不道徳教科書
| 分類 | 私的教材/風刺的出版物 |
|---|---|
| 想定読者 | 中等教育の生徒(の想定) |
| 主な形式 | 短編事例・空欄課題・脚注風批評 |
| 成立経緯 | 反倫理的な読解訓練の企画として広まったとされる |
| 言語 | 日本語を中心とするが、翻案が試みられたとされる |
| 論争点 | “不道徳”の刺激性と指導上の危険性 |
| 関連用語 | 反面教師教育/逆説倫理学 |
不道徳教科書(ふどうとくきょうかしょ)は、学校教育の場に持ち込まれることを前提としない“反面教師用”の教材として構想されたとされる架空の出版物である。道徳の言説を逆照射する編集方針が特徴であるとされるが、実在の教育制度に組み込まれた記録は確認できないとされている[1]。
概要[編集]
不道徳教科書は、道徳教育が前提とする「正しさ」をそのまま学ぶのではなく、あえて「正しさが破られた場面」を読ませ、読者に“なぜそれが問題か”を考えさせる形式の教材として語られている。とくに、各章が事例→選択肢→“脚注による釈明”という順で構成される点が特徴として挙げられる[1]。
一方で、不道徳教科書という名称は、実際の教育現場で用いられる教科書の呼称規則から逸脱しているとされる。そのため、当初から「学校で配布される教科書」ではなく、書店や図書館で“自己責任の閲覧”を想定した風刺出版物として構想されたのではないか、という見方もある[2]。なお、後述するように成立の物語には複数の系統があり、編集者の名と関与したとされる組織が頻繁に入れ替わるとされる[3]。
歴史[編集]
誕生:逆説倫理学サークルと「空欄の倫理」[編集]
不道徳教科書の起源は、1990年代前半に名古屋市近郊で結成されたとされる読書会『逆説倫理学サークル 第三金曜会』に遡ると説明されることが多い。ここでは、倫理の議論を「結論を言い切る練習」ではなく、「結論を隠して穴埋めさせる練習」として設計する試みが行われたとされる[4]。
当時の議事録の体裁を模した試作では、全ページのうち空欄が占める割合が“正確に23.7%”になるよう調整されたという細部が伝承として語られる。目的は、読者が“間違いを自分で発見する”瞬間を作ることにあったとされる。ただし、この23.7%は、校閲担当の気分で一度だけ“22.9%に戻した”という別説もあり、数値が揺れている点がかえって信憑性を高めていると指摘される[5]。
また、教材の核となったのは『空欄の倫理綱領』と呼ばれる文書であるとされる。そこでは「不道徳とは、悪の模倣ではなく、悪の理由の解剖である」とのような文言が掲げられたとされるが、実際に引用される文章は回を追うごとに“脚注だけ少しずつ変わっていく”癖があったとされる[6]。
拡散:港区の出版社と「脚注爆弾」編集術[編集]
不道徳教科書が“商品として流通する物語”に変わったのは、東京都に本社を置く出版社『株式会社紺碧紙装』が、企画名『倫理の裏口』として書籍化した時期だとされる。編集長はであり、彼は「本文の正しさより、脚注が先に読まれる状態」を作ることを狙ったと説明される[7]。
この編集術は、通称『脚注爆弾』として回顧録に残されている。具体的には、各章の本文はわずか1〜2ページで終え、残りの大半を“後から読む注釈”に割り振る方式である。読者が注釈を先に読んだ瞬間に、本文の印象が反転するよう設計されたとされる[8]。
さらに、流通初期に発生した“返品の山”が、社会的な話題化に寄与したというエピソードがある。返品伝票の集計では、初回ロットの返品率が“12.04%”と記録されたとされるが、別の資料では“11.98%”になっているともされる。いずれにせよ、微差が論争を呼ぶこと自体が、企画者の想定内だったのではないかと推測される[9]。
反発と制度化の失敗:教育委員会の「危険度指数」[編集]
不道徳教科書は、読者の間で“考えさせる本”として評価される一方、教育行政からは刺激性が懸念されたとされる。架空の審査機関として言及されるは、教材に対して危険度指数を付与する制度を試験していたと語られている。その審査では、章ごとの「不快語彙率」や「誤学習誘導スコア」が計算されたとされ、不道徳教科書は総合で“危険度3.86”と算定されたとされる[10]。
ただし、ここには揺れがある。危険度指数は当初“危険度3.9”と記載されたが、後に“丸め誤差を直した”という経緯があったともされる。実在の会議録に相当する文書が存在しないため、どこまでが伝承かは不明とされているが、教育委員会の内部メール(のように語られる文面)では、「刺激を与えることと、刺激に巻き込まれることは別である」という文が引用されることがある[11]。
この制度化の失敗は、結果として不道徳教科書の“伝説性”を高めたとされる。配布されるはずだった校内図書室は、最終的に別の教材『礼儀の実験ノート』に置き換えられたと記録されるが、その際も差し替え日が“63年7月13日”と“平成元年7月13日”で食い違うという[12]。
内容と特徴[編集]
