ネ・オ・ナ・チ・ミ・ド・リ
| 名称 | ネ・オ・ナ・チ・ミ・ド・リ |
|---|---|
| 別名 | 記号緑化、分節芝、N.M.G.理論 |
| 提唱者 | 高瀬良一郎、マーガレット・D・ヘインズ |
| 成立 | 1987年頃 |
| 主な拠点 | 東京都港区、神奈川県横浜市金沢区 |
| 対象 | 街路樹、公共花壇、屋上庭園 |
| 特徴 | 緑の濃淡を6段階に分けて配置する |
| 影響 | 平成初期の公園設計、駅前景観、企業ロゴ緑化 |
| 批判 | 記号性が強すぎるとの指摘 |
| 現在の扱い | 一部の造園史研究で再評価されている |
ネ・オ・ナ・チ・ミ・ド・リは、後期から初期にかけての園芸家集団が提唱した、都市緑化と記号設計を融合させた造語的造園思想である。一般には「葉色を意図的に規格化した緑化様式」として知られている[1]。
概要[編集]
ネ・オ・ナ・チ・ミ・ド・リは、植物そのものの育成よりも、都市空間における緑の「見え方」を重視する思想である。1980年代後半、の再開発との臨海整備が進む中で、公共空間の植栽が均質化しすぎたことへの反動として生まれたとされる。
名称は、造園メモに書かれた「neo」「nachi」「midori」という三つの分類語が誤って連結されたものであるという説が有力であるが、実際にはの会議資料でタイプミスがそのまま採用され、略称として定着したという経緯が知られている[2]。ただし、この逸話は後年の研究者が作ったものではないかとの指摘もある。
成立の背景[編集]
この思想の前史には、の高度成長期に流行した「管理された緑化」への反省があるとされる。当時の行政植栽は、剪定の容易さと維持費の低さが優先され、葉色や樹形の差異がむしろ排除されていた。
これに対し、造園家のは、の埋立地視察記録の中で、緑を「面」ではなく「節」として配置する案を示した。彼はこの発想を、の倉庫街で見られたコンテナ積み上げの規則性から着想したと述べているが、後に本人が「かなり酔って書いた」と証言したため、学術的には扱いが難しい[3]。
一方、から招かれていた景観心理学者のマーガレット・D・ヘインズは、緑の反復が歩行者の疲労感を軽減するという仮説を提示した。これが後にネ・オ・ナ・チ・ミ・ド・リの「6分節緑度理論」として整えられ、公共事業の審査資料にまで組み込まれた。
理論[編集]
6分節緑度理論[編集]
理論の中核は、葉色を濃淡6段階に分類し、道路からの視認角に応じて配置を変えるというものである。最も濃い「A緑」は建物の影になる場所に、最も淡い「F緑」は歩道沿いに置くことで、都市全体に「呼吸しているような印象」を与えるとされた。
この配色法は、に芝浦の仮設花壇で試験され、通行人127名のうち84名が「なんとなく落ち着く」と回答したことで採用が進んだ。なお、質問票の選択肢が「非常に落ち着く」「落ち着く」「思ったより落ち着く」「その他」であったため、統計としてはかなり怪しい。
記号化された植栽[編集]
ネ・オ・ナ・チ・ミ・ド・リは、植物を生態学的存在としてではなく、都市のサインとして扱う点に特徴がある。たとえばイチョウは「A系統の公共性」、ツツジは「私的境界の緩衝」、サツキは「微調整の象徴」と定義され、植栽計画書には各樹種の「感情係数」が記された。
この記号化は、の下部委員会である「都市景観柔化検討連絡会」に採用されかけたが、最終会合で担当者が「樹木に役所の気分を背負わせるのはどうか」と発言し、議論が一時停止したと伝えられる。
屋上庭園への転用[編集]
1990年代に入ると、思想は屋上庭園や商業施設の吹き抜け空間に転用された。特にとの駅ビルでは、買い物客の滞留時間を平均3.4分延ばす効果があるとして導入されたが、実際には自販機の位置の方が影響していた可能性が高い。
それでも、当時の設計図には「ミドリの輪郭をあえて不均一に保つこと」という注記があり、これはのちの駅前花壇設計に大きな影響を与えた。
普及と展開[編集]
普及の契機となったのは、にの景観展示会で行われた「緑の読譜」展示である。来場者が床面の色票を踏んで進むと、壁面の植栽が段階的に変化する仕掛けが話題となり、新聞各紙が「都市が楽譜になる」と報じた。
また、の若手部会では、ネ・オ・ナチ・ミドリを応用した「歩行速度ごとの緑配置モデル」が提案され、駅前・病院前・金融街で異なる植栽密度を採るべきだと主張された。実際には金融街の担当者が「病院前より落ち着いて見えるなら採用する」と述べたことが、妙に広まりを後押ししたとされる。
海外ではとの都市緑化関係者が関心を示したが、概念名の読みにくさから、会議資料ではしばしば「Neo Midori System」と簡略化された。これに対し高瀬は「短くすると思想が薄まる」と反論したが、数年後には自分でN.M.G.と書き始めたため、周囲を困惑させた。
批判と論争[編集]
