シートロメイキング
| 分類 | 層状成形・擬似織物技法 |
|---|---|
| 主用途 | 装飾材、梱包材、軽量パネル |
| 中心工程 | 層の“撚り”と加圧乾燥 |
| 代表的素材 | セルロースシート、再生繊維 |
| 開発の場 | 都市近郊の工房群(日本) |
| 関連分野 | 版画、紙工、内装設計 |
| 普及期 | 1970年代後半〜1990年代 |
シートロメイキング(英: Sheet Loomaking)は、状の素材を“層ごとに撚り合わせる”工程を中心に据えた、との中間領域の技法である。特にに見える均一な面を短時間で量産できる点から、戦後の工房文化とともに広く知られている[1]。
概要[編集]
シートロメイキングは、表面の“織り目”に相当する凹凸を、物理的な糸織りではなくの層構造によって作る技法であるとして説明されることが多い。具体的には、セルロース系の薄膜(または再生繊維の平板)を複数枚重ね、微細な角度差を与えた状態で加圧し、乾燥工程で層同士を“撚り合ったような見え”に固定する方法が中心に据えられている[1]。
一見すると紙工に近いが、特徴として挙げられるのは「織物の視覚」を再現するための幾何学的な制御である。たとえば工房の作業標準書では、層間のずらし角を0.8度刻みで管理し、圧力は“目視では分からない程度に強い”とされるが、記録上は毎回 72.4kPa 前後に収束させるよう指示されていたとされる[2]。
また、社会的には「軽量で、破れても繕える」という性質が好まれ、やの現場で一時期“万能の壁紙”のように使われたとされる。そのため技法の名は、作り手のあいだでは半ば冗談めいて「ロメ=“留める”の方言説」「メイキング=“作業の儀式”」などと語られ、学術文献と現場の言葉がねじれた状態で定着していったことが指摘されている[3]。
歴史[編集]
起源:製紙工場の“誤差”が発明者になった日[編集]
シートロメイキングの起源は、製紙会社(所在地は寄りの架空社名として知られる)で、厚み調整の失敗をきっかけに生まれたとされる。1956年当時、同社の品質管理担当であったは、乾燥棚の風向が季節で変わり、シートが“うっすら斜めに撚れる”状態になることに気づいたとされる[4]。
渡辺はその斜れを「欠陥」ではなく「視覚的な織り目の種」と解釈し、社内で秘密裏に“層のずらし実験”を開始した。記録によれば、最初の試作では層数が17枚で、圧縮時間は 9分12秒、そして乾燥の到達温度が 46℃に設定されたが、完成品が不意に布のような光沢を帯びたため、作業員が思わず「網を編んでるみたいだ」と叫んだという[4]。
このエピソードはのちに、雑誌の連載で“誤差の哲学”として脚色され、数値が徐々に丸められながらも残った。特に「9分12秒」という秒までの残り方は、編集者が「読者が信じやすい形に整えた」と回想され、実際の現場では測定器が壊れていたという別の証言もある[5]。
普及:都市内装と展示産業が“擬似織物”を求めた[編集]
1960年代後半、の展示会場と内装業界では、軽量で短納期の壁面材への需要が増していたとされる。ここでシートロメイキングは「本物の布を貼らずに、布っぽさを作る」技法として語られ、メーカーと試作工房が共同で規格化を進めたとされる[6]。
1978年、が発行したとされる「JCSR-78:層面擬似織物指標」では、織り目の“立ち上がり高さ”を 0.32〜0.41mm の範囲に収めることが推奨された。これにより、工房ごとの出来のばらつきが統計的に可視化され、規格準拠品が増えたという[6]。
ただし、普及が加速すると同時に“規格外の色むら”が問題化した。1983年の大規模展示「東京サテン・フェア」では、照明角度によってパネル表面が縞に見える現象が起き、主催の担当部署が臨時の注意喚起を出したとされる。面白いことに、その縞が“なぜか高級に見える”という声もあり、以後シートロメイキングは「失敗の品質設計」として再解釈されていったと報告されている[7]。
転機:電子制御乾燥機が“撚り”を神秘にした[編集]
1990年代に入り、乾燥工程を電子制御する試みが広まると、シートロメイキングは急に“科学っぽい儀式”になっていった。特にの工房連合で採用された乾燥機は、温度・湿度だけでなく「層間電位差」を間接指標として記録していたとされる。連合の技術顧問は、記録紙に残る折れ曲がりが“撚りの痕跡”であると説明し、弟子たちはその線を「青い弧」と呼んだという[8]。
この呼称は後年、学術寄りの解釈へと変換され、「撚り=電位差の整流による界面固定」という理屈が一部で採用された。ただし同時期には、現場では電位差計が実際に正しく校正されていなかった疑いも出ており、「神秘化が先行して計測が後追いになった」との批判が出た[9]。
それでも技法としての魅力は残り、シートロメイキングは“短時間で表情が得られる制作手段”として、学生の課題から商業の販促什器まで幅広く採用されるようになった。結果として、作家ごとの呼び方(層撚り法、面擬織、紙織面成形など)が乱立し、言葉の多様性が技術の拡張を後押ししたとされる[10]。
製法と特徴[編集]
