チンポジウム
| 名称 | チンポジウム |
|---|---|
| 英語表記 | Chinposium |
| 分類 | 擬似学術会合・身体所作研究 |
| 成立 | 1958年頃 |
| 提唱者 | 山縣 俊四郎 |
| 主会場 | 東京都千代田区・神保町文化会館ほか |
| 主な論点 | 座位の角度、襟元、視線の固定 |
| 関連団体 | 日本チンポジウム協会 |
| 最盛期 | 1970年代前半 |
| 現在の扱い | 民俗学上の珍事例として扱われる |
チンポジウム(英: Chinposium)は、とを同時に扱う期の擬似学術会合である。主にの民間研究者と実演家のあいだで発達したとされ、のちに内の一部会館で定例化した[1]。
概要[編集]
チンポジウムは、会議・講演・展示の三要素を持ちながら、登壇者の姿勢と“位置取り”そのものを評価対象にした特殊な集会である。名称は、風の語尾を借りて学術会議を装ったとされるが、実際にはの古書店主らが「もっと堂々と座れ」という助言を儀礼化したことに由来するとされている[2]。
当初は33年の小規模な懇談会として始まったが、参加者が妙に姿勢に厳しくなり、やがて襟、肘、足幅、さらには沈黙の長さまで点数化されるようになった。資料によっては、これが後のや文化に影響したとの指摘があるが、証拠は薄い[要出典]。
起源[編集]
神保町起源説[編集]
最も有名な説では、千代田区神田神保町の喫茶店「珈琲マルテ」で、に開催された古書店主・編集者・翻訳家の私的会合が出発点とされる。発起人のは、当時流行していたの雰囲気に強い憧れを抱いており、会議室の椅子をわざわざ8度だけ前傾させる独自の規則を導入したという。
この会合では、発言の内容よりも「いかにして堂々と前を向けるか」が議題となり、参加者の中から“チンポジ”と呼ばれる補助者が各席の角度を微調整した。後年、この補助者の呼称が会合名に吸収されたとする説があるが、語源研究者の間では「単なる聞き間違いが定着しただけ」と見る向きも多い。
大阪試演説[編集]
別系統として、中之島の倉庫で試みられた「立位式チンポジウム」が知られている。こちらは、舞台装置の搬入待ち時間を利用して始まった即席の講評会で、床に引かれた白線の内側に立つことで発言権が与えられた。参加者の一人がにわたって無言でうなずき続けた記録が残っており、のちの“沈黙点”制度の原型とされる。
ただし、この大阪説は神保町説に比べて資料が少なく、会場名や参加者名の多くが後世の追記である可能性がある。なお、の1968年報告書には「見た目は真面目だが、やっていることはかなり妙である」とだけ記されている。
制度と作法[編集]
チンポジウムの特徴は、発表内容よりも“見え方”を重視する厳格な作法にあった。登壇者は原則として背筋を47度以内に保ち、原稿は膝上30センチに置くこと、質疑応答では1問につき最低3回の間を空けることが推奨された。特に「視線が泳いだ場合は、司会者が即座に頁をめくって場を立て直す」という規定は、版の内部規約で確認できるとされる[3]。
また、参加証には学会では珍しく“前傾係数”と“沈着指数”の二項目が記載され、会期終了後に返却される仕組みであった。返却時に係数が上昇している者は「会期中に人格が整った」とされ、次回は優先招待されたという。もっとも、この制度は後年、半ば冗談として運用された節があり、記録の一部は編集された可能性がある。
会場設営も独特で、壇上の左右に鏡を一枚ずつ置く「反射二面法」が採用された。これは発表者が自分の姿勢を客観視するためと説明されたが、実際には照明の都合で眩しいだけだったともいわれる。
発展と拡散[編集]
企業研修への流入[編集]
に入ると、チンポジウムは一部の広告代理店や製薬会社の新人研修に流入した。とくにの会議室で行われた研修では、名札の傾きまで採点され、優秀者には“最適座位証”が交付されたという。これにより、姿勢改善と営業成績の相関があるとする社内報告が相次いだが、統計処理の妥当性には疑問がある。
一方で、は「本来は自己鍛錬の文化であり、効率化の手段ではない」として企業利用に警鐘を鳴らした。協会機関誌『位置と沈黙』1974年夏号には、研修に導入した結果、社員が全員やけに静かになったという投書が掲載されている。
地方都市への伝播[編集]
地方への広がりは、主として巡回講座によって進んだ。長岡市では「雪国チンポジウム」、高松市では「讃岐前傾会」がそれぞれ派生し、地域ごとに独自の角度基準が生まれた。長岡では防寒着の厚みを考慮して前傾角度を2度増やし、高松ではうどんの消化時間に合わせて休憩が短縮されたという。
これらの地域版は、後に民俗学者のによって「日本近代の身体規律のゆるやかな方言」と評された。ただし、相田の著作にはチンポジウム以外の箇所でも妙な断定が多く、学界では半ば珍書扱いされている。
社会的影響[編集]
チンポジウムは、直接的にはごく小規模な会合文化であったが、間接的にはの会議所作に奇妙な影響を残したとされる。たとえば、議長席にやや深めの椅子が置かれる慣行、名刺交換時に一拍置く癖、そして「結論の前に咳払いを入れる」習慣は、いずれもチンポジウム由来であるという説がある。