不道徳教科書の章構成は、標準的には『事例』『選択』『注釈』の三層になっているとされる。事例では、登場人物の行動が“明らかに間違って見える”ように書かれる一方、選択肢では「それでも合理的に見える」言い訳が混ぜられると説明される。読者は一見したときに正解を選びにくくなり、結果として“なぜそれが不道徳に当たるのか”を再構成させられるとされる[13]。
また、注釈は脚注でありながら独立した短い評論として振る舞う。注釈の文体は、当時流行した社会学入門書の口調を模しつつ、ところどころに法律文書風の硬さが混入する。そのため、読者は“注釈だけ読む”と別の本を読んでいるような感覚になる、と回想される[14]。
さらに、各章の最後には“反省の余白”として空欄欄が設けられているとされる。面白いことに、この余白は測定可能な規格として語られることがある。例えば、ある版では余白の縦幅が“ちょうど38mm”になっており、書き込みがしやすいよう「鉛筆の先端が偶然ぶつかる角度」まで計算されたとされる。ただし、実物の出所が定かでないため、数値は誇張である可能性も指摘される[15]。
社会的影響[編集]
不道徳教科書は、実際に学校で使われたかどうかはさておき、“教育の形式”そのものに波紋を広げたと語られている。とくに「正解を教える」モデルから「自分で解釈する」モデルへの移行を後押ししたのではないか、という評価がある。教育者のは、公開講座で本書について「悪い行いを眺めるのではなく、悪い理由の組み立て方を学ばせる装置」であると述べたとされる[16]。
一方で、影響は肯定的だけではなかった。模倣が起きたとされ、学習塾や同人サークルが「不道徳系ワークブック」を名乗るシリーズを次々と作ったという。実際、の小規模書店で販売された“倫理の裏口”関連の派生本は、棚番が「B-14」から「B-15」に変更になったという噂がある[17]。棚番の変更が社会現象として語られるのは些末だが、つまりそれほど閲覧や陳列が話題化したことを示す、という解釈がなされる。
また、いくつかの大学では講義資料としての二次利用が検討されたとされる。数理教育の分野では、注釈を先に読む行動が学習効率をどう変えるか、簡易実験が組まれたともされる。ある研究会では、注釈先読みの平均正答率が“+6.2%”改善した、と報告されたとされるが、これは統計処理の前提が不明であり、裏取りが難しい[18]。
批判と論争[編集]
批判は大きく二つに分けられる。一つは内容の刺激性であり、「不道徳」という語が先行することで、学習目的よりも挑発として受け取られてしまう恐れがあるとされた。他方は教育目的の曖昧さであり、「不道徳を学ぶ」という表現が、学習者に誤った結論を与える可能性があると指摘された[19]。
論争の中心には、教材の一節が引用されることが多い。例えば「ごまかしは短期的には得である。しかし長期的には別種の損になる」という趣旨の文があったとされ、これを“背徳の正当化”と見る声があったという。もっとも、反対側の解釈では、この文は“得する論理の罠”を示すための装置として書かれているとされる[20]。
また、編集者の姿勢にも疑義が向けられた。『脚注爆弾』という言い方は、脚注を読むことが前提だと強調する一方で、「読む側の解釈に寄りかかる危うさ」を隠しているという批判もある。さらに、危険度指数の算定プロセスが非公開だったとされ、どこかで計算式が差し替えられたのではないかと疑う議論まで生まれたとされる[10]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯誠司『逆説倫理学と空欄の作法』紺碧紙装, 1996.
- ^ 片岡礼子『教育はどこから崩れるか——脚注が先に来る授業設計』教育工学出版社, 2001.
- ^ Margaret A. Thornton『Paradox Reading in Moral Instruction』Vol.12 No.3, International Journal of Pedagogical Laughter, 2004.
- ^ 山田孔志『風刺教材の受容メカニズム』第2巻第1号, 日本教材社会学会誌, 1999.
- ^ Sato, Keiko『Footnote-Based Learning and Misinterpretation Risk』pp. 113-149, Journal of Classroom Interfaces, 2006.
- ^ 【学習安全審議庁】『教材危険度指数の暫定算定手順(内部資料相当)』学習安全審議庁, 1989.
- ^ 中村信也『“不道徳”は禁句か、それとも装置か』第5巻第4号, 教育行政レビュー, 1992.
- ^ 高橋倫也『書店棚の社会史:B-14からB-15へ』書店文化研究叢書, 2008.
- ^ Fujita, Ryo『Return Logistics and Controversy Amplitude in Small Print Runs』pp. 7-23, Retail Bibliography Letters, 2010.
- ^ 林田みお『脚注爆弾の系譜(改訂版)』第1巻第2号, 言説編集論集(タイトルがわずかに誤記される版), 2012.
外部リンク
- 倫理の裏口アーカイブ
- 空欄の作法研究会
- 脚注爆弾データベース
- 学習安全審議庁(疑似資料)
- 書店棚の社会史ウォッチ