出オル
| タイトル | 出オル |
|---|---|
| ジャンル | 超常学園、心理冒険、空間変容 |
| 作者 | 霧島 透真 |
| 出版社 | 星雲出版 |
| 掲載誌 | 月刊ハイカラシリウス |
| レーベル | シリウス・コミックス |
| 連載期間 | 1998年4月号 - 2006年11月号 |
| 巻数 | 全17巻 |
| 話数 | 全143話 |
『出オル』(でおる)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『出オル』は、の沿岸都市を舞台に、特定の条件下で「本来いるべき場所から人や物が出てしまう」現象を追う学園漫画である。作品内ではこの現象を「出オル」と呼び、は日常の会話表現を超常現象の学術用語に転化する手法で人気を得たとされる[1]。
連載当初はの実験的連載枠で始まったが、登場人物の動きが妙に説明的であること、また各話のラストで必ず何かが「出る」構図が読者の間で定型化したことから、1990年代後半のサブカルチャー誌としては異例の長期連載となった。後年の研究では、作品が後の「生活圏のズレ」を寓意化したものだとする説もあるが、作者本人はインタビューで「単に机の引き出しが閉まらなかった」と述べている[2]。
制作背景[編集]
はの貸本漫画出身とされる作家で、1980年代末にの雑誌整理アルバイトをしていた際、分類棚から半分だけはみ出した書類束を見て本作の着想を得たという。もっとも、この逸話は初期単行本のあとがきにのみ見られ、のちにファンジン『出オル研究通信』で「編集部が勝手に盛った可能性」が指摘されている。
作品の初期設定は、当初「出口論」と題された四コマ企画であったが、編集会議で「学術っぽいのに意味がない」という理由から現行タイトルに改題された。なお、誌面での正式な表記は一貫して『出オル』である一方、見出しロゴでは「DE-ORU」とだけ印字される号が7回あり、後年のデザイン史研究ではこの揺れがむしろ作品世界の不安定さを象徴していると評された。
連載開始時には内の編集部において、背景に「やけに細かい都内の駅名を入れる」方針が採られ、、、など、物語上まったく重要でない地名が毎話のように登場した。これが結果的に、読者に現実感ではなく「場所に置いていかれる感覚」を与えたとされる。
あらすじ[編集]
開校編[編集]
物語は、主人公のがへ転入するところから始まる。学園では、廊下の角を曲がるたびに所持品の一部が「出て」しまい、教室の机からは前日の会話の続きだけが現れるという不可解な現象が日常化していた。
イオは新任教師のから、これらが「出オル」と呼ばれる現象であり、校舎の地下にある旧測量室が原因であると知らされる。第3話で、保健室のロッカーから製の地図が出現する場面が話題となり、作品の方向性が「学園もの」から「半ば考古学もの」へとずれ込んだ。
地下書庫編[編集]
では、イオたちが学園地下に封印された古い記録媒体「出札帳」を調査する。ここでは、過去に校舎を建て替えるたびに「余った空間」が保存され、それが現代に漏れ出していることが示唆される。
とくにから来た転校生が、棚から出てきた未使用の履歴書を自分のものだと主張する回は、読者アンケートで「説明不足なのに泣ける」と評価された。一方で、が何の説明もなく天井裏から逆さまに出てくる場面は、当時の批評家から「構図が独自すぎて怖い」と記された[3]。
海底反転編[編集]
中盤のでは、舞台が沿岸の潜水調査基地へ移り、出オルが地面だけでなく「海面の下から上へ出る」現象として拡張される。ここで登場するは、実験装置としては極めて不合理であるが、作中ではなぜか半径12メートルの範囲に限定して現象を制御できる。
この編の終盤、イオが海底から引き上げられた期の弁当箱の中に、自分の小学校時代の通知表を発見するくだりは、シリーズ屈指の怪奇描写として知られる。もっとも、後年の単行本では通知表の学年表記が1年ずれており、再版のたびに読者がざわついた。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、物事を説明される前に体感してしまう性格のため、毎回もっとも不利な立場に置かれる。本人は理科部所属であるが、科学よりも「何かが出る音」に反応することの方が多く、作中ではしばしばメトロノームのように扱われる。
は学園の新任教師で、出オル現象の理論を唱えるの提唱者である。表向きは落ち着いた人物だが、黒板に数式を書いている最中だけ異常に早口になる癖があり、ファンの間では「説明したい人」として親しまれた。
は転校生で、普段は寡黙である一方、出てきた物品の年式を一目で当てる特技を持つ。第41話での古書店から出てきた雑誌を「これは絶版前夜の匂いがする」と評した場面は、後にネットミーム化した。なお、後期には、用務員の、謎の少年が加わり、人物相関図が毎巻のように増殖していった。
用語・世界観[編集]
出オルとは、本来「あるべき場所に収まりきらないものが、条件に応じて外へ現れる」現象、またはその現れ方を指す作中用語である。作中では、朝5時42分にの車内で眠る、金属製の容器に一度でも名前を書かれる、あるいは校舎の南西角で3回くしゃみをするなど、実に細かい条件で発生するとされる。