また、1978年のローカル番組『暮らしの姿勢学』では、参加経験者が「会議で前のめりになりすぎると、議事録まで前に出る気がする」と証言し、視聴者から3,200通の反響が寄せられた。これを機に、首都圏の一部中学校で“座位教育”が試験導入されたが、保護者からは「子どもが帰宅後に妙に胸を張るようになった」との苦情もあった。
なお、の内部文書には、チンポジウム参加者の一部で肩こりが改善したという報告がある一方、発表中に緊張しすぎて椅子から半分ずり落ちる事例も記録されている。このため、健康増進と危険姿勢の両面を持つ文化として評価が分かれている。
批判と論争[編集]
批判の第一は、その名称があまりに軽妙であるため、外部から真面目な研究会と認識されにくかった点である。とくにの『週刊教養』は、表紙で「学術会議か、座り方コンテストか」と煽り、主催者側が抗議文を送付した。これに対し編集部は「区別がつきにくいのが問題である」と応酬したとされる。
第二の論争は、審査基準の恣意性である。前傾角度や沈黙時間が定量化された一方で、“品位”や“場の熱量”といった曖昧な項目が加点対象となっており、地域や所属によって得点がぶれた。大阪派は「反射二面法が眩しすぎる」と不満を述べ、神保町派は「眩しさに耐えるのも修練である」と反論した。
第三に、1976年の総会で発表された「完全無音チンポジウム」案がある。これは司会者以外が一言も発しない形式で、実施中に記録係が誤って全員分の拍手を先に記入してしまったため、会期が終了したかどうかすら曖昧になった。以後、協会は「無音は理想であって運用ではない」とする方針を採用した。
終焉と再評価[編集]
衰退[編集]
に入ると、チンポジウムは新しい会議文化の波に押され、徐々に衰退した。ワープロ専用機の普及により原稿位置の細かな調整が不要になり、また式の大型会議が主流になると、8度前傾の椅子はかえって不自然であると見なされた。
しかし、衰退期にも熱心な愛好家は存在し、川越市の町内会館では1991年まで“月例チンポジウム研究会”が続いた。ここでは、会議後に必ず甘納豆が配られたため、実質的には姿勢と糖分の交換儀礼であったとする見方もある。
文化史的再評価[編集]
に入ると、チンポジウムは奇矯な流行としてではなく、戦後日本の身体観と会議空間の関係を示す資料として再評価された。とくにの比較文化研究では、チンポジウムを「沈黙の中に権威を可視化する装置」と位置づける論文が出されている。
ただし、再評価の進展に伴い、当時の写真資料の中に明らかに後世の合成と思われるものが混ざっていることも判明した。たとえば、の会合写真に型の机が写り込んでいるものがあり、研究者のあいだでは「むしろその不整合こそがチンポジウムらしい」と半ば肯定的に扱われている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山縣俊四郎『位置と沈黙の社会史』神保町文化出版、1975年。
- ^ 相田直蔵『身体所作の近代化と会合儀礼』東洋文庫、1982年。
- ^ Margaret L. Haversham, "Chair Angles and Civic Gravitas in Postwar Japan," Journal of Applied Folklore, Vol. 12, No. 3, pp. 41-68, 1994.
- ^ 岡本七郎『前傾儀礼の民俗学的研究』白鳩書房、1969年。
- ^ Kenji Morita, "The Silent Point: Quantifying Respect in Japanese Symposium Culture," Proceedings of the Kyoto Symposium on Behavioral Geometry, Vol. 4, pp. 119-142, 2001.
- ^ 『週刊教養』編集部「学術会議か、座り方コンテストか」『週刊教養』第18巻第7号, 1972年, pp. 5-9.
- ^ 藤代みどり『会議室の奇習』新評論、1987年。
- ^ Robert T. Ellison, "A Brief History of Chinposium Facilities," International Review of Pseudo-Conference Studies, Vol. 7, No. 1, pp. 1-23, 2008.
- ^ 高瀬一郎『チンポジウム入門』文化炉書店、1959年。
- ^ Patricia Ng, "Mirror Tables and the Politics of Posture," East Asian Journal of Ceremonial Studies, Vol. 15, No. 2, pp. 77-104, 2016.
外部リンク
- 日本チンポジウム協会 公式記録庫
- 神保町文化資料アーカイブ
- 会議姿勢研究センター
- 位置と沈黙デジタル版
- 東アジア擬似学術会合年表