スレンダーマンとファットマン
スレンダーマンとファットマン(すれんだーまんとふぁっとまん)とは、の都市伝説の一種[1]。極端に痩せた男と極端に太った男が対になって現れ、噂を広めた者の家の階段を逆方向に上り下りすると言われている。
概要[編集]
スレンダーマンとファットマンは、末から初頭にかけてのを起点に広まったとされる都市伝説である。二人は同一人物の分裂した姿とも、あるいはとを結ぶ深夜バスの車内でのみ目撃される対の怪異とも言われている。
伝承では、スレンダーマンは細長い黒服の男として、ファットマンは白いスーツに身を包んだ太った男として現れることが多い。いずれも顔がはっきりしないという点で共通し、目撃者は「自分の影が一瞬だけ二つに分かれた」と証言することが多いとされる[1]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源については諸説あるが、最も有力とされるのは夏にの深夜営業をしていた輸入雑貨店で、店員が防犯カメラのノイズに写った二つの人影を「痩せた方」と「太った方」と見分けたことに始まるという説である。これが近隣の高校生の間で語られ、のちに『細身の男と肥満の男が互いを呼び合う』という形に変化したとされる。
一方で、の学習塾で配布されたプリントに、図形の説明用イラストとして不自然に細い人物と丸い人物が並んでいたことが発端だとする説もある。このプリントは回収されるはずであったが、なぜかコピー機のメモリに残り、数か月後には系の匿名掲示板に転載されたという[要出典]。
流布の経緯[編集]
ごろには、写真付きメールのチェーンがの高校生を中心に広まり、受信した者は24時間以内に「二人のどちらかを見た」と返信しないと、翌朝の通学路で片方の靴だけが極端に重くなると恐れられた。これにより、噂は一種の自己増殖型のとして機能したとされる。
また、には深夜番組の心霊特集で「スレンダーマンとファットマンは都市の体脂肪率の偏りが可視化したもの」と解説され、かえって全国に広まった。番組内では、の歩道橋で撮影されたとする映像が用いられたが、映像の人物は実際には風邪薬の宣伝用マネキンだったという指摘がある。
噂に見る人物像[編集]
スレンダーマンは、身長が2メートルを超え、腕がやけに長く、常にを締めているとされる。都市伝説としては珍しく、目撃者に対して直接危害を加えるより先に、背後で名刺のようなものを置いていくという特徴があると語られている。
ファットマンは、これに対して腹部だけでなく肩幅も大きく、歩くたびに床がわずかに沈むとされる。噂の中では、コンビニの棚を一列だけ空にする、改札でICカードを二回タッチする、エレベーターの定員を必ず1人超過させるなど、妙に具体的な行動が多い。
二人は対照的でありながら、どちらも「恐怖を与えるのではなく、目撃者の生活リズムを1日だけ狂わせる」点で共通している。これが本件の正体をより不気味にしているとされる。
伝承の内容[編集]
伝承では、スレンダーマンとファットマンは必ず二人一組で現れ、片方だけを見た場合は「まだ始まっていない」状態にすぎないという。二人が同時に視界の左右端に入ると、時計が7分だけ遅れる、あるいはの到着時刻が表示より早くなるといった現象が起きるとされる。
また、両者は雨の日にのみ交差点で出没し、信号が青から赤に変わる瞬間にだけ輪郭が鮮明になるという。目撃談の多くは、、など、人工照明が強すぎて人の体型認識が揺らぎやすい場所に集中している。
伝承の中でも特に有名なのは、スレンダーマンが細い指でレシートの端を折り、ファットマンがその折り目を見てうなずくという場面である。この仕草は「噂が成立した合図」とされ、以後、その場所では一週間ほど同じ話題を三人以上が重ねて話すようになるという。
委細と派生[編集]
各地では、スレンダーマンとファットマンの組み合わせにさまざまな派生が生まれた。たとえばでは、二人が雪道の足跡を「細い跡」と「丸い跡」に分けて残すとされ、足跡を重ねると翌朝には消えるという。これを見た者は、除雪車の轍を幽霊と勘違いしたとも伝えられている。
では、二人が漫才師のように口論する「掛け合い型」の伝承があり、スレンダーマンが短い一句を言うと、ファットマンがそれを三倍の長さで言い返すという。この派生は特に若年層に人気があり、2000年代半ばには学校の廊下で真似をする生徒が急増した。
では、自動販売機の前に立つと二人が交代で硬貨を落とし、最後に落ちた100円玉だけがなぜか冷たいという怪談が語られた。またでは、二人が除雪された歩道の脇に立ち、通行人のコートの厚さを見比べるという、やけに実務的なバリエーションが存在する。
噂にみる対処法[編集]
対処法として最もよく知られているのは、鏡の前で自分の体型をあえて大げさに言い換える方法である。たとえば痩せ型の者は「今日は横幅がある」と、体格の大きい者は「今日は影が薄い」と三回唱えると、二人の関心が移るとされる。
また、ファットマンには菓子パンを、スレンダーマンには乾いた割り箸を供えると去るという言い伝えもある。ただし、この方法は内の一部でしか効かず、逆に二人が翌朝のゴミ収集車の側面に現れるという報告もある。
