ドール
| 名称 | ドール時計塔兼巡礼施設 |
|---|---|
| 種類 | 時計塔・巡礼施設 |
| 所在地 | 潮見山麓 |
| 設立 | (定礎)/(開基) |
| 高さ | 38.6 m |
| 構造 | 煉瓦造・鉄骨内骨格(中空) |
| 設計者 | 渡辺精一郎(工学技師)/ルイ・アルトゥール・ラルマン(計測顧問) |
ドール(よみ、英: Dorell)は、にある[1]。
概要[編集]
は、に所在する時計塔兼巡礼施設であり、夜間に自動点灯する文字盤と、参拝者の「願いの長さ」を測るとされる回廊式の測度装置を特徴としている。現在では、潮見山麓のランドマークとして知られ、航路安全祈願と都市の潮流記念行事の拠点とされている。
施設は、単なる観光名所ではなく、港の出入りの帳合(帳面)を模した内部展示と連動するよう設計された点で評価されている。なお、由来については複数の説があり、特に「ドール」の語が「道(みち)を量る(dore)」に由来するという説明が、地元の案内板では最も優先して掲載されている。
名称[編集]
「ドール」という名称は、建立当時の寄進記録で「Dorell」の表記が確認できるとされ、実務上の略称として定着したと説明されている。もっとも、当該記録は現在、の保存台帳第7綴にあるとされるが、原本閲覧は年3回に限定されており、研究者のあいだでは「読み替え」問題が残っていると指摘されている。
また、施設の公式広報では、ドールの名が「時刻」と「願い」を結ぶ儀礼に由来するとされる一方で、文献によっては「税(duty)」と「秤(balance)」の音韻が重なった結果であるとも述べられている。いずれにせよ、施設の玄関上部に刻まれた楕円の紋章は、秤を抱える時計職人の意匠として知られている。
現地では、登頂しない参拝者向けに“低めの鐘”が鳴る仕様になっているが、これは「名称が早口で読まれるほど願いが短くなる」ことを前提にした設計であると、長年の説明員が述べている。なお、この説明は統一した根拠文書が示されていない。
沿革/歴史[編集]
築造の経緯[編集]
に定礎が行われ、に開基されたとされる。起点となったのは、当時のが発行した「第12号潮時規程」であり、満潮・干潮の誤差を抑えるため、都市側に“可視の基準”を増やす必要があったと説明されている。
計画では、時計塔の高さを38.6 mに設定し、これは海面からの見込み角を0.47度以内に収める計算に基づくとされる。設計の要点は、煉瓦外壁の内部に鉄骨内骨格を配置し、温度変化による歪みを中空の空隙で相殺することである。なお、工学技師のは、歪みの許容値を「1.2ミクロン」と記録したと伝えられているが、当該数値はその後の報告書で「約2ミクロン」に修正されたとも言われる。
また、計測顧問のは、海外から輸入した振り子測定器を据えるための“静かな部屋”を塔内部に用意したとされる。しかしその部屋は、後年に巡礼者の休憩室へ用途変更され、現在の案内では「願いの休息室」と呼ばれている。
運用と改修[編集]
開基当初は、毎日19時に文字盤が点灯し、加えて月初の夜だけ「願いの長さ測定」が行われていたとされる。測定装置は回廊の床に埋め込まれた溝の位置を辿り、参拝者が歩いた距離に応じて、壁面のガラス灯が10段階で変化する仕組みであると説明されている。
には、港の工業化に伴う振動の影響を抑えるため、塔の基礎杭を“二重らせん”へ交換したとされる。この改修は、作業日数が17日であった一方、記録上の休止期間が妙に長く、合計で31日間も帳簿上に空欄が残ったと指摘されている。空欄が何を意味するのかは、現在では「夜間工事の秘匿」あるいは「寄進者の都合」など諸説がある。
期には、時計機構の一部が退避し、塔は“時刻のない目印”として運用された。戦後に復帰した際、時計の針が一度だけ午後を指し続けたという伝承が残っており、施設側はこれを「時間に学習させた」と説明している。
登録と保護[編集]
に「新港区景観重要建築」として選定され、さらににの文化財制度に基づく「都市儀礼建造物群」の一部として登録されたとされる。現在では、塔の回廊装置と、ガラス灯の配列図が一体の保存対象とされている点が特徴である。
また、の保存修理では、煉瓦の目地に用いる材料を従来の配合から微調整し、湿度変化に対する収縮率を「0.03%」から「0.024%」へ下げたと報告されている。なお、この数値は報告書の別版では「0.026%」とされており、数値の揺れが資料の信頼性を巡る小さな論点になっている。
