ヴァルラマニアのティアワーゼ
| 分野 | 神話学・民俗宗教学 |
|---|---|
| 地域(伝承圏) | 北方大陸ヴァルラマニア(架空) |
| 主題 | 知と嘘の神格化/トリックスター儀礼 |
| 中心人物 | ティアワーゼ(両性具有の神格) |
| 成立形態 | 口承→巻物詠唱→都市儀礼 |
| 伝承の特徴 | 嘘の段階化(小嘘・大嘘・神嘘) |
| 記録の形 | 「ティアワーゼ抄録」群(架空) |
ヴァルラマニアのティアワーゼ(ばるらまにあ の てぃあわーぜ)は、ヴァルラマニア神話に伝わる「知と嘘の神」を中心主題とした叙事的物語である。とくに「世界で初めて嘘をついた人物が、嘘をやめられず最後には神格化された」という系譜が、口承から儀礼詠唱へ移行したものとして知られている[1]。
概要[編集]
は、ヴァルラマニア神話におけるトリックスター要素を、神学的な制度へ“昇格”させた物語として整理されることが多い。研究上は、単なる冒険譚ではなく、「嘘をつく行為が倫理から技術へ、さらに祭礼へと転化していく過程」の説明装置だとされる[1]。
物語の核では、最初に嘘をついた人物が最終的に誰にも止められなくなるまで嘘を継続し、最後には知と嘘の神となるとされる。その際の変化は段階的であり、「口から出た嘘」「心が信じた嘘」「世界が従う嘘」という三層構造が、儀礼詠唱のリズムに合わせて繰り返し語られる点が特徴とされる[2]。
なお、ティアワーゼの“自由気ままさ”は、単に性格の描写にとどまらない。両性具有であると同時に、言葉の性別も場面ごとに反転すると説明されるため、観衆が拍手や掛け声で「性別を選ぶ」参加形式が組み込まれた伝承もある[3]。
語源と定義の揺れ[編集]
「ティアワーゼ」という語は、写本によって表記ゆれが多いとされる。ある系統では「ティアワーズ」と短縮され、別の系統では語尾が「-エ」まで伸びる。また、研究者の一部は、語源が“滴る言葉”を意味する古語語根に由来すると主張する[4]。
さらに、ティアワーゼが「人名」なのか「行為」なのかで解釈が割れる。たとえば〈ティアワーゼを唱える〉という言い回しが、神の物語を再演する意味なのか、嘘を段階化する手順を示す意味なのかが、都市儀礼の地域差として残っているとされる[5]。
この揺れは、編集者が異なる巻物を“同じ表紙”にまとめた際の混入だと推定されることもある。実際、(区)が保管する断片では、冒頭の見出しが「神話編」ではなく「技法編」へ差し替えられた痕跡が報告されている[6]。もっとも、当該報告は同館の年次目録の誤記であった可能性も指摘されている[7]。
歴史[編集]
口承の発明:嘘が“税”になった年[編集]
ティアワーゼ物語が定型化したのは、ヴァルラマニア暦の「第13回冬の市」が開かれた年(暦換算ではではなく“換算後紀元”と説明されるため注意が必要である)とされる。伝承によれば、当時の北方都市では取引の記録係が飢饉で倒れ、口約束が雪解けとともに崩れた[8]。
そこで(通称「誓約帳」)が設立され、「嘘を“申告”すれば罰を軽減する」制度が一時的に導入されたとされる。面白いことに、この申告は“嘘の種類”を三段階で記入する形式だったという。第一段階(小嘘)は「相手を傷つけない程度」、第二段階(大嘘)は「償い可能な錯誤」、第三段階(神嘘)は「世界観を揺らす言質」と書かれていたとされる[9]。
ところが、最初に嘘をついた人物が登場する物語が、申告書の文言に寄せられるようになり、制度は意図せず“嘘を上手にする学習”へ転換していった。反対に、申告制度を支えた神官たちがティアワーゼの神話を「誠実のための釘」として朗誦したため、嘘は罰ではなく技法として定着したと説明される[10]。
神格化:自由気ままなトリックスターの制度侵食[編集]
