に転覆余裕度が不足すると判断した。
翌年のには、甲板高を通常の艀の約62%まで下げた試作1号艇「SB-1」が完成し、現場ではその見た目から「ショーティー」と呼ばれた。なお、船体後部に小さな推進機関室を積んだため、操船者のあいだでは「ボーティーが付いた短いやつ」という意味でショーティーボーティーと略称されたとの説が有力である[3]。
普及と規格化[編集]
には、の内部報告書で「短艇型荷役ユニット」として整理され、同年秋の実地試験で、1日あたり平均18.4トンの雑貨を通常比1.7倍の速さで移送したとされる。もっとも、この数値は試験参加者が3名しかいなかったため、後年の研究では再現性に疑義が出ている。
には、高潮時の接岸補助具としても応用され、倉庫側壁に沿って浮かべるだけで即席の作業台になることから、港湾事務所では「浮く脚立」とも呼ばれた。これにより、ショーティーボーティーは単なる船舶ではなく、仮設作業インフラとしての性格を持つようになった。
衰退と再評価[編集]
に入ると、と高床式バースの普及により、ショーティーボーティーの実用性は急速に低下した。特にの改良工事以降、乾舷の低さがむしろ危険要素とみなされ、保険料が年率で最大3.9倍に跳ね上がった記録がある。
ただし、後半には「昭和港湾遺産」ブームの一環として再評価が進み、での企画展「短い船の長い夜」(1998年)を契機に、模型愛好家のあいだで人気が再燃した。現在では、実船よりも図面・標語・積荷記録を含む文化史資料として研究されることが多い。
技術的特徴[編集]
ショーティーボーティーの最大の特徴は、全長7〜11メートル級でありながら、甲板面が水面上およそ28〜46センチに抑えられていた点である。これにより、重量物の積み下ろし時に「持ち上げる」のではなく「横へずらす」動作が可能になり、腰痛率が約23%低下したとする内部統計が残っている。
また、船底には独特の“潮返し舳”が設けられ、波が船腹を打つと荷台側へ水流を逃がす仕組みになっていた。これはの観点からはかなり無理がある設計であり、実際には海水よりも作業員の怒声を減衰させる効果が大きかったともいわれる[4]。
社会的影響[編集]
ショーティーボーティーは、港湾作業の効率化だけでなく、労働者文化にも影響を及ぼした。とりわけや周辺では、短い艇体にちなんだ方言混じりの掛け声が生まれ、「ショートでも、潮は待たん」という標語が朝礼で用いられたとされる。
一方で、港湾行政との関係は必ずしも円滑ではなかった。の通達では、作業員が艇上で湯を沸かす行為が「浮遊調理」として安全衛生上の問題にされたが、現場ではむしろ紅茶を煮出すための不可欠な儀式として受け入れられていた。後年、この慣習は「ティー・ボーティング」として観光化され、の一部で再現イベントが行われたこともある。
批判と論争[編集]
ショーティーボーティーをめぐっては、そもそも実在したのかという根本的な批判がある。とくににの前身機関でまとめられた調査では、関係者12名の証言が互いに食い違い、艇名の綴りも「Shorty Booty」「Shorty Bawty」など7種類に分かれていたため、後世の研究者は「記憶の中で肥大した現場用語」とみなしている。
また、低床化による荷役効率の向上は確認されている一方で、波浪条件の悪い日には艇体がほぼ波間に沈み、荷物だけが先に岸へ届く事故が少なくなかった。とくにのでは、木箱24個のうち23個が先行して上陸し、残る1個だけが艇とともに回送された事案があり、これが「一箱遅れのショーティー事件」として地方紙に小さく報じられている。
関連文化[編集]
ショーティーボーティーは港湾実務を離れ、やがて模型、音楽、飲食の分野にまで波及した。模型界ではの「超短艇シリーズ」が定番となり、ので発表された試作品は、実物以上に安定して浮くと評された。
音楽面では、後半にのローカルバンドが「Shorty Boatty Blues」を発表し、サビの「低く、短く、遠くへ」という一節だけが独り歩きした。さらに、港湾食として供されていた塩気の強い乾パンと濃い紅茶の組み合わせが、のちに「ショーティーセット」として一部の喫茶店メニューに採用された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田所重雄『短艇型荷役ユニットの実験記録』運輸省港湾技術試験所報告, 第18巻第2号, 1969, pp. 41-77.
- ^ Margaret L. Haines, “Low-Deck Barges in Tidal Urban Ports,” Journal of Harbor Mechanics, Vol. 7, No. 3, 1972, pp. 112-138.
- ^ 日本港湾協会『短艇型搬送体に関する内部整理資料』東京港湾資料室, 1971, pp. 5-19.
- ^ 佐伯英二『潮位差と仮設浮体の関係』海事工学評論, 第12巻第1号, 1975, pp. 88-104.
- ^ Tadokoro, Shigeo; Haines, Margaret L., “The Shorty Boatty Problem: A Modular Approach,” Proceedings of the Pacific Port Conference, Vol. 4, 1974, pp. 203-219.
- ^ 神戸港湾史編集委員会『神戸港における短艇運用の変遷』神戸港湾文化出版, 1976, pp. 63-91.
- ^ 池田妙子『港湾労働語彙の成立と消滅』労働史研究, 第9巻第4号, 1988, pp. 17-33.
- ^ William H. Cartwright, “A Short Vessel with a Long Shadow,” Maritime Folklore Quarterly, Vol. 15, No. 1, 1999, pp. 1-26.
- ^ 横浜みなと博物館編『短い船の長い夜 展覧会図録』横浜市歴史博物館出版, 1998, pp. 2-58.
- ^ 中村いと『ショーティーボーティー考 ――浮く脚立の思想』港湾文化叢書, 第3巻第5号, 2004, pp. 101-129.
外部リンク
- 港湾文化デジタルアーカイブ
- 昭和短艇研究会
- 横浜港物流史資料室
- Shorty Boatty Memorial Project
- 浮体工学民俗辞典