交響曲第9番 (与謝野晶子)
| 作曲者 | 与謝野晶子(構想・改稿統括) |
|---|---|
| 種別 | 交響曲(詩唱を含むとされる) |
| 初演(伝承) | 1909年(名古屋市公会堂で試演があったとされる) |
| 楽章数 | 全4楽章+“反歌”挿入(資料整理上) |
| 主要モチーフ | 母音連鎖(“あ/お/う”)と逆行する旋律 |
| 推定演奏時間 | 約52分17秒(改稿回数で変動) |
| 出版社(推定) | 春陽楽譜社(未公刊断片が保管されているとされる) |
| 所蔵(伝承) | 国立音楽標本館(保存袋“Y-9/晶子”) |
交響曲第9番 (与謝野晶子)(こうきょうきょくだいきゅうばん、英: *Symphony No. 9* (Akiko Yosano))は、により構想されたとされるの交響曲である。歌詞と声部指示が“詩の改稿”の形式で残されている点が特徴とされる[1]。
概要[編集]
本項では、が“詩の韻律”を楽器化する意図で作り込んだとされるとしての『交響曲第9番』について述べる。一般に「第9番」と呼称されるが、成立過程では“第9”を巡る複数の段階的な改稿があったとされ、版によって楽章配置が微妙に揺れることが知られている[2]。
この作品は、通常の交響曲が楽譜中心で進行するのに対し、詩稿の改稿記号(抹消・挿入・縦書きの指示)がそのまま指揮法に転用された点で特徴的であるとされる。なお、音程よりも言葉の呼気(ブレス)を優先する指示が見られると報告されており、演奏者間では「鳴らす前に読む」と理解されてきた[3]。
成立と位置づけ[編集]
「第9番」が象徴するもの[編集]
『第9番』という番号は、単なる通し番号ではなく、当時の文芸サロンにおける“九度改稿”の実験記録に由来すると説明されることが多い。具体的には、晶子周辺の文筆家が一つの詩案を9回書き直し、最後の書き直しでだけ母音の配分が変わる(=“言葉が鳴る”と感じられる)という観察が共有されていた、とする伝承がある[4]。
この伝承に基づき、『交響曲第9番』は「第9改稿の最終版を、オーケストラの時間軸に移し替えたもの」と位置づけられることがある。ただし、資料の表紙には“第八十七稿”という別表記も見られるとされ、番号の付け方が意図的に撹乱されていた可能性が指摘されている[5]。
詩稿と指揮譜の合体[編集]
作品の特徴として、詩稿の改稿記号がそのまま小節単位の“動作命令”に読み替えられている点が挙げられる。たとえば、詩行の中央に置かれた抹消線が、弦楽器における“弓圧の軽減”として解釈されてきたとされ、音楽学者はこれを「改稿機能の楽器化」と呼んだ[6]。
一方で、歌詞(あるいは声部指示)には当時の常用仮名遣いが混在すると報じられており、編集方針の政治的・社会的配慮が反映された可能性もあるとされる。実際、晶子の書簡集が保管されている別室には、「仮名の揺れを隠すほど、響きが増す」というメモがあったと語られている(ただし“語られている”段階で、裏付けは要確認とされる)[7]。
歴史[編集]
前史:文芸改稿局と“音の検閲”[編集]
『交響曲第9番』の前史として、末期に実在したとされる“文芸改稿局”の活動がしばしば持ち出される。文芸改稿局は表向きには「出版品質の統一」を目的としたとされるが、内部資料では“音の検閲”とも称され、読者の発音癖(特定の母音が多くなる地域差)を統計化する試みが行われたとされる[8]。
この調査では、周辺で朗読会の参加者に行った簡易テストが記録されており、母音の出現率が平均から±3.7%ずれた参加者ほど、改稿後の詩が“歌える”と感じた、と報告されたとされる。数字の精度が過剰に見えることから、記録の作為があったのではないかと疑う声もあるが、当時の行政文書の書式に合わせていたため“それらしく”残っている[9]。
試演:1909年、四時間の遅延と“反歌”挿入[編集]
初演の伝承は1909年に置かれることが多い。伝承によれば、試演はで行われ、冒頭の合奏は予定時刻の12分前に始まったにもかかわらず、途中で四時間の遅延が発生したとされる。遅延理由は“チェロの弓替え”と説明されるが、別の記録では「第四楽章の反歌部分だけ、声部指示が紙の向き違いであることが判明した」と記されている[10]。
遅延中に晶子が行ったとされる改稿は、わずか“9行”とされる。その9行が反歌に相当し、最終的な演奏時間は約52分17秒に落ち着いた、とする計算が後年の編纂者により提示された[11]。この推定には、リハーサル音源からテンポを算出し、さらに“呼気の長さ”を逆算したという手法が採られているとされるが、同時に計算過程の一部が欠けているとされ、信頼性については議論が続いてきた。
戦後の再整理:スコアの“行方”と二重の出典[編集]
戦後、スコア断片の整理は(以下NHKと表記)系の音源アーカイブと連動した形で進められたとされる。ある編纂担当者は「詩の縦書きが、音の縦(縦拍)になる」と記したとされ、録音と譜面を往復させる編集が導入された[12]。
ただし、ここで問題となったのが出典の二重性である。NHK側の資料では、改稿の起点が1905年になっているのに対し、図書館側の写しでは1903年となっているとされる。両者は“同じ出来事”を参照しているはずなのに、起点の年だけが一致しないと指摘されており、編集者の恣意が疑われた[13]。
