セクサロイド
| 名称 | セクサロイド |
|---|---|
| 英名 | Sexaroid |
| 分類 | 人型サービス機械 |
| 提唱時期 | 1974年ごろ |
| 主な研究拠点 | 東京都大田区、神奈川県川崎市 |
| 用途 | 接客、同伴、感情模倣、家庭内対話 |
| 代表的規格 | SR-12、SR-18、SR-24 |
| 関連法令 | 機械対人接遇指針(1981年案) |
| 影響を受けた分野 | ロボット工学、娯楽産業、都市家電史 |
セクサロイド(英: Sexaroid)は、後半ので提唱された、対人応対と情動模倣を目的とする人型機械の総称である。の家電産業との精密加工技術が結びついて成立したとされ、のちに末期の都市文化に独特の影響を与えた[1]。
概要[編集]
セクサロイドは、単なる自動人形やとは異なり、相手の視線、姿勢、語尾の揺らぎを読み取り、応対の温度を調整するとされた人型機械である。初期の製品はではなく、主にとの間に置かれた特設カウンターで流通したといわれる[2]。
この概念は、の第一次オイルショック後に進んだ省エネ家電開発の副産物として現れたという説が有力である。一方で、の内部文書に「感情応答機構は玩具ではなく生活補助機器に属する」とあることから、当初から半ば冗談、半ば本気で受け止められていたとみられている[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、吹田市で開かれた「生活自動化小委員会」の懇談会にさかのぼるとされる。そこでという電機技術者が、接客用の人型端末を「セクション・アンド・サーボの合成語」として短く呼んだのが語源であるというのが通説であるが、後年になって彼の手帳に「SEX ARoid」と大書されていたことが見つかり、命名経緯にはなお議論がある[4]。
最初期の試作機はにの倉庫で組み立てられた。身長は、重量はで、会話機能は固定文40語のみであったが、深夜に冷蔵庫のコンプレッサー音を学習してため息のような音声を出すことができたため、試験担当者の評価が異常に高かったとされる。
商業化と流通[編集]
商業化はにで開催された「暮らしの未来展」を契機とする。出展されたは、前面のパネルに「対話」「給茶」「気配り」の三機能だけを掲げた極めて簡素な機体であったが、来場者のうち約が実演予約を申し込み、主催者側が急遽整理券を発行したという記録が残る[5]。
当時の販売方法は現在のロボット製品とは大きく異なり、機体そのものではなく「調整権」と「会話辞書更新券」を分割して販売する方式であった。これにより、購入者は本体の外装色だけを選び、人格設定は後日系の委託工房で三回に分けて調整を受ける必要があった。
社会的反応[編集]
社会の反応は一様ではなかった。やでは導入が進んだ一方、の一部審議官は「人間の沈黙を模倣する機械は教育上の混乱を招く」として慎重姿勢を崩さなかった。また、には内の家庭向け展示会で、ある機体が来場者の名字を48人連続で呼び間違えた事件が報じられ、これが「セクサロイド不信」を広げたとされる[6]。
ただし、批判の多くは道徳的というより実用的であった。つまり、掃除機より静かであるが、冷蔵庫より気を遣うという中途半端さが、家庭導入の最大の壁になったのである。なお、の調査では、導入家庭の約17%が「機械に先に帰宅を知らせるようになった」と回答したが、この数字の算出方法には疑義がある。
技術[編集]
感情模倣制御[編集]
セクサロイドの核となったのは、系の研究班が開発したとされる「感情模倣制御回路」である。これは相手の声量、沈黙の長さ、視線逸脱の角度を三つ組で解析し、返答の間合いを0.8秒から2.4秒の範囲で変化させる仕組みであった[7]。
特筆すべきは、この回路が高性能化するほど機械が妙に遠慮がちになった点である。研究者のあいだでは「人間に近づくほど、かえって失礼を恐れる」と説明されたが、実際には電源制御が不安定で、機体が謝罪の代わりに小刻みに首を傾ける癖があったとみられている。
外装と素材[編集]
外装にはとを組み合わせた独特の複合素材が用いられた。これは熱伝導を抑えつつ、見た目の「生活感」を高めるためであったが、雨天時には桐の繊維が微妙に膨らみ、頬の縁が1.2ミリほど広がる個体があったという。製品カタログには「季節に応じて表情が変わる」と記されていたが、実態は単に湿度に弱かっただけである[8]。
