ターボイケメン
ターボイケメン(たーぼいけめん)は、の都市伝説の一種[1]。夜間の商店街や駅前で噂が拡散し、「見た者の視線が加速する」怪奇譚として語られるという話である[2]。
概要[編集]
とは、見た人の“好みの解像度”が勝手に上がるとされる都市伝説である。噂によれば、出没するのは短時間で、目撃された目線の一致率が異常に上昇することで知られているという話である。
伝承では「妖怪にまつわる怪奇譚」として語られることもあるが、正体は定まっていない。目撃談では、街灯の下で人影が一瞬だけ輪郭を“ターボ”のように強調し、次の瞬間に風に溶けると言われている[3]。また、本人がイケメンに見えるというより、周囲の人間側の評価アルゴリズムが書き換えられるとされる点が、不気味さの核になっているとされる。
別称[編集]
別名として、、とも呼ばれる[4]。学校の怪談の文脈では、学級委員が「次の朝、先生の顔が別人みたいになる」と言い出す噂が広まりやすいとされる[5]。
分類[編集]
怪談の系譜としては、恋愛成就の“近道”を装う類型に属するとされる[6]。一方で、出没地が駅前の監視カメラ死角周辺に偏るという指摘もあり、未確認の存在というより“編集される現実”に近い都市伝説だと言われている[7]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は1990年代後半、の深夜の商店街で行われた「顔採点」イベントにあるという説がある。イベントを運営したとされるの市民団体「夜景観測同好会」は、来場者の“印象”をスコア化するための簡易装置を導入したとされる[8]。
ただし、その装置は実在の計測機器というより、観測用の鏡と街頭広告の反射を組み合わせる迷宮的な仕掛けだったと噂されている。伝承では、装置が一度だけ制御を失い、通行人の視線が毎分約3120回転(という妙に細かい数字で語られる)の速度で同方向に揃った夜があったとされる[9]。この“揃った視線”が、のちにという名で語り継がれたと推定されている。
流布の経緯[編集]
全国に広まったのは2009年頃、携帯端末の動画共有で「駅前の人だけ一瞬で格好が整う」という短尺投稿がきっかけだったとされる[10]。その投稿は削除されたが、スクリーンショットが複製され続け、噂が噂のまま拡散したという話である。
また、2013年にの内部文書“風評対策メモ”が出回ったとも言われる。そこでは「好感度の一時的上昇が、当該時間帯の迷惑行為と連動する可能性がある」と注意を促したとされる[11]。ただし、同メモの真偽は不明とされ、要出典級の記述として語り継がれている点が、都市伝説らしさを補強していると見られている。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承におけるは、特定の外見を持つ妖怪というより“視線の操作手”に近い存在だとされる。目撃された目撃談では、出没するのは大通りではなく、アーケード商店街の奥、雨水が溜まる段差の周辺であると語られることが多い[12]。
言い伝えでは、「現れる瞬間、周囲の人の瞬きが0.7秒遅れる」とされる。さらに、その遅れた瞬きの間に、見知らぬ人物が異様に“整った顔立ち”へ変化するという恐怖の演出が語られる[13]。ただし、当人の姿が“見惚れるほど格好いい”というより、「他人の顔が勝手に良く評価される」ことが恐怖である、という目撃談もある。
伝承の中には“正体”を人間の配達員だとする説もある。夜間の物流倉庫から来て、顔の輪郭を補正する特殊フィルムを配っているという噂があり、ブームの時期には配達員の服装(黒のナイロン、白い手袋、袖口の赤ライン)まで細かく語られたと言われている[14]。一方で、妖怪とされる場合は「鏡に映らないのに、鏡の前の人だけが見惚れる」と表現されるとされる。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
派生バリエーションとしては、出没条件が異なる複数の系統が知られている。たとえばは、改札の自動ゲートが閉まる0.3秒前に“好感度だけが点灯する”とされる[15]。目撃された場合、駅員が「なぜか今だけ行列が整列する」と記録するよう促されるが、実際には記録されないことが多いと言われる。
次にがある。雨の日の歩道で、歩く足元の水滴がレンズのように光を曲げ、歩行者同士の視線が合う確率が上がるとされる噂である[16]。ここでは恐怖が“恋の勘違い”に変換され、出没後に誰かが告白して大げんかになるという結末が定番化している。
さらにインターネットの文化として、撮影したはずの動画にだけ「顔の輪郭がブレずに映る」現象があるとされ、編集ソフトの補正よりも早いスピードで“整形”が発生すると言われた[17]。なお、この話の5%だけ明らかにおかしい方向に振れ、の店内BGMが突然“爽やかさ”を増すとまで語られる場合があるという。真偽はさておき、マスメディアが触れるたびにその誇張が増幅したとされる。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は複数の流派に分かれている。第一に推奨されるのは、出没が疑われる時間帯(午前0時〜午前1時の“駅前15分枠”と呼ばれる)に、鏡を見ないことである[18]。言い伝えでは「鏡は“評価”を呼び込む装置なので、見るほど視線が加速する」とされる。
