口からデマかせ
| コンビ名 | デマ職人社 |
|---|---|
| 画像 | 架空の二人組の写真(公式が存在する体裁) |
| キャプション | 『口からデマかせ』全国ツアー幕間(2021年) |
| メンバー | ボケ:杉浦 ホラ男/ツッコミ:相澤 うそ次郎 |
| 結成年 | 2016年 |
| 解散年 | —(活動継続) |
| 事務所 | 芸能事務所『星屑バラエティ協同組合』 |
| 活動時期 | 2016年 - 現在 |
| 芸種 | 漫才(口上ネタ)・コント(役所取調べ式) |
| ネタ作成者 | 杉浦ホラ男(口上)/相澤うそ次郎(オチ設計) |
口からデマかせ(英: Mouth-Made Rumors)は、架空の日本のお笑いコンビ『デマ職人社』によって広められた言い回し由来の芸名である。芸風は「口先だけで事実っぽい話を捏造し、最後に数字と肩書で刺しにいく」ことに特徴がある[1]。
概要[編集]
『口からデマかせ』は、一般語の慣用句としても説明されるが、実際には“芸名・概念”として先に定着した経緯を持つとされる。デマ職人社が2016年に初舞台で披露した「口から出た数字が全部それっぽい」という型が、以後の説明芸の流行語と結びついたのである[1]。
コンビは「事実を探す」のではなく「事実っぽさの工場」を作ることを目的にしており、舞台上では都道府県庁や研究所などの“住所がある存在”を、根拠のないまま登場させるのが定番となった。特に相澤は“言い切りの温度”を細かく調整することで、観客の違和感だけを先に温める技法を確立したとされる[2]。
メンバー[編集]
デマ職人社は、口からデマかせを「文章」ではなく「口の温度」で作ることを掲げている。公式プロフィールでは、杉浦は“活字のように滑らかに嘘を言う役”、相澤は“資料のように固くツッコむ役”と説明される。
杉浦 ホラ男(すぎうら ほらお)は、漫才の導入でやたら長い前置きを行い、後半で「だから〜です(申請番号:第0007号)」のように肩書を差し込む癖がある[3]。相澤 うそ次郎(あいざわ うそじろう)は、ツッコミの際に必ず“行政文書の語尾”を使う。例として「〜と相成ります」「〜にて処理します」などが挙げられる[4]。
来歴/略歴/経歴[編集]
出会いと結成の経緯[編集]
二人の出会いは、栃木県のライブハウス『ミツバチ書庫』であるとされる。2015年秋、杉浦が“噓でも段取りは本物”を試すため、観客に向けて「明日、救急車が来る統計」を口走ったところ、相澤が即座に「救急車は来る・来ないではなく、来るように見せる技術があるのです」と返したのがきっかけだったという[5]。
2016年、二人は芸能事務所に所属し、コンビ名を最初は『嘘検証同好会』として活動した。のちに“嘘が検証されてしまう”イメージが強くなり、2017年春に『デマ職人社』へ改名した経緯が語られている[6]。
東京進出と転機[編集]
2018年に上京し、拠点をの劇場『夜更けの仮説展示室』に移したとされる。転機は2019年、ネタの一部に“架空の研究資金”を挿入したところ、司会者が真顔で読んだことから炎上寸前まで到達したことである[7]。
当時のライブ記録では、前半3分で「出典なしの数字」を3回言い、後半で「訂正」ではなく「再配布(再現)」と称して締める構成が定着した。以後、口からデマかせは“失敗しない嘘の出し方”として扱われ、若手芸人の型にもなったとする指摘がある[8]。
芸風[編集]
デマ職人社の漫才は、説明が多いように見えて、実際には“観客が信じたい部分だけ”を先に取り出す設計になっている。杉浦はボケで「誰が・いつ・どこで・何を・なぜ」と言いながら、条件を少しずつズラしていく。相澤はツッコミで“ズラし方の規格”を読み上げ、観客の頭の中の訂正を遅らせる[2]。
コントでは、架空の部署名を必ず入れる。たとえば『臨時・口腔情報課』『デマ管理係』のような肩書で、登場人物が書類を捌く。さらに「申請受付番号:受付第4219号」「保管期限:最終火曜日の17:30」といった細かな時間・番号が、なぜか説得力を持ってしまう点が特徴である[9]。
なお、コンビの代表的なフレーズは「口から出たデマは、口の中で熟成する」であるとされる。この言葉は番組内でテロップ化され、同フレーズが“正しい言い訳のテンプレ”として模倣される現象を引き起こした[10]。
エピソード[編集]
最も有名な逸話は、2020年の地方局特番『午後の裏付けバラエティ』で起きた事故(とされる事件)である。杉浦が「の住民票に、嘘の欄が追加された」と口走った際、番組スタッフが確認の手続きを始めた。相澤はすかさず「確認は正義です。しかし嘘も正義として扱える手続きがあるのです」と畳みかけ、結果的にスタジオが“ガチ確認大会”の空気になったという[11]。
また、舞台の舞台転換に合わせて、あえて同じ資料を二回出す演出がある。観客には「同じ資料なのに言い方が変わるのはなぜ?」と思わせ、相澤がオチで「同じ文章でも、吐息の温度が違うと別件になる」と宣言する。実際、録画では“吐息が入る尺”が0.8秒単位で調整されていると報じられた(本人談)[12]。
さらに、コンビが出演したラジオの深夜枠では、リスナーから「デマかせの練習をしたら上司に怒られました」という投書が殺到し、番組側は『悪用防止のための口上体操』を企画として取り上げたとされる[13]。ここで、口からデマかせは“笑いの倫理”を学ぶ教材のように扱われ、同ジャンルの文化が広がった。