神格化のプロセスは、いわゆる“禁句”の導入から始まったとされる。ティアワーゼの名を公の場で呼ぶと、呼んだ者の言葉だけが正反対に聞こえるという伝承が広がり、禁句として半ば黙認された[11]。
しかし、禁句はしだいに儀礼へ転じた。祭礼では「神嘘」を回避するために、逆にティアワーゼの名をわざと取り違える“安全手順”が求められたという。たとえば、祭司が一度名を読み間違えると、観衆が市庁舎の鐘(第7鐘ではなく“第7鐘の前後の余韻”を含める作法)を3回鳴らし、初めて神嘘が空振りする、と細かな手順が語られた[12]。
ここで重要なのは、嘘が止められない方向へ増幅された点である。元は賢い人物であったティアワーゼは、知を武器に嘘を“社会に適応する形”へ設計し直したため、止めようとする側の計算まで同化してしまったとされる。結果として、ティアワーゼは「誰にも止められない」神となり、知と嘘の神として祭壇の中央に据えられた[13]。
なお、神格化の年をめぐっては異説がある。ある系譜ではに「両性の儀礼堂」が落成したと記すが、別の系譜では同じ出来事がとされる。差の原因は、落成式と“制度の侵食”を同一視した編集の癖ではないかと推定されている[14]。
写本編集:中央王立写本館と“誤差の神学”[編集]
都市儀礼が増えるにつれ、ティアワーゼの詠唱は写本へ移される必要が生じた。そこでが、口承の韻律を可能な限り固定する「詠唱誤差規格」を制定したとされる[15]。
規格は驚くほど実務的であり、音節の遅れを「誤差点」として数え、各節の末尾で“0.8拍”の揺れを許すという方針が採用されたという。もっとも、この数字は当時の音楽師が好んだ“占いの癖”を混入した結果ではないか、という指摘もある[16]。実際、同館の年次報告では、誤差点の測定器として「濡れた羊皮紙の伸び」を用いたと書かれている[17]。
このような編集方針が、ティアワーゼ神話を“より嘘らしく”してしまったとも考えられる。なぜなら、詠唱が固定されるほど、観衆は詠唱そのものを真理の形式として扱うようになったからである。一方で、誤差規格の制定を疑う研究者は、規格文書が後代の追補である可能性を挙げている[18]。
物語のあらすじ(神学的に)[編集]
最初に嘘をついた人物は、農地の境界を正確に測ることに長けた賢者として描かれる。賢者は「数字で語れば嘘にならない」と信じていたが、ある夜に誤差のある測量道具を使ったまま結果だけを人々に報告した。ここで最初の嘘は、内容の虚偽ではなく“報告の誠実さの計算違い”として始まったとされる[19]。
その後、嘘が発覚するたびに賢者は言い訳を重ねる。しかし言い訳は賢さによって巧妙化され、嘘の段階は上がっていく。小嘘では人を傷つけないための方便だったのが、大嘘では償い可能な形の調整へ変質し、最後には世界の理解枠組みそのものを入れ替える神嘘へ到達するとされる[20]。
止めようとする者が現れても、ティアワーゼは“止める計画”さえ嘘の素材にしてしまう。自由気ままなトリックスターとしての姿が強調され、両性具有の描写が象徴性を帯びる。すなわち、ティアワーゼは言葉を発する側にも聞く側にも同時に存在し、性別の反転は「真偽の切替が誰の内側でも起きうる」ことを示すと説明される[21]。
社会的影響:嘘の“教育化”と経済の滑り[編集]
ティアワーゼの神話は、単に物語として消費されただけではなかった。神話が広まると、都市では「嘘を否定する」よりも「嘘の段階を使い分ける」発想が強まったとされる[22]。
実務では、商取引における契約文がより長文化し、代わりに“想定外”の領域を事前に定義する慣行が増えたという。このとき定義される想定外は、まさにティアワーゼの三層構造に対応するようになり、結果として交渉コストが下がった反面、責任の所在が曖昧になる問題も生じたと報告されている[23]。
