劇場版東大王〜異世界から来たクイズ王〜
| 監督 | 松原 恒一 |
|---|---|
| 脚本 | 久我山 仁 |
| 原案 | 東京クイズ研究会 |
| 製作会社 | TQ Pictures |
| 公開日 | 2019年7月26日 |
| 上映時間 | 118分 |
| 製作国 | 日本 |
| 言語 | 日本語 |
| 興行収入 | 初週約3億4,800万円 |
| 配給 | 東和クエスト |
『劇場版東大王〜異世界から来たクイズ王〜』は、のを舞台に展開する、実写と参加型謎解きを融合した日本の劇場用クイズ映画である。2019年の公開以後、学生クイズ文化と“異世界転移もの”の語法を接続した作品として知られている[1]。
概要[編集]
本作は、のクイズサークルをモデルにした実写作品で、いわゆる“学術系バトル映画”の一種とされる。劇場公開版では、観客が提示された二択問題にスマートフォンで参加し、その正答率によって終盤の台詞が一部変化する仕組みが採用された[2]。
題材としては、一見すると単なる学園ミステリーであるが、実際にはから転移してきたとされる“クイズ王”が、のキャンパスに封印された知識の遺構を解き明かすという、かなり特殊な構造を持つ。企画段階ではの教育番組班が協力したとする説もあるが、詳細は明らかでない。
公開当時、受験シーズン前後の若年層に強く支持され、劇場ロビーで過去問集を交換する文化まで生まれたとされる。一方で、作品中の“早押し”演出が過剰に神秘化されているとして、クイズ研究者の間では賛否が分かれた。
成立の経緯[編集]
企画の起点は、頃にが行っていた夜間練習会にあるとされる。練習会では、解答権を得た者がベルを押す代わりに木製のハンマーを使うという独自の形式が試されており、これが“劇場で観客が参加するクイズ映画”の原型になったという[3]。
その後、に内の旧校舎で行われた映像試写会で、ある編集技師が「問題に正解すると次の映像が開く」という案を提案した。これが異世界転移の設定と結びつき、クイズに勝つたびに別の世界の扉が開く、という現在の筋立てが成立したとされる。
なお、タイトルの「東大王」は制作初期には単に“東京大学の王”という意味だったが、途中から“東の大地を統べる王”という解釈が追加され、宣伝資料ごとに説明が揺れている。こうした不統一は、後年のファン考察を異様に活性化させた。
制作[編集]
キャスティング[編集]
主演の佐伯 颯真は、もともとの模擬試験解説番組に出演していたが、採用審査では“眼鏡をかけたまま正解を出せるか”が重視されたという。共演の水島 玲奈は、撮影前にで古代クイズ帳を3週間ほど調査し、問題文の抑揚を習得したとされる。
また、敵役として登場する“異世界から来たクイズ王”の声は、収録当日まで伏せられており、最終的に出身の朗読劇俳優・片桐 達也が担当した。彼の声質があまりにも落ち着いていたため、試写では悪役なのに拍手が起きたという。
撮影と美術[編集]
主要撮影はのキャンパス周辺で行われたが、問題演出の都合上、図書館の閲覧机に長さ1.2メートルの発光ラインを仕込む必要があった。美術班はこれを“知識の血管”と呼び、全部で47本を手作業で設置した[4]。
異世界パートのセットはの旧温室施設を改装して造られたが、床のタイルを一枚ずつ黒板塗装した結果、靴底にチョーク粉がつきやすくなり、出演者が走るたびに白い軌跡が残った。これが後にファンの間で“解答の残滓”と呼ばれる演出美として語られている。
あらすじ[編集]
物語は、の学内選抜戦で優勝した青年・神崎 透が、突如として“クイズの異世界”から現れた謎の王と対峙するところから始まる。王は、敗者の記憶を問題文へ変換する能力を持ち、正解しなければ会話そのものが成立しないという厄介な特性を有している。
透は、図書館の地下に眠る“未解答の棚”を巡り、歴代の難問を解くことで失われた学術都市を復元していく。途中、の地下通路にある自動販売機が唐突にヒントを喋り始める場面があり、ここが映画全体で最も有名な“いや待てよ”ポイントとして挙げられる。
終盤では、主人公が最後の問題を答える代わりに、異世界の王に「問題を出す自由」そのものを返還する選択を行う。これにより勝敗は曖昧なまま幕を閉じるが、観客アンケートではこの結末が「最も東大らしい」と高評価を受けたとされる。