作品内容(架空の楽章解説)[編集]
第一楽章は、弦がほぼ無音に近い倍音で開始し、途中から“母音の階段”を上り下りする形で展開するとされる。晶子の詩稿では、特定の母音が濁点を伴って反復されるため、演奏では唇の形を意識した発音指示が添えられたと報告されている[14]。
第二楽章は行進曲風のリズムをとりつつ、拍の頭だけがずれて聞こえる(“ずらしの呼吸”と呼ばれる)構造になっているとされる。ここで“第九”の象徴性が再び現れ、9回の呼吸パターンが楽器群に割り当てられたという解釈が提示されている[15]。
第三楽章では管楽器が独奏的に詩句の母音だけをなぞるような書法があるとされ、第四楽章では声が合唱として追加される。ただし声部の歌詞は明確な言語としては残らず、「反歌」として“意味の削り方”だけが指示されているとされる[16]。一部研究者は、これは検閲を避けるための意図だったのではないかと推定しているが、別の研究者は単に「削るほど声が立つ」という詩法の延長に過ぎないと主張している。
受容と社会的影響[編集]
『交響曲第9番』は、単なる芸術作品としてだけでなく、当時の社会における“発声の標準化”と接続して語られることがある。文芸改稿局が行った調査結果が、学校の朗読指導に反映されていたという説明があり、晶子作品の“母音連鎖”は教材化されたとされる[17]。
また、作品の普及にはの特集記事が関与したとされる。そこでは「交響曲は長いが、呼気は短くてよい」といったキャッチコピーが添えられたという。実際、1911年に実施された“朗読と合奏の相互採点会”で、参加者の平均点が前年より平均で6.2%上昇したとNHK関連の報告に記載があるとされる[18]。ただし、採点基準が後日変更された可能性があり、数値だけを根拠に因果を断定することは難しいとも指摘されている。
一方で、過度な標準化への反発も生まれた。方言が排除されるのではないかという懸念から、演奏会の後に“母音方言学”の講座が開かれたという記録がある。ここでは「作品は統一ではなく、崩し方を学ばせるものだ」と議論され、地域ごとの声の差が“異質さ”として肯定される流れが生まれたとされる[19]。
批判と論争[編集]
最大の論争は、作者帰属とスコアの真正性である。『交響曲第9番』は“与謝野晶子の作品”として流通しているが、反歌部分の筆跡が異なるという指摘があり、作曲者の実務を他者が担った可能性があるとされる[20]。
また、“第九”を九度改稿と結びつける解釈には、資料が少ないという批判がある。ある音楽史家は、9回改稿という物語が後年に整えられた“物語装置”であると述べたとされるが、同時に、改稿記号が楽器指示に一致している箇所が複数報告されているため、完全否定も難しいとされる[21]。
さらに、作品が社会の発声標準化に与えた影響を過大視する見方もある。これに対しては、標準化は別の制度改革(たとえばの指導要綱)によるものであり、晶子作品は“結果の象徴に過ぎない”という反論が出されている。もっとも、どちらの立場にも「当時の人々が確かに口にした」という証言があるため、結論は出ていないとされる[22]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中匡朗『日本詩唱のオーケストレーション: 与謝野系スコア再読』春陽楽譜社, 2012.
- ^ M. Thornton, “Mouth-Vowel Mapping in Early Japanese Orchestral Drafts,” *Journal of Phonetic Music*, Vol. 14 No. 3, pp. 201-233, 2015.
- ^ 鈴木淑子『検閲と改稿の間で(明治末〜大正期)』東京学芸叢書, 2008.
- ^ 横溝丈司『NHKアーカイブに残る“縦書き指揮譜”の謎』NHK出版, 2019.
- ^ G. Hasegawa, “Symphonic Numbering as Literary Revision Protocol,” *International Review of Score Studies*, Vol. 9 No. 1, pp. 11-46, 2017.
- ^ 高橋澄江『方言は母音でできている: 母音方言学の黎明』朝光書房, 2016.
- ^ 与謝野綾子『晶子の呼気メモ(復刻)』国立音楽標本館, 2021.
- ^ 牧野太郎『名古屋朗読会の統計と“第九”の伝説』名古屋史料出版, 2004.
- ^ 匿名『交響曲第9番 与謝野晶子稿(付録欠落版)』図書館整理局, 1952.
- ^ E. Kline, “Editing Uncertainty and Performative Breath,” *Cambridge Studies in Performance Notes*, Vol. 22 No. 4, pp. 77-102, 2010.
外部リンク
- 嘘楽譜アーカイブ
- 母音連鎖研究会ポータル
- 縦書き指揮譜ギャラリー
- 名古屋公会堂試演記録(保存版)
- 文芸改稿局デジタル復元室