また、両性具有の描写が儀礼に取り込まれた地域では、役職の呼称が季節ごとに変わるという風習が生まれた。春の読唱では祭司を“前声の性”として扱い、秋の読唱では“後声の性”として扱うため、同じ職でも年2回、同一人物の呼び名が変わるとされた。細部まで運用されるこの形式が、嘘の技法を“社会の言語”として定着させたとされる[24]。
批判と論争[編集]
一方で、ティアワーゼ神話の影響には強い批判もあった。とくに、制度化された“嘘の段階”が、真実の交渉力を弱めるとする論点が提示されたという。批判者は、嘘が上達するほど人々は真実を“扱いづらい高価な情報”として距離を置くようになると述べた[25]。
また、神格化の由来が人為的に編集された可能性が指摘されることもある。たとえば、誤差点規格の導入が後代の挿入ではないかという疑念があり、誤差規格が存在した証拠として示される文書の一部が、筆跡ではなく“インクの乾き方”で年代推定されているという。これは民俗学会の中でも賛否が大きい[26]。
さらに、両性具有の解釈にも揺れがある。ある神学者は両性具有を“言語の二方向性”として称賛するが、別の神学者は単なる扮装だとして軽視した。論争はやがて祭礼の進行順にまで波及し、鐘の鳴らし方(前後の余韻を含むか否か)が喧嘩の火種になったとされる[27]。
なお、もっとも笑われた逸話として、祭礼の直前に「今日だけは嘘を禁止する」という布告が出されたが、布告文そのものが不正確で、誰も内容を信じなかったため結局“嘘が最優先で運用された”という話が残っている。布告がなぜ不正確だったのかについては、書記官がティアワーゼの詠唱を聞いてしまったからだと真顔で語られる[28]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ セリナ・ハーヴェイ『嘘の段階化と祭礼儀範:ヴァルラマニア写本の復元』ローテル学芸出版社, 2012.
- ^ マルクス・ヨルゲンセン「Tiarawâzeと両性言語の対応関係」『比較神話学研究』第18巻第4号, 2009, pp. 211-238.
- ^ 渡辺精一郎『北方都市における誓約帳の制度史』東海図書刊行会, 1987.
- ^ Dr. Margaret A. Thornton, The Theology of “World-Lending Lies”, Vol. 2, Cambridge Mythic Press, 2016, pp. 34-79.
- ^ エレナ・シレッタ「詠唱誤差規格の測定器としての羊皮紙」『民族音響論叢』Vol. 7, No.1, 2020, pp. 1-19.
- ^ ベルント・クラインハウス『神嘘の経済学:契約文の長文化は救いか毒か』ナデラ出版, 2014.
- ^ 王立写本館編『中央王立写本館年次目録(第43号)』中央王立写本館, 1971, pp. 90-105.
- ^ リュシアン・ドゥロシェ「嘘の申告制度と誠実の逆説」『民俗宗教学レビュー』第26巻第2号, 2003, pp. 77-102.
- ^ 佐藤レーヌ『儀礼における性別反転の語用論』蒼雲学術書房, 1999.
- ^ Hiroshi K. Matsumoto, The Bells of Rotel: A Study in Interpretive Echo, Vol. 1, Rotel Historical Society Press, 2011, pp. 201-219.
外部リンク
- ヴァルラマニア写本アーカイブ(架空)
- 中央王立写本館デジタル展示(架空)
- 北方都市儀礼データベース(架空)
- 比較神話学者会議ノート(架空)
- 詠唱誤差規格:市民向け解説(架空)