世界観の中心にあるのは「折畳座標」という概念で、これは空間が人間の記憶によって折り畳まれ、折り目から余剰物が出てくるという理屈である。もっとも、作中でもこの理屈は第12巻までに4回改訂され、最終的にはなる架空の学術団体の見解に丸投げされることになった。
また、作中には「出る前の影」という概念があり、物体が出てくる直前に床にだけ現れる薄い影を見た者は、3日以内に必ず忘れていた予定を思い出すとされる。ここは読者の間で最も人気の高い設定であったが、作者が後年「完全に思いつきである」と認めたため、むしろ信仰の対象のように扱われている。
書誌情報[編集]
単行本はのレーベルより刊行された。初版はからにかけて17巻が発売され、最終巻には番外編『出なかったものたち』が収録された。
第8巻以降は各巻の帯に「累計発行部数200万部突破」と記され、時点で実売187万部、重版待ち在庫が最大6万部に達したとする社内資料が流出している。ただし、その資料は数字の桁が巻ごとに少しずつ違い、編集部内でも確認が取れなかったという[4]。
また、初期3巻は背表紙の色が毎回異なり、図書館分類担当者を混乱させたことでも知られる。とくに第2巻の帯文「出てはいけないものほど出る」は、後に他作品の宣伝コピーに流用され、出版広告史の小ネタとして語られている。
メディア展開[編集]
2002年には系列でテレビアニメ化され、全26話が放送された。アニメ版では出オル現象の表現に独自の色彩設計が導入され、何かが出るたびに画面右下へ小さな時刻表示が現れる演出が特徴であった。
また、2005年にはが公開され、入場特典として「折畳座標カード」全12種が配布された。もっとも、カード裏面の説明文が毎回微妙に違っていたため、コレクターの間では未修正版の方が高値で取引されたとされる。
ゲーム化も計画され、向けのパズル作品『出オル ひらくな、でもひらけ』が試作されたが、操作体系が複雑すぎて一般販売には至らなかった。なお、サントラ盤は環境音ばかりを集めた46分収録であり、電車の揺れと紙の擦れる音だけで構成されたトラックが評価された。
反響・評価[編集]
本作は、発行部数の伸び以上に「意味のわからなさの割に日常へ入り込む感覚」が評価され、1990年代末から2000年代前半にかけて一部地域で社会現象となった。とくにのやのでは、古書店の棚に単行本が並ぶと即日で消える現象が見られたとされる。
批評面では、の非常勤講師だったが「この作品は、学校という閉じた空間を『出る』ことの倫理で描いた」と論じ、逆に一般読者からは「何を言っているのか分からないが、たぶん合っている」と支持された。いっぽうで、終盤の展開が急に大規模災害級の出オルへ移行するため、当時の掲示板では「着地だけが毎回天井に向かう」とも評された。
2020年代以降は、作品内の細かな空間描写や「忘れ物が物語を動かす」という構造が再評価され、向けの考察動画や同人研究が増加した。なお、作者の生前最終コメントとされる「出るとは、戻る前の礼儀である」は、ファンの間で半ば標語化している。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 霧島透真『出オル第1巻 作品設計ノート』星雲出版資料室, 1998年.
- ^ 久我山理人「学園漫画における空間逸脱表象」『現代マンガ研究』Vol.14, 第2号, 2007年, pp. 33-51.
- ^ 宮坂由紀『90年代漫画と都市のズレ』ハイカラ文庫, 2011年, pp. 88-104.
- ^ 東雲アニメーション制作部『TVアニメ「出オル」全話設定資料集』東雲テレビ出版局, 2003年.
- ^ 佐伯志郎「折畳座標の民俗的解釈」『日本怪異学会紀要』Vol.8, 第1号, 2006年, pp. 11-29.
- ^ M. Thornton, “Spatial Leakage in Serialized School Manga,” Journal of Fictional Media Studies, Vol. 19, No. 4, 2010, pp. 201-219.
- ^ 霧島透真・編集部共著『出オル完全年表』星雲出版, 2008年, pp. 5-72.
- ^ 黒沢安吾「用務員から見た出オル現象」『校務と怪異』第3巻第2号, 2005年, pp. 7-15.
- ^ A. Whitmore, “The Ethics of Returning Things: A Reading of Deoru,” Pacific Comics Review, Vol. 7, No. 1, 2014, pp. 44-60.
- ^ 『出オル資料集 成れの果て編』星雲出版別冊編集室, 2006年, pp. 121-139.
- ^ 加納静「背表紙色彩と読者の記憶固定」『出版デザイン年報』Vol. 12, 第6号, 2009年, pp. 55-63.
外部リンク
- 星雲出版作品アーカイブ
- 東雲テレビアニメ公式資料庫
- 出オル研究通信
- 日本折畳学会会報
- 月刊ハイカラシリウス電子目録