交通事故.mp4
交通事故.mp4(こうつうじこ えむぴーよん)は、の都市伝説の一種である[1]。スマートフォンの動画ファイル名として噂が立ち、再生直後に「現実の事故と連動する」と言われている怪奇譚である[1]。
概要[編集]
は、SNSやメッセージアプリ上で「よく似たタイトルの動画」として流布される都市伝説である[2]。拡散の経路は、匿名アカウントが投稿した「未編集の事故記録」という触れ込みから始まるとされる[3]。
噂の特徴として、動画そのものは短尺で、冒頭に道路標識や信号の色が数秒だけ映るにとどまるとされる[4]。しかし視聴者は「再生中に、手元の端末の位置情報が動き、同じ交差点の音が聞こえる」と目撃談を語ると言われている[5]。
このため、伝承では「正体は妖怪や呪いの媒体である」とされ、恐怖とパニックを伴うブームが繰り返されてきたと語られる[6]。なお、別名として、とも呼ばれることがある[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、民間の交通データ収集が盛んになったとされるの都市部に求める説がある[7]。あるデジタル遺失物の調査員であった(おだぎり りひと)が、誤って回収したSDカード内に同名ファイルがあったと主張した、という話が広まったとされる[7]。
当時、そのSDカードはの廃棄現場で回収されたとされ、カードには「再生すると近傍で衝突音を拾う」とするメモがあったと語られている[8]。もっとも、このメモは写ししか残っておらず、噂の域を出ないとされる[8]。
一方で、の業務用監視カメラ更改の際に紛れた設定ファイルが元になったのだ、という起源説も存在する[9]。この説では、ファイル名の「.mp4」が単なる拡張子ではなく、「道路上の出来事を時系列で上書きする符丁」だと解釈されたとされる[9]。
流布の経緯[編集]
全国に広まったのは夏の「ショート動画まとめ」ブームの時期とされる[10]。当初は「事故現場の検証映像」として拡散されていたが、視聴者が「再生時間に比例して、実際の交差点の騒音が近づく」と報告したことで、都市伝説として定着したと言われている[10]。
噂の転機は、の広報が「同名動画の流通を確認した」とのコメントを出した、とされる出来事にある[11]。ただし、当該コメントの原文は公開されず、「担当者が口頭で言った」と目撃談が独り歩きしたとされる[11]。
その後、メディアでは「クリックで“事故の予約”が始まる」といった煽り表現が増え、マスメディア経由で恐怖が増幅したと指摘されている[12]。特に、に放送されたバラエティ番組で「再生すると何も起きない人もいる」とテロップが出たことで、逆に“無事な人=対処に成功した人”という解釈が生まれ、さらに拡散したと語られる[12]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承の語り手には共通点があるとされ、まず「動画を受け取ったのは、知人ではなく“用件不明のフォルダ共有”だった」と言われている[13]。次に、目撃談では再生ボタンが押された瞬間に、画面の明るさが一段暗くなり、道路の白線が“こちらを向く”ように見える、とされる[14]。
正体については諸説あり、「交通の妖怪が、視聴者の脳内に事故の予感を上書きする」とする説が有力である[15]。この説では、妖怪は具体的な姿を取らず、代わりに信号機の色を操るとされる[15]。
また別の伝承では、事故.mp4の中に「身元不明の救急隊員が残したログ」が圧縮されている、という話が流布している[16]。語り口では、救急隊員の名はとだけ呼ばれ、実名は出ないと言われている[16]。ただし、実在の人物として裏取りされた記録は確認されていないとする見方もある[16]。
一連の話は「不気味」「恐怖」「パニック」を生みやすい構造を持つとされ、見ている最中に“事故の予告音”のようなクリック音が聞こえるという言い伝えが特に強調される[17]。さらに、全国で同じ症状が報告されたとして、ブーム期には似た言い回しの噂が大量に投稿されたとされる[17]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
委細として、動画はだいたい〜秒の範囲で見つかると噂される[18]。画面には信号機の赤が一瞬だけ映り、その後に「横断歩道の白線だけ」が強調される、と目撃談がある[18]。
派生バリエーションとして、音声が無い“サイレント版”がある。視聴者がイヤホンをしていない場合は気づきにくいが、のちに「鼓膜の内側で“カーブの前ブレーキ音”がした」と後から訴える人がいるとされる[19]。
また「右カーブ版」「左折版」「踏切接近版」など、遭遇するはずの路面条件で種類が分かれると言われている[20]。とくに「踏切接近版」では、動画の終盤に列車のライトではなく、交差点の横の電柱の影が伸びるのが特徴とされる[20]。
一方で、まったく別の派生として「学校帰り版」が語られることがある。これは登下校時間帯にだけ共有が増え、学校の怪談として扱われるようになったとされる[21]。噂では、共有元は“部活の連絡”の体裁を取り、タイトル欄に「提出物の映像」と書くとされる[21]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は、都市伝説としては珍しく“手順”が具体的であるとされる[22]。第一に、再生する直前にスマートフォンの機内モードをONにし、動画の読み込みを止めるべきだとされる[22]。第二に、ファイル名をそのまま開かず、拡張子を手作業で変更してから視聴する、と言われている[23]。
第三の対処は「画面の左下にある表示(再生時間の数字)を、指で隠したまま通報する」だという噂である[24]。この手順が効く理由は、妖怪が“数字の完了”を餌にして現実へ接続するからだと説明されるとされる[24]。
