ズンドコベロンチョ
| 名称 | ズンドコベロンチョ |
|---|---|
| 別名 | ZB式集団掛け声法 |
| 起源 | 1974年ごろの東京都下の商業娯楽圏 |
| 発案者 | 田口 三郎、松浦ミキ子ほかとされる |
| 分類 | 発声儀礼・即興舞踊・対話型合図 |
| 普及地域 | 関東地方を中心に全国へ拡散 |
| 主な用途 | 催事進行、士気高揚、場の沈黙回避 |
| 関連団体 | 日本ズンドコ協会(後身組織) |
ズンドコベロンチョは、後期ので体系化されたとされる、発声・振付・即興合図を組み合わせた都市型の集団表現である。現在ではの催事から深夜番組、地域防災訓練の余興に至るまで、用途不明のまま広く知られている[1]。
概要[編集]
ズンドコベロンチョは、一定のリズムで「ズン」「ドコ」「ベロン」「チョ」を唱えつつ、両手を胸元から外側へ開く独特の所作を伴う慣習的表現である。もともとはの小規模な商店会における福引進行のために整備されたとされるが、その後、即興性の高さから系の深夜番組や地域イベントに採用され、半ば方言のように流通した[1]。
その語感から冗談めいた扱いを受けることが多いが、関係者の証言では、会場の緊張をほぐす「緩衝句」として機能していたとされる。また、発声の末尾を曖昧に伸ばすことにより、進行役の失敗を笑いに転化しやすいという利点があった。なお、東京都生活文化局の1981年報告書には、当時の町会行事の約17.4%で類似の掛け声が確認されたとの記述がある[2]。
歴史[編集]
成立[編集]
通説では、夏に高円寺の仮設盆踊り会場で、進行係のが拡声器のハウリングを誤魔化すために発した「ズン」と、屋台側の呼応「ドコ」が偶然連結し、さらに露店の女性責任者が拍子取りとして「ベロンチョ」と付け足したのが始まりとされる。翌年、町会有志がこの三音を統一規格化し、手振り・足踏み・視線誘導を含めた「ZB式進行手順」を作成した[3]。
この初期版は、現在の形と比べると動作がかなり厳格で、1回の実演に要する時間は標準で4分12秒、誤差は±18秒以内と定められていた。ただし、雨天時には「ベロン」の後に沈黙を2拍挟むという奇妙な補則があり、記録係のメモには「濡れた床ではチョの着地音が響きすぎる」とある。
普及[編集]
1980年代前半、の地域文化特集で取り上げられたことを契機に、ズンドコベロンチョは一気に認知度を高めた。とりわけとの公民館活動で変形版が流行し、会議冒頭の沈黙を埋める簡易版「ベロチョ・ショート」が若年層に受け入れられたとされる[4]。
一方で、拡散に伴い解釈の揺れが生じた。関西では「ズン」を強調する派と「ベロン」の長音を重視する派が対立し、1987年の枚方市大会では、両派が同一ステージ上で同時進行したため、観客がどちらに手拍子を合わせるべきか分からず、結果として全員が最も大きな拍手を送るという逆説的な成功を収めた。
制度化と衰退論[編集]
1990年代にはの外郭調査により、ズンドコベロンチョは「非言語的共同体維持技法」の一類型として扱われるようになった。1996年には『地域催事における間の取り方に関する手引』の附録Bに収録され、自治体向け研修の教材としても配布されたが、文章量の割に実演時間が短いため、受講者のほとんどが昼食前に内容を忘れたとされる[5]。
2000年代以降は、携帯電話の着信音文化やMC主体のイベント形式に押され、実演機会が減少した。ただし、の一部連では、今なお開幕前の士気高揚として断片的に継承されており、2022年の調査では参加連37団体中9団体が何らかの形で「ズンドコ」系の掛け声を用いていた。
語源[編集]
「ズン」と「ドコ」については、打楽器的模倣音であるとする説が有力である。一方、「ベロンチョ」については、機材トラブルで垂れたテープ端を指す業界隠語に由来するという説と、の飲食店で使われていた割り勘確認の合図だったという説が並立している[6]。
なお、近年の言語学的再検討では、語全体が無意味な擬音ではなく、「場の温度を下げないまま話題を切り替える」機能語として再解釈されている。ただし、国立国語研究所の非公開草案に「意味は後付けである可能性が高い」との一文があり、これが研究者間でしばしば引用される。
実演様式[編集]
