京大合唱団の新カン
| 名称 | 京大合唱団の新カン |
|---|---|
| 正式名称 | 京都大学合唱団新入団員適性鑑定 |
| 開始 | 1934年ごろとされる |
| 場所 | 京都大学周辺、主に吉田キャンパス |
| 目的 | 新入団員の音感・持久力・集団適性の判定 |
| 主催 | 京大合唱団運営委員会 |
| 関連人物 | 初代新カン長・高瀬元治 |
| 特徴 | 合唱と行進を組み合わせた独自の審査法 |
| 通称 | 新カン |
京大合唱団の新カン(きょうだいがっしょうだんのしんカン)は、の合唱文化圏において毎年春に実施される新入団員選抜・鍛錬制度である。単なる入団審査ではなく、発声、歩法、譜面読解、寮歌適性を総合的に測る半儀礼的行事として知られている[1]。
概要[編集]
京大合唱団の新カンは、の学内合唱組織であるが、春の新歓期に実施してきたとされる独自の選抜制度である。一般には「新入団員歓迎」の略語の一種と誤解されがちであるが、実際には歌唱技能だけでなく、を見ながら即座にへ移行できるか、また夜間の移動に耐える持久力を備えているかまでが確認される[2]。
起源[編集]
1930年代の寮歌文化との接続[編集]
新カンの起源は、初期ので流行した寮歌集会に求められることが多い。とくに、旧制の卒業生であった高瀬元治が、合唱団の練習効率を上げるため、入団希望者を先に屋外で歌わせて音程を選別したのが始まりとされる。初期の新カンは、沿いを二列で歩きながら課題曲を歌うという極めて非合理的な方式であった。
戦後の再編と名称の定着[編集]
ごろになると、新カンは戦後の学内再編に合わせて簡略化された。従来の行進審査は廃止され、かわってでの音取り、視唱、簡易面接の三部構成となったが、名称だけは「新カン」のまま固定された。この「カン」が何を指すのかについては、歌勘、選勘、あるいは缶詰の略であるなど諸説があり、現在でも団内で統一見解はない。
実施方法[編集]
一次審査[編集]
一次審査では、受験者は吉田キャンパス周辺の指定集合場所に集められ、まず呼吸法の確認を受ける。次に、4拍子の手拍子を取りながらを3分間続ける。ここで重要なのは音程の正確さよりも「途中で笑わないこと」とされ、例年、緊張で吹き出した者が最初に不合格となる。
二次審査と夜間訓練[編集]
二次審査は夜間に行われることが多く、前からまでの間を、譜面を手にしたまま無言で移動する「静粛行進」が課される。これは、合唱団員として必要な集中力と、周囲の研究室への迷惑を最小化する倫理観を確認するためとされる。移動距離は約1.8kmであるが、実際には途中ので雑談が始まり、そこで合否の空気が決まることが多い。
組織と文化[編集]
新カンを統括するのは、合唱団内部で代々引き継がれる「新カン班」である。班長は通常3月に選出され、の4係を束ねる。特に茶菓子係は重要で、の濃さが受験者の緊張緩和に直結するとされるため、経験者は「新カンの半分は温度管理で決まる」と述べる。
社会的影響[編集]
新カンは学内文化だけでなく、近隣の新歓文化にも影響を与えたとされる。内の複数の学生団体が「新カン式選抜」を模倣し、自己紹介の前に課題曲を歌わせる方式を試みたが、たいてい1年で廃止された。これは「歌わせると人が残る」のではなく「歌わせると関係者も覚悟を決める」ためであると分析されている。
批判と論争[編集]
新カンには、伝統行事としての価値を認める声がある一方で、実施方法の不透明さを問題視する意見もある。とくにには、課題曲の採点基準が「半音上ずりは減点、しかし感情のこもった上ずりは加点」と説明されたことから、基準の恣意性が議論になった。これに対し、当時の担当者は「合唱は数式ではない」と反論したとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 高瀬元治『新カン覚書』京洛合唱研究会, 1958年.
- ^ 岩井俊平『声の門番とその実際』京都学生文化出版, 1964年.
- ^ 松村千鶴『京都大学合唱団史料集 第一巻』吉田音楽資料館, 1979年, pp. 44-61.
- ^ 佐伯隆一「新歓期における儀礼歌唱の成立」『日本合唱史研究』Vol. 12, 第3号, 1987年, pp. 101-118.
- ^ Margaret A. Thornton, "Campus Choral Screening Rituals in Postwar Japan," Journal of East Asian Music Studies, Vol. 8, No. 2, 1994, pp. 77-96.
- ^ 中西由佳『合唱と共同体の境界』関西文化叢書, 2003年.
- ^ Hiroshi Kameda, "The Semi-Formal Choir Audition and Kyoto’s Night Walks," University Bulletin of Musicology, Vol. 21, 2009, pp. 15-39.
- ^ 田辺理恵「新カンにおける風向と音程の相関」『京都大学学生文化年報』第18号, 2017年, pp. 9-27.
- ^ 小田切昭『静粛行進の技法』北山書房, 2020年.
- ^ Emily R. Vance, "When the Metronome Lies: A Case Study from Kyoto," Proceedings of the Society for Invented Choral Traditions, Vol. 4, No. 1, 2022, pp. 3-14.
- ^ 『合唱団新カン式採点表の謎』京洛音文化新書, 1991年.
外部リンク
- 京大合唱団史料アーカイブ
- 京都学生音楽文化研究所
- 新カン研究会
- 吉田キャンパス口承芸能データベース
- 関西合唱儀礼年鑑