また、対処に失敗した場合に備えた“予防”として、信号待ちでは絶対に横断歩道の白線を踏まず、踏みそうになったら靴底の角度を変えるといった、妙に細かな作法も語られる[25]。ただし、これらは科学的根拠としては整理されておらず、噂の域にとどまるとされる[25]。
なお、学校の怪談としては「クラスの誰かが共有してきたら、担任の机の中に入れて“翌朝まで触らない”」という対処が言い伝えられている[26]。この手順は、当時のネットいじめと結びついて語られることが多いとされる[26]。
社会的影響[編集]
社会的影響として、以降、SNS上で「事故.mp4を見たら運が悪くなる」という心理的波及が指摘されたとされる[27]。実際に交通事故の件数そのものが増えた、という因果まで検証されたわけではないが、少なくとも“注意行動が増える”という二次的効果があったと語られる[27]。
一方で、都市伝説による通報の増加が、救急・警察の問い合わせ対応を一時的に逼迫させたのではないか、という憶測も広まった[28]。このような状況で、といった誤った判断を助長する投稿が増え、混乱につながったとも言われている[28]。
さらに、ブーム期には地元の商店街が「信号待ちでスマホを見ないでください」といった啓発ポスターを掲示することがあった[29]。ポスターの文言には「.mp4」の文字が小さく入れられた例があるとされ、都市伝説を逆利用した施策だと受け止められた[29]。
ただし、啓発が功を奏したというより、恐怖によって“見ない行動”が増えた結果として説明できる、という反論もある[30]。いずれにせよ、交通安全とインターネット文化が交差する象徴的な噂として残ったとされる[30]。
文化・メディアでの扱い[編集]
文化・メディアでは、は「現代型の不気味な怪談」として消費される傾向があったとされる[31]。特に、再生ファイルという“身近な道具”が媒介になる点が、旧来の妖怪譚よりも若年層に刺さったと解釈されることが多い[31]。
書籍では、怪談集の一章として「拡張子が呪う」シリーズが作られ、脚注付きで再現された“ほぼ同名動画”が掲載されたと噂される[32]。ただし、その掲載は実在の動画ではなく、合成のモック映像だったとされる[32]。
また映像作品では、終盤に主人公が「再生時間が00:29で止まる」と気づく演出が多用されたとされる[33]。この演出は、噂の目撃談に合わせているため、視聴者に“待てよ”という引っかかりを与えるものだったと語られる[33]。
このようにマスメディアが話題化したことで、都市伝説のブームが加速し、「〜とされるお化け」として現代怪談の定番枠に入っていったとされる[34]。ただし、現実の事故を想起させる点から、放送局内でトーン調整を行ったという内部情報がある、と話されることもある[34]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
1. 『拡張子に潜む怪談の系譜』深夜民俗社, 2019.
2. 「動画共有文化における恐怖の伝播速度」『日本ネット怪奇学会誌』Vol.12 No.3, pp.41-58, 2020.
3. 『Digital Folklore of Recorded Doom』Routledge, 2018.
4. 『遺失SDカード事件簿:匿名端末の回収記録』交通監査叢書, 第2巻第1号, pp.12-33, 2014.
5. 『市民向け安全啓発文の実例集(内部資料)』京都市, 2017.
6. 『通報増加時の窓口対応マニュアル』第1版, pp.5-17, 2017.
7. 「都市伝説『事故.mp4』に関する言説分析」『民俗メディア研究』第7巻第2号, pp.77-96, 2021.
8. 『学校の怪談とスマホ:共有される恐怖』青葉教育出版, 2022.
9. 「妖怪的記号としての信号色」『交通記号学ジャーナル』Vol.4, pp.201-219, 2016.
10. 『都市伝説大全(事故編)』博文館, 2020.
11. John R. Havelock『The Sound of a Crowd』Oxford Myth Press, 2015.
12. 『交通事故.mp3の謎:mp4と音声符号の違い』Kansai Audio Folklore Review, 2018.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐藤藍『拡張子に潜む怪談の系譜』深夜民俗社, 2019.
- ^ 高橋和実「動画共有文化における恐怖の伝播速度」『日本ネット怪奇学会誌』Vol.12 No.3, pp.41-58, 2020.
- ^ Margaret A. Thornton『Digital Folklore of Recorded Doom』Routledge, 2018.
- ^ 小田切理人『遺失SDカード事件簿:匿名端末の回収記録』交通監査叢書, 第2巻第1号, pp.12-33, 2014.
- ^ 京都市広報部『市民向け安全啓発文の実例集(内部資料)』京都市, 2017.
- ^ 神奈川県警 安全指導課『通報増加時の窓口対応マニュアル』第1版, pp.5-17, 2017.
- ^ 田端秀介「都市伝説『事故.mp4』に関する言説分析」『民俗メディア研究』第7巻第2号, pp.77-96, 2021.
- ^ 林恵美『学校の怪談とスマホ:共有される恐怖』青葉教育出版, 2022.
- ^ 中村誠「妖怪的記号としての信号色」『交通記号学ジャーナル』Vol.4, pp.201-219, 2016.
- ^ 藤堂ユリ『都市伝説大全(事故編)』博文館, 2020.
- ^ John R. Havelock『The Sound of a Crowd』Oxford Myth Press, 2015.
- ^ 『交通事故.mp3の謎:mp4と音声符号の違い』Kansai Audio Folklore Review, 2018.
外部リンク
- 怪談フィル名鑑
- ネット妖怪データベース
- 交通安全と迷信のアーカイブ
- 拡張子儀式研究会
- 匿名共有監視ログ倉庫