工程は一般に、(1)素材シートの裁断、(2)層のずらし配置、(3)加圧(撚り方向の付与)、(4)乾燥固定、(5)表面の“織り目再生”処理の順で説明されることが多い[2]。とくに(3)の加圧は、単に圧力を上げるのではなく、押し当て面を 3.5mm だけ逃がす“逃げ加工”が鍵とされる。工房の見習い向け冊子では「逃げるほど織りが立つ」と断言されている[11]。
材料の配合は、セルロース系シートに少量の再生繊維パルプを混ぜる形が典型である。ただし配合比は一定しておらず、の工房では「パルプ比率は 12.7% が最も“耳が立つ”」と記された資料が残っている一方で、別の工房では 15%を推すなど幅がある[12]。
表面処理としては、薄い染色膜を“織り目の谷だけに残す”発想が取られることがある。ここで不思議な現象として、同じ色でも湿度 58% を境に縞の出方が反転する、とされる。この境界値は現場で何度も再現されたと主張されているが、当時の湿度計の設置位置が異なっていたという指摘もあり、真偽が揺れている[2]。
社会的影響[編集]
シートロメイキングは、工芸の文脈だけでなく、都市の“見せるインフラ”に浸透した。短期イベントの装飾では、搬入のしやすさ(厚さを最終的に 1.8〜2.2mm に揃える運用があったとされる)から採用が進んだとされる[7]。
また、教育現場では「手先の技能よりも、条件設定の技能を鍛える」制作課題として広まった。授業案では、学生に対して“層数を最初は 9枚で、失敗したら 11枚へ”と段階的に指示するのが定番だったとされる[13]。これにより失敗の学習が形式化し、作る前に仕様を立てる文化が育ったという。
一方で、調達の側面では、擬似織物の需要が紙系資材の相場に波及したという観測もある。特に再生繊維の調達価格が季節により変動し、工房が原材料の在庫を抱え込んでしまうケースが報告された。2001年のの議事録では、在庫回転が平均で 2.3回転から 1.6回転に落ちたと記されており、技術の普及が経営の不安定化につながったと解釈された[14]。
批判と論争[編集]
批判の中心は、シートロメイキングが“織り”と名乗ることの妥当性にある。従来の産業側からは、糸や縦横の構造を伴わない擬似性が問題視され、「織りの盗用」とまで表現されたことがあったとされる[15]。
また、起源物語の信憑性にも疑いが向けられた。渡辺精一郎の“9分12秒”は象徴的に語られたが、当時の計測器が壊れていた可能性を示す資料が後に出回り、「神話としての時間」が優先されたのではないかと指摘されている[5]。
加えて、安全面では、乾燥時に発生する微粒子の扱いが問題視された。工房の換気基準を満たさないまま試作を続けた例が地域で報告され、の観点から指導が入ったとされる。ただし具体的な事故件数は資料により異なり、「2件」とするものと「7件」とするものが混在している[16]。この曖昧さこそが、百科事典的記述において“要注意な定番”として残っている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎「層面の“斜れ”が織り目を生む可能性について」『工房通信』第12巻第3号, 1957年, pp.12-19.
- ^ 高瀬藍斗「乾燥工程における電位差の観測と界面固定の試み」『日本材料加工学会誌』Vol.41 No.2, 1994年, pp.77-86.
- ^ 山根謙介「擬似織物の視覚工学:照明角度と縞の関係」『照明設計研究』第8巻第1号, 1984年, pp.33-41.
- ^ 北埼テクニカルペーパー品質管理部「JCSR-78試験記録(仮)」『繊維資材年報』第5巻, 1979年, pp.201-214.
- ^ 中村由莉「9分12秒の再現性:工芸神話の統計的検討」『美術史技法論集』第2巻第4号, 2006年, pp.91-108.
- ^ 日本工芸資材規格協会編『JCSR-78:層面擬似織物指標』日本工芸資材規格協会, 1978年.
- ^ 田中章「短期イベント装飾における軽量パネル素材としての層撚り法」『展示産業研究』Vol.9 No.6, 1991年, pp.145-152.
- ^ 労働安全環境研究会「乾燥室内の微粒子リスク評価と換気基準(試案)」『産業衛生研究報告』第18巻第2号, 2003年, pp.50-63.
- ^ Kobayashi, R. “Layered Visual Weave in Cellulose Sheets: A Field Report.” 『Journal of Applied Craft Engineering』Vol.27 No.1, 1998年, pp.1-11.
- ^ Thompson, Margaret A. “Pseudo-Textile Effects in Temporary Interiors.” 『International Review of Display Materials』Vol.3 No.4, 2001年, pp.210-229.
外部リンク
- シートロメイキング資料庫
- 層撚り工房アーカイブ
- JCSR-78運用メモ
- 照明角度研究室
- 展示産業バックナンバー