公開後の反響[編集]
公開初週の動員は全国144館で約18万6千人に達し、特にとのミッドナイト上映で、解答のたびに客席から小さな拍手が起きたという。興行関係者は、受験生向け作品としては異例の“再受験需要”があったと分析している。
一方、は、作品が“クイズは戦争である”という極端なメッセージを助長するおそれがあるとして注意喚起を行った。ただし、この声明は3日後に撤回され、代わりに「学習意欲を刺激する可能性がある」と改められた[5]。
SNS上では、正解のたびに字幕が増殖する現象を“知識の雪崩”と呼ぶ投稿が流行し、派生ハッシュタグが週末だけで約12万件投稿されたとされる。なお、その中には映画本編を1秒も見ていない者の感想も相当数含まれていたとみられる。
批判と論争[編集]
批判の中心は、作品が“知的努力”を過度にドラマ化している点であった。特に、問題文を読む速度が一定以上になると背景音がオーケストラに変化する演出は、実際のクイズ大会の緊張感とは異なるとして一部から反発を受けた。
また、作中での赤門が“異世界ゲート”として描かれる場面については、歴史建築の象徴性を商業的に転用しているとの指摘があった。ただし制作側は、これは文化財の損壊ではなく“知識の通路化”であるとして説明を避けている。
さらに、終盤のラスボス問題が「江戸時代に存在したとされる架空の測量法」を扱っていたため、地理学者の一部から「もはやクイズではなく民俗幻想である」と批判された。もっとも、ファンの間ではここが最も再現度の高い場面とされ、評価は割れた。
脚注[編集]
[1] 劇場版東大王研究会『公開初日パンフレット総覧』東和クエスト資料室、2019年。 [2] なお、観客参加の解答結果が上映回ごとに異なったという証言があるが、記録媒体は散逸している。 [3] 久我山 仁「夜間練習会と早押し器の民俗化」『映像知性論集』第12巻第3号、pp. 44-61。 [4] 松原 恒一『発光する机と学術劇場』TQ Pictures内製記録、2020年。 [5] 日本クイズ協会広報部「映画作品における知識表象の扱いについて」『協会報』第88号、pp. 2-4。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯 陽介『映画化された早押し文化の成立』中央教育出版社, 2020, pp. 11-39.
- ^ M. Thornton, “Quiz Adaptation and Audience Decision Trees,” Journal of Japanese Media Studies, Vol. 8, No. 2, 2021, pp. 77-101.
- ^ 久我山 仁『異世界ものと学術劇場の接点』角川選書, 2019, pp. 55-88.
- ^ 高瀬 理央「参加型上映における解答演出の変遷」『映像文化研究』第14巻第1号, pp. 5-26.
- ^ 松原 恒一『発光する机と学術劇場』TQ Pictures資料集, 2020, pp. 13-52.
- ^ A. R. Bennett, “From Bell to Hammer: Competitive Quizzing on Screen,” Screen and Society Review, Vol. 3, No. 4, 2020, pp. 201-219.
- ^ 日本クイズ協会編『学習意欲と娯楽性の境界』日本放送出版協会, 2021, pp. 91-117.
- ^ 片桐 達也『朗読劇と悪役の発声法』芸能音声文化研究所, 2022, pp. 8-33.
- ^ 黒川 由紀「本郷キャンパスの地下通路表象」『都市幻想学』第6巻第2号, pp. 140-159.
- ^ P. S. Watanabe, “The Quiz King from Another World: A Cultural Misreading,” Tokyo Pop Studies, Vol. 11, No. 1, 2022, pp. 1-24.
- ^ 村瀬 恒一『東大王映画化記録とその周辺』白水社, 2023, pp. 66-94.
外部リンク
- TQ Pictures公式アーカイブ
- 東京クイズ研究会年報データベース
- 日本参加型映画協議会
- 本郷地下通路保存委員会
- クイズ映画資料室