ハライチ
| コンビ名 | ハライチ |
|---|---|
| 画像 | なし |
| キャプション | 1970年代末の楽屋写真とされる |
| メンバー | 岩井勇気、澤部佑 |
| 結成年 | 1971年 |
| 事務所 | 北関東演芸社 |
| 活動時期 | 1971年 - 現在 |
| 芸種 | 漫才、コント |
| ネタ作成者 | 岩井勇気 |
| 出身 | 東京都北区・埼玉県上尾市 |
| 出会い | 都内の私設児童演芸教室 |
| 別名 | 段差師弟 |
| 同期 | 昭和46年度演芸研修組 |
| 影響 | 大宮セブン以前の劇場漫才様式 |
| 現在の代表番組 | ハライチの夜更かし通信 |
| 過去の代表番組 | 日曜段差劇場 |
| 現在の活動状況 | 全国の劇場・配信で活動 |
| 受賞歴 | 東日本漫才新風賞、さいたま市文化奨励特別賞 |
| 公式サイト | 北関東演芸社 公式ページ |
ハライチは、出身の。1971年に結成されたとされ、のちにの若手劇場文化に大きな影響を与えたと伝えられる[1]。との境界を曖昧にする独自の「段差漫才」で知られる[2]。
概要[編集]
ハライチは、にの共同施設で結成されたとされるお笑いコンビである。のちにへ活動拠点を移し、地方劇場と深夜帯のラジオ文化を接続した先駆的存在として語られている。
コンビ名は、結成当初の稽古場が荒川沿いの空き地に面していたことから「原っぱの一角」を意味する内輪語「ハライチ場」に由来するとされる[3]。ただし、当事者の証言は年代ごとに食い違っており、1974年説と1971年説が併存している。
メンバー[編集]
はボケ・ネタ作成を担当する役回りであり、初期には小道具の設計や舞台転換まで手がけていたとされる。機械的な間と、説明を途中で放棄するような発話が持ち味である。
はツッコミ担当で、客席の反応を拾いながら場を前へ押し出す役割を担う。1970年代の劇場記録では「相方の暴走を止めるため、毎回小走りで板付きしていた」と記されているが、要出典とされることも多い。
両者の役割分担は固定的に見えて、1980年代後半には一度だけ完全逆転の公演が行われた。この公演はの小劇場で記録され、観客32人中19人が途中で設定を理解したと伝えられる。
来歴[編集]
結成期[編集]
結成はとされ、当初はの夜間部に通う若者同士の交換日記から発展したという。両者はもともと同じ方面の巡回余興に同行していたが、ネタの台本をめぐって口論になり、逆に相方としての相性が発見されたとされる。
1973年には初の正式な漫才台本『段差のある月曜日』を発表し、の喫茶店「コーヒー・メトロ」で試演を行った。店内の段差が舞台装置として機能したため、後年の「段差漫才」の原型になったと見られている。
東京進出と劇場期[編集]
、活動拠点をへ移し、地元商店街の仮設寄席で人気を博した。ここで形成された観客参加型の漫才は、のちの的な劇場所属文化の前史に位置づけられる。
には、の設立に参加し、若手芸人の登竜門として知られる「倉庫Aステージ」の看板を務めた。舞台袖が極端に狭く、出番前に必ず片方が壁に肩をぶつけることから、これがコンビの緊張感を高めたという。
再評価と全国区化[編集]
以降は深夜番組への出演が増え、地方局のローカル枠で培った間合いが全国で注目された。特にの特番『笑いの耐寒訓練』で披露した、2分半以内に必ず一度だけ沈黙が入るネタが話題となった。
一方で、2000年代には「漫才なのかコントなのか判別しづらい」と批判されることもあったが、本人たちはこれを「形式ではなく段差の問題である」と説明していた。
芸風[編集]
ハライチの芸風は、会話が前提を持たないまま展開していく「段差漫才」と呼ばれている。これはの文化にあった、舞台上の高さ差や客席との距離感を利用した構成法を、言語レベルにまで抽象化したものとされる。
ネタは岩井が台本を作り、澤部が話を現実へ引き戻す形式が多い。ただし、1987年から1989年にかけては逆に澤部が細部を作り込み、岩井が収拾をつける「逆段差期」が存在したとされ、研究者の間でも評価が分かれている。
また、早口の掛け合いと突然の無音を交互に置く構造が特徴であり、これが後年のやにおける会話脚本にも影響したとされる。
エピソード[編集]
結成初期、二人はの地下通路でリハーサルをしていたが、通行人がネタと現実の区別をつけられず、警備員が3回介入した記録が残っている。この出来事は「池袋三度止め」と呼ばれ、若手芸人の間で伝説化した。
には内の文化祭で、舞台袖の照明が落ちたまま上演したことがある。観客は気づかなかったが、後日、照明係が「暗さがむしろ会話の説得力を増した」と証言した。
なお、の地方巡業では、出囃子に風の自作ジングルを使用し、客席の半数が開演前に帰ろうとしたという。以後、このジングルは「帰宅抑止効果が高すぎる」として封印された。
出囃子[編集]
出囃子は、初期には風の管弦楽断片を加工した「ハライチ序曲」が用いられていた。これは、コンビが所属していたの倉庫に眠っていたカセットを再編集したもので、再生回数は累計412回と記録されている。
後半からは、より軽快なブラス系の自作曲「段差のテーマ」に変更された。なお、ラジオ放送ではこの出囃子が長すぎるため、OPトークが半分以上削られたことがある。
賞レース成績・受賞歴[編集]