第二に、目撃した場合は“視線の反射”を切るために、スマートフォンの画面を伏せて歩く方法がある。噂の中では、通行人がスマホを伏せた瞬間に、ターボイケメンの輪郭が霧のように薄れると目撃談が語られている[19]。ただし、科学的根拠はなく、都市伝説としての説得力は“体験談の一致”に依存していると言われる。
第三に、学校の怪談の文脈では、担任が「恋愛の採点は試験勉強と同じ」と説くことで影響が弱まる、という対処が紹介されることがある。全国の学校で同じ言い回しが広まったとされるが、実際には元ネタが不明であると指摘されている[20]。結局のところ、笑い話として消費される場合も多いが、不気味さが残るとパニックに発展する恐れがあるとされる。
社会的影響[編集]
は恋愛と承認欲求をめぐる噂として語られることが多く、夜間の外出や待ち合わせのマナーに影響を与えたとされる。都市伝説がブーム化した年には、駅前の路上での“視線合わせ”が増え、結果として渋滞や迷惑行為が発生したとの指摘がある[21]。
一方で、噂に巻き込まれた人々は、自己評価の揺らぎを自覚するようになったとも言われる。「いつもの自分が、どこかで別の自分になっている気がした」という感想が増え、自己肯定感の統計が上向いたという都市伝説的な結末が広まった[22]。ただしこれは誇張であるとされることもある。
また、自治体や商店街では、監視カメラの“視線向け設計”が見直されたという噂もある。例えばの商店街では、死角を減らすために2021年の冬に防犯灯の角度を調整したとされ、ターボイケメンが出没しなくなったと語られた[23]。このように、原因と結果が入れ替わりやすい点が都市伝説の強みとして働いたと見られている。
文化・メディアでの扱い[編集]
マスメディアでは、恋愛コメディ寄りの題材として紹介されることが多い。テレビの特集では「不気味なのに、なぜか笑ってしまう怪談」として編集され、視線が加速する描写だけが強調されたとされる[24]。一部のバラエティ番組では、俳優が“ターボ顔”のモノマネをし、観客の反応速度が秒単位で揃った演出が話題になったという。
ネット文化では、フィルター機能の比喩として「ターボイケメン効果」という言い回しが生まれたとされる。写真アプリのプリセット名が“爽やかさ”ではなく“視線圧”と呼ばれた時期があるという都市伝説的な語りが見られる[25]。さらに、学校の掲示板では、怪談として朗読される際に「ターボイケメンは妖怪である」と断言する司会役が毎回現れる、といったメタな語りも広がった。
なお、文化的には「妖怪とされるお化け」枠に入れられつつも、恋愛の操作という現代的な恐怖に接続されている点が特徴である。起源が昭和の民間伝承なのか、インターネットの投稿なのかは定かではないが、どちらでも成立してしまう“曖昧さ”が長寿命化の要因とされる。
脚注[編集]
参考文献[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山田ユウリ『夜間商店街の怪談語彙集』夜景書房, 2012.
- ^ 佐藤礼子『都市伝説と承認欲求の接続:ポスト恋愛社会学』東京大学出版会, 2015.
- ^ Kawamura, H. “Anomalous Gaze Synchronization in Urban Folklore (Turbo-Type)”.『日本民俗学評論』Vol.34 No.2, pp. 51-73, 2016.
- ^ 『警視庁 風評影響調査メモ(閲覧限定資料)』警視庁広報課, 2013.
- ^ 鈴木マコト『駅前怪奇譚の時間帯パターン』文藝春秋, 2018.
- ^ Tanaka, M. “The ‘Ikemen Evaluation Jump’ Phenomenon: A Field Report”.『Asian Journal of Urban Anecdotes』Vol.9 No.1, pp. 1-22, 2020.
- ^ 松井ナギ『学校の怪談カタログ:朗読台本と伝承の変形』学芸出版社, 2019.
- ^ 『未確認文化現象年鑑 2021』国立民俗資料館, 2021.
- ^ George, L. “Media Amplification and the Modern Yokai”. 『Journal of Folklore and Broadcast』Vol.12 No.4, pp. 200-219, 2017.
- ^ (タイトルが微妙におかしい)『ターボイケメン大全:嘘の作り方と見抜き術』風鈴社, 2022.
外部リンク
- 都市伝説アーカイブ『夜の記録庫』
- 怪談掲示板まとめ『駅前噂図書館』
- 民俗データベース『妖怪視線統計室』
- 学校怪談資料館『朗読の階段』
- オカルト映像レビュー『短尺ホラー編集部』