厚生ロードショー
| 事業主体 | 厚生省(のち厚生労働省) |
|---|---|
| 主な対象 | 一般市民、企業の健康管理担当、自治体保健部門 |
| 主な手法 | 健康啓発映画の全国巡回上映(ロードショー形式) |
| 開始とされる時期 | 昭和30年代後半(諸説あり) |
| 運営体制 | 地域の上映委員会+配給協会(架空の共同運営モデルが記録されている) |
| 評価指標(当時) | 上映回数、参加者アンケート、受講票の回収率 |
| 関連分野 | 公衆衛生、社会教育、映像行政 |
(こうせいロードショー)は、の協賛を受けて制作された健康啓発映画を、地方の劇場や公共施設で巡回上映する事業である。生活習慣の改善を主題としているとされ、1970年代にかけて全国的な広がりを見せたとされる[1]。
概要[編集]
は、健康で豊かな生活の実現を掲げ、の協賛によって制作された映画を、全国各地の施設で上映する施策であるとされる[1]。内容は栄養、運動、睡眠、衛生管理、家族の役割分担などを扱い、上映後には簡易な健康相談や配布資料が組み合わされる形式が多かったとされる。
この事業が「ロードショー」と呼ばれた理由については、地方の劇場ごとに上映日が細かく割り当てられ、実質的に列車ダイヤのような運用がなされたためだと説明されることがある[2]。また、当時の行政文書では「一館あたりの到達率を最大化する」ことが強調され、観客の年齢層を予測して作品の冒頭シーン(導入ナレーション)の差し替えが行われたとする記述も見られる[3]。
一方で、施策の実効性には揺らぎもあり、視聴体験の記憶が薄れた後の行動変容まで追跡できていないとして、のちに議論の対象となった[4]。この評価をめぐる空気感が、という言葉を単なる上映事業ではなく、「健康啓発の運用モデル」として定着させたともされる。
歴史[編集]
誕生:映画が“衛生政策の配送”になった日[編集]
の構想は、戦後の公衆衛生施策が「広報」から「行動設計」へ移る過程で生まれたとされる。具体的には、地方の保健所が健康指導を行う際、口頭説明だけでは理解にばらつきが出るという問題意識が強まったと説明されることがある[5]。そこでの内部検討会では、講習会を開くよりも、同じ映像を同じ順番で見せることで“説明の品質”を均質化できるのではないか、という方針が検討されたとされる[6]。
なお、初期の企画書には「上映作品の前半3分は“味覚の理屈”を、後半は“生活の型”を示す」など、やけに細かい設計が記されていたとされる[7]。さらに、試写の結果から導き出されたという指標として「導入ナレーション聴取後の受講票回収率を平均32.4%に設定する」ことが挙げられたとされ、計画段階で数値が独り歩きした側面があったと考えられている[7]。
この初期案を推進した中心人物として、医療広報課の架空職員である渡辺精一郎(わたなべ せいいちろう)が、地方巡回のための“移動上映手順”を作ったとする回想録が残っている[8]。ただし、この回想録の原本の所在は明確ではなく、後年の編集者が引用した要約に基づく部分が大きいと指摘されてもいる[9]。
運用:上映日程は“保健カレンダー”として管理された[編集]
運用上の特徴は、上映日程が単なる興行ではなく、地域の保健計画と結び付けて管理された点にあるとされる[10]。たとえば、の保健所では、真冬の集会が組みにくいという理由から、上映枠を「月の第2火曜日」と「第4土曜日」に限定する取り決めがなされたとする記録がある[11]。この運用は、観客が集まりやすい時間帯に合わせる合理性があった一方、逆に“観る人が偏る”要因にもなったとみられている。
また、映画の配給には「映写技師の睡眠管理」まで含まれたとされる。ある運搬日報では、フィルムケースの温度を記録し「当日平均温度が18.7℃を超えた場合は導入シーンの明度調整を行う」などの細則が書かれていたとされる[12]。ここで明度調整が行われたかどうかは別として、当時の行政文書が“科学っぽい手順”を好んだことがうかがえるとされる。
さらに、上映会場としてはの区民ホールからの公民館まで幅広く、会場側には「健康相談机を1台につき椅子を5脚用意する」などの最低条件が通知されたという[13]。ただし、配布資料の回収率は地域差が大きく、ある年の報告では「回収率の中央値が41.0%だが、最小値が9.3%だった」などと記載されている[14]。この“中央値と最小値の落差”が、事業の限界を示す材料として後年になって参照された。
転機と変容:厚生から厚生労働へ、媒体はテレビへ[編集]
は、機構改革に伴ってからへ所管が移ったことで、同一の枠組みで続いた期間と、内容が再設計された期間が混在しているとされる。少なくとも、当時の担当課は「上映後の相談導線」を強化する方針をとり、上映会場に小冊子だけでなく“質問カード”を設置する試みを行ったとされる[15]。
一方で、テレビ普及が進むにつれて、巡回上映のコストに対する費用対効果が問題化したとされる。反対に、巡回の利点として「地域の顔の見える保健職員がその場で講釈できる」点が評価され、簡易な生放送風のナレーション追加(録音テープを会場ごとに差し替える方式)が採用されたともいう[16]。この案は一度だけ試行され、成功扱いになった資料があるが、後年の照合作業で「テープ差し替えの回数が物理的に不可能」と判明したとする指摘もあり[17]、実施の実態には疑義が残っている。
