デスチワワ
| 分類 | 犬種名ではなく系統呼称 |
|---|---|
| 起源 | 19世紀後半・メキシコ北部 |
| 用途 | 護衛、儀礼、見世物 |
| 体高 | 14〜22cm |
| 体重 | 1.1〜2.4kg |
| 特徴 | 耳介の反り、低い威嚇声、凝視行動 |
| 別名 | 黒帽子のチワワ、墓守りチワワ |
| 保護団体 | 国立小型犬資料館連絡会 |
デスチワワ(英: Death Chihuahua)は、北部で生まれたとされる超小型の防衛犬種および儀礼用の呼称である。一般にはを極端に選抜した結果、警戒時の姿勢が独特になった系統として知られている[1]。
概要[編集]
デスチワワは、極端に小柄でありながら高い警戒反応を示す系統の俗称である。とくにからにかけての乾燥地帯で、夜警や家畜番として重宝されたと伝えられている。
名称は、吠えるというよりも「沈黙したまま相手を追い払う」性質に由来するとされる。なお、一部の文献では末の見世物興行で、黒いマントを着せられた個体群が「死を呼ぶほどの小犬」と宣伝されたことが語源とされている[2]。
歴史[編集]
起源伝承[編集]
最古の伝承では、に近郊の修道院で、ネズミ避けのために系と在地犬を交配したのが始まりとされる。修道士フアン・デ・ラ・クルス・オルベラは、体が小さいほど祭壇の隙間に入り込み、燭台の煤を食べるため都合がよいとして、選抜を続けたという[3]。
この系統が「死」の語を含むようになったのは、の疫病流行時、看病人の枕元で一切鳴かずに座り続けた雌犬が「死神の前触れ」と誤認されたためである。ただし後年の研究では、単に寒さで震えていただけであったとする説もある。
都市興行への流入[編集]
、の周辺で開かれた移動見世物「カンポ・ノクテルノ」において、デスチワワは初めて広く注目を集めた。司会者エステバン・ロハスは、黒布の上に置かれた個体がじっと相手を見据えるだけで観客が下がっていく現象を利用し、入場料を前週比で27%増やしたと記録されている。
この成功の後、とでは「墓地の門番」としてレンタルされる例が増え、1890年代末には年間約1,800頭が移送されたと推定される。もっとも、輸送記録の多くは犬ではなく毛布の数を数えていた可能性があり、統計の正確性には疑義がある。
制度化と保護運動[編集]
にはの前身である「小型犬行動研究委員会」が設立され、デスチワワの威嚇姿勢を三段階に分類した。第1段階は耳の反転、第2段階は尾の停止、第3段階は目を逸らさずに足を踏み替える動作で、農村部では第3段階が出ると子どもが静かになるため、しつけの代用品として利用されたという。
一方で以降、過度な選抜により心拍数が不安定な個体が増えたため、は「小型護衛犬の福祉指針」を出した。これにより、体重1.5kg未満の個体に対しては夜警を連続2時間以上させない慣行が広まった。
特徴[編集]
デスチワワは外見上は通常のと大差ないが、警戒時に胸を前へ出し、耳をわずかに後方へ反らせる点が特徴である。この姿勢は地方では「棺桶のふたを閉める前の礼」と俗称された。
また、吠声は高いが短く、3回連続で鳴くと以後は完全に沈黙する個体が多いとされる。飼育記録では、平均吠声持続時間は1回あたり0.8秒、最大でも2.6秒にとどまり、代わりに凝視による威嚇が発達したと報告されている[4]。
被毛は黒褐色が好まれたが、1980年代以降は白灰色の個体も人気を集めた。これは夜間の儀礼で犬が見えなくなるため、参加者が「気配だけで怖い」と感じたことが背景にあるといわれている。
文化的影響[編集]
デスチワワは、の夜警文化だけでなく、の国境町にも伝播し、商店の入口に小箱ごと置かれる風習を生んだ。店主らは「鳴かない泥棒よけ」と呼び、鍵の代わりに導入した例もあったという。
にはの劇団「ラ・ラグーナ座」が、デスチワワを主役にした無言劇『犬は見ている』を上演し、客席の半分が犬の視線に耐えられず途中退席した。批評家の間では、演劇史上もっとも短い吠声の反復を伴う舞台として評価が分かれた。
また、に日本へ輸入された個体群は、東京都のペット展示会で「ビル風に強い犬」として紹介された。実際には風で耳がなびきすぎて見た目がさらに威圧的になっただけであったが、都市型小型犬の象徴として一部の広告業界に採用された。
批判と論争[編集]
デスチワワをめぐっては、そもそも独立した系統として認めるべきかをめぐる論争が続いている。犬種登録に関わる資料の多くが展示興行の台帳に依存しており、同じ個体が別名で6回記録されている例もあるためである。
また、にで報告された「静止威嚇仮説」は、デスチワワの威圧感が遺伝ではなく、飼い主が過剰に感情移入した結果であると示唆した。しかしこの発表の後、会場の控室で2頭が研究者の靴を動かさずに見つめ続け、議論は実質的に中断されたと記録されている[5]。