最も確実とされるのは、深夜に体重計の上で立ったまま動かず、表示が安定するまで待つことである。数字が偶数ならスレンダーマン、奇数ならファットマンが通り過ぎた証拠だというが、実際には体重計の電池切れであることが多いとされる。
社会的影響[編集]
この都市伝説は、やを舞台とする噂の増加に影響を与えたとされ、2000年代の一部雑誌では「体型対比型怪談ブーム」の先駆けとして紹介された。とりわけの間では、二人を模したいたずら用の人形が流通し、文化祭の出し物として定着した学校もあった。
一方で、過度に具体的な体格描写がを助長するとの批判もあり、の一部は「怪談としては教育的であるが、食事指導としては不適切」として掲示を自粛させたという。なお、の地域調査では、噂を知っていると答えた小学生が68.4%に達したが、二人を実際に見たと答えた者は2.1%にとどまった[要出典]。
文化・メディアでの扱い[編集]
上では、二人を並べた画像が「左右の極」としてミーム化し、スレンダーマンを細い縦書き、ファットマンを太い横書きで表現するテンプレートが流行した。これにより、都市伝説は単なる恐怖譚ではなく、レイアウトと体格の対比を楽しむへと変質したとされる。
には深夜ラジオ番組『』で取り上げられ、投稿者が「二人はいつもエレベーターの定員表示を見ている」と証言したことで話題になった。また、地方の自主制作ホラー短編『細い人と太い人のいる路地』では、二人が実在しないにもかかわらず、エンドロールに協力者としての名が載っていたことが知られている。
さらに、のネットニュースでは、二人の存在を検証する企画が組まれ、取材班がからまで徒歩で追跡した結果、6時間で体重が1.8キロ変動したと報じられた。これは都市伝説というより、深夜の炭水化物摂取の影響であるとする見方が強い。
脚注[編集]
[1] 「スレンダーマンとファットマン伝承集成」『都市伝説研究』第14巻第2号、2017年、pp. 41-58。 [2] 佐伯健一『深夜都市の対称怪異』青陵出版、2009年。 [3] Y. Tanaka, "Twin Body Apparitions in Post-Bubble Japan," Journal of Urban Folklore, Vol. 22, No. 3, 2015, pp. 119-137. [4] 望月玲子「体型差を伴う怪談の伝播経路」『民俗とメディア』第8巻第1号、2011年、pp. 3-19。 [5] D. A. Miller, "The Slender-Fat Phenomenon and Public Fear," Contemporary Myth Studies, Vol. 9, No. 4, 2018, pp. 201-223。 [6] 中野絵里子『掲示板怪談の拡散構造』港北社、2012年。 [7] 石川修一「ファットマン像の成立とその重心」『都市伝説年報』第6巻第2号、2010年、pp. 77-90。 [8] H. Watanabe, "On the Etiquette of Encountering Paired Phantoms," Folklore Review, Vol. 31, No. 1, 2020, pp. 8-24。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯健一『深夜都市の対称怪異』青陵出版, 2009.
- ^ 望月玲子『体型差を伴う怪談の伝播経路』風濤社, 2011.
- ^ 中野絵里子『掲示板怪談の拡散構造』港北社, 2012.
- ^ 田中勇介『匿名掲示板と怪異の増殖』新都書房, 2014.
- ^ Y. Tanaka, "Twin Body Apparitions in Post-Bubble Japan," Journal of Urban Folklore, Vol. 22, No. 3, 2015, pp. 119-137.
- ^ 石川修一『ファットマン像の成立とその重心』東方民俗出版, 2010.
- ^ D. A. Miller, "The Slender-Fat Phenomenon and Public Fear," Contemporary Myth Studies, Vol. 9, No. 4, 2018, pp. 201-223.
- ^ 黒崎由美『都市伝説の身体性』黎明社, 2016.
- ^ H. Watanabe, "On the Etiquette of Encountering Paired Phantoms," Folklore Review, Vol. 31, No. 1, 2020, pp. 8-24.
- ^ 高橋恵子「関東圏における二体怪異の受容」『民俗メディア学報』第12巻第2号, 2021, pp. 55-74.
- ^ M. Sato, "The Weight of Rumor: Paired Legends in Japanese Suburbs," Urban Myth Quarterly, Vol. 7, No. 2, 2019, pp. 33-49.
- ^ 『夜の保健室』編『ラジオ怪談アーカイブ 2004-2014』夜間放送協会, 2015.
外部リンク
- 都市伝説博物館デジタルアーカイブ
- 深夜怪談研究会
- 掲示板怪異年表
- 関東都市伝説保存会
- 夜話インデックス