このように、は“映画による均質化”という理念を保持しつつ、媒体の重心をテレビ・印刷物へ移していったと考えられる。ただし、言葉としては「厚生政策が映像で届く」という記憶とともに残り、のちの行政広報の類型名として半ば比喩的に用いられることもあった。
作品とメカニズム[編集]
で上映された作品は、健康啓発の定番要素を織り込みつつ、ドラマ仕立ての構成を採ることが多かったとされる。たとえば、ある年の企画では「家庭の台所で起こる衛生事故」を導入に置き、解決の手順として“手洗いの時間を2回に分ける”ことを強調したとされる[18]。ここでは手洗いの具体時間が秒単位で示されていたとされ、「第1回は12秒、第2回は8秒」などと記された報告書がある[19]。
また、映画のナレーションには、地域の方言を入れる試みがあったとされる。たとえば、向けの版では「“ねぶた”の勢いで換気を促す」趣旨の比喩が追加されたとする記録が残る[20]。ただし、この比喩が採用された根拠として提示された資料は、後に会議録の写しの誤読に基づく可能性があるとされ、編集者によって注記が付されたと伝えられる[21]。
仕組みとしては、上映前に「参加者票」を回収し、上映後に簡易な理解度チェックを実施するモデルが採用されていたとされる[22]。このモデルは数値が整って見える一方で、自己申告の要素が強く、集計の際に“数値が良く見える方向へ補正される”ことがあったのではないか、と批判されたこともある[23]。この点は、のちの広報評価論の議論に接続されたとされる。
批判と論争[編集]
は、啓発としては整っていたと評価されつつも、行政施策としての限界が繰り返し指摘された。とくに「観た人がどれだけ生活を変えたか」という追跡が弱かった点が問題視され、上映から30日後の再アンケートで“変化したと答えた割合”が低いことが明らかになったとされる[24]。ある報告では、変化の自己申告が「男性で27.8%、女性で24.1%」だったと記載されている[25]。
また、上映作品の内容が“正解の型”を提示しすぎるため、地域の事情(食材の入手、労働時間、家族構成)に対する配慮が不足したのではないか、という批判もあった[26]。この批判に対して側は、補助資料で“例外の説明”を入れていると反論したとされるが、補助資料の配布が会場によって未達だったことが判明し、反論の説得力は弱かったといわれる[27]。
さらに、最も笑われた論点として、ある年度の内部資料に「上映フィルムは虫害を防ぐために年次で“塩分濃度調整”を行う」との記述があったとされる[28]。虫害対策のつもりだったのか、単なる誤記なのか判然としないが、のちに研究者が「映写機の手入れを“海の記憶”で説明したのではないか」と皮肉ったことで有名になったという[29]。この“真面目な文体で起こる滑稽さ”が、を都市伝説的に語り継がせた側面もある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『衛生映画の巡回手順(非公開資料の再編集)』厚生省医療広報課, 1966年。
- ^ 山村恵子『健康啓発と映像の統一化』日本公衆衛生映像学会, 1972年。
- ^ Katherine W. Hollander「Public Health Broadcasting and Audience Calibration」『Journal of Health Communication』Vol. 14, No. 2, pp. 201-219, 1979年。
- ^ 田中久弥『啓発の測定:回収率と自己申告のズレ』厚生統計研究所, 1981年。
- ^ 鈴木一馬『地方保健計画と会場運用:ロードショー方式の試算』学術図書出版, 1984年。
- ^ M. A. Thompson「Film as a Policy Delivery Vehicle in Postwar Japan」『Asia-Pacific Social Policy Review』第3巻第1号, pp. 55-88, 1987年。
- ^ 佐伯真理『言葉としての厚生:制度移行と広報呼称』行政史料叢書, 1993年。
- ^ 林田正勝「映像明度の調整と温度記録の整合性」『衛生機器学雑誌』Vol. 22, No. 4, pp. 310-327, 2002年。
- ^ 井上菜摘『質問カード導入の効果検証』日本保健教育学会, 2010年。
- ^ Peter R. Caldwell「When Publicity Becomes Ritual: A Study of Roadshow Metrics」『International Journal of Documentary Studies』第7巻第2号, pp. 12-31, 2013年。
外部リンク
- 厚生ロードショー資料館(架空)
- 映像で学ぶ健康啓発アーカイブ(架空)
- 厚生政策と映画の研究フォーラム(架空)
- 地方上映委員会の回想集(架空)
- 衛生映画フィルム保管ガイド(架空)