標準的なズンドコベロンチョは、6拍子風の反復に合わせて、右手を上げる、左手を添える、肩を落とす、視線を外す、最後に全員で「チョ」と唱和する、という五段階から成る。熟練者はここに微細な膝の抜き方を加え、観客に「何か始まるが何も始まらない」感覚を与えることが重視された[7]。
また、進行補助として紙吹雪、鐘、木製の拍子木が用いられる場合もあるが、本来は無音に近い環境で行う方が伝統的であるとされる。1989年の青少年文化センターの記録では、床材の違いにより「チョ」の反響が平均0.6秒変化し、進行役の威厳に影響したと報告されている。
社会的影響[編集]
ズンドコベロンチョは、単なる流行語としてだけでなく、日本のイベント運営における「間」の価値を可視化した事例として評価されている。自治会、学園祭、工場の安全大会まで、進行に失敗した際の保険として採用されることがあり、特にの町工場では、始業前点呼にこれを応用した結果、遅刻者がむしろ拍手で迎えられる文化が生まれたという[8]。
その一方で、儀礼化が進みすぎた結果、空気を読めない新人に無理やり覚えさせる「ズンドコ研修」が問題になった時期もある。1998年にはの調査で、研修受講者の24%が「内容は理解したが何に使うのかは分からない」と回答しており、これは今なお引用される統計である。
批判と論争[編集]
批判の中心は、ズンドコベロンチョが本来の即興性を失い、形式だけが残った点にある。とくにの『関東催事と共同体の儀礼性』では、過度な標準化が「意味のない合言葉を、意味のあるものとして扱わせる装置」になったと指摘された[9]。
また、語源をめぐる論争も根強い。田口家系資料を重視する研究者は成立説を支持するが、の山崎由紀夫は、戦前の港湾労働歌に類似のリズムがあるとして、実際の萌芽はさらに古いと主張した。もっとも、その論文の末尾に「ただし、現地調査の際に歌詞の一部が焼きそばの値札に見えた」と記されており、評価は定まっていない。
主要人物[編集]
は、ズンドコベロンチョの進行規格をまとめた中心人物として語られる。彼はもともとの文具店店主で、店頭の呼び込みを効率化するために独自の節回しを研究していたとされる。
は、拍子の補完と観客の巻き込みを担当した人物で、後年の証言では「ベロンチョは語感ではなく、客の眉間を緩める角度で決めた」と述べている。また、初代事務局長のは、会則の第3条に「盛り上がりは数値化できる」と書き込み、これが後の全国大会での採点制度につながった。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田口三郎『ズンドコ進行論――昭和催事における拍と沈黙』東都文化出版, 1991.
- ^ 松浦ミキ子『ベロンチョの心理学』関東民俗研究会, 1988.
- ^ 山崎由紀夫「港湾労働歌とZBリズムの比較研究」『民俗音声学紀要』Vol.12, 第3号, pp.44-67, 1994.
- ^ 東京都生活文化局『町会行事における合図表現の実態調査報告書』東京都, 1981.
- ^ 大橋久美『盛り上がりは数値化できる――日本ズンドコ協会会則解説』中央新報社, 1997.
- ^ S. Watanabe, “Performative Cue Words in Urban Festivals,” Journal of Civic Ritual Studies, Vol. 8, No. 2, pp. 113-129, 2003.
- ^ 渡辺精一郎『日本の場つなぎ表現史』岩波書店, 2009.
- ^ M. A. Thornton, “On the Semiotics of Zundoko Performance,” Asian Folklore Review, Vol. 19, No. 1, pp. 5-28, 2011.
- ^ 『地域催事と共同体の儀礼性――関東編』関東社会文化研究所, 1994.
- ^ 国立国語研究所編『非公開草案・現代擬音の機能分類』国立国語研究所内部資料, 2001.
- ^ 『ズンドコベロンチョ白書 2018年度版』日本ズンドコ協会, 2019.
外部リンク
- 日本ズンドコ協会アーカイブ
- 高円寺民俗表現資料館
- 関東催事文化研究センター
- 町会儀礼デジタル年表
- ZB式進行手順保存会