批判の多くは、ネ・オ・ナチ・ミ・ド・リが実務よりもレトリックを優先しているという点に向けられた。特にの都市景観報告書では、「葉の色を6段階に分ける行為は、植物の多様性を説明しているのではなく、管理者の安心感を可視化しているにすぎない」と指摘された[4]。
また、名称に含まれる「ナチ」の部分が、偶然とはいえ政治的含意を帯びるとして、いくつかの自治体では採用直前に見直しが行われた。もっとも、提唱者側は「これは『自然調和的中間値』の略である」と説明しており、後年の研究ではこの語源説明はほぼ後付けであるとみなされている。
それでも、極端に整然とした都市景観への違和感を言語化した点は評価されている。とりわけの郊外で、自治会が「玄関前の鉢植えまで含めて緑を再設計する」方針を採った事例は、住民間の衝突を増やした一方、街路の写真映えだけは著しく向上した。
社会的影響[編集]
ネ・オ・ナチ・ミ・ド・リの影響は、造園よりもむしろ企業広報と不動産広告に強く現れた。1990年代後半には「ミドリの連続性」「緑の静けさ」などの文言がマンションパンフレットに頻出し、実際には植栽面積が少ない物件ほど名称が壮麗になる傾向があった。
また、の一部駅では、乗客の導線を妨げないよう、植木鉢の高さを82cmに統一する「N.M.G.標準」が試験導入された。これは混雑緩和に寄与したとされるが、通行者の多くが植木鉢をベンチと誤認していたという報告もある。
21世紀に入ると、デジタル地図上で公園を色分けするアプリに概念が移植され、緑地の「見え方」を評価する簡易指標として再利用された。もっとも、アルゴリズムの初期版は松の木をサボテンより低評価にしてしまい、専門家の笑いを誘った。
再評価[編集]
アーカイブ研究[編集]
後半には、の資料整理により、高瀬の手稿とヘインズの講演録が相次いで発見された。そこには花壇の配置図だけでなく、コーヒーの濃さまで緑の議論に混ぜ込んだ走り書きがあり、研究者の間で注目された。
この時期の研究では、ネ・オ・ナチ・ミ・ド・リが単なる奇抜な造語ではなく、バブル期の都市計画が抱えた「整いすぎた景観」への抵抗として読み直されている。
現代的応用[編集]
近年では、学校の中庭や介護施設の中庭設計で、視認性と安心感を両立させる考え方として引用されることがある。特に内の私立中学校では、校庭の芝生を3色に分けて学年ごとに区画する試みが行われたが、雨天時に泥の色まで管理対象になり、かえって混乱した。
それでも、都市の緑を「量」ではなく「編集」として捉える発想は、景観教育の一部で生き残っている。
脚注[編集]
[1] 『都市緑化思想史概説』第3章における総説。
[2] 高瀬良一郎「芝浦会議メモの転写と誤記」『造園記号学年報』Vol. 12, pp. 44-51。
[3] M. D. Haynes, “Green as a Walking Rhythm”, Journal of Urban Perception, Vol. 8, No. 2, pp. 103-129.
[4] 神奈川県立都市景観報告書編集委員会『葉色分類と住民感情の相関』pp. 17-18。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 高瀬良一郎『ネ・オ・ナチ・ミドリ入門——記号としての葉色』港湾景観出版, 1992年.
- ^ Margaret D. Haynes, “Walking Through Six Greens”, Urban Ecology Review, Vol. 14, No. 1, pp. 21-49.
- ^ 佐伯冬馬『駅前広場の静けさと植栽の分節』新都社, 1995年.
- ^ 神奈川県立都市景観研究会編『臨海部における緑の見え方』神奈川県立図書出版, 1994年.
- ^ Kenjiro Wada, “The Misprint That Became a Method”, Journal of Landscape Semiotics, Vol. 6, No. 3, pp. 88-117.
- ^ 渡会みどり『屋上のための緑度設計』中央園芸研究所, 1998年.
- ^ Alicia B. Stone, “Public Calm and the Color of Leaves”, Proceedings of the International Symposium on Civic Greenery, Vol. 2, pp. 155-176.
- ^ 東京都都市整備局監修『公共緑化ガイドライン改訂試案』都政資料センター, 2001年.
- ^ 中村玄一『ミドリの輪郭:平成景観の編集史』青波書房, 2012年.
- ^ 市川百合『なぜ植木鉢は82cmなのか』不思議都市出版, 2016年.
外部リンク
- 日本造園史アーカイブ
- 都市記号デザイン研究センター
- 港区景観資料室
- 緑度設計フォーラム
- 平成公共空間研究会