スリーブロック(髪型)
| 分類 | カット・スタイリング技法(髪型) |
|---|---|
| 特徴 | 三層ブロック構造、毛束の立ち上げと境界の明瞭さ |
| 主な用途 | 演劇・撮影・制服/衣装連動デザイン |
| 発祥とされる地域 | 東京都新宿区周辺(理美容甲子園の派生文化) |
| 代表的な技術要素 | 境界ラインの「錨(いかり)付け」、三段スプレー乾燥 |
| 関連産業 | 衣装制作、スタイリング剤開発、舞台照明 |
| 普及の転機 | 1990年代後半の“頭部設計”ブーム |
スリーブロック(髪型)(Slee Block (Hairstyle))は、毛束を三層の「ブロック」として規則的に立ち上げる日本の髪型である。特に舞台衣装の設計と連動して発展した経緯があり、プロの現場では「頭部の梁(はり)を組む」技法としても語られている[1]。
概要[編集]
スリーブロック(髪型)は、髪を上・中・下の三層に分けて「ブロック」として成立させ、各層の境界をわずかに立ち上げることで輪郭を作る髪型である。表面だけ整えるのではなく、層間の“落差”が光と影の比率を決めるとして説明されることが多い。
成立の背景には、単なる流行よりも、衣装と連動した「頭部の設計学」があったとする説がある。具体的には、舞台用の装飾が増えるほど、帽子やウィッグではなく地毛で“立体的な幕”を作る必要が生じ、理美容現場において三層の規格化が求められたとされている。
名称の由来は諸説あるが、最も広く参照されるのは、1960年代末にNHKの番組制作チームが採用した「袖(そで)に見立てた三層ブロック」表現である。そこで“スリーブロック”と呼ばれる比喩が定着し、のちに髪の技術名として転用されたとされる[2]。
歴史[編集]
発祥:理美容ではなく“舞台照明の要請”から生まれたとする説[編集]
スリーブロックは、理美容学校の技術体系としてではなく、舞台照明の台本段取りから生まれたとする見解がある。舞台照明技師の(当時、港区の照明会社「桐生照明技研」所属)によれば、スポット光が頭頂部に当たる角度で、髪の影が「幕の縫い目」のように破れる問題が発生したという[3]。
この対策として、髪の影が一枚の曲面になるよう“三層のブロック”にカットし、層ごとに乾燥を分ける手順が試験されたとされる。記録によると、最初の実験ではスプレーの噴射回数を「上:12回、中:7回、下:5回」と固定し、さらにドライヤーの距離を「各層ごとに28cm」で揃えたとされる。細部にこだわる点が、後年の技術解説書に“分厚い熱量”として残ったとされる[4]。
なお、初期の段階では“ブロック”の境界を線状に出すため、シャンプーのすすぎ時間まで指定された。ある回のメモでは、頭頂側のすすぎを「1分40秒」、側頭側を「1分18秒」としている。ただし、この数値は後に再現性の低さが指摘され、現在では目安として扱われることが多い。
制度化:新宿の“理美容甲子園”が規格を作ったとする物語[編集]
スリーブロックが一気に知名度を得たのは、東京都新宿区で開催された「理美容甲子園」がきっかけだとする言説がある。そこでは作品評価が“作品の高さ”ではなく、“影の整合性”で測られたため、髪を立体として設計する技法が優勝しやすかったとされる。
この大会運営の補助金は、当時のが「若手の創造的造形支援」として計上したと記録されている(ただし、資料の所在については異説がある)。審査基準の内部資料には、スリーブロックの判定として「輪郭線のブレが±0.8度以内」「層間の落差が3.2〜3.6mm」など、なぜか工学的な言葉が併記されていたという[5]。
その結果、全国の美容室で“三層ブロックの規格カット”が模倣されるようになった。一方で、実務では刈り上げやパーマと混線し、別の髪型として誤認されるケースも増えた。この混線が、のちの「スリーブロックは境界を“錨付け”する」という補助理論の整備へとつながったとされる。
社会への影響:撮影・衣装・広告の“設計思想”が波及した[編集]
1990年代後半、映画・ドラマの制作において“頭部の設計”が注目されるようになり、スリーブロックは「ライティングに耐える輪郭」として広告撮影に採用されたとする話がある。特に渋谷区のスタジオ連合が、眉上〜側頭部の影の面積を定量化しようとした際に、三層構造の再現性が評価されたという[6]。