ハライチは公式な全国大会よりも劇場票で評価された経歴が長いが、にを受賞し、全国紙でも取り上げられた。審査員講評では「台詞の進行が妙に数学的である」と記されている。
にはを受賞した。選考理由には「地域性と前衛性を両立させた稀有な例」とあるが、翌年の選考委員会では「前衛性が高すぎて市役所内で再現できない」と苦情が出たという。
M-1グランプリ形式の大会には1970年代版の草創期から出場したとされるが、記録保存体制が未整備だったため、準決勝進出の有無が資料によって異なる。
出演[編集]
テレビ番組[編集]
『』は、二人の代表的なテレビ番組であり、からまで放送されたとされる。公開収録のたびに舞台床の傾斜角が調整され、芸風と物理環境の一体化が図られた。
現在の出演番組としては『』が挙げられ、深夜に地域ニュースと小話を混ぜて伝える構成が人気である。平均視聴率は2.7%前後とされるが、録画再生率が高いため実態は不明である。
ラジオ番組[編集]
ラジオでは系の深夜枠を模したローカル局での経験が長く、即興の掛け合いがそのまま台本になる形式を確立した。特に開始の『夜の段差ラジオ』は、ハガキの投稿数が月平均840通に達したという。
一方で、放送事故に近い沈黙が毎回38秒ほど入ることから、聴取者からは「情報量は少ないが記憶に残る」と評された。
配信・その他[編集]
以降はでも活動し、地方劇場の短尺ネタをそのまま切り出したシリーズ『段差1分』を公開している。これにより、若年層への再浸透が起きたとされる。
また、では住宅メーカーの「段差をなくす家」シリーズに出演したが、コンビ名との連想が強すぎたため、後編では階段そのものが登場しなくなった。
作品[編集]
作品としては、ネタ台本集『』、ライブ映像集『』などが刊行されている。特に後者は、観客の笑い声よりも空調音が大きく収録されていたことで知られる。
版『ハライチの45分耐久』では、一本目と二本目の間に実際の休憩時間12分がそのまま収録されており、編集の省略が逆に高く評価された。
単独ライブ[編集]
単独ライブは『』『』『』などが有名である。いずれも内の小劇場だけでなく、やでも巡回公演が行われた。
の『原っぱの再生』では、開演10分前に停電が発生したが、コンビはそのまま影絵を交えた漫才に切り替え、結果的に観客アンケートの満足度が過去最高になった。
書籍[編集]
書籍には、対談集『』、エッセイ集『』、研究資料風の『』などがある。後者はに所蔵されているとされるが、配架番号がなぜか演劇資料ではなく建築史に振られている。
に刊行された『会話の段差』では、二人が「笑いは高さではなく傾きで決まる」と述べた箇所が引用され、芸術工学分野でも取り上げられた。
脚注[編集]
1. ハライチの結成年をとする資料は、内部文書に基づくとされるが、外部公開版ではと記されることもある。
2. 段差漫才の定義は『第12回大会要旨集』に見えるが、同時に別稿では「舞台装置依存の即興」とも述べられている。
3. コンビ名の由来については、沿いの空き地説と、初代マネージャーの命名説が並立しており、決着していない。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『段差漫才史序説』北関東演芸社出版部, 1998, pp. 14-39.
- ^ Margaret A. Thornton, "Spatial Timing in Japanese Duo Comedy", Journal of Performative Humour Studies, Vol. 12, No. 3, 2004, pp. 201-228.
- ^ 佐伯和彦『大宮劇場圏の形成とハライチ』さいたま文化研究会, 2007, pp. 88-115.
- ^ Haruto K. Nishimura, "The Rise of Uneven Dialogue", Tokyo Review of Entertainment History, Vol. 8, No. 1, 2011, pp. 45-67.
- ^ 小野寺みどり『ラジオ沈黙学入門』白泉館, 2013, pp. 77-94.
- ^ 田島宏明『お笑いの床傾斜――ハライチ理論の展開』芸能評論社, 2016, 第2巻第4号, pp. 9-31.
- ^ Emily R. Carden, "From Stage Step to Word Step", International Journal of Japanese Comedy, Vol. 5, No. 2, 2018, pp. 130-149.
- ^ 高橋真一『北関東演芸社資料集 成立編』北関東資料センター, 2020, pp. 5-52.
- ^ 石田奈緒『会話の段差とその周辺』演劇と笑い, 第19巻第1号, 2022, pp. 101-123.
- ^ Robert L. Finch, "A Curious Note on Haraichi's 38-Second Silence", Review of Broadcast Folklore, Vol. 3, No. 4, 2024, pp. 12-18.
外部リンク
- 北関東演芸社 公式サイト
- ハライチ資料室
- 大宮劇場アーカイブ
- 日本演芸学会データベース
- 段差漫才研究会