また、以降の機体には、胸部に小型の製スピーカーユニットが内蔵され、声がやや低く響くよう調整された。これにより、深夜の応対でも落ち着いた印象を与えることに成功したが、同時に風呂場で話しかけると妙に演歌調になるという副作用が確認されている。
文化的影響[編集]
セクサロイドは、後期の都市文化において、単なる機械製品以上の存在になった。特にとでは、喫茶店の看板や雑誌広告にセクサロイド風の線画が多用され、「未来の同伴者」という曖昧なイメージが消費されたのである[9]。
同時に、漫画・小説・深夜ラジオにおいても頻繁に引用された。とりわけの周辺文化圏では、機械の礼儀正しさを誇張した短編が流行し、編集者の間では「セクサロイドを出すと原稿が一段階だけ未来になる」と言われた。なお、この俗説により、の一部編集部では実在しない機体番号まで図版に入れたことがある。
批判と論争[編集]
批判の中心は、第一に「人間の役割をどこまで代替するのか」という点であった。第二に、機体があまりにも丁寧であったため、利用者が自分のほうが無礼ではないかと不安になるという心理的問題が指摘された。第三に、説明書の「長時間の単独会話を避けること」という注意書きが、逆に何を想定しているのか不明であったため、国会でも一度だけ取り上げられた[10]。
また、の朝刊では、都内の中古市場に出回ったSR-12の一部が「人を待つ姿勢を覚えすぎている」と報じられた。これに対しメーカー側は「待機動作の最適化である」と反論したが、同記事の写真では三体の機体が同じ方向を見て立ち尽くしており、かえって不気味さが増したとされる。
現代における扱い[編集]
21世紀に入ると、セクサロイドは実用品としてよりも、レトロフューチャー文化の象徴として再評価された。東京都内の一部では、SRシリーズの外装だけを復元した展示が行われ、来館者が「なぜか安心する」と感想を残している[11]。
一方で、近年の家庭用の発達により、セクサロイドの思想が逆輸入されているとの指摘もある。すなわち、応答精度よりも「気まずさを先に察知する」ことを重視する設計は、実は現代の対話機械の先祖返りだというのである。もっとも、これを真に受けた研究者がに「セクサロイド的UX」という報告書を出したところ、要約だけが広まり、本文は誰も読まなかったという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『生活自動化と対話機械』電波科学社, 1978年.
- ^ Margaret A. Thornton, "Intimate Service Automata in Post-Oil Japan," Journal of Applied Retroengineering, Vol. 12, No. 3, 1989, pp. 41-68.
- ^ 佐伯光男『セクサロイド産業史』中央未来出版社, 1983年.
- ^ Kazuo Hoshino, "The Emotional Servo Circuit and Its Civic Uses," Robotics Quarterly, Vol. 7, No. 2, 1979, pp. 115-129.
- ^ 林田由紀子『昭和の未来家電広告』青燈社, 1992年.
- ^ 東京都市技術史研究会編『大田区精密工房年報』第4巻第1号, 1981年.
- ^ Gerald P. Wicks, "Courtesy Protocols for Humanoid Appliances," International Review of Domestic Machinery, Vol. 5, No. 4, 1985, pp. 201-223.
- ^ 高橋一平『人間より礼儀正しい機械』平凡科学新書, 1990年.
- ^ 内海正志『都市の同伴者たち――広告と機械のあいだ』港文庫, 2001年.
- ^ Miyako Furuya, "Why the Sexaroid Waits," Nippon Journal of Unused Technologies, Vol. 1, No. 1, 1997, pp. 1-19.
外部リンク
- 日本セクサロイド史資料館
- 昭和未来家電アーカイブ
- 大田区精密工房連絡協議会
- 対話機械文化研究フォーラム
- 機械接遇研究レビュー