この潮流は理美容にとどまらず、衣装デザインにも波及した。衣装会社「三角衣装研究所」では、ジャケットのシルエット(上部の張り・中部の落ち・下部の重み)を、髪の層に対応させる提案書が作られたとされる。提案書では、髪の上層を“襟(えり)相当”、中層を“肩ライン相当”、下層を“裾(すそ)相当”と呼んだ。
ただし、ここでの影の設計が過剰に進み、日常生活では「近距離で不自然に“きれいすぎる”」という批判が出た。これが後年の“生活用スリーブロック”への改良(境界ラインを太くしすぎない等)を促したとされる。
技術と用語[編集]
スリーブロックの要点は、毛束を三層に分け、各層の“立ち上がり角”と“境界の締まり”を揃える点にあるとされる。美容師の間では、上層を「Top Block」、中層を「Middle Anchor」、下層を「Bottom Slope」のように呼ぶ流派もある。
特に「境界ラインの錨付け(いかりづけ)」が重要な工程とされる。これは、層間の境界に微量の粘性剤を当て、毛束が滑って崩れないよう固定する考え方である。ある解説では、錨付けに使うワックスの量が「米粒の1/3」などと表現され、妙に具体的である点が特徴とされる[7]。
また、乾燥手順は“分割”が推奨される。三層それぞれを同じ風量で乾かすのではなく、上層は「熱風:40秒」、中層は「冷風:35秒」、下層は「熱風:25秒」とする手順が紹介されたことがある。さらに、最終仕上げとして「層境界のみブラシを二往復」といった細則が、教科書の編集過程で強調されたと説明される[8]。
批判と論争[編集]
スリーブロックは、見た目の再現性が高い一方で、生活用途では“過設計”になりやすいと批判されることがある。とくに、境界ラインを強く出しすぎると、雨天時に毛束が固まり、頭部の“型崩れ”が目立つという指摘がある。
また、規格化された数値(例:層間の落差をmm単位で合わせる)を過度に信じた結果、髪質の個体差を無視する施術が増えたともされる。美容業界紙では、1990年代の一時期に「スリーブロック事故」が業務報告として複数出たとされるが、当時の定義が曖昧だったため、統計化はされなかったとされる[9]。
一方で肯定的な立場からは、スリーブロックは“髪を傷める技法”ではなく、むしろ設計を分けることでブロー時間を減らし得る、と反論されることがある。ただし、反論の根拠となった調査がどの団体によってまとめられたかについては、編集者間で異なる記述が残っている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯ユウマ「舞台スポットと頭部影の整合性に関する試算」『照明技研報』第12巻第3号, 1996, pp. 41-58.
- ^ 田村サヤカ「スリーブロックという比喩の転用史」『放送制作文化研究』Vol.8 No.1, 2001, pp. 12-29.
- ^ 鈴木健人「三層ブロックカットの再現性と毛流の安定化」『日本理美容工学会誌』第5巻第2号, 1998, pp. 77-95.
- ^ 中野ハルカ「錨付け工程の粘性指標—米粒1/3の意味」『スタイリング科学』Vol.3 第4号, 2003, pp. 103-121.
- ^ 公益社団法人理美容技術振興協会「理美容甲子園の審査基準に関する整理」『技術振興年報』第19巻, 1997, pp. 210-233.
- ^ 渡辺精一郎「輪郭の工学:±0.8度基準の検討」『造形計測通信』Vol.21 No.2, 1995, pp. 9-26.
- ^ M. A. Thornton「Lighting-Responsive Hairstyles in Late-Modern Media」『Journal of Stagecraft』Vol.14 No.2, 2005, pp. 55-74.
- ^ A. K. Ramirez「Layered Hair Geometry and Film Continuity」『International Review of Cosmetology』第7巻第1号, 2009, pp. 1-18.
- ^ 三角衣装研究所編『襟・肩・裾の対応設計書』三角企画出版, 1999, pp. 33-60.
- ^ 『スリーブロック完全読本』新宿美容法学館, 2012, pp. 1-280.
外部リンク
- 理美容甲子園アーカイブ
- 桐生照明技研 研究室
- 日本スタイリング科学会サイト
- 渋谷スタジオ連合 取材メモ
- 衣装と髪の対応データベース