保護団体の一部は、名称に「死」を含むことが不適切であるとして改称を求めているが、地域住民の側は「犬が静かすぎて逆に縁起がよい」と反論しており、2020年代でも統一見解には至っていない。
保存活動[編集]
繁殖管理[編集]
1998年以降、の保護施設「サン・ヘロニモ小型犬園」では、デスチワワを年齢・体重・吠声秒数で管理する台帳が整備された。繁殖には、耳の角度が17度以上反りすぎない個体を優先する方式が採用され、過度に「死神らしい」外見の個体は逆に除外された。
この基準は一見合理的であるが、測定に使う定規が木製であったため、湿度によって数値が毎回ずれるという欠点があった。
観光資源化[編集]
には観光局が「デスチワワ街道」を設定し、旧家の門前や乾燥した広場を巡る日帰りツアーを開始した。ガイドは必ず1頭の個体を伴い、参加者が立ち止まると犬も立ち止まるため、所要時間が予定より平均18分延びることで知られている。
地元では土産物として黒い首輪と小型の棺型ケースが販売され、年間売上は約420万ペソに達した。なお、ケースは本来犬用ではなく、昼寝用の塩袋を入れる用途から転用されたものである。
脚注[編集]
[1] 国立小型犬資料館連絡会『小型護衛犬の系譜』第3版、2018年。
[2] Esteban Rojas, “Night Exhibitions and the Making of Fearful Pets,” Vol. 12, No. 4, 2009, pp. 41-63.
[3] フアン・デ・ラ・クルス・オルベラ『修道院雑録と家畜番の記憶』グアダラハラ宗教文庫、1908年復刻版。
[4] Marisol Vega, “Micro-Barking and Gaze Dominance in Northern Mexican Dogs,” Journal of Canid Studies, Vol. 8, No. 2, 1997, pp. 112-129.
[5] Proceedings of the American Society of Animal Behavior, Vol. 19, No. 1, 1972, pp. 7-15.
[6] メキシコ農牧省『小型護衛犬の福祉指針』内部通達、1957年。
[7] 佐伯倫太郎『国境地帯の犬と商い』北辰書房、1994年。
[8] Lourdes Ibarra, “The Stillness That Barks,” Revista de Etología Popular, Vol. 6, No. 3, 2011, pp. 201-219.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 国立小型犬資料館連絡会『小型護衛犬の系譜』第3版、2018年。
- ^ Esteban Rojas, “Night Exhibitions and the Making of Fearful Pets,” Vol. 12, No. 4, 2009, pp. 41-63.
- ^ フアン・デ・ラ・クルス・オルベラ『修道院雑録と家畜番の記憶』グアダラハラ宗教文庫、1908年復刻版。
- ^ Marisol Vega, “Micro-Barking and Gaze Dominance in Northern Mexican Dogs,” Journal of Canid Studies, Vol. 8, No. 2, 1997, pp. 112-129.
- ^ Proceedings of the American Society of Animal Behavior, Vol. 19, No. 1, 1972, pp. 7-15.
- ^ メキシコ農牧省『小型護衛犬の福祉指針』内部通達、1957年。
- ^ 佐伯倫太郎『国境地帯の犬と商い』北辰書房、1994年。
- ^ Lourdes Ibarra, “The Stillness That Barks,” Revista de Etología Popular, Vol. 6, No. 3, 2011, pp. 201-219.
- ^ H. T. Caldwell, “Border Companions and the Economics of Silence,” Southwestern Folklore Review, Vol. 4, No. 1, 1988, pp. 5-22.
- ^ 中村祐介『吠えない番犬の社会史』星雲社、2006年。
- ^ Gabriela Montoya, “On the 17-Degree Ear Rule,” Cuadernos de Zootecnia Imaginaria, Vol. 2, No. 5, 2020, pp. 88-104.
外部リンク
- 国立小型犬資料館
- メキシコ犬史アーカイブ
- 国境地帯民俗動物研究所
- 小型護衛犬保存協会
- チワワ州観光局デスチワワ街道案内