出囃子・賞レース成績・受賞歴[編集]
出囃子は、ホラ男が作った口上リフで始まり、相澤のツッコミで突然“公文書の電子音”に似たサウンドへ切り替わる。二人によると、この切り替えは0.3拍ずらしているという[14]。
賞レースは、2019年の『M-1グランプリ2019ファイナル審査』で準決勝進出、2021年の『キングオブコント2021』ではファイナリストに選出されたとされる。特にキングオブコントでは、1ネタの中で「訂正ではなく“再発行”」を3回繰り返す構成が評価され、審査員から「嘘の連鎖が設計されている」と講評された[15]。
一方で、出場回によって“嘘の密度”が変わり、観客が理解する前に情報が多すぎる回があると本人たちは認めている。2022年の全国ツアー『口からデマかせ:第2版』では、観客アンケートの平均所要時間が「説明5分・回収2分」という不変の形に収束したと報告された[16]。
出演・作品・単独ライブ[編集]
テレビ・ラジオ[編集]
テレビでは『情報っぽい人たちの夜』(架空の番組)にレギュラー出演しており、口からデマかせを“検証風”の企画で見せる形が多い。特番としては、2023年の『年末・嘘の棚卸し』(風の局名ではなく、架空の放送局『公共みどり放送』)で、杉浦が“調査員”として潜入するコントが話題になった[17]。
ラジオでは『夜の逐語録』(に類する設定の媒体として扱われる)で、毎回1通だけ「正しすぎる嘘」投稿を読み上げ、相澤が“誤りの場所”を探す役に回る。この番組は、誤情報の扱いに慎重だと評価される反面、やりすぎではないかという声もあった[18]。
CD/DVD・単独ライブ[編集]
作品としてはCD『口からデマかせ:吐息の規格』(2021年)とDVD『公的風味コント集(申請番号つき)』(2022年)がある。ジャケットには“どこにも存在しないデータベース”の検索窓が描かれているのが特徴で、ファンの間では「探せないのに探したくなる」と評された[19]。
単独ライブは毎年2月に『第n版ホール』という名称で行われ、2024年は『口からデマかせ:第3版(還付金オチ)』が上演された。なお、会場の座席番号が全部“申請受付番号”になっているという噂があり、実際に配布されたパンフには「座席:4列目・受付第777号」と記載されていたとされる[20]。
批判と論争[編集]
口からデマかせは“笑い”として成立している一方で、デマの境界を曖昧にする危険性が指摘されることがある。批評家は、細かな数字や役所語を用いることで、誤情報があたかも検証済みのように見えてしまう点を問題視した[21]。
特に、2022年に市民団体が行った公開講座では、デマ職人社のネタを「比喩としての嘘」であると認めつつも、教育現場で模倣されることへの懸念が述べられた。講座の資料では「嘘の言語は、言語以上に速度を持つ」との見解が示されたとされる[22]。
それに対しコンビは、悪用防止として“吐息を計測する”演出を導入し、観客が「これは嘘の作り方だ」と自覚できるよう設計したと反論した。ただし、その説明自体が“わざとらしいほど事務的”であるため、逆に「反省まで台本なのでは」という疑念も出たと報じられた[23]。ややこしいが、そこまで含めて芸風の一部になっている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 星屑バラエティ協同組合編『笑いの工場—口上で数字を熟成させる方法』星屑出版, 2024.
- ^ 杉浦ホラ男『吐息の規格とネタの温度』芸能出版社ウソウマ文庫, 2021.
- ^ 相澤うそ次郎『役所語で誤解を作る技術』公共みどり書房, 2022.
- ^ 山田未明「口から生まれる説明芸の効果:0.8秒遅延仮説」『日本コメディ言語学会誌』第12巻第3号, pp.101-129, 2020.
- ^ M. A. Thornton『Performing Plausibility: Bureaucratic Tone in Stand-up Comedy』Oxford Fringe Studies, Vol.8, No.1, pp.44-67, 2019.
- ^ 佐伯トキワ「嘘の再発行モデルと観客の訂正タイミング」『笑いの情報処理研究』第5巻第2号, pp.55-78, 2023.
- ^ 公共資料倫理会編『模倣されるデマ:舞台芸から学ぶ注意点』埼玉資料倫理会叢書, 2022.
- ^ デマ職人社『口からデマかせ:吐息の規格(録音解説書)』星屑バラエティ協同組合, 2021.
- ^ Kobayashi, Rei「The Number-Anchor Effect in Japanese Comedy Scripts」『Journal of Humorous Rhetoric』Vol.3, No.4, pp.210-233, 2020.
- ^ 田中実梨『誤情報と笑いの境界線:比較史的考察』東京大学出版局, 2018.
外部リンク
- デマ職人社 公式サイト
- 吐息の規格研究所(ファンサイト)
- 公共みどり放送:夜の逐語録 公式ページ
- 星屑出版:口からデマかせ 特設書店
- 埼玉資料倫理会 公開講座アーカイブ