施設[編集]
施設は大きく、時計塔本体、回廊式測度装置、礼拝区画、そして「帳合展示室」から構成されている。時計塔は外周を巡る階段が3系統あり、通常の参拝動線は“低速”の区画に誘導される。これは、願いの測定が最も正確になる歩幅を、平均身長から逆算して設計したためと説明されている。
回廊式測度装置は、床の溝の間隔が0.62 mであるとされ、参拝者が溝を跨ぐたびに10回のうち1回だけ表示が反転する仕様になっている。これにより、歩行の癖が願いの読み取りに反映されるとされ、ガラス灯は色温度を段階的に変更するため、暗所でも“色が動く”ように感じられるという。
帳合展示室には、港の帳面に似せた木製パネルと、時刻表を「祈りの頁」として再構成した文書模型が収められている。なお、模型のページ数は合計で214枚であるとされるが、説明員により「213枚だった時期がある」との追加が入ることもある。
交通アクセス[編集]
交通アクセスは、中心部から潮見山麓へ向かう路線が主である。最寄りとして案内されるのはで、施設までは徒歩12分とされている。
のガイドでは、夜間点灯の日に限り「時計塔前」へ臨時停車する便が設定されるとされる。運行時刻は通常便の±3分の範囲で調整され、結果として乗車案内には「19:00前後に遅延した場合は無効」といった注記が添えられることがある。
自家用車の場合、施設の周辺に設けられた小規模の駐車帯は全長48 mで、収容台数は17台とされる。なお、雨天時は回廊が滑りやすくなるため、案内所では「乾いた床で測定を」と促される。
文化財[編集]
は、建造物としての外観だけでなく、塔内部の測度装置とガラス灯の配列が文化財として一体指定されている点が特徴である。文書では「都市儀礼建造物群」の構成要素として扱われ、回廊式装置の作動機構が保存理由に含まれるとされる。
修理に関しては、外壁煉瓦の調達先を限定し、当初と同系統の焼成温度帯を再現したとされる。また、ガラス灯の色は、当時の光源の比率を踏襲するため、分光測定で決定されたと説明されている。
一方で、ガラス灯の配列が「願いを短くする」方向に変化した可能性があるとの指摘もあり、定期点灯時の色の記録が保護計画に組み込まれている。さらに、研究者からは「保存のための操作が儀礼の意味を変えてしまうのではないか」という批判も見られるとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 新港区教育委員会『新港区景観重要建築目録(追補版)』新港区出版局, 1984年.
- ^ 渡辺精一郎『潮時規程に基づく時計塔の振動抑制法』第12回港湾工学講演論集, Vol.3, 1851年, pp.114-129.
- ^ ルイ・アルトゥール・ラルマン『Measuring Pendulums for Civic Timekeeping』Harbor Technical Review, Vol.7, No.2, 1853年, pp.41-58.
- ^ 神奈川県文化財保護課『都市儀礼建造物群の登録理由と保存方針』県民文化叢書, 第2巻第1号, 1983年, pp.12-27.
- ^ 田邉昇平『煉瓦造時計塔の熱収縮—目地配合の再現—』建築史研究, Vol.21, No.4, 2006年, pp.201-219.
- ^ Kobayashi, M.『Spectral Tuning of Glass Luminaires in Coastal Shrines』Journal of Applied Illumination, Vol.15, Issue 3, 2010, pp.77-96.
- ^ 『新港区交通局臨時運行要領(時計塔前)』交通局内部資料, 2005年, pp.3-5.
- ^ 山崎礼治『時計塔はなぜ願いを測るのか——回廊装置の読解——』潮見山麓史話, 第1巻第6号, 1979年, pp.56-73.
- ^ Elliot, S.『Chronometry and Pilgrimage in Port Cities』Timekeeping Monographs, Vol.4, 1998年, pp.9-23.
- ^ 【書名】『新港区景観重要建築目録(追補版)』新港区出版局, 1984年, pp.114-129.
外部リンク
- ドール時計塔保存会公式サイト
- 新港区景観データバンク
- 潮見山麓巡礼ルート案内
- 時計塔計測装置アーカイブ
- 新港区交通局イベント運行ページ